120 別れの朝に再会を誓って
三日後、朝。
ウェイトリーとマリーは、昨日の内に必要最低限を除くおおよそほとんどの家具をカードへと収納し借りていた家の清掃を終わらせた。
と言っても優秀なホームキーパー系ポルターガイストであるメアリーが毎日綺麗に掃除してくれているので、汚れが目立つような場所もほとんどなく、手癖でクリーニングとピュリファイドをかけて回った程度であった。
レドア最後の朝食を済ませ、残っていたベッドやテーブルなどの必要最低限の家具も全て収納し、半年間過ごした貸家はがらんどうに戻った。
ウェイトリーは少しばかりの哀愁を感じつつも、気にすることなく扉を閉めて、カギをかけた。
「最近、住宅需要も高まっているみたいですし、もし次にレドアに来たとしてもここは埋まってるかもしれませんね」
「かもな。次にレドアで長期滞在することになったら家探しは苦労するかもしれないな」
レドア、というよりもベンゲル辺境伯領は発展している領地である。農作物の生産が盛んで、畜産も行われている。鉱物資源なども、産業と言えるほどではないが多く流通しているし、領内には相応に大きな街がいくつもある。
しかし、それほど人気があるという領地ではない。
というのも、それは当然の話で、まず最初に国の中では中央から最も遠い辺境であること。
そして産業の大きな部分でもある魔物素材の流通、すなわちノアルファール大森林からの魔物を迎え撃つ危険地域だからである。
だが昨今、とある噂話がベンゲル辺境伯領が属するアストルード王国内で持ちきりであった。
それは『辺境伯領にて巨大な竜が討伐された』というものである。
ベンゲル辺境伯は協力はしたが自身の家が旗を振って討伐したのではなく、流れの凄腕冒険者が討伐に尽力してくれたおかげである、と正しく情報を各所に伝えているが、それでも巨大地竜の素材などの流通をベンゲル辺境伯家が取り仕切っている以上、実際はベンゲル辺境伯家の手柄と見る向きもあるのだという。
それによりベンゲル辺境伯家の名声は今まで以上に高まり、たとえ危険地帯であっても、かの巨大地竜を倒せるだけの力がある領地ならば、と人が集まっている状態なのだ。
もともと辺境伯領は盗賊や野盗の類が極端に少なく、魔物の被害はあるが商人の行き来は活発な地域である。それが情報の拡散に大きく力を買っていたようであった。
そんなこんなで、現在は住宅需要が高まっているというわけであった。
特にウェイトリー達が借りていた物件は冒険者ギルド所有のもので、冒険者からすればレドアはある意味憧れの場所でもあるらしい。
なにせ魔物が強いから、そこで活動できる冒険者も相応に強いということで。
「ま、もし次来るようなことがあっても、適当に何とかなるだろ」
「世の中お金さえあれば大概のことは何とかなりますしね」
「ここに来た時と比べればだいぶ金を持ってるからな。どうとでもなるさ」
「主さまがガチャで爆死でもしていなければですね」
「爆死しようにも新規取得に制限があるからしようがないんだよなぁ」
「次引けるようになったらまた大岩何枚出るかで賭けましょうね」
「やだよ、縁起でもない」
そんな会話をしつつ、半年間世話になった家を後にし、二人は冒険者ギルドへと向かった。
いつもよりもやや早い時間。依頼争奪戦の終盤あたりといった頃か。
ウェイトリーとマリーは久々に見たその光景に、世界から争いが消える日は永遠にないのかもしれないな、と馬鹿げた想像に浸っていた。
「結局お前らは一度もこれに参加せずか?」
「ひ弱な薬草拾いがあの中に入ったら一瞬でぺちゃんこっすよ」
「あれに突撃するくらいなら家にこもって一生ポーションを作ってます」
「お前のどこがひ弱なんだよ符術師。それから嬢ちゃんもポーションの相場を破壊するのはやめろ」
二人してやれやれと肩を竦めるのを頭が痛そうな感じで苦言を呈するグラッツギルドマスター。
「王都では大暴れすんじゃねぇぞ」
「しないっすよ。何を大暴れと定義するかにもよりますけど」
「まァ、別に俺の管轄じゃねぇからいいっちゃいいけどよ、下手すりゃしょっ引かれるからマジで気をつけろよお前ら」
「悪事を働くつもりはないっすよ」
「悪いことしてなくても、逮捕以外の理由でしょっ引かれることもあるぞ」
「よほど面倒そうならそんときゃ全力で逃げるんでご心配なく」
「……逃げるのも隠れるのも上手そうだよなぁお前。つか、そこでさっさと逃げるを選択できるのがお前のいいとこで面倒なところだ」
「褒められてると受け取っておきます」
「そう思って置け。じゃあな」
「お世話になりました、ギルマス」
「おう」
そういってグラッツギルドマスターは振り返ってロビーホール横の階段を上がっていった。
「じゃあしゃーないし並ぶか」
「ですね」
そうして争奪戦が終結し、手続きへと並ぶ冒険者たちの列の最後尾へと二人は並んだ。
しばらくして、二人の順番となり、受付の担当はもちろんエリナ職員であった。
「おはようございますウェイトリーさん、マリーさん」
