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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
6章 さらば領都レドア

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115 大変なことになってる池

 翌日。

 いつも通りの朝に、いつも通りの食後の時間を過ごしていたウェイトリーは、いい加減に見て見ぬふりをするわけにもいかないか、といった気分で閉じていた目をゆっくりと開けた。

 

「マリーさんや」

「なんですか?」

「ちょっとさ、お願いがあるんですが」

「厄介事ですか?」

 

 特に気にした風でもなくそう聞くマリーにウェイトリーはゆっくりと首を振った。

 

「いや、大したことではない。ちょっとアーシアのため池に使ったのと同じような魔道具を用意してほしいんだよ」

「同じようなと言いますと、魔力の調整と隠匿、盗難対策ですか?」

「あー、魔力の調整は必要ないな。管理者の設定と隠匿、魔道具自体の盗難対策くらいだな」

「うん? ここ最近そんなものが必要になりそうなところに行ってたんですか? 倉庫整理の依頼で何かしたんですか?」

「いやぁ……なにかしたのはもっと前なんだけどな」

「要領を得ないですね。というか、場所を見ずに適した魔道具を作るのは難しいですよ」

「それはまぁそうだよなぁ。……んじゃちょっと悪いんだけど付き合ってもらえるか」

「もちろんかまいませんけど、遠いんですか?」

「いやそれほどは。というか墓地だ」

「墓地?」


 イマイチ釈然としないながらも、ウェイトリーがここまで言うなら否やは無いと同行を承諾したマリーを伴い、ウェイトリー達は普段よりも早い時間に家を後にし、墓地へと向かった。

 

 

「これは……、主さま、知らず知らずのうちにやらかしてるじゃないですか」

「いや待て。水がおかしなことになってるのは多分マリーさんも悪いだろ」


 二人はレドアの近くにある集合墓地にある、規模で見れば大きくはないがアーシアの薬草畑傍のため池よりやや大きいほどの湧き水出でる池、いや泉の前にやってきていた。

 

 この泉は、墓地に悪影響を与えていた小規模修正点があった場所で、タール状の泥で汚染された池だったのだが、修正点を修復し、マリーのポーションで池を浄化し、ウェイトリーが『銀の葬灰』を撒いて、その後にものは試しとリミナ草を移植した泉であった。

 

 ことがただ池が綺麗な泉になって、リミナ草もすくすく育ってるよ、というだけであれば特に問題らしい問題はなかったのだが、湧き出でる水も、そこに植えたリミナ草もなかなかのものになってしまっていた。


「水は……、これは凄まじいですね。というかこれは……」

「『冥河の浄水』だな」

「なんでそれほど水量もない泉の水が冥府と現世を隔てる河の水になってるんですかね」

「俺が思うに、多分、マリーさんのポーションがすごくて、『冥河の浄水』になったのは間違いなく『銀の葬灰』のせいだろうな」

「一時的にそうなるだけならわからなくもない、んですが湧き出ているのは」

「想像なんだけど、修正点があった場所だからじゃないか? 不要な漏出こそ止まったけど力の強い場所であることには変わりないわけで」

「むしろある意味で、『神野パワー』で修正された場所というのも原因かもしれませんね」

「ありえる」

「この水は、そのままでも非常に強力な魔祓いの効果があります。悪魔や呪いといったモノにもかなり有効ですが、本領は……」

「対アンデッドだな。『冥河』はアルベルトさんの領域で、その効力を受ける水は、アンデッドに対して無類の効果を誇るし、それらが苦しまずに冥府に渡れるようになる特急チケットみたいなもんだからな」

「木っ端の聖女が作った聖水なんかよりもよっぽど効果がありますよコレ」

「木っ端の聖女て」

「錬金術で見れば水素材としても最高クラスの素材ですね。水の効力がすごいので作るモノによってはちょっと相性が悪いというものもあるでしょうが、ほとんどは完成品の質と効果を大幅に引き上げてくれるはずです」

「というわけでな。水だけでもまぁまぁ大変なことになってるのよ」

「そのようですね。水だけでも」


 そう言いつつ、二人の視線の先にあるのは、結構もっさりと生えてるなというのが簡単に見て取れるリミナ草であった。

 呆れた量のリミナ草にマリーはため息を付きながら聞いた。

 

