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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
2章 異世界情緒金稼ぎ
19/337

019 喫茶店での話

 冒険者ギルドを後にし、中央の大通りへと戻り、街の中心の方へと何となく歩を進めたウェイトリーを、腕を引かれながら連れられていたマリーが声をかけた。

 

「主さま、お腹空きませんか」

「まぁそれなりに。晩まで待てないほどじゃないけど」

「なんか軽食が取れるカフェみたいなところに入りましょう」

「あるのか? そんな店。妙に近代的な部分が多くて驚いてるけども、そういう店はなんかお金持ちとかしかいかないんじゃないか?」

「それなりにお金はあるじゃないですか」

「それなら屋台でいいでしょ」

「じゃあ屋台広場というのがあるらしいのでそこに行ってみましょう!」


 そういうや、並んで歩き出すマリーに案内に従い、大通りを真っすぐ進み、四番通りと書かれた看板を曲がり通りに入る。

 

 そこは主に飲食店や食料品関連の店が軒を連ねているようで、昼時を過ぎ三時ごろの現在でも食欲を刺激する匂いがあちらこちらから感じられる通りであった。

 通りを進めばエリナ職員が勧め、名前を挙げた店名を掲げた店を見かけるが、現在は準備中のようであった。

 

 屋台広場はその通りの中ほどにあるようで、そこへ向かって歩いていたが、途中、軽食と飲み物を出す喫茶店のようなものを見かけて、マリーに引かれるままその店に入ることとなった。


 店員の案内に従い席に着き、渡されたメニューに目を通せば、サンドイッチやホットドッグに類似する軽食に各種フレッシュハーブティーと少々の酒類、それから他と比べれば少々お高めで紅茶なども置かれていた。

 ホットドッグとサンドイッチ、それからあえて見知らぬ名前のハーブを使ったフレッシュハーブティーを注文して、数分。それほど待つこともなくそれらは届けられた。

 ホットドッグを頼んだウェイトリーはそれにかぶりつき、久々に食べるパンとソーセージとソースの味に舌鼓を打ちつつ、ハーブティーを一口飲めば、森で飲んでいた評価五点のお茶よりもスッキリとした飲み口で、濃い目のホットドックの味をリセットできるいい組み合わせで大変満足感があった。

 だが、どういうわけか、評価五点のあのお茶は青臭さが残念極まるが、味は悪くなかったのだというのをハーブティーを飲むことで知ってしまったという事実もあった。


 ウェイトリーとしてはなかなか感慨深いな、と感じていたが、マリーは特に何とも思っていないようにサンドイッチを頬張り、ハーブティーで喉を潤していた。


「悪くないですね。お値段もいい感じですし、機会があればまた来てもいいかもしれません」

「上からじゃない?」

「同じ材料を使えば私の方がおいしく作りますよ」

「悲しいかな、それは今しがた納得していたところだ」

「なら悲しくはないじゃないですか」

「青臭くないのにしてほしいもんだ」

「あれは青臭さを抜く工程をやってませんからね。いくらか足りない材料ものありましたし、手鍋一つで作るには限界がありますからね。味だけはよかったでしょう?」

「まぁね」

「それに、あの青臭さも目覚ましには悪くはないんですよ」

「わからんでもない」


 プラスも大きいがマイナスも際立つお茶を思いながら飲むスッキリとしたフレッシュハーブティーは、ことさらおいしいとは言えなくとも、料理との相性を考えたらきっとこれがベストなんだろうなとウェイトリーはしみじみと思った。

 

 お茶の話はこのあたりにして、ギルドであったことを話そうとウェイトリーは口を開いた。


「そういえば、一つよかったなって思ったことがある」

「なんですか?」

「重さが『キロ』で通じたこと」

「ギルドでいろいろありましたけど、言うに事欠いてそれですか」

「大事でしょ」

「『キロポンド』か『キロガロン』もしれませんよ」

「……確かに『キロ』としか言ってなかったけど急にそんな単位出されたら運営にクレームを送ろう」

「運営はほとんどしてないんじゃないですか? 管理人らしいですし」

「よし。この後市場を見にいこう。それでハッキリするはずだ」

「怖いもの見たさですね」

「やめなよ」


 実を言えば、ウェイトリーはシカの重さを百二、三十キロ『グラム』として認識しているが、エリナ職員が食肉調達依頼で提示した重さと相違が無いということで、なんと呼称されているかはともかく実際の重さは『グラム』で大きな違いは無いということはわかっていたりはする。

