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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
6章 さらば領都レドア
108/337

108 巨大地竜解体開始

 二日後、早朝。

 冒険者ギルドの依頼張り出しよりもやや早い時間に、ウェイトリーとマリーは領都の外へ出て、歩いて五分ほどの整備された空き地へと向かっていた。

 

 前日にマリーが冷却魔道具と耐寒ポーションが完成した旨を報告しに行った際、解体は予定された日時通り行われるということになっていた。

 報告に来たついでに巨大地竜を封じたカードを渡そうかとも思ったが、グラッツギルドマスターは可能なら明日の早朝に二人そろってきてほしいと告げた。

 理由としては、普段の魔物を封じたカード程度であればさして問題はなかったが、流石に三十メートル級となるとちゃんとその場に出せるかが不安があるということと、完成した冷却魔道具の起動はマリーにお願いしたいという要望があったからであった。

 確かにここで全てを受け渡すよりも確実であろう、と二人も承諾し、翌朝へ。

 

 解体場にたどり着いた二人が見たのは、既に現場で指揮を執り、職員や騎士にあれこれと指示を出しているグラッツギルドマスターと、その傍らで時を待っているベンゲル辺境伯とリーネリア嬢であった。

 

「おはようございます、ギルマス」

「おお、来たか。朝起きれるなら依頼張り出しに参加してもいいんだぞ?」

「不人気依頼大好きなんでそれはちょっと」

「それも大概だがな」

「ウェイトリー殿、朝早く済まないな」

「おはようございます、閣下。いえ、とんでもありません。私どもの解体要請に格別のご高配を賜ったこと、まことに有難う存じます」

「事はベンゲル家にも大きく関わることだからな。そう気にせずともよい」

「重ねて有難う存じます」

 

 ウェイトリーが格式ばった挨拶を交わすのを、リーネリア嬢は隣でやや胡散臭そうな目で見ていた。

 

「おはようございます、ウェイトリーさん」

「おはようございます、リーネリア嬢。本日は、解体に際してリーネリア嬢にもご参列いただけること、まことにうれしゅうございます」

「あの、普段通りでいいですよ」

「そうか?」

「けろっと戻るのもそれはそれでびっくりしますね」

「一応、人がそれなりにいるからな。相応の態度を取っておこうと思ってな」

「普段を知っているとギャップがすごいです。マリー先生もおはようございます」

「おはようございます、リーネちゃん」

 

 一通り朝の挨拶を済ませて、ウェイトリーはギルマスに今日の段取りを聞いた。

 

「それでギルマス。俺らはどういう感じでやればいいんすかね?」

「あと、十分か二十分ほどでこっちの準備が終わるから、終わったら指定した場所に地竜を出してくれ。それが済んだら冷却の魔道具を頼む。魔道具の設置はどの程度かかるんだ?」

「十分もいらないと思います。ちょっと出しますね」


 そうしてカードから取り出された魔道具は、五十センチ四方の厚さ五センチほどの黒い金属板にいくつもの複雑な魔法陣が刻まれており、それに添えるように十五センチ立法の金属箱が備え付けられただけのやや不格好なシルエットをしたものと、同じ材質と思われる黒い金属で作られた四本の棒状の杭のようなもので、上部に薄青い水晶のような物の中心により青い宝石を内包する結晶が据え付けられたポールのようなものであった。


 それを見せつつマリーは説明を続けた。


「手早く作ったので形が不格好なのは目を瞑ってくださいね。まずはこの箱がついてるのが全体の制御装置ですね。この魔法陣でカバーする高さと温度を変えることができます。大体十度からマイナス五度程度までは下げられます」

「温度は十分だな。あんまり冷やすと素材が凍り付いて質が落ちる場合があるからな」

「それはよかったです。それで範囲はこっちのポールを使います。これを指定したい範囲の四隅に刺してその内側を冷やす感じですね。高さに関しては制御装置の方で操作します」