「おはようございます」
「おはようございます、エリナさん。朝は相変わらずですね」
「そうですね。お二人が来たこと以外はいつも通りの朝です」
「これ、カギの返却をお願いします」
「承ります」
朝の挨拶を交わしつつ貸家のカギを返却して少しばかり話を続ける。
「お二人は、王都までは馬車ですか? それとも自前の手段で?」
「一応は馬車で途中まで。間に小規模が一か所あるんでそこへ寄ってから、残りは自前か馬車でって感じですね」
「そうですか。本当にたくさんあるんですね」
「この国は結構密度が高い方みたいですけど、まぁ概ねどこもこんな感じです。王都付近の大規模が片付けば、この国全域はスッキリ片付くはずです」
「なるほど。全てが終わるのが、いつになるのかはわかりませんが、またレドア支部に来ていただけるのをお待ちしております」
エリナ職員はそういってカウンターから小さく頭を下げた。
顔を上げたエリナ職員は、今思い出したといった風に口を開いた。
「そうでした。王都で、冒険者としての活動、特にダンジョン探索を主に行うのであれば、王都の冒険者ギルドにフミルカという私の直属だった後輩がいるはずなので、よければ頼ってみてください。
力になってくれるはずです」
「わかりました。何から何までお世話になりました」
「いえ、こちらこそ多くの不人気依頼をこなしていただきましたこと、感謝しております」
「それじゃぁ、俺らはこの辺で」
「エリナさんもお元気で」
「ありがとうございます。ウェイトリーさん、マリーさん、よい冒険を」
そんな挨拶を交わして、二人は冒険者ギルドを後にした。
去っていく二人の背中を、いつだったか二人がやってきた時と同じように、だが感謝の念を込めてエリナ職員は見えなくなるまで見送った。
領都北門。
王都方面行きの馬車乗り場にて、最後にウェイトリー達を待っていたのは、アーシアとリーネリア嬢であった。
その姿を見つけて、ウェイトリーはいつも通りに挨拶した。
「おはようさん」
「おはようですウェイトリーさん」「おはようございます。マリー先生もおはようございます」
「おはようございます、リーネちゃん、アーシアちゃん」
「見送りか?」
「そりゃ見送りくらい来ますよ!」
「お世話になりましたから、このくらいは当然です」
「律儀なこった」
ウェイトリーはやや苦笑気味に笑った。
「アーシアちゃんはアニスとうまくやれていますか?」
「それはもう! というか、今までポーションを作ってて大変だった瓶詰めとか整頓とかを手伝ってくれますし、いろんなことを教えてくれるからめっちゃ助かってます!
あの魔導書に書かれてる覚えることの量が多くて私だけだと絶対困ってましたよ」
「それなら私も頑張って魔導書を書いた甲斐もあります。これからも頑張ってくださいね。
リーネちゃんはどうですか?」
「アウラはすごいですね。私と契約したおかげで剣の技量が私と同じほどにあるようで、基礎の復習と練習に付き合ってくれています。
本筋である魔術の方も、今は少しずつですが、放出系の魔術を教わっています」
「剣の稽古までできるんですね……。それはちょっと予想外でした。物理的に干渉できるので可能なのも頷けますが」
「奇しくも懸念の一つが解消されたわけだな。まぁ新しい剣の技を覚えたりできるようではないだろうが」
「なんにしても二人がうまくやっているようでよかったです。これからもアーシアちゃんがアーシアちゃんらしく、リーネちゃんがリーネちゃんらしくあれるように頑張ってください」
「はい!」「はい」
「んじゃまぁ、そろそろ時間だし行くか」
「そうですね」
「あの、ウェイトリーさんもマリー先生もちょっとだけ待ってください!」
そう声をかけて、アーシアは自身の拡張バックパックを漁ってから、二つの白銀のチャームを取り出した。
片方は片羽を広げたカラスを象ったもので、もう片方は魔女帽子をかぶったネコの形をしていた。
カラスをウェイトリーに、ネコをマリーに渡しながらアーシアは話し始める。
「あの、まだウェイトリーさんみたいに全然すごいのは出来ませんでしたけど、リーネちゃんに手伝ってもらって、作りました」
「幽霊カラスさんと幽霊ネコさんがモデルになっています」
「ほーう」
ウェイトリーはそれをしげしげと眺めながら、何となく鑑定を掛けた。
それは総ミスリル製のチャームであり、『自動修復』こそついていないながらも難しいエンチャントである『不壊』と低い効果ながらも『幸運』が付与されたものであった。
同じく受け取ったチャームを眺めていたマリーもそれに気づいたようで、嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます。アーシアちゃんリーネちゃん。大切にします」
「ミスリル粘土、頑張ってたんだな。ありがたく受け取るよ」
「あの、次に会う時には、もっとすごくてかっこいいのを作れるようになってますから、だから……」
