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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
3章 おいしい薬草はただの草?
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037 薬草購入と畑の視察

 ところ変わって市場。

 そこは相も変わらず混沌としていても秩序のある活気のある場所であった。

 適当に露店を流し見るようにして進めば、件の少女アーシアは前回と同じような場所で同じように薬草を売っていた。

 相変わらず薬草は売れていないようで、籠の中には以前にも増したように思える質の低い薬草が山のように積まれていた。

 違うところがあるとすれば、アーシアがしょぼくれていないというくらいである。


「こんにちはアーシアちゃん」

「あ、魔術師のおねーさん! 待ってました!」


 二人を見たアーシアが途端に笑顔になって二人を出迎えた。

 

「相変わらず売れてなさそうだな少女よ」

「そうですね。朝から並べてますけどサッパリです」

「そんな売れてない薬草売りの少女の薬草を全部買い取りに来たぞ。喜ぶがよい」

「待ってました! いやー今回は前回よりも多いですよ! 大収穫です! 数えますね!」

「相変わらずゲンキンな子だな君は」


 そういって以前にも見た鮮やかな手並みで、薬草を五本一束にして十字に重ねた山を形成していくアーシアを眺めながら、二人は待つことにした。

 感心するほどの手並みだが、ウェイトリーは売り方もうちょっとなんとかならんものかと思っていた。


「いっそのこと量り売りにした方が手っ取り早そうに見えるけどな、コレ」

「品質の良い薬草ならしっかりと本数を数えるのもわかるんですけどね」

「効果が無いわけではないし、味は悪くないんだから、食卓に並べる用途で売ればそこそこ売れそうじゃないか?

 例えばサラダとかスープにどうぞってさ。体にいいのは間違いないぞ」

「かもしれませんが、薬草はおいしくないという認識が普通ですからね。食用用途ではやっぱり売れないと思いますよ。

 あとそれだと薬草として売るより安くなるのは間違いないですね」

「宣伝の仕方だと思うけども、簡単にできることじゃないか」

「ワイドショーなんかで食べる薬草特集でも組まれたらチャンスがあるかもしれません」

「テレビもねぇし、ラジオもねぇ」

「数え終わりました!」


 二十束の山が五つと十四束、余りが四本。計五百七十四本であった。

 値段は前回と変わっておらず五本一束が三百ドラグ。値段にして三万四千二百ドラグであった。

 ウェイトリーは大銀貨を三枚と銀貨を五枚渡し、余り四本含めて全て欲しい旨を告げた。

 二人からすればそう大した額というわけではないが、金払いの良さにアーシアは大喜びしながら頷き、売買は成立した。


 またしてもニコニコとバックパックにモリモリ薬草を詰めるマリーに、どこか諦めたような顔をする

ウェイトリーは、気を取り直して栽培の話を切り出すことにした。


「それで? 薬草栽培について話がしたいって聞いたけど、なんか問題でもあったのか?」

「いやー多分無いんですけど、よくなってるかもそんなにわからなくて」

「話したヤツの何を試したんだ?」

「一応できる範囲ですけど全部試しました」


 そういって自身がこの二週間ほどでやったことを思い出しつつも一つづつ説明していった。

 まず実験用の木枠のプランターを用意して、その中に畑の土と二日ほど乾燥させた薬草を粉末にして混ぜた土を使い、畑に植えている株を植え替えたらしい。

 そして、売り物にならずに分けていた薬草を鍋でぐつぐつと煮込んだ煮汁を薄めて水をやっているという。

 劇的に効果があるわけではないし、何度か繰り返すことでどんどん良くなっていくというのは聞いていたがが、パッと見、畑に植えている薬草と違いがあるように見えないので、手順があっているかどうかが気になるという話だった。

 ちなみに、出てきた芽をいい感じに痛めつけるものは、全然うまく行ってないらしい。

 

「いやー、プランターだけだから手間はそんなにないんだけどホントに効いてるのかもわからなくて、よかったら一度見てもらえないかなって思ったんです」

「なるほどな。聞いた限りだと悪くはなってなさそうだけどな。今のところ枯れたり異変があったりはないんだろ?」

「ないですねー。元気に成長中って感じです」

「それなら問題はなさそうだけどな」

「主さま、面白そうですし、一度見に行ってみませんか?」

「そうだな。薬草少女が都合がいい時に見に行ってみるか」

「今から全然都合いいですよ! だって商品もうないですからね!」

「今からか。まぁいいか」

「ですね」

「じゃあここ畳んじゃうんでちょっと待っててください!」


 そういうやテキパキとザルをまとめて商品を広げていたシートを畳み、薬草が詰め込まれていた背負い籠の中にすべてしまい込んで撤収が完了した。

 その籠をうんしょ、と背負ったアーシアが意気揚々と市場を抜けるべく歩き始める。

 

