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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
2章 異世界情緒金稼ぎ
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034 特別依頼「集合墓地案件」

 依頼に図書館にといった日々を繰り返すこと三日。

 ギルドに顔を出したウェイトリーは強烈な既視感に襲われていた。

 

 受付にて、こちらの姿を確認したエリナ職員がニッコリとした笑顔でこちらを手招きしていた。

 

「なにしたんですか主さま」

「いやマジでしらん。少なくともこの三日は依頼と図書館しか行ってないはず。

 マリーさんがなんかやったのでは?」

「いや何もしてませんよ。あれからポーションも売ってませんし、使ってもいません」

 

 本当に心当たりのないウェイトリーと、実は何かやったに違いないと思い込んでいるマリーは、恐る恐ると行った風情で受付へと向かった。

 

「おはようございます! いやぁ今日もいい天気ですね。今日も元気に八等きゅ―――」

「お待ちしていました。今日はあいにくの曇りですねウェイトリーさん」

「待ってください刑事さん」

「私はケイジさんではなくエリナさんです。応接室までご足労願えますか」

「……はい」

「ホントなにやったんですか主さま。

 さて、主さまは忙しいみたいですので私は今日は図書館に―――」

「今回はまだ何もしてませんよマリーさん。それとマリーさんも応接室にお願いします」

「……はい」

 

 基本的に状態異常を受け付けないはずの二人へと笑顔の圧で『金縛り』をかけたエリナ職員は二人を応接室へと誘った。

 

 待たされることおよそ五分。

 エリナ職員はグラッツギルドマスターを伴い部屋へと入ってきた。

 

「おう、呼びつけて悪いな」


 挨拶をしながら対面のソファーにどかりと腰を落としながら、ギルドマスターは二人へと話しかけた。

 

「幽霊屋敷の件は聞いてる。うまくやってくれたみたいだな」

「なんのことです? 心当たりがないですね」

「まぁそれはそういうことでいい。んでな、その腕を見込んでちょっと頼みがあるんだわ」

「はぁ」

「符術師、お前、街の外に墓地があるの知ってるか?」

「大概ヤバいことになってるのは知ってます」

「……お前から見てヤバイのか?」

「あれはもうほぼダンジョンっすね。まだギリギリ人死には出てないくらいって感じじゃないっすか?

 一年以内に人死とか行方不明者が出始めて、あと三年もすれば立派なアンデッドダンジョンっすね」

「ありゃ何が悪い?」

「何が? んー、何がと言われると場所がとしか言いようがないっすかね。

 その場所の影響で怨念やら無念やらを集めやすくなるわ、そのせいで悪霊になりやすくなるわ、そこから漏れる瘴気で死んだ人間は道に迷いやすくなるわでもう散々っすね。

 強い未練で現世にとどまってるならともかく特に意味もなく迷ってるのは悪霊予備軍っすからね。意志もなく未練もなく悪霊になるのは魂にとってよくないんすよ」

「何が何だかわからんが、言ってる意味は何となく分かった。

 つまり何とかしないと不味いというわけだな?」

「それはそうっすね。ってことは話の流れ的にあそこを何とかしろと?」

「できるか? 場所が悪いなら難しいか?」

「できますよ。場所の方も、ひと月くらい前に何とかできるようになったばかりっす」

「そいつぁいい。この案件はまだ依頼という形にはなってないが、領主も気をもんでいてな。どうにかできるならしてやりてぇ。特別依頼という枠でお前に頼みたい」

「受けるのは構いませんけど、八等級で受けられる依頼っすかそれ?」

「今回お前は専門家枠だ」

「……あぁ、臨時専門家招集制度っすか」

「なんでお前そんなもん知ってんだ?」

「資料室のギルド規則に書いてありましたよ」

「ホントに読んでたんですね、ギルド規則……」

 

 エリナ職員はいつぞやにした会話を思い出しながら、やはり珍獣を見るような眼をした。

 

「ということは、誰か冒険者が同行する?」

「そうなるんだが、こいつはなかなか話せる案件じゃねぇからな。俺とエリナが行く」

「え? それはなんというか……、まるで緊急事態みたいっすね」

「お前の話を聞いたら十分緊急事態だと思うが」

「ギルドマスターはやり手そうなんでわかるんですけど、エリナさんは冒険者の経験が?」

「ないです」

「なるほど、それなら大じょ……、うぶじゃないんすね。

 ……えー、大丈夫です?」

「あんまり大丈夫じゃないです」

「ギルドマスター?」

「人員がいねぇ。緊急措置だ。俺の同行だけで済むなら構わねぇが、肩書のせいでそうもいかん。最低でももう一人は確認役が必要でな。

 そんでもってコイツは領主案件だ。身内でもあんまり他言はしたくねぇ。

 お前としてはなんか問題あるか?」

「俺としてはないですけど、本人には大ありなのでは?」

「大ありですね。でも職務ですので」

「はたらくってたいへん」


 ウェイトリーは小学生並みの感想を述べていると、マリーが口を開いた。

 