「一体どれだけ植えたんですか」

「それが、三か所に一株ずつなんだが」

「はぁ?」

「めっちゃ繁殖して草、というか水草って感じで」

「池に対して三株しか植えてないんですか?」

「まさに水草って感じだよね」

「くだらないことばっかり言うならその舌引っこ抜きますよ」

「こわ」


 リミナ草が大層元気に茂り散らかしている程度であれば別に環境がすごくよかったんだなぁ、程度の話で済むのだが、問題はそのリミナ草が水の影響を大いに受けて変質していることであった。

 ウェイトリーの鑑定を通してみれば、それらはこのような結果が出た。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 冥仙魂癒のリミナ草  品質7~10 レアリティSR+


 詳細

 冥河の浄水の中で育ったリミナ草の変異種

 生者にあふれる活力を与え 死者に淑やかなる安息を与える

 上級ポーション 完全完治エリクサー 欠損回復薬

 そして蘇生薬の素材として使用できる

 それらに正しく調合できるかは

 合わせる素材と製作者の技術にもよる

――――――――――――――――――――――――――



「これを放っておけば、この墓地は生きた亡者が大勢集まりますね」

「金に取り憑かれた亡者はデッドマスターにもどうにもできんからな」

「これを隠蔽しなければいけない理由はわかりましたが、水は早々バレることは無いと思いますし、リミナ草は根こそぎ採取するという方向で対処するのも可能だと思いますけど」

「もったいないくね?」

「まーそれはそうですね」

「それに、墓地にこの泉が湧いてるのは最良に近いし、水が湧かなくなってもこの草が生えてればある程度効果を維持するかもしれないからな。何もなかったことにするのはちょっとな」

「なるほど。それで管理者は誰にするんですか?」

「なんかアーシアに投げればいいかなって気はしてる。結局使うのはアーシアだし」

「それはそうなんでしょうけど」

「あとはまぁ連盟でリーネか辺境伯辺りだな」

「ここの権利を持っているのは当然辺境伯家ですからね。墓地の拡大縮小が必要になった時に、この泉を埋め立てるようなことがあってはあまりにもったいないでしょうし、いいかもしれませんね」


 もろもろの方針をまとめたり、この場所に適した魔道具にするための調査をしたり、めちゃくちゃ繁茂してるし今のうちにある程度採取しておきましょう! と素材欲しいマリーに言われてウェイトリーが泉にざぶざぶ入ったりとしばらくの時間を墓地で過ごし、おおよそのめどが立ったところで二人は墓地から去って行った。

 

 家に戻りつつ、ウェイトリーはポツリとつぶやいた。

 

「しかしまぁ、あの場所がすごいってのが広まらないようにするには、隠蔽して置いて、誰にも知らせないって方法だと思うんだよな」

「それはそうでしょうけど、それならリミナ草をすべて抜いてしまっても差は無いと思いますよ。使う人がいないならもったいないもなにもありませんし」

「そこで俺は考えたわけだ。なんか意味深に『本当に回復素材に困ったときにこの手紙を開けるのじゃ』みたいなことを言って手紙を渡して、直接墓地の話はしないでおく方法はどうか、と」

「その『のじゃ』をやりたいだけじゃないですよね?」

「いや? そんなことはないぞ? ちょっとやってみたい気持ちはあったはあったけど」

「あるんじゃないですか。何をしたところで、多分いずれは知れることになると思いますよ。それが一年先か、五年先か、十年先かの話というだけで」

「まぁな。結局、どんな方法で知りえたとしても素材を使おうとした時点で、大概はバレるだろうからな。

 特に、十中八九優れた回復効果があるポーションを作ることになるだろうから、その素材の出所はいろいろなところから探られることになるだろうしな」

「そしてそれが明るみになったところで、究極的には私たちには関係ありませんしね」

「まぁ、それはそう、なんだけどな」


 何となく歯切れが悪いというか、ハッキリしないもの言いのように感じたマリーは、何となくウェイトリーの顔を見た。

 別に普段通りの真顔、或いはぼーっとしたような顔をしているウェイトリーだったが、マリーが見ているのに気が付くと少しばかり苦笑して言った。


「いちデッドマスターとして、墓地が騒がしくなるのは、ちょっと申し訳なくてな」

「……そう、ですね。私も、いち墓守術師として、騒がしくならないように努力します」

「頼むよ」


 そろそろ街門の前までやってきたというところで、ふとマリーは思ったことを言った。

 

「というか、そんな風に思うなら、薬効が高くて換金率が高い薬草を、墓地の池で育てようとしないでくださいよ」

「いやだってあの頃は他に育てられそうな場所の候補がなかったんだもん」

「もん、じゃないですよ」



 締まらない言い争いをしながら、二人は外門をくぐって家へと戻って行くのであった。

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