「じゃあついてきてください! 北門から出て十五分くらいで着くので」


 アーシアに言われるがままに続き、北門から街を出て十分ほど道沿いに進み、そこから分かれた細い道の先に二、三百メートルほどの間を空けて大きい家屋が立ち並んでいるのが見えてくる。

 この辺りは街に新鮮な農作物を売ったり納めたりする、所謂近郊農家が主なようで、実質領都に所属する農民たちの地区のようであった。


「ここが私の家です!」


 その家々を三軒、四軒と越えて、その先の家がアーシアの家らしい。

 立派な木造家屋の前には大きな畑が広がり、今もまさに畑に人が入り、作業を行っているのが見受けられた。

 家の傍に大小二つの農業用のため池があり、家の表には井戸、そしてその近くに大きな桶と物干し竿に揺れる真っ白なシーツや服。

 小さなため池の奥にはこじんまりとした離れの小屋があり、そのすぐ横で大量購入したばかりの薬草が植えられていた。

 

 その光景をいつも通りの真顔、或いはぼーっとしたような顔で眺めていたウェイトリーは不意に口を開いた。

 

「芋だな」

「急になんですか?」

「いや薬草農家じゃなくて芋農家だったんだなって」

「そうですよ。うちは代々イモ農家です。薬草畑は死んだおばあちゃんの趣味ですね」

「というか少女よ、なかなか裕福そうだなおぬし」

「そうですかね? でもこの辺じゃ一番貧乏だってお父さんが言ってましたけど」

「この辺ならそうかもね。街道から順に果樹園、トマト、キャベツとかの葉物野菜、ニンジンとかの根菜と来て、ここがジャガイモだからな。まぁ商品価値でいればそうだろうよ」

「おにーさん詳しいですね! でもお父さんがイモはいいぞって言ってました」

「まぁイモは実際いいよ。主食の代わりになるし、有事の際に効いてくる野菜だよな。大抵いつ食ってもうまいし」

「今日はシカ肉の肉じゃがにしましょう」

「いいじゃん。醤油の使いどころだな。

 というか、普通に領都の近郊農家ならそりゃそれなりに裕福だろうな。ここの領主様はそのあたりめちゃくちゃ手厚いらしいし」

「アーシアちゃんが計算とか普通にできるのはそのあたりが理由ですか?」

「いやーどうだろ? でも大事だからって勉強を教えられたのはおばあちゃんですね」

「よいおばあ様だったんですね」

「いやめっちゃ厳しかったですよ」

「それでいいんですよ」

「そーかなぁ」


 うーん? と首を傾げるアーシアを楽し気に見ているマリーを見つつ、だいぶ脱線したなとウェイトリーが軌道修正を図った。


「んじゃそろそろ薬草畑見に行くか?」

「そうですね! ちょっと家にただいまを言ってくるので待っててください!」


 そういってアーシアは家の中へと入っていった。ほどなくして大きな声で「ただいまー!」という声が家の外まで聞こえてくる。

 元気なものだなぁ、とウェイトリーがしみじみとしていれば、ほどなくしてアーシアが表に出てくる。

 

「じゃあ裏の離れまで来てください。そこにプランターとか全部置いてるんで」


 帰宅の挨拶を済ませたアーシアに連れられて、離れまでやってくれば、そこには規則正しく並んだ薬草の畝とそこから分けて置かれている木製プランターがあった。

 そのプランターが件の実験中の薬草らしい。


「それじゃあちょっと見せてもらいますね?」

「どーぞどーぞ。なんかできることがあればどんどこ教えてください!」


 ウェイトリーとマリーはプランターに植えられている薬草を観察する。

 しばらく観察を続けた後に、マリーは畑に植えられている方にも向かって状態や品質、薬効などを確認していた。

 ウェイトリーは何かを考え込むように目を瞑って、静かにしていた。

 それがなにか不味いことなんじゃないかとアーシアは微妙に気が気じゃない気分であった。畑の方から戻ってきたマリーがそんなアーシアに話しかけた。

 

「まだ成長途中なので目に見えた効果はわかりづらいですが、確かに品質も薬効も少し向上していますね。主さまはどう思いましたか?」

「あぁ。品質で言えば今までが一だとして、一.二ってところだな。薬効も同じくらいだろう。

 んで多分薬草の味が濃くなってるな。苦味とかえぐみってんじゃなくて薬草風味が。良いか悪いかは判断に困るところだ。

 マズくはないだろうけど」

「ホントですか! じゃあこのまま続ければ結構早くいい薬草になりそうじゃないですか!?」

「いや、何となくだがこれ、品質三くらいまでは今くらいのペースで上がっても、それ以降がぐっと伸び悩む感じがするな」

「だと思います。このままだとギルド基準の品質七以上は十年かそれ以上はかかりそうですね」

「えぇー……。そんなにかかるんですかぁ……」


 アーシアはガックリと肩を落として落胆した。

 しかし何とか気を取り直さんとほかに方法がないか聞いてみることにした。


「なにかもっと早く売れる薬草にする方法はないですか?」

「売れるものが欲しいなら苦くすればいいかと思いますが」

「それじゃあ意味がないですよ! それに魔法で水を出して畑いっぱいに撒くのはめっちゃ大変です。魔力持ちません!」

「アーシアちゃんは生活水魔法を使えるんですか?」


 そう聞かれたアーシアは両掌を上に向けて広げ、自身の頭と同じくらいの大きさの水を作り出してふわふわと浮かべた。

 ただダバーっと出すのではなく宙に浮かせているのはなかなか大したもので、それは適切な魔力制御が行われている証拠である。

 というか、これはどちらかといえば生活水魔法ではなく水魔法と呼べる域に近いものであった。

 