「消費魔力はどうだ? というか魔石で動くのか?」

「範囲によって必要な魔石量が変わりますね。消費量は、二十メートル×三十メートル×十メートルを中サイズの無属性魔石で二十四時間稼働させる場合、およそ五キロの十五万ドラグが相場だと思います」

「は? いや待て待て、無属性魔石で動くのか? 水や氷の魔石じゃなく?」

「水の魔石ならそこそこ効率が良くて、値段でいえば十三万ドラグほどですかね。氷の魔石ならもっと効率が良いんですけど、魔石の価値が高いので重量では一番少なくても値段にすると十六、七万ドラグほどになると思います」

「この魔道具、どの魔石でも動くのか?」

「動きますよ。今あげた三種以外はどれも効率に見合わないですけど」

「どういう仕組みなんだよそれ……。いや俺も別に魔道具には詳しくねぇけどよ」

「まー動いてほしい通りに動くならその仕組みなんて使う人は知らなくてもいいんですよ」

「いやそうりゃそうなんだろうけどよ」

「でも毎日魔石をじゃぶじゃぶ持っていかれるのはなんだか癪なので、術者の魔力を氷属性魔力に変換して貯蓄できる魔力充填機とミスリルバッテリーも作ってきました」

「なに? なにがなんだって?」

「これですこれ。主さま、ちょっとテーブル出してください」

「はいはい」


 ウェイトリーがいつも使ってるテーブルを取り出して、その上に冷却魔道具一式と、魔力充填機とミスリルバッテリーを並べた。

 怪しい魔女の商品紹介が続く。


「ミスリルバッテリーは制御装置での使いやすさと容量で十センチの立方体にしてきました。これ一つを満タンまで充填できれば、先ほど例に挙げた範囲で大体二十六時間分の魔力を供給できます」


 ミスリルバッテリーと呼ばれたその白銀の十センチキューブには一つの面に魔法陣が刻まれておりその間反対の面には十段階に刻まれたメモリと属性を示すアイコン、さらに小さく簡単な形をした魔法陣が刻印されていた。


「こっちの大きい魔法陣が描いてある面が充填陣です。この魔法陣を後で紹介する充填機の上に接着するように載せます。それからその裏面にあたる、どちらかといえばこちらが表なんですけど、この面にはこのミスリルバッテリーに内包する魔力量と属性を確認する機能を着けてます。

 確認方法は簡単で、この端っこについてる小さな魔法陣に触れるだけですね」


 そういって実演するようにその魔法陣に触れると、属性のアイコンの氷が光り、同じく十段階のメモリが十を示す位置まで全て点灯した。


「これは、何となくわかるかもしれませんが、氷属性の魔力が限度いっぱい、十割充填されているという意味ですね。これを冷却装置の箱に入れれば丸一日は問題ありません。丸一日だと魔力が多少余ると思いますけど、その場合はそのまま魔力を継ぎ足せばいいだけなので無駄なしです」

「便利、なのはわかるが……」

「魔道具の進歩は著しいが、これほどのものは聞いたことがないな。魔力を充填できる希少な宝石類があるのは知っているが、ミスリルでは特別な魔剣などでもなければ長く魔力を保持できないと聞いていたが」

