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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
2章 異世界情緒金稼ぎ
33/334

033 取り調べ

 八等級の不人気依頼をこなしたり、図書館に通ったりすること三日ほど。

 ギルドに行く前の朝の時間に、食事を終え、のんびりとお茶を飲んでいる時に、ふとマリーが思いついたように口を開いた。

 

「主さま、ポルターガイストに名前とか付けませんか」

「なんで?」

「役立ってもらっていますし、不便なので」


 幽霊屋敷のポルターガイストは、二人の家で新しい職に就いていた。

 ホームセキュリティ、或いはスマートスピーカーであった。

 

 ドアの開閉やモノを受け渡し、マリーの調理の手伝いなどもしている。

 果ては箒とちりとりとはたきと雑巾で掃除もするし、ベッドメイキングなんかもする。

 まだやり始めて日が経っていないこともあり、百点満点とはいかずとも就任わずか三日で七十点の仕事っぷりである。

 しかも、どんどんやることを覚え、仕事ぶりも少しずつよくなっていることを考えれば、そのうちに満点に近い仕事をするようになるのも遠くないように思える。

 

 ウェイトリーなど、面白がって手持ちであまり使用する予定のない武器系のカードをポルターガイストに装備させ、剣だの槍だの他にもロープなどで空き巣対策を教え込むなどの悪ノリまでしていた。

 

 ハッキリ言ってめちゃくちゃ便利に使っていた。

 

「あれか、ヘイなんたらとかオッケーなんたらとかと言いたいと」

「別に言いたいというわけではありませんけど、名前を呼んでお願いする方が関係性として自然かと」

「まぁ別にいいと思うけど、なんか名前候補でもあんの?」

「そこは主さまがつけるべきでは?」

「そもそも元から名前あったりする?」


 人形の方へ向かって問いかければ、ふわりと浮いた人形は首を左右に振った。

 

「ないのか。じゃあ『ナイ』ちゃんだな」

「お決まりの流れですね。却下」

「由来を気にしなければ悪くないと思うんだけどなぁ『ナイ』。じゃあ無難に『P』ちゃん」

「ポルターガイストだからですか?」

「そうそう。『アタシはポルターガイストのPちゃんなのだ!』って感じ」

「なんですかそのコテコテなイメージは。あまりに安直なので却下」

「じゃあ……、やっぱりポルターガイストのどっかをいい感じに引っこ抜いてだな、『ポル』とか『イスト』とかは」

「正直微妙ですね」

「厳しくないか? 俺にセンスを期待されても困るぞ。マリーさんなんかないのか」

「え? ではそうですね。『ローズマリー』『セージ』『ミント』辺りはどうでしょう」

「ハーブばっかりだな」

「では『しゃもじ』『ハガマ』『炊き立て』とかどうでしょう」

「なんでよ。米食いたいの?」

「日本人生活がそれなりに長かったもので」

「『しゃもじ』と『ハガマ』はともかく『炊き立て』はいやでしょ」


 同意を求めるように人形に目をやれば、むしろどれも嫌と言わんばかりに手をバツマークにして飛び回っていた。

 契約してからウェイトリーは、普通に大体の感情が分かり意思疎通もできるので、断固NOの気配を強く感じていた。

 

 流石にかわいそうだな、と思ったウェイトリーはしばし考えてから、一つの名前を上げた。

 

「じゃあ『メアリー』でどうだ」

「いいじゃないですか。理由を聞いても?」

「んー……、あー、あれだ。なんか家中どこでも手伝ってくれるじゃん? そういうイメージなの『メアリー』」

「『メアリー』に別にそんなイメージないですけど、何かの作品由来だったりするんですか?」

「どうだったかな? 居たような気もするかな」

「なんかしょうもない理由を隠していそうですが、名前自体は悪くないですね。本人的にはどうでしょうか?」


 人形はバッテン飛行を続けていたが、机に立ってその手をマルの形に変えた。

 

「いいみたいですね。ではこれからはメアリーと呼びますね」


 機嫌よさそうに浮遊し始めた人形改めメアリーはマリーの周りを数回周り、ウェイトリーの前でお辞儀した。

 