 それを畑とは無関係の場所に適当に放り投げた後、アーシアはふぅと一息ついてから話始めた。


「小さいころから農家の娘のたしなみだっておばあちゃんに教えられたので使えます。兄弟のなかで使えるのは私だけなんですけどね」

「ばぁちゃん超有能だな……」

「薬草でお薬も作っていたという話ですし、薬師だったんでしょうか」

「普通に錬金術師だった説もあるが」

「おばあちゃんは別に錬金術師でも薬師でもなかったですよ。

 なんか遠い昔にお薬がなくてとても困ったことがあって、そういうことがもう無いようにお薬の勉強をして薬草を育ててたって聞いたかなぁ」

「人に歴史あり、だな」


 ウェイトリーはそんな何とも言えないような事だけを言ってそれ以外は特に言わなかった。

 薬が無くて困り、もうそんなことが無いようにと、知りもしない薬学を身に着けるまで勉強するようなことになる出来事が、ただの教養を身に着けるといった程度の甘い話であるわけなど。

 ありはしないのだから。

 アーシアの祖母が厳しかったというのもそれを感じさせるエピソードのようにも思える。

 そして厳しくともちゃんとその技術と知恵を孫娘に伝えたアーシアの祖母の偉大さを、ウェイトリーは素直に尊敬し、心の中で静かに称賛した。


 ウェイトリーはこの時すでに、可能な限りこの少女の意に沿うようにできるだけ協力してやろうという気になっていた。

 

「まぁただ商品価値が高いだけ薬草を作るだけならそれがいいんだろうけど、せっかく味もいい薬草なんだから、ここはそのまま品質を高めたいってのが人情だよな」

「ですです!」

「ですが主さま。言うは易く行うは難しというやつですよそれは」

「まぁ考えてみようじゃないか。そもそも現状のまま方法をグレードアップするだけでも品質六くらいまではさっさと上がるんじゃないか?」

「ぐれーどあっぷ?」

「つまり、乾燥薬草を混ぜ込んだ、より薬草栽培に適した腐葉土などを使い、水やりにちゃんとしたポーション、それかもっと言えば薬草栽培用のポーションを作って使えばいいってことですよ」

「お、お金がないですよ……。それに薬草栽培用のポーションなんて聞いたことないです」

「それは追々ですね」

「追々、ね……」


 なんかまたポーション関係でやらかしそうだなこの魔女は、と内心ではため息をつくウェイトリーであった。

 しかし、真面目な顔のままマリーが話を続ける。


「でも一番の問題は、それらすべてがプランター一つであればそう難しくはなくとも、この畑一面にとなると一気に話が変わってくるところなんですよね」

「そうなんだよなぁ……。少女一人が管理する小規模な畑とはいえ、この規模で丸々その方策を取るのは金もマンパワーもめちゃくちゃいるんだよな」

「ちょっとこれはすぐには解けない難問ですよ」

「そうだなぁ」

「やっぱり難しいですか……?」


 不安そうにそう聞くアーシアにウェイトリーはゆっくりと首を振りながら答える。

 

「今すぐにはちょっと無理だな。こっちでもなんか考えてみる。

 だが、アーシアもそのままプランター栽培を続けてちゃんと品質がよくなっていくか、そしてどこまで効果があるかをしっかり確かめるんだ。

 それがうまくいってプランターでほどほどの品質でもいい株を作れれば、元の畑に置き換えられるだろうしな。

 そのままずっと質がいいままとはいかなくとも、元の質が悪い株を使い続けるより、少しずついい株に置き換えて行った方がいいのは間違いないからな」

「そう、ですね! まーなんでもかんでもすぐによくなるってわけじゃないですから多少は根気がいりますよね!

 そもそも少しずつでもよくなってるのは分かったわけですしね!」

「そうだな。その意気で頼む。街のポーション不足でアーシアの薬草はかなり役に立ってるからな。

 現状のままでもマリーさんなら使えるからめげずに頑張ってくれ」

「わかりました!」

「また二週間後の薬草を楽しみにしてますよアーシアちゃん。なにか思いついた今度は私たちが出向きますね」

「おねがいします!」


 そういって深々と頭を下げたアーシアに見送られて、二人は街へと戻っていった。

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