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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
2章 異世界情緒金稼ぎ
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021 おいしいお仕事(生ごみ)

 ほどほどにいい時間になるまでゆっくりとした昼食を済ませ、二人は冒険者ギルドへとやってきた。

 フードこそかぶっていなかったが、前日と比べどれほど気づく人間がいるかを確かめるためほどほどに気配を薄くした状態でロビーへと入ったのだが、やはり視線が向いたり気配を向けられたりすることはなかった。

 隠密を使っているのが原因といえばそうなのだが、そもそも誰が入ってきても誰も気にしないのではないかという仮説もウェイトリーは考えていた。

 つまり自意識過剰だったのではないか、と。


 それを確かめるのはまた後日だなと受付前まで行く頃に隠密を完全に解いて、昨日と同じ位置に座っているエリナ職員へと声をかける。

 声を掛けられたエリナ職員は、またしても驚いたような反応をするが、前日ほどではなかった。


「ようこそ、ウェイトリーさん、マリナウェルさん」

「どうも」

「こんにちはエリナさん。あの、よろしければマリーとお呼びください。長いので」

「そうですか? では今後そうさせていただきます、マリーさん。本日は、予定していた廃棄物処理の依頼からでよろしいですか?」

「もう昼飯も食べてきたのでそれからで」

「かしこまりました。では少々お待ちください」


 前日と同じく、受付側から出てきたエリナ職員の先導に従って解体場の方へと足を運ぶ。

 今日はまばらにしかいない解体場の職員たちにエリナ職員は処理案件の話をし、さらに奥へと進んでいく。

 解体場の奥にある扉を潜り短い通路を進めば、冒険者ギルドの裏手の庭のような場所であった。

 そこには大きな扉がついた倉庫のようなものが二つと、大型かつ重厚な焼却炉が備え付けられている場所であった。

 その倉庫の前までやってくると、エリナ職員は振り返り、説明を始める。


「ではご説明させていただきます。こちらの二番倉庫が主に廃棄する骨や肉などの生ごみや廃棄物が集められている倉庫です。普段はここにある程度集めた後に、魔道焼却炉で職員が焼却しています」

「人気なさそう」

「そうですね。主に解体場の職員がやっていますが、集められた生ごみを運び出すのも重労働ですし、やはり生ごみの処理には嫌悪感がありますからね。

 魔道焼却炉に入れてさえしまえば、悪臭などもなく無害な灰へと変えてしまえますが、その灰のかき出した後にそれを領都指定の廃棄場所へと運ぶ必要があるので、やはり重労働です。

 解体科に配属された新人が業務の辛さにげっそりとするのは、おそらくどこのギルドでも同じかと思われます」

「冒険者ギルドで魔物素材の買い取りをやっている以上避けては通れないっすよね」

「そうですね。では今回の依頼を説明します。

 等級は八等級、報酬は最低額が一万ドラグで、最大で三万ドラグとなります。これは倉庫の中にある生ごみをどの程度処理するかで報酬が決まります。

 目安で言いますと、倉庫内の八割以上処理いただければ最大報酬額とさせていただき、最低が五割程度とさせていただきます。よろしいですか?」

「かまいませんが、報酬が多いように感じるんですけど。まぁ多いのに越したことはないといえばないんですけど」


 ウェイトリーがこう感じる根拠としては、単独で六等級の討伐対象であるブリッツムースの値段の相場が三万ドラグ前後なので八等級で同じくらいの値段なのはどうなのかと思った次第である。売値と依頼報酬という違いはあるが、市場で見回った相場観でいってもなかなかの高報酬に思えたのだ。


「そうですね。八等級の依頼報酬としては大きい額になりますが、倉庫一杯の生ごみを焼却するのに使う魔石がおよそ六万ドラグほどで、そこに解体場職員の作業時間、人件費ですね、この辺りを加味すればギルドとしては随分と助かる、といった事情ですね。

