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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
6章 さらば領都レドア

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116 巨大地竜素材の受け渡し

 二日後。九月の最終日。

 いつも通りの落ち着いた朝時分にウェイトリーとマリーはギルドの解体場へとやってきていた。

 

 巨大地竜の解体が始まって十日目である今日、八日目の段階でおよその解体が終わり、九日目には素材の仕分けや整理に現地のある程度の撤収まで終了し、ついに地竜の受け渡しが可能になったという状況であった。

 八日目である墓地に行った日の帰りに進捗を聞きに行ったときに、十日目には受け渡しが可能であり、ギルド所有の魔法袋を大量に使っている状態なので、可能な限り早く取りに来てほしいという要請を受けていた。

 

「おう、来たか」

「おはようさんですギルマス。終わったと聞いたので来ましたよ」

「キッチリ仕上がってるぞ」

「お肉!」


 解体台の上には大小さまざまな魔法袋が並べられており、それにはそれぞれの部位の仕分けのために張られたラベルのようなものがついてた。

 『心臓』や『肺』といった臓器類が見受けられる中、『肉:○○』というラベルが張られた魔法袋の数が圧倒的に多かった。


「素材の受け渡しの前に、まずは魔道具の返却からやっておくぞ。モノがものなんでな」

「わかりました」


 そうして、最初に冷却魔道具の各種ポールと制御装置、それに使っていたミスリルバッテリー、最後に数値が『197』になったポーション注入器であった。

 それらを確認してマリーは頷いた。


「確かに確認しました」


 問題ないとの確認が取れたことにグラッツギルドマスターも頷いて返した。

 そのままの流れでウェイトリーは次の話を振った。


「結局肉ってどれくらい取れたんすか?」

「全量でいえば、六十六トンほどだな」

「六十六っすか」

「二割ほど寄付するって話だったが、部位でいろいろ取れてるからな。どういう割り振りにするか考えてくれ。嬢ちゃんには譲れない部位とかありそうだろ?」

「ありますとも!」


 そういって渡された資料をマリーは確認しつつ、様々な部位の量を確認し、寄付する部位を指定していった。

 当然ながら一番多い部位は腹の肉である、牛で例えるならバラと言われる部位であり、その部分が寄付の大部分となった。

 ほかにも牛で言うところのロースに当たりそうな部位をやや多めに、それ以外の部位も割合にして一割程度ずつ寄付するように決めた。

 その指示をメモに取りつつ、準備していた解体場の職員たちに指示を出して、肉の切り出しを行って行った。

 ここ何日も巨大な地竜に向き合っていただけあってか、ただ肉を切り分ける程度の作業、特に気にした風もなく作業を淡々とこなしていた。

 ギルドの魔物解体場は今この瞬間、ただの食肉加工場と化していた。

 

「お肉の種類がいろいろになっちゃってますけど、振り分けの配分はギルマスさんがうまく回してくださいね」

「わかった。寄付分の切り分けをやってる間にそっちで引き取るもんを引き取ってもらえるか?」

「了解っす」

 

 ウェイトリーは言われたとおりに、臓器系の部位や、少量の骨素材、そしてトロフィーとしてしていた、巨大地竜の見目のいい大牙を順にカードへと変えていった。

 そうしていれば、切り分けが少量で済んだ(全量から見て少量)部位から受け渡しが可能になり、それらを流れ作業でどんどんと資材カードへと変えていった。

 しかし、問題はやはり量が多い部位で、最も多く寄付する部位としてしていたバラは何トン単位での寄付になるので魔法袋から取り出して分ける作業も一苦労といった有様であった。

 そして取り分けが終わったあとのものを魔法袋から取り出してカード化する作業も大いに時間が必要であった。

 

 朝の時間をいっぱいに使い、それらの作業がやっとのことで終わり、無事受け渡しが済んだことで、一度、応接室の方へと二人は通された。

 

「あとはまぁ受け取りのサインと、もろもろだな。金の支払いは、明日、領主のとこに行って受けることになってるが、問題ねぇか?」

「問題ないっすよ。そろそろ俺らの予定的にも依頼の内容的にも、リーネリア嬢の教育依頼の終了を話す必要もあったんで」

「あぁその話も聞いてる。明日は俺とエリナも同行するからもろもろ終わらせられるだろ」

「それが済んだら、いよいよレドアから王都へって感じっすね」

「あー……。倉庫の処理は助かってたんだがなぁ」

「まぁそれは頑張ってください」


 適当に受け流しつつ、ウェイトリーは地竜素材の受け取りにサインしていった。

 それが終わると、忘れないうちに、とバックパックにしまってある折りたたまれた大きな紙の束を取り出した。


「それとこれ、ハンガーベイル渓谷の地図です。一応、情報も前回と同じくまとめてありますけど、魔物に関しては、巨大地竜の影響でかなり減ってたと思うんで、分布周りは大きく変わっていく可能性があるっす。信用度ほどほどってくらいにしといてください。

