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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
2章 異世界情緒金稼ぎ
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028 新しい曰く付き物件

 翌日、ギルドにてポーションの代金を受け取り、半年ほど借りられるような空き家で、薬草を煮炊きして多少異臭を出しても迷惑になりづらいような立地の場所はないかという条件をエリナ職員に聞いてみれば、案の定NOとは言わず、ギルド所有であったり提携があるいくつかの物件を紹介された。

 

 一件目、二件目と周り、次が条件に合いそうな最後の物件であった。

 エリナ職員曰く、南西外壁に近く、商店からやや遠く、ギルドと飲食店街はほどほどの距離だが、井戸が昔にあったいざこざの汚染で使えず水は魔道具や魔術頼り。

 住人が少ないせいで警らの衛兵が少なくやや治安が悪い。

 南西側の外壁に遮られ朝方はやや暗く、その昔にあったいざこざの刃傷沙汰で人死にが出ているため、ただの空き家なのに何となく薄気味悪い。などなど。

 

 正直に言えばあまりお勧めではないが、提示された条件に合致し借り賃が安い、そしてギルド提携ではなくギルド所有物件という点、そしてデッドマスターならば薄気味悪さなどはさほど気にならないのではないかという理由で紹介してもらったものであった。

 

 しかしてその場所は、前評判通りのさびれた活気のない地域であった。

 紹介された貸家の数件先まで人は住んでおらず、閑散としていた。

 

 ここまでなら悪いことばかりにも思えるが、いい部分もある。

 街中の庶民が住む家にしてはやや広めで二階建て。小さいながらも庭付き。家のつくりもしっかりしたもので雨漏りも隙間風もないらしい。

 井戸も使えず上水が通っているわけでもないが、下水は問題なし。

 湯舟があるわけではないが設置すれば風呂としても使え、そのままでもシャワーくらいなら十分使えるような排水口が整備された洗い場があるなど。

 

 水の不便はそこそこ致命的だが、それ以外は概ね良好といえた。

 ならばもう少し入居者がいてもいいのではとも思われるかもしれないが、風評が大きな問題だった。この街では『薄気味悪い』や『曰くがある』というのは殊更忌避される風評なので、どうにも入居者が増えることはないようだ。

 

「つまり俺たちにとってみれば、最高に近い立地というわけだな」

「そうですね。理想的といってもいいんじゃないでしょうか」


 片や風評を気にしないデッドマスター、片や元墓守系魔女。

 二人からすれば何ら気にする理由はなかった。

 一番気になった部分は日当たりくらいであった。


「水は自分で出せばいいな」

「なんなら井戸の浄化くらいはしてもいいんですけどね。ポーション一本投げ込めば終わりですし。

 ただ水汲みは普通にしんどいので、結局魔術で水を出すのでやる意味はないんですけどね」

「……そのポーションは聞いてないが」

「十等級依頼にどぶさらいってのがありましたよね? それに使ってみようかと思っていくつか作ったんですけど」

「それやったらまたエリナさんびっくりするんだろうなぁ……。

 まぁ、やる気なら止めはしないけど。

 井戸もどぶもきれいさっぱりして悪いことはないだろうし。たぶん」

「そういえば主さま。日本人的にお風呂は外せないと思うんですがいかがですか?」

「マリーさんエルダリア人じゃん」

「精神的には日本人でもあります。日本人として暮らしてましたし。というか主さまはどうなんですか?」

「俺普段からシャワーしかしないし」

「ホントに日本人ですか?」

「日本人風呂好きなのは認めるけど全員じゃないでしょ。まぁ俺もどちらかといえば好きではあるけど単純に風呂はめんどくせぇ。掃除するのも面倒なら沸すのも面倒だ」

「掃除はともかく沸すのは今日日ワンボタンだったと思いますが」

「押して待つのがめんどくせぇ。でも実家にいたころは入ってたよ」

「ダメな社会人ですねぇ。この分だと部屋も散らかってそうですね」

「部屋は空気清浄機とロボット掃除機と妹が掃除してくれてたからそこそこ綺麗だったよ」

「いま、終わりましたね」

「まってくれ」

「弁解の余地ありますか、これ」

 

 ウェイトリーの抗議をバッサリと切り捨て、家はここにしようと決めたマリーは賃貸契約を結ぶべくギルドに戻るのであった。

 

 ギルドに戻り、南西外壁付近の家に決めたことを伝え、契約をしたい旨を告げれば、そうなるんじゃないかと思っていました、とエリナ職員は苦笑いしつつもテキパキと契約をまとめた。