 いつも以上の真顔になるウェイトリーに今度はマリーが話始める。


「それより主さま、いろいろ決めちゃいましょう。今晩の宿とご飯を」

「パンフレットにはなにが書いてあったの?」

「お店の位置と大体のお値段が書いてありましたよ」


 テーブルに広げておかれたパンフレットには宿の場所、特徴と料金、各種サービスが五段階評価で書かれていた。朝夕の食事の有無や風呂の有無や湯のサービス、厩の有無等々、そして清潔さや料理の味、寝具や部屋の具合などが何点っといった具合だ。

 内容を見たウェイトリーは、このパンフレットと印刷はどうやってんだろ、あぁでもタブレットみたいな端末使ったりしてたし複製だか印刷だかの魔道具とかあるんだろうなぁ、っていうかものすげぇ旅行のガイドブックみてぇ、と微妙に混乱していた。

 その冒険者ギルド公認ガイドブックによると、エリナ職員のおすすめした宿は、中級冒険者向け向けの宿であるらしく、『木漏れ日の庭亭』が一人一部屋一泊三千五百ドラグで二週間単位での契約なら一泊三千二百ドラグで、『雨宿りの小路亭』の方は部屋ごとに値段が違い、場合によっては人数不問で一番小さい二人部屋で一泊五千五百ドラグで一週間単位での契約で一泊五千ドラグになるらしい。

 特徴やサービス、評価などはどちらもそれほど違いはない。値段からしても適切で、エリナ職員のチョイスが光っていると言えた。

 

 一通り内容を確認したウェイトリーは、うん、どっちでもいいな、と思っていた。


「宿はマリーさんの好みで決めていいよ」

「興味なさそうですね」

「まぁどっちにしたって野宿よりはマシでしょ。何か月とか何年住む家を借りるわけでもあるまいし、泊まってみて微妙なら変えればいいし」

「この二つの中ならこちらかなと思う方はあります」

「金の範囲内で無理がなければもうちょい上のランクでもいいよ」

「いえ、エリナさんのおすすめもありますし、『雨宿りの小路亭』に一度行ってみましょう」

「それって二人部屋になりそうだけど、マリーさんはいいの? その辺」

「いまさらですね。別にかまいませんよ。まぁ主さま相手なら最悪襲われてもいいですし」

「最悪ならやめようよ」

「これでも心の底から信用してるので本当に気にしませんよ。まーーー主さまの方にぃ? 一人部屋がいい理由があるなら別ですがーーー?」

「そういう気遣いはしなくても結構です」

「ホントですか~?」

「イラり」


 残りのホットドッグを食べながらニヤニヤと笑うマリーを適当にあしらいながら、ウェイトリーは話題を変えた。

 