「場所が墓場で主さまが同伴するならピクニックみたいなものですよ。何の心配もいりませんよエリナさん」

「そうですね。ピクニックに行くならできれば墓場は避けたい所存ですが」


 なんとなくエリナ職員がやさぐれて見えたのは気のせいだろうか。

 ウェイトリーは気のせいだろうと思い込むことにした。

 

「それで符術師。準備にどれくらいかかる? 外の墓地はそれなりの広さだ。幽霊屋敷と同じようにはいかんだろうし、必要なものがあるならこっちでも用意するが?」

「今すぐ行っても大丈夫っすね。移動含めても昼までには終わると思いますよ」

「はァ?」


 グラッツギルドマスターは正真正銘何言ってんだコイツという顔でウェイトリーを見るが、本人はいつも通りの真顔、或いはぼーっとしたような顔で平然としていた。


「というか、実を言えば、近いうちに勝手に行って勝手に終わらせようと思ってたところなんすよ。

 あそこはあのままほっとくのは論外ですし、予想ですけど周辺一帯の農作物とかにも影響出てると思うんすよね。

 多分調べてみれば年々ほんの少しずつ収穫量とか落ちてると思いますよ」


 シカの王国ことノアルファール大森林は植物が異常に成長しやすい傾向にあったが、こちらの小規模の修正点は周辺にいきわたるはずの世界的リソースのようなもの、地脈だかエーテルだかマナだか、呼び名まだわかっていないが、それが集まって吹き出し、墓場の無念と怨念に力を与えてしまっている。

 大きさなどの傾向はあるだろうが、長期的に見てあれが大地枯れをもたらす感覚をウェイトリーは感じていた。

 言うなれば張り巡らされた水道管にところどころ穴が開いているようなもので、穴の周辺は何かしら影響はあっても、その穴から抜けた水が行くべき場所に行き渡らないでは渇水状態になるのは道理というものだ。


「それがホントなら墓場どころか王国全土に波及するような話なんだが……」

「……そういえば、龍賢者の学院の研究で、近年に砂漠化した大地で砂漠に適応した植物すら全く育たないことに関する研究が進められていると読んだような気が」

「エリナさんは学院の研究論文なんかにも目を通すんですか?」

「見出し程度は」

「道理で物知りなわけです」

「待て待て! 龍賢者の学院まで出てくるような話に信憑性があるとなると一冒険者ギルドで背負える話じゃないぞ」


 慌てたように声を荒げたギルドマスターをなだめるようにウェイトリーはのんびりと答えた。


「まぁその辺は今すぐってわけじゃないですし、ほどほどに何とかするつもりなんでご心配なく」

「何とかするってお前……」

「どちらにしても、今言っても詮無い話っすよ。今は墓場だけ考えればいいんすから。しかも墓場の原因を取り除けばそれの解決にも近づくんすから万事問題なしっすよ」

「お前、事の重大さってもんがな」

「ちなみに、有識者の話だとこのまま放っておくと最終的には世界が滅ぶらしいっすけど、それは数百年は先の話だそうっすよ。

 俺らには関係ないっすね」

「やめろやめろお前! これ以上爆弾情報を持ち出すな!」


 ギルドマスターは混乱の最中にあるが、エリナ職員は何かを悟ったような表情で我関せずを貫いていた。


「それじゃあ“墓地墓地”楽しいピクニックに出かけますか」

「主さま、今とんでもなくしょうもないギャグを挟みませんでしたか?」

「気のせいじゃない? もしそう思うならマリーさんのセンスの方が問題なんじゃ?」

「ぬかしますね」

「それで、墓地までは徒歩で行きますか?」

「それならギルド所有の馬車があるのでそれで」

「わかった。俺も何も聞かなかったことにする」

「ギルマス。立場上それは不味いかと思われます」

「いや知らん! 俺は一介の解体場職員だ」

「無理があるかと」

「もう知らん! 墓場もさっさと終わるってんならさっさと終わらせてもらうぞ符術師」

「それはまぁお任せを」


 やさぐれてしまったギルドマスターともはや処置なしといったエリナ職員の二人とともに、ギルドの馬車に乗って、墓場へと向かって行くのであった。

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