 それから、横穴関係もおおよそ描いてるっすけど魔物が新しく掘ったり崩れたりしてることも多いと思うんで信用度半々くらいにしておいてください。

 ルートと全景なんかは大きく変わることは少ないと思うんで、信用してもらって大丈夫っす」

「了解した。大森林ほどの料金は流石に出せないだろうが、相応の報酬を払わせてもらう。明日一緒に払うことにする」

「うっす」

「じゃあ次は私ですね」


 そういってマリーも腰に付けたカードポーチから幾枚ものカードを取り出して、テーブルに並べた。

 

「まずはご要望にあったポーション注入器ですね。デザインのブラッシュアップと機能性を向上してありますし、対応年数を向上させるためにいろいろと効果を付与しています」


 地竜解体の時に渡されたものは、本当に円柱に漏斗がくっついて、動作用魔法陣がむき出しといった感じの動けばいいというだけの武骨なつくりであったが、今回用意されたものは、円柱状のところに握りやすいように指の形にあう緩やかな起伏が設けられており、動作用の魔法陣部分は透き通った水晶のボタンになっていて、以前よりも感覚的に押しやすいつくりとなっていた。

 それ以外のインジケータ部分はそれほど変わっているわけではいないがインジケータの桁は一つ増えて四桁となっていた。

 加えて、武骨な金属の塊だった以前と比べて、魔道具らしいデザインを用いられたことにより、その表示部分も心なしかスタイリッシュな洗練された印象を受ける。

 

「簡単に壊れても困ると思うので『不壊』と『自動修復』を付与してあります。それから『内用液保存』の効果も付与してありますから、この魔道具に入れたまま保存もできますよ。とはいえ、アーシアちゃんのポーションなら大抵は『品質低下無効』がついていると思いますが」

 

 同じものを三本テーブルの上に並べながら商品説明をするマリー。

 用意された内、一本を渡され、内容を聞きつつまじまじとモノを見ていたグラッツギルドマスターは、高くなりそうだなと苦笑した。


「それで? コイツはどの程度の値段で売ってくれるんだ?」

「ほぼほぼ総ミスリル性ですからね。そもそもの重量がそれほど多くはないとはいえ、材料費だけでもニ、三十万はします。

 ですが、ここは私もおいしく稼がせていただきましたし、ちょこーっとご迷惑をおかけしましたので、一つ百万ドラグでいいですよ」

「モノの割には随分安く売ってくれるんだな?」

「まー言っても大量のポーションを効率よく瓶詰めするだけの需要の少ない魔道具ですからねー。ニッチな用途と言えばそうですし、お友達価格ということで」

「まァ、なんにしても助かるよ。三つとももらおう」

「ありがとうございます。それから、次の商品も」

「次? 覚えにないんだが」


 なんの話だ? という疑問顔を浮かべるグラッツギルドマスターにマリーはニコニコ顔でプレゼンを続ける。


「ミスリルバッテリーと充填機を売ります」

「あー……。確かに欲しい」

「主さまがやっていた倉庫整理の話を聞いて思ったのですが、倉庫の冷却魔道具の稼働にも、焼却魔道具の稼働にも魔石を使ってますよね?」

「そうだな」

「ミスリルバッテリーは基本的に魔石で動くもので、セットする場所の大きささえ問題なければなんにでも使えるので結構便利ですよ」

「こっちもいろいろなしがらみで全部ソイツに変えるってわけにもいかねぇが、焼却炉を使う分と、ギルドのロビーとホールの空調辺りには使えそうだな」

「魔石からの充填もできるので、そのあたりはうまい感じに使ってください」

「わかった買おう」

「いいですね。では、充填機は百五十万ドラグ、ミスリルバッテリーは五センチキューブが三十万、十センチキューブはオマケして九十万ドラグです」

「んー、安いのは安いんだが、それでも数をそろえるとなると高額だな。というか、五センチから十センチになると、えー八倍か? 重さは八倍くらいになると思うんだが、三倍の値段でいいのか?」