「あーこのミスリルバッテリーも放っておけば魔力は抜けていきますよ。満タンの状態なら全て抜けきるまで二、三年といったところです」

「それは二、三年持つって話じゃねぇか。というか魔力が抜けるだけでまだ使えるのは使えるんだろ?」

「もちろん。無論、物自体が壊れていなければ、ですが」

「十分すごいんだよなぁ……」


 グラッツギルドマスターとベンゲル辺境伯が感心半分呆れ半分でそれらを見つめるなか、ウェイトリーはネタ元はモバイルバッテリーかなぁ、などと考えていた。


「それでこちらの充填機は、基本六属性と生活に密接する亜属性二つ、氷と雷ですね。この八つの属性をミスリルバッテリーに充填できる魔法陣です」

「氷属性の適性がある人間に使わせれば魔石が浮くってわけか」

「いえ、魔力を持っている人ならだれでも氷属性に変換して充填できます。変換効率は落ちますけど」

「嘘だろ?」

「ホントです。ついでに言えば人が魔力を流す代わりに魔石から魔力に変換することもできます。今回のケースで言うと、魔石を直接使うより、五パーセントほどは効率が良くなるのでかかる費用も五パーセントほど安くあげられますよ。

 まー基本的に誰でも充填できるので人が充填すれば自然に回復できる分、実質タダ。それか食事代なんかの日当程度で済むと思いますけどね。何人で容量を満たせるかにもよるとは思いますけど。

 ミスリルバッテリーは、満充填のものを二つ、カラのものを二つ用意して来たのでどの程度で充填できるか試してみてください」

「わかった。試してみるよ。聞いてた感じだと途中で人が変わっても大丈夫なんだよな?」

「大丈夫ですよ。充填機の方にはその人の魔力総量が一割を割り込まないように安全装置も組み込んでいますので、気軽に使って見てください」

「……手厚い対応で助かるよ。冷却魔道具も大概だったが、付随して持ってきたモンの方がすげぇってなんなんだよ」

「それから最後がこちらです」

「まだあんのか……」


 そうして取り出されたのは、黒い金属性の手に収まる大きさの円柱状の物体で、円柱の下方が漏斗の先ようになっており、デフォルメ化された大きい注射器のようであった。注射器でいう針の反対側の円柱上部には、デジタル表記されたインジケータが彫り込まれており、その表示は『500』の数字で点灯していた。

 側面にはその円柱を握った時にちょうど人差し指が当たるような位置と親指が当たる位置に、ミスリルバッテリーで見たのと同じ小さく簡単な魔法陣が刻まれている。また、模様が違うが同じような大きさの魔法陣が上部インジケータの下にも設置されていた。


 一見してこれが何の魔道具なのか見当もつかない一同であったが、マリーがその魔道具の説明を始めた。

 

「こちら要望にあった耐寒ポーションを五百本分詰めてきました」

「そういえばあったな……」

「瓶詰め五百本もするなんてまっぴらごめんでしたし、濃縮して渡すにしても職員のみなさんが大変かと思いましたので、手っ取り早い魔道具を用意しました。

 これは機能も使い方も単純で、まず通常規格のポーション瓶を用意して、まーコップとかでもいいですけど、この先っちょを瓶の中に入れます」

 

 漏斗の先を瓶の口の中に入れて説明を続ける。

 

「そしたら、側面の親指の辺りにある魔法陣がロックになっているので、それに触れたまま、人差し指のあたりにある魔法陣を押します」


 そのように説明しながら操作を行えば、漏斗の先から液体が流れ出し、薄いピンク色をした液体でポーション瓶が満たされ、過不足なく一本分の内容量を満たしたところで円柱漏斗は稼働を止めた。

 インジケータは数値を一減らし『499』となっていた。

 

「といった感じで、ポーション一本分の液量を簡単に出せるというわけですね。これなら場所も取りませんし、在庫数もわかりやすいでしょうから便利だと思います」

「あー、その心遣いはかなり助かるな」

「一応、三十人と運搬要員で最低十日と聞きましたので、多めに十二日分くらいの量を用意しました。ここから期間なんかの関係で足りなくなるようでしたらまた言ってください。

 ポーションの効果は大体十八時間程度、寒さに耐性を得る効果です。詳しい詳細はこちらのメモに書いておいたので見ておいてください」

「わかった。あと、終わったらこの魔道具を売ってくれ」

「アーシアちゃんも濃縮納品ですからね。いいですよ。もうちょっと機能をブラッシュアップしてからお譲りします」


 日々、濃縮されたポーションをストレートに戻し、それを一本ずつポーションの瓶に詰めなおす作業に従事しているギルド職員のことを想い、グラッツギルドマスターは購入を打診した。