 さらに言えば、昨日見せていただいたのと同じように生ごみの処理が行われるのであれば、時間は短く済むうえに職員が運び出して処理するよりも格段に綺麗に処理できると考えて、この報酬額となっています」

「納得しました。倉庫は二つですか?」

「いえ、こちらの二番倉庫のみです。一番倉庫は生もの以外のごみなので今回の件では無関係ですね。ではお願いしてよろしいですか?」

「さらえるでけさらってみます」


 エリナ職員が鉄の扉をガラガラと引けば、中からはずいぶんとひんやりとした風が流れてくる。生ごみ用の倉庫というだけあって、腐ったり傷んだりしないように冷却用の魔道具が使われているようだ。

 

 ウェイトリーはちらりと中を伺ってみれば、控えめに言ってスプラッターハウスだった。

 倉庫一面に骨や内臓、肉片、それから魔物の手足に生首などが奥は約一メートル半ほどの高さから山となって入り口の少し前までなだらかな傾斜を作っていた。

 冷却魔道具のおかげか腐臭こそ感じないがむせかえるほどの血生臭さが濃縮されて充満している。

 ウェイトリーはゲームの職業柄、グロ耐性はぼちぼちある方ではあるが、心底昼飯を先に食べておいたよかったと心から思った。


 心の平穏の為にもさっさと回収してしまおうと端末をかざし、回収機能を発動させれば、臓物と肉片の丘陵は瞬く間に黒い光の粒子へと還元され、古くこびりつき沁みになった跡と生ごみが詰められていたずた袋や木箱を除き、血の一滴まで全て綺麗に消えてなくなった。


 唖然とするエリナ職員をよそに、端末に目をやったウェイトリーはそこに表示されていた数値に、グロさとかエグさとかどうでもよくなるほど膨大な数値が表示されていた。

 今回の一回で得たポイントは『57,246DP』であった。

 

「うますぎて笑う」

「どれくらいでしたか?」

「五万七千弱」

「それは笑いますね」

「あー、あの、えー、はい。そうですね。依頼は無事満額とさせていただきます」

「なんかこれでお金もらうのはこっちが申し訳ないので掃除とかもしますね」

「あー、そうですね。そう……、あいえ、必要ありませんよ? そもそも、多分普段よりも綺麗になってますし……」

「『クリーニング』と『ピュリファイド』が使えるんでやっときますよ」

「そうですか? では、そうですね。せっかくなのでお願いします」


 許可をもらいつつ、あまりにも得しかないウマすぎる罪悪感を紛らわせるためと生活魔法の練習がてら倉庫の掃除を始めたウェイトリー。

 倉庫の端から四角く丁寧に『クリーニング』と『ピュリファイド』を掛けること約十分。

 匠も驚くほどのビフォーアフターでスプラッターハウスは新築と見まがうほどの美しさを取り戻していた。

 においもすっきりして、あのむせかえるほどの血生臭さはすっかりと消え去っていた。


「大変丁寧な仕事をありがとうございます。報酬の増額はありませんが、ギルド評価の方に加点させていただきます」

「あぁお構いなく。大変美味しゅうございました。これなら毎日でも食べたいくらいです」

「食べ……?」

「デッドマスタージョークです。もちろん食べてません」

「それを聞いて安心したような、しないような……。あまり心臓によろしくないのでデッドマスタージョークですか? 控えていただけると助かります」

「すいません」

「そういうところが終わってるところですよ」

「マジで気を付けよう……」


 依頼の完了を確認したエリナ職員の先導の元、受付前まで戻ってきたウェイトリーは報酬を受け取った。


「概ね同じ内容の依頼がおそらく一週間から二週間程度でまたあると思いますので、よければまたお受けください」

「ぜひぜひ」

「今日はこれからどうされますか? いまからでもできそうな適正等級依頼を探すこともできますが」

「あぁいや、今日はちょっと資料室を見せてもらおうかと」

「資料室ですか。冒険者であれば自由に利用できるのでもちろんかまいませんが、なにか調べたいことがあるのですか?