「まぁ宿はそれでいいとして、晩飯はいろいろありそうな方でいいか?」

「そうですね。シカ肉メイン生活が長いですからね。森から出て魚ともご無沙汰ですし」

「んじゃ晩飯は『豊穣の食卓』で。他は、今後の方針とか冒険者活動とかか?」

「主さま、スターターセットに初級錬金術セットってありましたよね?」

「あるな。一万五千CP。今なら余裕で手が届くな」

「主さまが錬金術できる人で良かったです。一からそろえるのは結構大変ですし」

「あぁやっぱりこのラインナップって俺のスキルに関係してるんだ?」

「ですです」

「ぶっちゃけスターターはコンプしてもいいかもしれんとは思ってはいる」

「全部買うとどれくらいで済むんですか?」

「えーと……」


 端末を取り出し、改めて確認しながら値段を計算する。

 スターターセット内容は以下のようになっている。


――――――――――――――――――――――――――

 サバイバルパック 9000CP

 初級ツールセットパック 12000CP

 森の採取伐採パック 20000CP

 山の採取採掘パック 20000CP

 初級錬金術パック 15000CP

 簡易木工パック 8000CP

 生活魔法パック1 15000CP

 生活魔法パック2 20000CP

――――――――――――――――――――――――――


 すでに購入済みであるサバイバルパックを除いて十万二千八百CPとなる。

 一ドラグ一CPなので百三十万近くある現状なら簡単に全てコンプリート出来る範疇であった。


「十万ちょいだな」

「それなら買えばいいんじゃないですか? 生産系がメインとはいえカードはいくらあってもいいはずですし、種類がそのまま力になるわけですし」

「じゃあ買おう。俺のデッキフリークラスばっかりになっちゃうなこれ」

「デッキに入れなくてもいいじゃないですか」

「カード枠に空きがあるとなんか落ち着かないっていうEWOあるある」

「そういえば思ったんですけど、今の主さまならカードを使わなくとも生活魔法くらい覚えられるんじゃないですか?」

「えマジ?」

「ウェイトリー化の弊害で可能なんじゃないですか?」

「だから害って言わないでよ。でもやり方なんてまるで分らんぞ」

「できるかどうかはわかりませんが練習してみてはいかがですか?」

「まぁアリだなぁ。時間があればやってみるかぁ」

「まー主さまの魔力量で下手に生活魔法使ったら大爆発するかもしれませんけどね。

 普通そんな運用可能魔力量があるときに覚える魔術じゃありませんし。

 MP基準の消費量で言えば、コンマ一とか二ですよ」

「よしやめよう」

「練習するときは街の外の離れた場所でお願いしますね」

「いやじゃ! 自爆なんぞしとうない!」

「真っ黒こげのアフロヘア―になりながら煙を吐くシーンを期待してますね」

「そんなレトロコメディな感じになるわけないだろ」

「真面目な話をするなら手元で大爆発しても多分魔法防御力の高さで普通に無事だと思いますよ。

 二、三百ダメージ程度は受けるかもしれませんが、せいぜいが傷が残らない程度の火傷でしょう」

「普通に怖いんだけどそれ」

「まーカードを使えば問題なく使えるんですからそれでいいと思いますよ。符術師斯く在るべしです」


 言われたことにウェイトリーは、全くその通りだな、と頷きながら、金貨を一枚端末機能で回収する。シカの回収で稼いだ分と合わせれば十分足りる金額になったので、スターターセットにあるパックを片っ端から買っていく。

 今回購入したカードは以下の通りである。


――――――――――――――――――――――――――

 初級ツールセットパック 12000CP

 UC Pe ロックピックセット

 UC Pe ワイヤーカッター

 UC Pe 棒やすり

 R Pe カッティングナイフ

 R Pe ツールベルト

 SR Is クリアリングセンス

 SR Is 簡易解錠

 C etc銅ワイヤー 10m

 C etcテグス 5m ×2

 C etcロープ 5m ×2


 森の採取伐採パック 20000CP

 R Pe 質のいい手斧

 R Pe 質のいいノコギリ

 SR Pe 採取品質向上手袋

 SR Pe 森の採取カゴ

 SR Pe 最高品質木こり斧

 SR Is 簡易錬成:草木乾燥


 山の採取採掘パック 20000CP

 R Pe 質のいい金づち

 R Pe 質のいいスコップ

 SR Pe 鉱物透視ゴーグル

 SR Pe 山の採取ボックス

 SR Pe 最高品質ツルハシ

 SR Is 簡易錬成:鉱物抽出


 初級錬金術パック 15000CP

 UC etcフラスコセット

 UC etc試験管セット

 UC etc薬研

 UC etcすり鉢とすりこ木

 R etc加熱版

 SR etc初級錬成盤

 SR etc錬金鍋大

 SR Fs 簡易工房

 UC etcポーション瓶10本 ×10


 簡易木工パック 8000CP

 R Pe 質のいい小型ノコギリ

 R Pe 質のいい小刀

 R Pe 質のいい彫刻刀

 R Pe 質のいい荒目やすり

 R Pe 質のいい中荒目やすり

 R Pe 質のいい仕上げやすり


 生活魔法パック1 15000CP

 C etc生活魔法 マッチファイア

 UC etc生活魔法 ボイルウォーター

 C etc生活魔法 クリエウォーター

 UC etc生活魔法 クリエアイス

 C etc生活魔法 ブリーズブロウ

 UC etc生活魔法 ウォームブロウ

 C etc生活魔法 クリエブロック

 UC etc生活魔法 シャープニング


 生活魔法パック2 20000CP

 UC etc生活魔法 フロートライト

 UC etc生活魔法 ブラインドカーテン

 R etc生活魔法 キネシス

 UC etc生活魔法 ファストエイド

 UC etc生活魔法 クリーニング

 R etc生活魔法 ピュリファイド

――――――――――――――――――――――――――


 パック開封を済ませカードリストへと格納していく。

 ほとんどが生産関係のプレイアブルイクイップメント(Pe)カテゴリなのだがいくらかインスタントスペル(Is)カテゴリのもがありそれらはまとめてカード化してメインデッキへと入れた。


 同じように生活魔法もデッキに組み込んでおこうと確認したところ、ゲームとは違う仕様であることに気づく。EWOではインスタントスペルカテゴリであった生活魔法がその他(etc)カテゴリになっていた。

 内容を確認して見れば『特殊パッシブスペル』という種類のカードで、この種類のカードはデッキに入れずともカードリストに保持していれば魔法名を詠唱することで発動させることができるようになっているようであり、基本的には画一的な効果であるはずのカード効果は、対象魔法の使用強度を任意で変更し、MP一から十の間での任意消費になるようだ。

 具体的には、水の生活魔法の『クリエウォーター』ならコップ一杯からバケツ五杯程度まで、火の生活魔法である『マッチファイア』はそれこそマッチ位の火からキャンプなどで使われるガスバーナー程度の火まで自由に変更できるようになっているというわけだ。

