029 装備のあれこれと図書館
引っ越し作業も恙なく終わり、そろそろ昼に行くにもいい時間かとマリーに声をかけるが、新しいキッチンの具合を確かめるからと食材を出すように言われ、数日前に買い込んだ食材や調味料の資材カードを全て渡した。
「もうそれ、マリーさんが全部持ってた方がいいんじゃないの?」
「そうといえばそうなのですが、いかんせんちゃんとしたケースでもないとかさばりますからね。
それに端末に保管するのが一番安全確実なのは間違いないんですよね」
「俺の他のデッキポーチ系の装備ってマリーさん装備できないのかね?」
「どう、でしょうか……? 物理的に装備することはできてもポーチの効果などは得られないのではないでしょうか。
場合によっては物理的に装備することもままならいかと」
「試してみるか」
この世界に来た時に、所持アイテムも所持していたカードもすべて失ったが、所持していたプレイヤー装備だけは全てを持ち込めている。
その中には各種デッドマスター系装備から、汎用装備、他クラス向け装備、そしてプレイヤーメイド装備など様々あった。
その中から、純魔法使いクラスのマジシャンズカレッジ向けのデッキポーチと、主に資材カードを運用する用の汎用装備のデッキポーチ、それから資材カードを湯水のように使って城だの街だのを建てて回すクラス、ウォーアーキテクト用のデッキポーチの三つを取り出して、テーブルの上に並べてみた。
以下、その内容である。
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[デッキポーチ]連続詠唱のデッキケース SR「MP+100、INT+5」
連続で同じスペルカードをプレイする場合効果が5%アップする(重複可/最大10スタック)
[デッキポーチ]運搬者の大容量ポーチ LR「HP+50」
資材カードを入れて装備している場合 一定時間で資材の品質に+ボーナス
[デッキポーチ]資材管理者のデッキケース SR「VIT+10」
重量や数が設定されている資材カードが消費されたとき 20%の確率で同じカードを複製する
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「試してみますね」
そういってからその中の一つを手に取り、ベルトを腰に回して装備すれば、物理的には装備することができた。
だが、端末には以下の内容が表示されていた。
『非装備権限保有者の装備を確認しました。
確認対象:『[デッキポーチ]連続詠唱のデッキケース』
このまま装備することは可能ですが、ステータス補正と装備効果を得ることはできません。
装備が破壊された場合は端末インベントリに破損状態で戻ります。
デッキケース系装備の中に収納したカードは、最初に装備した物理的装備者の意志か、装備権限保有者の意志がある場合にのみ取り出すことができ、それ以外では収納しているカードは取り出せません。
カードを収納したままのデッキケース系装備が破壊された場合は、カードを保持したまま端末インベントリに破損状態で戻り、装備を修復するまでカードの取り出しは行えません。
デッキケース系装備の最初に装備した物理的装備者を変えたい場合は、装備を一度インベントリに戻すことで変更できます。
補足として、装備権限保有者がステータス画面にて現在装備している装備を他者や非装備権限保有者が物理的に装備した場合、権限保有者と物理的装備者の両名にステータス補正と装備効果が発揮されます。
このメッセージを再度表示しない場合は「設定」メニューから変更してください。』
「あー、あぁ?」
「どうしましたか?」
「まずあれだ。カードを安全に収納して保持できる機能はあるし、そのまま装備してても問題ない」
「いいじゃないですか。でも他にもなにかあるんですね?」
「装備効果もステ補正もないらしい」
「つまり現状では使い勝手と見た目だけというわけですね」
「なんだけども、俺がステータス画面で装備してるヤツを、物理的にマリーさんに装備させると補正も効果もあるらしい」
「んん? 不思議な状態ですね。
つまり主さまは今着ている服を全て脱いでも防御力はそのままで足元が悪くても関係ないし、過剰な寒さも暑さも感じないと?」
「脱がすな。でもまぁそういうことだな」
「あれですね。映画なんかである、寒がっている女性に自分のコートをかけてあげるロールプレイが捗りますね」
「優しさをロールプレイって言わないでよ。でもその場合寒さをやせ我慢しなくて済むな」
「うーん。なんかデッドマスターのクラス効果と悪用すればいろいろできそうな気もするんですが……」
マリーのいうクラス効果とはデッドマスターのクラスレベル十で得られる『召喚したCuに探索系スキルとプレイヤー効果を付与(適応可能なもののみ)』という部分である。
「あー、確かにな。例えば運搬者を俺が装備しておいて、マリーさんが何かしらのデッキケースを装備してれば適用可能ではあるよな」
「ですよね。でも、難しいですね。主さまが灰色賢者一式を外すことになりますし、灰色賢者の効果は資材カードと装備カードしか使えない私が得ても意味のない効果ですし」
「etcとPe以外のカードは使えなかったもんな」