 すぐに答えられることであればお答えしますが」

「それが知りたいことは山ほどやるんですよ」

「山ほど、ですか?」

「私達はここからずいぶん離れたところから大森林を経由して来たので、いろいろと常識と違うことが多いんですよ。

 ポーションの材料になる薬草なんかも市場を見て回った限りでは同じでしたが、なんという薬草なのかもわかってないですし」

「下級ポーションの主な材料になる薬草はヒナ草ですね。概ね薬草としか呼ばれませんが」

「私の暮らしていた場所では同じ薬草が治癒草という名前でした。これまた同じく薬草としか呼ばれてませんでしたが。

 そういった常識の違いとかこちらでしか使われていない薬草類の違いとかを調べておきたいんですよ」

「あとはそういうのが採取できる周辺の情報とかそのあたりの魔物の情報とかそういうののもろもろっすね」

「なるほど。慎重で勉強熱心な姿勢はギルドとしても大変助かります」

「そんなもんですか?」

「いろいろと説明する手間が省けるので」

「あぁそういう」

「時にエリナさん、メモに使う紙と筆記具はギルドで買えたりしますか?」

「併設されているギルドショップで買えますよ」

「ありがとうございます」


 エリナ職員にあいさつを済ませ、ギルドショップにて形の揃った白い植物紙と簡素なえんぴつを買い、ホール横の階段を上がった二階にある資料室へと入った。

 中には二段に分かれた本棚が四つあり、どこもほどほどに埋まっていった。

 

 内容をざっと確認してみたところ、採取物関係、魔物関係、戦闘技術やスキル関係、魔術関係、地理関係、冒険者による冒険記や覚書、少しばかりの王国の歴史や貴族に関するもの、それからこの世界の有名な話や童話のようなものなどといった感じであった。

 

 資料の豊富さで言えば、やはり採取と魔物関係が多く、次いで戦闘に関するもの、次が魔術と地理と冒険記が同じ程度、それ以外が少数といった具合で、総蔵書数は二百冊ほどであった。


「冒険者ギルドって感じのラインナップですね」

「つまり悪くないな」

「数はそれなりですね」

「今日明日で済みそうだ」

「主さま薬草関係は最後にしてください。私が先に読みますので」

「じゃあ俺は少ない分野の方から見ていくよ」


 そういうや、二人はそれぞれの棚に向かって本を取り出した。

 マリーは取り出した本を資料室中央にある机に並べ、紙と鉛筆を用意し、左手で本をめくりながら右手で自分の必要な情報を書き出していく。

 その速度は一ページ十秒ほどで、およそそこに書かれている内容を理解していた。素早い流し読みでも必要な情報をしっかり把握できるのはマリーの特技の一つである。

 対してウェイトリーは本棚の前に立ったまま、一ページ二、三秒といった速度でめくっていく。

 優れた流し読みの技術、というわけではなく、単に書かれていることをほぼ全て覚えているだけで、この時点ではほとんどなにも理解はしていない。

 言うなれば本の見開きの写真を取っていっているようなものなのである。なので後でぼんやり考えながら思い出し読みをするのだ。


 どちらにしてもまともな読書とはいえないが、結果的に多くの資料を素早く読み解くことができるのである。

 マリーは学院時代に魔術書を読み解くのを効率的に行うことを突き詰めた結果できるようになった後天的な技術であり、今なお成長していると行ってもいい技術で、ウェイトリーはこの空間認識・記憶能力というリアルスキルのおかげで就職したし、学術系スキルのスキル上げもおよそこれでこなしていた。


 また、マリーにしてもウェイトリーにしても読書をすることに特に苦痛やストレスなどがないので、平気で数時間、半日程度なら読み続ける。


 そんな二人の前には二百冊程度の資料では数日だって持ちはしないだろう。

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