「よかったな。さて、そろそろギルドに行くか。メアリーは留守番頼む」


 残っていたお茶を飲み干してから、ウェイトリーは立ち上がって入り口の方へと向かった。

 

 この時のウェイトリーは、名前の由来が、ある日本のことわざであることは決して話さず、墓場まで持っていこうと密かに考えていたのであった。



 ギルド。

 もはやおなじみとなりつつある、エリナ職員の座る受付へと向かうと、こちらの存在に気が付いた彼女が、ニッコリと笑いながら手招きした。

 

 何となくいやな予感を感じ取ったウェイトリーとマリーは、今日は依頼やめとこうかなと、現実逃避気味に考えていても、エリナ職員は手招きをやめなかった。

 

 なんかこわかった。

 

 ウェイトリーは観念して受付へと、あえてさわやかな感じでハキハキと挨拶した。

 

「おはようございます! いやぁ今日もいい天気ですね。今日も元気に八等級の不人気依頼をやらせていただければなと思ってやってきました、ウェイトリーです」

「お待ちしていました」

「お待ち? あ、あぁ、何か厄介な不人気依頼があるんですね! 不肖ウェイトリー、不人気依頼受けさせていただきます!」

「お二人にはお聞きしたいことがありますので、応接室の方までお願いできますか」

「待ってください刑事さん。いきなり取調室はないですよ」

「誰がケイジさんですか。それと応接室です。話の内容が取り調べになるかどうかは、お二人次第です」


 得も言われぬ圧に押され、言外にさっさと行けと言われて、ウェイトリーとマリーは連行される犯人のような気持ちで応接室へと向かった。


 ソファーに座って待てば、しばらくしてエリナ職員がやってきて、二人の正面に座った。

 一度咳ばらいをしてから、つらつらと語り出す。


「発端は二日前に冒険者ギルドに巡回の衛兵が来たことにあります。中央区を巡回している衛兵の報告で、幽霊屋敷の雰囲気が変わっているような気がする、という報告が上がったそうです」

「へぇーそうなんですね」

「それで、なにか異変が起きているならば危険がないかを早急に調査してほしいという旨の話でした。

 これによりギルドは信用のおける中堅上位の冒険者パーティ一組に調査を依頼し、一昨日と昨日の二日の調査の結果、何の異常もない普通の屋敷になっているということが判明しました」

「なるほど」

「ウェイトリーさん、屋敷に行きましたか?」

「行きましたよ。たしか……三、四日前だったかな? 朝の散歩がてら幽霊屋敷見物にいこうと思って敷地の外から眺める程度に。

 そん時に衛兵さんに会って、散歩するならもう少し人通りが多い時間にするようにと注意されましたけど」

「その時に中に入りましたか?」

「中に? いや、衛兵さんがいる前で不法侵入は出来ませんよ」

「そうですか。では単刀直入にお伺いしますが、屋敷の敷地内、並びに屋敷内に入ったことはありますか?」

「いやぁ……? どうだったかな? ここ数日は依頼とか図書館とかに通い詰めでそんな時間はなかったと思いますけど」

「否定はなさらないんですか?」

「申し訳ない、ここ最近忙しくしていてちょっと記憶にないですね」


 エリナ職員が普段しないようなジト目でウェイトリーのことを凝視するが、ウェイトリーは言質を取られるようなことはするまいとしらばっくれる気満々で普段通りの真顔で相対する。


 ここでウェイトリーも斬り返してみることにした。

 

「あくま仮にですが、俺がその幽霊屋敷に侵入していたとして、衛兵さんの話だと現状は不法侵入しても逮捕とはならないって話ですし、先日聞いたお話だと、被害に遭っても冒険者の自己責任で、現状の状況が悪化したりしていなければ基本的に不問という話だったと思うのですが。