「これ、構造的に中は空洞なんですよ。ミスリル事体に魔力を帯びさせているのに合わせて、中の空洞に魔力をため込んでそれを漏らさないような作りになってるんです。

 だから、実は素材費はそう多くはないんですよね」

「そうなのか。あー、モノ自体はなにがどの程度あるんだ?」

「充填機が戻ってきたものを含めて五台、ミスリルバッテリーは戻ってきた分を含めて五センチが二十、十センチはニ十三ですね」


 値段と在庫を聞いて、しばし悩んだあと、購入台数を告げた。


「うーむ。それじゃぁまァ、充填機を二台、五センチを五、十センチを十もらうか」

「おぉ! 結構買いますね」

「有用なのは間違いねえからな。それとポーションでできた金の税金対策もある。ギルドの設備投資ってことにすりゃぁ払う税金が減るからな」

「税金? ギルドって国に払うんっすか?」

「いや、世界冒険者ギルドの本部にだよ」

「あぁなるほど。国を超えた組織っすからね」

「国にもある程度は払ってるけどな」

「そりゃ大変だ」


 そうしてもろもろの話し合いや取引なんかが終わって、話はひと段落となった。

 そんな折、グラッツギルドマスターは雑談がてらに呟いた。


「お前らがいなくなったら、多少はごたごたも落ちくかねぇ」

「いやぁ、それはどうっすかね……」

「はァ?」

「ギルマスさん。断言しておきますが、アーシアちゃんは多分そのうち私たちみたいなやらかしを連発しますよ」

「急に何言ってんだ?」

「あの子ホントにすごいですからね。錬金術の才能もセンスも私以上です。きっと大成しますし、その影響はギルドにも辺境伯領にも、この王国全体にも影響があるかもしれません」

「わかった。お前らさては悪魔の使いかなんかだな?」


 心底疲れたようにため息を吐きつつ胡乱な目を向けるグラッツギルドマスター。


「アーシアもそう何すけど、リーネリア嬢も大概大変なことになってまして」

「お前、マジでなにやってんの」

「いやぁ……、まさかスーパー魔法剣士になるだろうなと思ってたら超すごいスーパー魔法剣士になるなんて思っても見なくて。いや、あれは多分、剣術の指導をお願いしたリグさんが悪いに違いない」

「おい……」


 実を言えば、何とか勝ち越し勝ち逃げを食らわせた翌日も再戦要求は続き、結果として何度か模擬戦をする羽目になっていたウェイトリーであった。

 結果として、姑息で卑怯で小賢しい手練手管を存分に用いて、四度の模擬戦をなんとか全て初見殺しの辛勝に持ち込んで今に至っている。

 卑怯な攻撃や姑息な手段を使い過ぎたせいか、気を抜けば急にこっちに斬りかかって来そうなツジギリ感が滲み始めたリーネリア嬢にウェイトリーは戦々恐々としていた。

 全部ウェイトリーが悪いのだが。


「いやぁ! 辺境伯家の未来は安泰っすね! ははは」

「はははじゃねぇよお前」

「いやマジでリーネリア嬢は急に暴走列車になる時あるんでギルマスはマジで注意してくださいね」

「お前、マジで一回マジで殴らせろ」


 両者、二回マジを挟む程度にはマジであった。


「まーその点に関してはアーシアちゃんがある程度止めてくれると思いますよ。ある程度は」

「二人合わさって大暴れってなことにはならないんだろうな?」

「少ないとは思います」

「言ってることがめちゃくちゃだろ!」

「とはいってもまぁ、多分それで悪いことにはならないと思いますよ」

「そりゃぁ理解してるがよぉ」

「その辺もよろしくお願いします」


 殊勝そうにウェイトリーは頭を下げた。

 

「あそうだギルマス。王都あたりで腕のいい鍛冶師か、道具職人を知らないっすか?」

「なんでだ?」

「いや、自分で狩った地竜を解体しようかと思ったら俺の今使ってる道具だと外皮に刃が通らなくて困ったんすよ。ちょっと新調したいなって」

「ナイフ見せて見ろ」

「これっす」


 そういって渡したのはウェイトリーが普段から使っているナイフであった。

 これはスターターセットのサバイバルパックに含まれていたアンコモンの『解体ナイフ』であった。

 ナイフを確認したグラッツギルドマスターはやや呆れたように口を開いた。


「決して悪いナイフじゃねぇな。悪くはねぇが……、まぁお前が持つにしてはお粗末だろうな」

「っすよね」

「わかった。俺の道具を頼んだ鍛冶師が王都にいるから紹介状を書いてやる。そこで頼めばかなりいいモンを打ってもらえるだろ。お前は金も十分持ってるしな」

「なんなら採取も得意なんで素材も持ってるっすよ」

「その辺の相談は向こうですればうまいことやってくれるだろうよ。紹介状も明日までに用意しておいてやる」

「ありがとうございます」



 その話を持ってギルドでの話し合いは全て終わり、二人はギルドをあとにし、適当な屋台で昼食を取り終え、そのままの足でアーシアの小屋へと向かった。

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