 値段は半年で七十五万ドラグだった。

 安いか高いかで言えば、十分安いと言えるだろう。

 日で計算すればおよそ四千二百ドラグほどになる。

 現状泊まっている宿の値段が、一番小さい二人部屋で五千ドラグであり、各種サービスはほどほどで、いくつかは別料金と考えれば、二人で住むには十分に広い二階建てのキッチンリビング洗い場付きの物件が四千二百ドラグは間違いなく安い。

 なおこれに井戸なし悪評在りは考えないものとする。

 しかし普通は一括で半年分払ったりはしないし、ひと月の家賃で考えると十二万五千ドラグほどになる。

 家賃ひと月十二万と考えると値段に思うことがないではないが、それは宿暮らしを続けてもそう変わらないので仕方がないと諦めた。

 

 そもそもからして、ギルドがどの程度で同じほどのポーションを欲するのかはわからないが、また売れば本当にさしてきになる額ではないなというのが結論であった。

 また、ウェイトリーは今が現実であるということを十分に理解も実感もしてはいるが、それと同じくらいに非現実的な、ゲームのような感覚もあるせいか、いまいち現地通貨に実感が持てないでいる部分も財布のひもの緩さに繋がっているのは否めなかった。

 もしもこの『ドラグ』という単位が『円』だの『ドル』だのだったのならそれは違ったかもしれないが。

 

 とはいえ。

 この街に来てからまだ五日。

 宿の宿泊料金はあと二日ほど残っているし、借りた家はしっかりとした清掃も必要であれば家具を買う必要もある。

 借りた家へと移るにはもろもろの準備を済ませて三日後に移ることになった。

 

 これから二日ほどウェイトリーは、マリーに各種家具を扱う店から食器や調理器具など、新居に入れるものを買うためにあちこちへと引きずられるように連れまわされるのであった。

 

 

 そして来る三日後。

 朝から一週間世話になった宿を掃除してから引き払い、二人は新居の前に立っていた。

 

「私は中を掃除しますので、主さまは外をお願いします」

「草むしりくらいしかできんけど」

「それで構いませんよ」

「レイブンレイスに周囲の監視を頼んでゾンスケ呼んでさっさと終わらせるか」

「新しい曰く付き物件の誕生ですね。それなら家庭菜園ができる程度に整えてくださいよ」

「うなれ俺の薬草栽培レベル二」

「活躍するのは土木工事スキルの方だと思いますがね」


 そう言ってマリーは家の鍵を開け中へと入った。

 ウェイトリーは周辺のレイブンレイスに偵察を指示して人通りがないのを確認した後にゾンビとスケルトンを二体ずつ呼び出し、草むしりを指示した。

 続けて、山の採取採掘パックの中にあった『質のいいスコップ』を発動し、草を集める場所として穴を掘った。後でここでまとめて燃やし、それを家庭菜園として使う場所に混ぜ戻すつもりだった。

 

 こじんまりとした庭の敷地を大人換算で五人にもなる人力でこなせば、あっという間に草は駆逐され、ウェイトリーの掘った穴へとどんどん放り込まれた。

 ついでにと家に張った蔦の撤去も行うためソーサラーレイスも呼び出し、作業にあたらせた。

 

 概ね燃やせるような草は集め終わり、穴の中にこんもりと名も知らぬ雑草が埋まり、ソーサラーレイスがそれを静かに焼き払った。

 

 最後に、端末にて複製したスコップをゾンビとスケルトンに持たせてウェイトリーの指示のもと家庭菜園に使える場所をこれでもかと掘り返し、固い土塊を砕き、大小様々な石も取り払った。

 そこに焼いた雑草の灰を土に混ぜ戻し、硬くならない程度になだらかに整えた。

 

 時間にしておよそ二時間ほど。

 疲労しないアンデッドのマンパワーは伊達ではなかった。

 幽霊のカラスが周囲を監視し、レイスが家の周りを飛び、アンデッドの集団がスコップを持って地面を掘り返している様は、比較的に地獄寄りなアットホームイズデッドな光景ではあったが。

 

「庭いい感じですね。いくらか薬草類とハーブでも植えましょう」

「中終わったのか?」

「はい。家具の設置お願いします」

「あいあい」


 スケルトン一体以外はカードへと戻し、家の中へと入る。

 マリーの指示に従い買いそろえた家具をカードから出して、スケルトンと協力して家具を配置していけば、それほど時間はかからず全ての作業が完了した。

 

 ウェイトリーは買ったばかりのソファーにどかりと腰を下ろしつつ、最後の協力者であったスケルトンをねぎらいつつカードへと戻してデッキポーチへとしまった。

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