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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
6章 さらば領都レドア

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119 報酬の支払い

「集まっているようだな」


 そう声をかけ、頭を下げようと立ち上がろうとした面々を手で制しつつ、ベンゲル辺境伯もさっさとソファーへと腰を下ろした。

 

「かしこまった集まりというわけでもなし、今日は礼儀作法はそう気にしなくていい」


 未だに緊張があるアーシアはそう伝えられ少しばかりホッとしていた。

 

「まずは済ませるべきことから済ませていこう。ウェイトリー殿とマリー殿に渡すべきものからだな」


 ベンゲル辺境伯がそう告げると執事風の男性が布付きのトレーのようなものを二人の前に置いた。

 そこに乗せられていたのは、八枚の白金貨、八千万ドラグであった。

 

「内訳としては、巨大地竜の買取が契約に基づき五千万ドラグ。残りの三千万は討伐に対する当家からの礼だ」

「ありがたく頂戴いたします」

「此度の討伐、誠に大儀であった。我が領、我が国、並びに隣接する他国にも大きな被害が出かねない魔物を討伐した功績は計り知れない。

 本来ならば、国を挙げての礼を申し上げたいところではあるが、貴殿ら意向を汲み、当家からの礼だけで代えさせてもらう。

 本当にありがとう」


 そういってベンゲル辺境伯は深々と頭を下げ、それに習いリーネリア嬢と執事風の男性も深く頭を下げた。

 ウェイトリーは気にした風もなくそれを見つつ、口を開いた。

 

「我々の意を汲んでいただき、格別のご配慮を賜れたこと、大変喜ばしく思います。

 ベンゲル辺境伯家よりの礼、ウェイトリー、並びにマリナウェル、確かに受け取りました」


 そう返しつつ、ウェイトリーとマリーも頭を下げた。

 それを持って巨大地竜の件を終わりとして、次の話へと移った。

 

「うむ。では次は、リーネの教育依頼についての清算だな。随分と頑張ってくれたと報告を受けている」


 これに関しては、やや苦笑気味に言うベンゲル辺境伯にウェイトリーはやや困りつつも、内容を話した。

 

「私でお力になれたのは、危険地域の歩き方に関する基礎くらいであったと思います。剣術に関しては、伝手の騎士に力を借りることができましたので、そのおかげかと思います」

「あの手この手で仕掛けてくる厄介な暗殺者への対応もしっかり学ばせていただきましたよ?」

「あぁー、えー、そうでしたかね?」


 得も言われぬ圧力をかけてくるリーネリア嬢に内心ヒヤリとしつつ適当に流して話を続ける。

 

「剣術に関しては、こちらの主流となる剣術とは重きが異なる剣術ですので、どの程度通用するかはわかりませんが、防御を重視し、守ることを主とする剣術ですので、身を守るうえで重宝するだろう、と剣術の指南を行ったものより聞いております」

「その指南をしてくれたものというのは?」

「私の呼んだアンデッド達と、巨大地竜の首を切り落とした不死者ですね」

「あの……」

「リグレット先生のあの一太刀は、とても素晴らしかったです」


 父娘ともども、現在ギルドが所有する巨大地竜討伐時の映像で見た光景を思い出しながら感想を漏らした。


「私からお話することは以上で、魔法に関してはマリーから」

「引き継がせていただきます。

 今回、リーネちゃんにはそれぞれの属性である程度使えるようになりたいとの要望を受けたので、どれか一つを伸ばすのではなく、それぞれで一つ、遜色なく使えるようになることを目指しました」

 

 一度言葉を区切ってから、改めて口を開く。

 

「まず氷の魔術は、『凍結武装』という氷で武器や防具を作り、それを使い戦う魔術を教えました。

 これは、もう一つの要望である、前線へ出て戦いたいという意思を尊重してのことでした。

 成果としては十分で、現状では主に武器がほとんどですが、それらは全て威力も強度も問題なく戦闘で運用可能なレベルに達しています。

 防具に関しても、そう遠くないうちに使えるようになると思われます」

「報告を受けている。多様な武器種をその場で作り出して戦うことができると」

「対人はともかく、対魔物相手であれば、鋭い斬撃や貫通力のある刺突、重量のある打撃などを使い分けられることは非常に有用ですので、大森林を臨むこの地では都合がよいかと」