 これって仮に、あくまで仮にですが俺が不法侵入していたとしても現状何ら問題ないのでは?」

「そうですね。何も問題ありませんね。ですが、基本的に不問とはいえギルドとしてはそういったグレーな行為をする冒険者の評価は気を付ける必要があるんですよ。

 具体的には評価点を下げる等の冒険者に告知されない部分での処理ですね」

「あーなるほど。それならなおのこと不人気依頼を精力的にこなす模範的八等級冒険者の自分には関係のない話ですね。

 まぁ不法侵入はあくまで仮にですけど」

「そうですね。では今回の件にはお二人は特にかかわっていないと」

「見学には行きましたけどね」

「……わかりました。であれば今回の聴取はこれで以上になります」


 終始ジト目のエリナ職員が話を終わらせようと言葉を結ぼうとするのを遮って、ウェイトリーが口を開く。


「あぁそうそう。これは見物に行った、ただのいちデッドマスターの見解なんですけどね?」


 そう言うと、エリナ職員はジト目をやめて耳を傾ける。

 

「あの屋敷にはもう、なにもいませんよ。人形を寄る辺とした悪霊も、気配に吸い寄せられるように集まった迷える魂も、なにも。

 きっと至るべき場所、それか、帰るべき場所を見つけたんでしょうね」

「……専門家の意見として参考にさせていただきます」

「そうしてください。まぁただ見に行っただけですけどね?」


 最後の最後まではぐらかすことをやめなかったウェイトリーに対して再びジト目になったエリナ職員に、ウェイトリーは肩を竦めながら苦笑いするだけだった。



 二人に適切な八等級不人気依頼を見繕い依頼に出かけていくのを見送ったエリナ職員は、受付を後にして、ギルドマスター室へと向かった。

 

 中では、事務仕事に精を出しているグラッツギルドマスターがおり、筋骨隆々の姿からはあまり想像できないほど丁寧かつ素早く、事務作業を処理していた。

 

「ギルマス」

「少し待て。あと数分で片付く」

「ではお茶の用意でも」


 エリナ職員は慣れた様子で備え付けの給湯設備で二人分のお茶を用意して、ソファーへと座った。

 それほど間を置かずしてグラッツギルドマスターがソファーへと腰を下し、用意されたお茶で喉を潤しながら、エリナ職員へと話を促した。

 

「どうだった?」

「本人は終始はぐらかしていましたが、まず間違いありませんね。

 幽霊屋敷の案件を解決したのはウェイトリーさんとマリーさんですね」

「そうか。何か確信を得るのに十分な話はしたか?」

「いえ、特には。のらりくらりといった話口でイエスともノーとも明確には口にしませんでした。

 ですが、三、四日ほど前に屋敷の前まで見物には行ったとは仰っていました」

「それだけか?」

「明確に取れた言質はそれだけですね」

「そうか。で? エリナがまず間違いないって判断した理由は?」

「おそらくウェイトリーさんはかなり腕の立つ死霊術師です。

 私たちが想像するような死霊術師とはかけ離れている可能性はありますが、間違いないと思われます」

「だろうなぁ。つーかアイツはなんかがおかしいな。

 解体場に来るときに気配を感じたためしがねぇ。死霊術云々は抜きにしても相当な使い手だなありゃ」

「この街に、いえ、下手をすればこの国を探しても死霊術にあれほど理解があり、精通しており、真摯に向き合っている方は居ないかと思われます。

 つまり、現状この街で、あの幽霊屋敷の案件を片付けられる可能性がある方はウェイトリーさんしかいないと思われるのがまず一つ」


 一度言葉を区切り、お茶に手を付けつつ、話を再開する。

 

