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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
2章 異世界情緒金稼ぎ
31/336

031 事前偵察

 翌日。

 ウェイトリーは早朝から街を歩いていた。

 喧噪はまだ薄く、陽は出ているが城壁付近はまだ暗い、そんな時刻。

 朝と夜の色を均等に残し、正しく灰色といえるコートを纏い、件の幽霊屋敷へと向かっていた。

 

 場所は街の中心からほんの少し外れた位置。

 この街の中心には領主の館があることを思えば、かなりの高価値物件になるはずの場所は、今やこの街の人間のほとんどが忌避し、仮に安く売りだされていようとも購入を考えることなどない。

 曰く付き物件、などという生易しいものではなく、正真正銘の幽霊被害に遭遇できる物件である。

 

 屋敷の前までやってきたウェイトリーは、閉ざされた門扉の先にある石造りの家屋をぼんやりと眺めながら物思いに耽っていた。

 

 日本人平坂には霊感など全くなかったが、デッドマスターウェイトリーには明確に、あぁそれなりのがいるな、というのが建物越しにも感じ取れる。

 強力というほどではないが、明確な意志や警戒の気配も感じるところを見れば、侵入者にいろんなものが飛んできたというのも間違いないだろうと確信する。

 

 外観の確認のため、少し目を凝らしてみれば、長い間幽霊屋敷をやっていると聞いていたが、朽ちて崩れているというような場所はなく、一見すれば屋根も壁もしっかりしているように見受けられた。

 次に庭。これは、あまりいいと言えるような状態ではなかった。

 幽霊屋敷から漏れる悪い気配か、或いは街の外にあるあの場所から伝播した、さしずめ瘴気とでも言おうか、その気配に当てられてか、庭の草木は枯れ果て、小さな池は暗く濁っている。命溢れる生命の息吹はほとんど感じられないといった様相であった。

 決していい状態とは言えないがそれをみたウェイトリーは、草刈はしなくてよさそうだから楽そう、などと微妙にのんきなことを考えていた。


 そんなことを考えながら観察を続けていると、通りから感じていた気配が近づいてくる。

 何が近づいてきているのかはその気配から察しているが、目ざとく反応するのもは不審かと思い、気づいてないふりを続けるウェイトリーに、二人組の衛兵が話しかけた。

 

「君、ここで何をしている?」


 さも声を掛けられて気が付いたと言わんばかりに顔を上げて衛兵を見つつ、ウェイトリーは答えた。


「これは衛兵さん。おはようございます。いえ、最近この街にやってきた冒険者なんですがね。ギルドで幽霊屋敷の幽霊退治の依頼があると聞いて、様子見に来たんですよ」

「冒険者か。済まないがギルドカードを提示願えるか」

「ええもちろん。どうぞ」


 コートの胸ポケットに入れているカードを衛兵に渡せば、数秒確認してから、すぐに返される。

 

「八等級冒険者か。それでは依頼を受けられないのでは?」

「そうですね。なのでまぁ、どんなもんかと見に来ただけです。この街で冒険者をするなら知っておいた方がいいかと思いましてね」

「そうか。何か幽霊退治に使えそうな技能か道具を持っていたりするのか?」


 そう問われたウェイトリーは、やや考え込むようにして手を顎に当てつつ、難し気な表情をして返答する。


「いやぁどうでしょうかね。魔術師なんで魔術が効けばそれなりでしょうが……、それなら既にこの街に居る先輩冒険者のどなたかが片付けて居そうな気もするんですがね。

 まぁどちらにしても私では受けられないんですが。

 私の術が効くかどうか試すためにも入ってみたいん気持ちもあるんですが、勝手に入ったら不味いですよね? やっぱり不法侵入とかで逮捕されたりしますか?」

 

 衛兵は、解決に意欲的であるのはいいと思うが、大丈夫なのかコイツ、と思いつつも聞かれたことに答えた。

 

「うーむ……、通常ならそうだが、現状では逮捕とはならないだろう。冒険者ギルドに一任しているのもあって、誰が正規の依頼受領者かそうでないかをこちらが見極めるのは難しいからな。

 一応錠前の鍵は冒険者ギルドに預けられているから、その鍵を持っているなら正規受領者なのだろうが、もし持っていなかったとしても、気にはなるが逮捕とまではいかんだろうな」

「そうですか。でもまぁギルドで依頼を受けてからくるのが一番なのは間違いないと」

「そうだな。……ここは早く何とかしてもらいたいものだ。薄気味悪くてかなわん」


 忌々し気に屋敷を見ながら率直な感想が口から出て、それが冒険者に聞かれるのはあまりよくないのではないかと気づいて、ウェイトリーに訂正を入れた。


「あぁ別に冒険者ギルドを責めているわけではないので勘違いしないでくれよ。冒険者は困った部分もあるが、この領では共に魔物被害と戦う者だ。無碍にしたいわけではないからな。

 元を言えば教会の連中が浄化をしくじったのが原因だからな」

「らしいですね」


 教会批判とかして大丈夫なのかこの衛兵、とウェイトリーが特に表情を変えることなく聞いていると、やはりあまりよくなかったのか、もう一人の衛兵がわざとらしくゴホンと一つ咳ばらいをした。

 それを聞いて、衛兵としての本分を思い出したかのように衛兵が語り掛ける。


「しかし冒険者。気になるのはわかるが、あまり人通りが少ない時間にうろつくのはやめるように。

 何か事件に巻き込まれるようなことも、何か事件に関係すると嫌疑を懸けられるようなことも本意ではないだろう?」

「そうですね。少し気になって早く目が覚めたもので散歩がてらとでも思ったんですが、こちらも衛兵さんのお手を煩わせるのも本意じゃありませんし、もし散歩するならもう少し日が昇ってからするようにしますよ」

「そうしてくれ」

「じゃあ私はそろそろ行きます」


 衛兵に軽く会釈しつつゆっくりと自然に歩き去り、商業区の方への筋を曲がったところで少し止まる。

 衛兵たちの気配は特に何事もなかったかのように屋敷の前を通りすぎ、巡回へと戻って行った。

 あたりに人の気配がないことを確認してからウェイトリーはぼそりと呟いた。

 

「流石は中心区。こんな時間でもちゃんとした巡回がいるもんだな。さて、『アンデッドラッズ』『ゴーストキャット』」


 昨日引いたばかりのスーパーレア級の探索ユニットを呼び、召喚する。

 

 片方は十二匹からなる骨、ゾンビ、幽霊のネズミの群れで、片方はやや体の透けた金色の目をした黒猫である。

 ゴーストキャットは二枚引いていたので二体である。

 

 同時に召喚したところ猫二匹が目を細めてネズミを見つめ、ネズミたちが委縮するという状況になったが、それをなだめつつ、件の屋敷の中と外の念入りな探索を命じる。

 

「今晩忍び込む予定だからいい感じに頼む」


 そう告げると、ネズミと猫は各々がゆるりと自然に行動を始め、その場にはウェイトリーだけが残された。

 

 室内に非常に強い探索ユニットと地上型の高性能探索ユニットが手に入ったのは僥倖だったなと考えながら、ウェイトリーは家へと戻っていった。


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