本来であればデッキケースの装備枠はメインとサブの二枠あり、マリーにも有用そうなものをもう一つ装備すれば、とも思うかもしれないが、現在装備している『灰色賢者のダブルケース』は一つでメインとサブの両方に該当する、いわば二枠装備なのである。ついでに言えば灰色賢者のフィールドコートも頭と胴の二枠装備だったりする。
「ふむ。でもこの際効果などは置いておいて、問題なくカードを保管して持ち歩けるというだけでいいですね。
たくさん入れることもあるでしょうし運搬者のポーチを借りておきますね」
茶色い革製のポーチ型のデッキケースで、ベルトの長さを調節すればウエストタイプからショルダータイプにもできるものであった。
中はカード用の仕切りが四つあって、主に資材カードや装備カードなどを入れて使う、生産系プレイヤーが好んで使う作業用の装備であった。
マリーは早速と装備したポーチに食材カードや薬草類のカードあとは外用の調理器具や錬金術系の設備のカードなどをその中にしまい込んだ。
「じゃあお昼作っちゃうのでちょっと待っててください」
「期待してる」
「お任せください」
今までは野営かつ十分な設備も調味料もなかった状態で、そこそこに美味しい料理を作っていたマリーである。
十全の装備が整った今、その腕に真髄が披露されようとしているのであった。
なかなかのお点前の昼食に舌鼓を打ち、家のもろもろも済んだが、依頼に出かけるという気分でもなかったため、そろそろ図書館を覗きに行ってみようということとなり、街の富裕層が住み高級商店などが並ぶ中心街の方へとやってきた。
他の通りや区画と比べても綺麗に掃除され整った街並みは美しく、しかし過度に華美というわけでもなく、どちらかといえば機能美と調和のとれたアクセントといった出で立ちだ。
辺境の大森林からの守護を預かる領地らしい、実利と品位を兼ね備える場所であった。
図書館はその区画でも外側、中心街と商業区の間の位置に建っていた。
中へと入ると、一面に広がる本棚と、紙の匂いとインクの香りが広がっていた。
広さで言えば冒険者ギルドの受付前とロビーを合わせたくらいか、それよりやや広いくらいであった。
しばらく館内を見渡している二人の元に、ビシっとしたスーツを着こなすロマンスグレーに片眼鏡の老紳士が話しかけてきた。
「いらっしゃいませ。図書館は初めてですかな?」
「そうです」
「私はこの図書館の館長をしているものです。まずは受付で手続きをお願いできますかな」
「わかりました」
言われたことに逆らわず、老紳士もとい館長の先導に従って受付へとやってきた。
そこに座っていたやや神経質そうな顔をした男性職員に館長は初回利用の手続きをと言ってから二人を促した。
神経質そうな顔をした職員は、ウェイトリーとマリーの顔、というよりは服装を見てやや眉をひそめてから、二人に初回のみ身分証を提示するようにと言う。
「身分証を拝見します。それからこちらの規約に目を通してからサインを」
言われたとおりに二人は冒険者証を渡すと、職員の男は呆れたような表情をしたが、特に何も言わず確認をしてからそれを二人へと返した。
規約に書かれていたことは何のことはない、開館時間と閉館時間、定休日、やれ本を汚すな、騒ぐな、飲食は決められた場所でのみ可、火気厳禁と図書館の利用規約としておかしいところのない真っ当なものである。
エリナ職員に聞いていた通りの料金設定もあった。
「お二人は冒険者なのですな。本日はどのような本をお探しで?」
規約に目を通し、サインを書き終えたのを見計らって、館長が二人に声をかけた。
「特にこれといったものを探しているわけじゃないですね。ちょっとばかり常識や世間というのに疎いもので、そういった知識を埋めようと本を読みに来ました。
もちろん、冒険者として知っていれば得になるような内容も調べたいといったところです」
「そうですか。であれば、読みたいものは壁にかかっている案内板を参考にしていただければよろしでしょう。
一応申しておきますと、冒険者の知識に役に立ちそうなものは棚の数字で八から十のあたりにまとまっていますぞ。
冒険者の活躍や伝記、そういった内容の創作物語などは十二のあたりですな」
「なるほど。ご親切にどうもありがとうございます。ではまず八番あたりの棚から見させてもらいます」
「こちら、当館の利用許可カードです。次回からこちらをお見せください。では預かり金と料金をいただきます」
職員の男は若干見下したような、或いは馬鹿にしたような雰囲気があるが、それを言葉にも態度にも大きくは出さず、職務に忠実にを淡々と処理しているといった対応であった。
別に不躾というほどでもないし、すべきことをしているので文句はないが、まぁ仲良くなりたいとい思うような相手でもないと判断するには十分なため、ウェイトリーもマリーも特に無駄口を叩くことなく、手早く手続きを済ませて本棚に向かうことにした。
「ごゆっくりどうぞ」
「どうも」
館長のあいさつに静かに答え、二人はそれぞれ本棚に向かって行った。
二人の読書スタイルはギルドの資料室と変わらず同じで、ウェイトリーは立ちっぱなしで読みふけり、マリーは机に本を詰んで一冊の内容をまとめて行くのであった。