「次に、幽霊屋敷に関わったという話や、中に入ったという話こそ聞けませんでしたが、ウェイトリーさんに言われました。

 『あの屋敷にはもう、なにもいませんよ』だ、そうです」

「そりゃぁお前、ほぼ白状しているように聞こえるがな」

「本人としても本当にバレないとは思っていないのでしょうね。ただ自分がやったと名言するつもりはないようですが」

「街や領主からすりゃぁ長年の憂いが晴れて万々歳ってなもんだが、ギルドとしちゃぁどう判断すべきか悩ましいもんだな。

 危険行為を咎めりゃいいのか、やったことのできを褒めりゃいいのかな」

「規則に照らして、事務的に判断するのなら評価は大きく下げておくべきかとは思いますが……」

「そりゃまぁそうだな。しかし街の大きな憂いを取り除いた戦果に対する報酬が評価の大幅低下ってのはやるせねぇなぁ」

「いっそのこと、ちゃんとやったと言ってもらえれば厳重注意という体を取りつつ、報酬や評価などもく出せたのですが」

「なんつーか欲がねぇのか奥ゆかしいのか知らんが、面倒なヤツだ」

「どうしますかギルマス」

「ちょっと考える」


 そういって目を瞑って黙り込むグラッツギルドマスター。

 それを静かに待つようにお茶をすするエリナ職員。


 ほどなくして、結論は出たとばかりにグラッツギルドマスターが口を開く。


「今回のことに関しては、危険行為の可能性ありとして評価を落としておけ。

 ギルド裁量の部分で言えば危険行為の可能性があるだけで十分評価を落としていい部分だ」

「はい」

「領主が出した依頼料に関しては、最後に調査をした冒険者に追加で半分ほど払って、残りは領主に返す。そん時に俺が事の顛末を話しておく」

「どう話されるおつもりですか?」

「そのままだな。来歴不明の冒険者が何かをやったみたいだが、その結果幽霊屋敷案件は解決した。

 だが、その本人が名乗り出ねぇから依頼は取り消しになったが、その屋敷の最終調査に関する部分で報酬として支払ったと言うさ」

「妥当かと思われます」


 一度区切るようにうなずいて、続ける。


「だがそれだけじゃギルドの面目が立たねぇ。いや何も表沙汰になってねぇから面目もクソもねぇっちゃねぇがこれは気持ちの話だな」

「何か、割のいい依頼でも回しますか?」

「いや、臨時専門家招集制度を使ってあの符術師に街の外の集合墓地の案件を頼むぞ」


 ギルドは原則、冒険者しか依頼を受けることはできない。

 だが、冒険者では理解・解明できない専門的な知識を要するような依頼や事案がある場合、その知識を擁する専門家を臨時に依頼へと招集することが許されている。

 もちろん受けるかどうかは専門家の方に権利があるが、これにより規則に外れることなく冒険者以外の人物でも依頼に招集することができる。

 冒険者でない以上、ランクは適応されず、どの等級の依頼にも参加することができる。

 仮に、冒険者であったとしても、その専門性が確認されているのであれば、臨時招集の対象にすることができる。

 本来であれば学者や研究者、その道の技術者や特別な能力を持つものを対象とするものではあるが、必要な能力を持ち合わせるがランク外の冒険者を合法的に参加させる抜け道でもある。

 

 エリナ職員としても一定の理解はできる筋道であると感じたが、思うこともあった。

 

「いいと案だと思われます。招集した専門家に依頼の全てを丸投げするというのは前代未聞かもしれませんが」

「そこが問題だな。しかしことがことだけに、誰をつけるともいえんからな」

「なにか考えが?」

「俺とお前で行くぞ」

「わ、私ですか? お言葉ですが、戦闘などで私ができることはありませんが」


 グラッツギルドマスターは、過去冒険者であり、またその実力はベンゲル辺境伯領で活躍した三等級冒険者であった。

 冒険者ギルド職員には元冒険者という肩書を持つものは案外多い。

 だが、受付業務など行う職員にはそうでないものも多く、エリナ職員も最低限の護身術や生活魔法が使える程度で冒険者として切った張ったができる実力はない。

 

「俺だけだとそれはそれで問題がな。職権乱用だのなんだのと言われるのは面白くねぇ。

 もちろん戦闘をさせるつもりはねぇし、あそこは切った張ったがいるような場所じゃねぇ。

 いるのは落ち着きと冷静さだ。お前にピッタリだろ?」

「向いてるか向いてないかで言えば向いているのかもしれませんが、適切かと言われると疑問がありますが」

「あんまりいろんな連中に話すようなことじゃねぇから今回は飲んでくれ」

「……わかりました」

「よし決まりだ。俺は領主に話を通してくる。臨時招集依頼のあれこれは任せるぞ」

「了解しました」


 かくして。

 期せずしてウェイトリーは小規模修正点により異常をきたしている街の外、集合墓地への案件を任されることが決定したのであった。

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