 氷魔術の話をそこまでにして続けて雷魔術へと移った。


「雷の魔術は、『電流探知』という索敵や感知に関する魔術を教え込みました。

 これは、範囲内の生物や、動くものを探知する魔術で、熟達するほどに効力を増す魔術です。

 現状は、相応の範囲での正確な探知と、何となく程度の相手の動きを理解できるようになってきた、あたりでしょう」

「そうですね。探知範囲は多分、四十から五十メートルほどではないかと思います。そこから探知範囲を対応している相手だけに絞れば、何となくどういう風に動くかがわかるという感じです」

「ありがとうリーネちゃん。といった具合のようです。

 対面しての一対一でも奇襲や乱戦時にも重宝するのでしっかりと教え込みました」

「なるほど」

「この『凍結武装』と『電流探知』はもともとの身体強化魔術との相性・相乗効果も考えて選ばせていただきました」

「ん? 思えばこれは、一度に三つの魔術を行使することになるのではないか?」

「そうとも言えますが、『凍結武装』は武装生成時に一番魔力を使い、身体強化と『電流探知』は常時発動ですが、外界に及ぼす効果が少ない分、消費魔力はかなり少ないですね」

「いや、そうではなく、そこまで同時に発動できるものなのか?」

「確かに難しいはずですが、どれも詠唱を必要としない魔術なので、慣れの範疇ですね。

 そもそも身体強化魔術に関しては息を吸うように行っているみたいですし、『凍結武装』も作るときに集中力を使う程度、気を遣う必要があるのは『電流探知』だけだと思います」

「そうなのかリーネ?」

「そうです。『電流探知』はまだまだ上達する必要があると思いますが、『凍結武装』はもうこの通りです」


 そう言いつつ、『凍結武装』に関してマリーが最初に教えた時に見せた、ミニチュア化させた様々武器の見本を掌の上で作り出した。

 当然、この時に魔術の詠唱などは行われなかった。

 

「原理的に言えば、ただ氷の塊を出すのとそう違いはないんです。なので氷属性の素養があるものからすれば、そう難しいことはないんです。

 火属性が得意な術師が、指先に火を灯すことに詠唱を行わないのと同じです」

「言っていることは理解できるのだがな。これが、理を伴う、というやつなのか?」

「強度や精度に関してはそうですね」

「なるほどな……」


 深く感心したようにうなずくベンゲル辺境伯。

 それを見つつマリーは最後の魔術に関しての話を始めた。

 

「最後が、回復魔術ですね」

「回復魔術か。医学書が欲しい言われて何のことかと思ったものだったがな」

「身体属性が十二あるせいでやや隠れてしまっていましたが、そもそも生者の属性である生属性が五ありますからね。

 後天的に受けた傷や怪我、欠損なんかを治すのが生属性の主な効果とも言えますから、教えておくのは当然かと思いまして」

「光属性の回復とは違うのか? それに欠損の回復?」

「光属性はどちらかといえば病気の回復などに強い属性なんです。もちろん肉体の回復も強いは強いのですが、属性を上から数えるなら三番手と言ったところです」

「一つ上が生属性だとして、一番上はなんの属性なのだ?」

「主さまが使った、生と死の属性を合わせた魂に関する属性である魂命属性ですね」

「……納得だな」


 リーネリア嬢の長年の病が治された光景を今でも鮮明に覚えているベンゲル辺境伯は深く頷いた。


「こと病気の治療であれば二番手と三番手が入れ替わるといった具合です。

 戦うものとして、自身で自身を治せることはもちろん、他者を癒すことができることも有用ですし、なにより氷と雷よりも素養が強いので、それらと比べて覚えやすいはずですので、しっかり覚えさせておきました」