 だがあくまで生活魔法。画一的な効果から少し離れたとは言っても、膨大な魔力を費やして洪水を起こしたり、あたり一面焼け野原にしたりはできない。

 また、カードの中には火と水の複合生活魔法である『ボイルウォーター』などがあるが、水と土を組み合わせたオリジナル生活魔法を作ったりもできない。

 あくま所持しているカードの決められた範囲内での使用に限定されるようであった。


「えーっと……。『クリーニング』」


 ウェイトリーはしばし内容を確認したのち、自分が飲み終わったハーブティーのカップに向けてカップの汚れをきれいにするイメージで『クリーニング』を使用した。

 すると、カップにほんの少し残っていたハーブティーの残りや、口をつけた跡、持ち手の指紋などがきれいさっぱり消え去った。

 一度使ったことで使用感をつかみ、取りたい汚れのイメージなどを固めればもう少し応用が利きそうなことも分かった。

 

「ちょー便利じゃん」

「日本に帰ったら現代チート生活ができますね」

「帰れるとは思わんし、帰るのも違うと思うけどね」

「帰りたいとは思わないんですか?」

「思うよ。でもそれはなんというか違うと思うし、今の自分を否定することになりそうだな。『命に始まり死に終わり』だ。

 それに死ぬ結果になったわけだけど、死ぬことになったことを後悔しているわけじゃないから、これでいいんだと思うよ。

 そもそも今は生きてるわけだし、それを喜ばなきゃバチが当たるってなもんだ」

「デッドマスターらしいですね」

「まぁただのやせ我慢だよ。ホームシックを覚えないわけじゃないし、家族の顔を思い出さないわけでもない」

「愚かな質問でしたね。申し訳ありません」


 マリーは目を伏せ、小さく頭を下げた。

 それを見て、ウェイトリーは苦笑しながら首を振った。


「いいさ。俺は自分の意志で死ぬようなことになって、神野さんの計らいとはいえデッドマスターとして生きることを選んだ。やっぱりそこにも後悔はないよ。

 そういうマリーさんもエルダリアから日本に行って、さらにこっちに来ることになったわけだけど、俺が付き合わせちゃったんじゃないか? だとすればそっちの方が申し訳ないんだけども」

「いえ。私は自分から神野さんにお願いしましたから」

「そもそもどういういきさつだったわけ?」

「私の主さまが九割三分ほど死にそうになってると教えられて、場合によっては私の魂の、AIですね、その複製体を主さまと共に異世界へ行かせたいとお願いされたんですよ」

「複製体? まぁそりゃ複製体だよな。元々のマリーさんはまだ墓守をやってるわけだ」

「いえお断りしました」

「んん?」

「だからお願いしたんですよ。私本人が主さまと共に行くのでどうせ複製体を作るならエルダリア(こっち)に複製体を残してください、と」

「あ、あぁ、そうなんだ。どうしてまた」

「私はこちらに来た時にも言いましたよ。『またこうして主さまとともに冒険できることを嬉しく思っています』と」

「もう好きじゃん俺のこと」

「それはもう。惚れた腫れたでベタ惚れですよ」

「照れるぜ」

「まー恋愛対象としてはまぁまぁ終わってるので、とてもそういう目では見れませんが」

「おわっ……。そんなに終わってるの俺?」

「私からすればですが、まぁまぁ終わってますね」

「あの、二回も言わないで。普通にショックだから」

「安心してください。主さまは恋愛対象としてはまぁまぁ終わっていても、信頼と尊敬の度合で言えば比喩でもなんでもなく世界を超えるほどですから」

「言わないでって言った! ……はぁー。ちなみにどういうところがダメなんでしょうか」

「ほぼ真顔、小ボケが多い、シスコン、それから一般的にネクロマンサーはモテません、あとは―――」

「やめてやめてやめてやめてやめて」

「はい」

「あのさぁ! 手加減とかさぁ! オブラートに包むとかさぁ! あるじゃん!?」

「はぁ……?」

「なんで腑に落ちてない風かなぁ!?」

「そんなことより、そろそろ宿の方に行きましょう」

「そ、そんなこと!?」

「ほら行きますよ主さま」


 項垂れるウェイトリーの腕を引きつつ、店で会計を済ませ、マリーは『雨宿りの小路亭』へと歩き出した。

 宿の位置は今いる場所から大通りを挟んで向かい側あたり、二人が入ってきた門から続く東西に貫く大通りの北側の四番通りにあるようだ。

 

 余談だが、この時の引きずられていくウェイトリーの顔はいつもの真顔ではなくハニワのようであったと記しておく。

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