 そのことを察してか、心中お察しします、といったアンニュイな顔をしてマリーは答えた。


「と、今回用意した魔道具は以上です。うまく使って美味しいお肉を綺麗に解体してください」

「これだけのモンが肉の為に出てきたって考えると、世の中どうなってんだろうなって気になるな」

「考えすぎっすよギルマス」

「お前ら一党のせいなんだがな?」

「……、そろそろ地竜出しますか?」

「……そうするか。よし、指示した場所に出してくれ」

「うっすうっす」


 やや刺されたウェイトリーは誤魔化すように地竜設置の話をしてごまかした。


 言われた場所を確認し、そこに人がいないことを確認したウェイトリーは、巨大地竜の資材カードを指定場所の中心に投げてから、手を一つ叩いて発動の鍵とした。

 

 それを合図にして、死したハンガーベイルの覇者は再び世界に現れた。

 周囲の人員は、もちろんここで何が行われるのか、何が出てくることになるのかを聞いていたが、死してなおその威容は健在であり、何人かが腰を抜かしていた。

 これで頭も付いたままであれば、もう少し慌てふためく人はいたかもしれない。

 続けて、分けて保管していた頭部も首元ほど近い脇の位置に取り出した。

 

「それじゃあ私は魔道具の設置をやっちゃいますね」

 

 ほとんどの人々がその威容に呆然とする中、マリーは当然気にした風もなく冷却魔道具の設置に向かった。

 テキパキと巨大地竜の周りをまわって四隅にポールを差し込んで、戻ってきたところで制御装置を操作して発動させた。

 すると、ポールから青い光りの線が走り、それが四か所つながると、そのまま長方形の箱型になるように青い光が上昇し、上昇が止まり青い光の四角いフレームが出来上がると、そのフレームからうっすらとした青い幕のようなものを展開し、箱型に包み込んで止まった。

 

「展開完了です。制御装置は展開位置からあまり離さないでいただければどこに置いておいてもらっても大丈夫なので適当な位置に置いておいてください。取扱説明書も一緒に置いておきます」

「わ、わかった。よし、解体業務始めるぞ」

 

 その光景に見入っていたグラッツギルドマスターもマリーに声を掛けられ、我に返った。

 そこから呆けている人員へと指示を出して、作業に取り掛かっていった。

 

 仕事に取り掛かったグラッツギルドマスターとベンゲル辺境伯とは別に、寒さを特に気にすることも無く冷却魔道具の幕の中に入ってその巨大地竜を観察しながら、特にその首の切断面を見入っていたのはリーネリア嬢であった。

 そこにやってきたウェイトリーは何をしているのかと聞いてみた。

 

「どうしたんだ?」

「これを、ウェイトリーさんがやったんですか?」

「首を落としたのはリグさんだな。一撃でキッチリ決めてくれたよ」

「一撃……。これほど鮮やかな切断面で……。リグレット先生は凄まじい御仁なのですね」

「竜の首を落とすときは、なんだかんだ言って大体リグさんに頼んでる気がするよ。多分本人も得意だろうしな」

「……見てみたかったです」

「見れるぞ」

「え?」

「コイツを討伐したときの映像はギルドに提出したからギルマスに頼めば、おそらく見れるはずだぞ」

「本当ですか!?」

「ああ」

「ちょ、ちょっと失礼しますウェイトリーさん。昼にはアーシアちゃんの小屋に行きますので!」

「お、おう。行ってらっしゃい」


 そう言うや、バビュンという勢いで陣頭指揮を執っているグラッツギルドマスターの元へ突撃していったリーネリア嬢を見送って、ウェイトリーは魔道具を出したテーブルの元に戻って行くのであった。

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