「それはありがたい話だな。回復術師はどのような場所であっても重宝される存在だ。しかし、欠損の回復まで可能とは」

「現状でも劇的には難しくとも時間をかけてゆっくりと治癒させることは可能だと思いますが、如何せんこちらで部位欠損者を探してくることも用意することも出来ませんでしたので」

「当然ではあるな」

「もし辺境伯様の騎士団に、指をなくしたというような軽度の欠損者がいるのであれば、リーネちゃんに治療させてみてください。その経験が回復魔術の精度と効果を高めますので」

「私からもぜひお願いします。お父様」

「わかった。対象はある程度選ぶが、そう大っぴらに口外できることでもないからな。変に教会に目をつけられてもかなわんしな」


 どこの世界でも優れた回復術師に目をつけるのは変わらんなぁ、とウェイトリーは若干めんどくさそうに思っていた。


「以上で、今回私と主さまが受け持った教育依頼の全てとなります」

「想像以上の結果であった。礼を言う。では、グラッツ、評価は最も高い評価で、報酬はこちらが提示したした最高額で払う」

「了解だ。エリナ、処理を頼む」

「かしこまりました。お二人とも、ギルド証をお預かりします」


 二人から受け取ったギルド証を、持ち込んでいた端末に押し当て依頼処理を行っていくエリナ職員を見ながらウェイトリーは、あの端末ってどこでも使えるのか? いったいどういう作りになってるんだ? と、冒険者ギルド関係の端末がやたらとハイテクなことに疑問を覚えていた。

 何となく神野の手を感じる気がする、と。

 

 その処理もほどなくして終わり、払われた報酬は大金貨五枚の五百万ドラグであった。

 教育依頼の相場は、雇われる冒険者の等級に寄るのだが、四等級の冒険者の相場がひと月およそ四十万から七十万ドラグほどであるという話であった。

 本来四等級の冒険者がひと月働けば、二百~四百万前後稼ぐらしいことを考えれば、安いと言える値段ではあるが、基本的に命の危険はなく、値段以外にも貴族や有力者とのつながりなどの金額で換算できない部分でのうまみがある。

 もちろん貴族絡みのしがらみの面倒さもあるので、人気としてはやや低いといったところではあるらしい。

 だが、今回のケースを見れば、六等級冒険者を二か月間二人雇った金額が、四等級の平均よりも遥かに高い。

 無論、効果は相応以上にあったと言えるが、ベンゲル辺境伯としても奮発したと言えるだろう。


 最後にウェイトリーは口を開いた。


「閣下、大変お世話になりました。私共は、予定の変更がなければ三日後の朝にはレドアを発って王都へ向かおうと思っています」

「そうか。こちらこそ、大変世話になった。貴殿らの旅が、どれほどのものになるかは想像もつかないが、万事うまくいくよう願っている。

 また、我が領都へと立ち寄ってくれることを祈っている」

「ありがとうございます」


 報酬を受け取り、別れの挨拶も告げてウェイトリー達の用事は全て終わった。


「うむ。ではアーシア君」

「えっ、あっ、はい!」

「君には渡さなければならないものがあってな」


 そういって、ベンゲル辺境伯は執事風の男性から箱を受け取り、そこからメダル状のエンブレムを取り出して、アーシアへと渡した。

 エンブレムは、辺境伯家の家紋と蓮と水のモチーフが描かれたものであった。

 

「これは君が辺境伯家のお抱え錬金術師、指定錬金術師であることを証明するための証だ。王家にも届け出を出した正式なものだ。なくさないように」

「へ? は、はい、わかりました!」

「これからもリーネと仲良くしてやってくれ」

「それはもちろん!」

「よろしく頼むよ」



 これをもってこの日の全ての話は終わり、その後グラッツギルドマスターから鍛冶屋の紹介状をもらったり、ベンゲル辺境伯から必要であれば王都にある辺境伯家の家を頼ってほしいなど、しばしの雑談を交わしたあと、その会はお開きとなったのであった。

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