言葉に詰まり、瞳に涙をためるアーシアの頭にウェイトリーは優しく手を置いた。
「おう。期待してる。そん時は、俺のすごさが分かるような奴にしてくれ」
「……ウェイトリーさんのすごいところってどこですか?」
「しょうもないことしか言わないところ」
「全然すごいところじゃないじゃないですか」
「そう思うならアーシアが考えてくれ」
そんなことを言いつつアーシアの頭を二度ほどぽんぽんとしてから、手を降ろした。
「リーネも元気でな」
「はい。ウェイトリーさんもお元気で。次はきっとウェイトリーさんにも勝てるようになっておきます」
「いや、もうやらんから」
「ウェイトリーさん」
「やらんて」
「ウェイトリーさん」
「どうせならリグさんに勝てるように頑張ってくれ」
「それは……、かなり険しい道のりですね」
「リーネならそのうち届くさ」
ウェイトリーはリーネリア嬢に手を差し出して、リーネリア嬢はそれを握り握手を交わした。
しっかりと交わした握手から手を放して、受け取ったチャームをコートのポケットにしまった。
そうしているうちに、王都方面行きの馬車の発車時刻を告げる声が響いた。
「じゃ二人とも、またな」
「再開の日を楽しみにしています」
「はい! また!」
「きっとまたお会いしましょう」
ウェイトリーとマリーが乗り込んだ馬車は、それを持ってすぐに進みだし、領都から遠ざかっていく。
アーシアとリーネリア嬢は、その馬車が見えなくなるまで、ずっとその姿を見続けていた。
「いいところだったな。レドア」
受け取ったチャームを掲げて見ながら、ウェイトリーは呟いた。
「そうですね。またちゃんと戻って来たいものです」
「いつになるかはわからんけど、そうできるように俺らも頑張らねぇとな」
「生徒二人に後れを取るわけには行きませんからね」
「まったくだ」
しみじみというマリーにやれやれと頷き改めてチャームをしまいながら同意するウェイトリー。
二人を乗せた馬車は止まることなく進み、次の目的地を目指す。
デッドマスターはこの半年間に思いを馳せ、次なる場所での冒険に期待が募る。
目指すはこの国最大の都市である王都、そしてダンジョン。
そのお話は、また次の機会に。
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終了時点でのステータス (変動なし)
PLv:101
HP:3936 STR:226 MAG:786
MP:5454 VIT:251 AGI:522
SP:1009 INT:681 DEX:322
探索系
鑑定10 調査10 感知10 気配察知10 追跡10 遠見10 製図10 罠解除10 鍵開け8
植物採取10 伐採9 鉱物採取10 発掘10 解体10 神秘採取8 野営9 環境同化10
知識系
鑑識10 薬草学10 解体術10 解剖学9(10) 医学2 鉱物学10
魔生物学10 地質学8 考古学7(10) 人類学7 天文学6
宮廷儀礼5(7) 術式魔法学(EW)3 魔道力学(EW)2 精霊学1 冥府の戒律10
生産系
土木工事9 建築2 錬金術9 薬草栽培2 罠製作2 木工2 金属加工1 細工1
補助系
投擲10 剣術2 体術7 気配遮断10 行動予測10 水泳6
複合・発展系
オールレンジスキャン 弱点看破 (弱点特効) 天地一心
異世界スキル
異世界適応10 異世界言語理解5 資材カード化6 魔力視5 修復者の瞳10
クラス特性:死者への権限10 クラス特性:術理解明5
これで六章は終了です。
次回更新は約十日ほどお時間をいただき、24年9月9日/0時を予定しています。
そこから七章終了まで二日に一度の更新、9月の月跨ぎは30日なので滞りなく二日更新になります。
本作品での初めての拠点で二章から六章までという期間を過ごした場所からの別れとなる章でした。
レドアあたりの話は、大まかな話の流れは決めて何となくの日数経過で書いていたので、この章では若干日数刻みが少なめになって半年くらいと宣言させたにも関わらずこれ日数足りるんか? と作者としてはややペース配分を間違えたかもと思っていましたが、まぁーおそらくそんなおかしくもなってないんじゃないっすかね、たぶん!
個人的にも結構気に入ってるキャラが多い町なので、いずれまた訪れることを願うばかりです。
次章ではついにこの国の王都へと向かう話と王都でのもろもろの準備をするという話になります。
7月25日にもXでポストさせていただいたのですが、その日についに一万PVを達成し、三千ユニークアクセスという多くの人に本作を読んでいただけました。
五章のあとがきでも少し触れましたが、いまだに過疎生主、過疎配信者を続けている自分には、一万というのはなんとも大きな成果で、拙作を楽しんでいただけているという達成感に感動を覚えております。
日々ご愛読いただき、本当にありがとうございます。
これからも楽しんで読んでいただき、かつ評価やブックマーク等をいただけるよう、鋭意努力していきたいと思います。




