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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
6章 さらば領都レドア
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106 巨大地竜解体に関する打ち合わせ

 翌日。

 ウェイトリーとマリーは指定された時間にギルドにやってきていた。

 エリナ職員に挨拶を交わして、もはや通い慣れた会議室で待つこと数分。

 グラッツギルドマスターがエリナ職員を連れだって会議室へと入ってきた。

 

「よう。お前らは毎回時間に正確だな」

「そうっすかね? まぁギルマス様を待たせるわけにもいかねぇっすからね」

「思ってもないことを言うな。まあいい。呼びつけて悪いな」

「いえお気になさらず。こっちが解体をお願いしてる立場っすからね」

「じゃ始めるか」

 

 そう言いながら席に着くなり、手元に持っていた数枚の資料を見つつ、グラッツギルドマスターは話始める。

 

「まず、解体の準備が整いそうなのが、およそ三日後だな。今はロイドんとこと協力して、領都から出てすぐの位置で解体場を用意して、警備体制の構築と、道具類の準備を進めてる。

 だが、まぁちょっとばかしものがものだけに厄介でな」

「厄介?」

「ああ。もうそろ涼しくもなってくるころ合いだが、この辺はまだ暑いだろ? 三十メートル級の解体ってなるとどれだけ早く見積もっても一週間はかかる。ぶっちゃけて言やぁ、十日から二週間は見てもらいてぇくらいだ」

「期間の話なら構わねぇっすけど、その間に肉類が傷むって話っすか?」

「そういうわけだ」

「大型の魔物の解体とかって今までにノウハウってないんすか?」

「肉に関しちゃ、デカいのは大概は食えねぇ魔物か、取れるだけ取って残りはあきらめるってのが主流だな」

「なんともったいない」

 

 マリーが嘆くように言葉を吐いた。

 

「でまぁ、そういうのに対応するための魔道具とか方法ってのがねぇでもねぇんだが、そう言ったもんを用意するには最低でも一か月近くかかることになる」

「どういったものが必要なんですか?」

「解体期間中、魔物の肉が傷まないように温度管理を行える冷却係の魔術師が、今回だとニ十人ほどか、巨体をカバーできるだけの冷却能力を持った範囲魔道具だな。言って見れば、ギルドの生ごみ倉庫に使ってる魔道具の大型野外版みてねぇなやつだな」

「それって魔物の解体用なんすか?」

「そうだ。冒険者ギルド関連の申請設備に『大型魔物解体期間鮮度維持用の冷却装置』ってそのままの魔道具がある。ギルド本部も大型魔物解体が時間との勝負ってのは分かってるから超特急で用意してくれるだろうが、まぁものが大型魔道具だから申請してこっちまで届くのがひと月かふた月ってとこだな」

「もはやそれを待つくらいなら、冬まで待てばいい気もするっすね」

「今の時期ならそうだろうな。つーかまぁ、ぶっちゃけて言やぁ、そんだけの期間保存して置けるってこたぁ魔法袋にでも保管出来てるってことだろうから、設備があるとこに持ってく方が間違いなく早いだろうな」

「じゃあその設備ってなんであるんすか?」

「なんでだろうな。まあ大型魔物を討伐する前に用意しておくとかじゃねぇか? ともかく即時用意できるもんでもねぇのは確かだ」

 

 グラッツギルドマスターはやれやれといった風に肩を竦めた。

 

「んでよ。お前さんらが待つっていうなら申請してもいいが、どうだ?」

「んー、もし待つなら年明けまで待つでもいいっちゃいいんですけど、中規模であの地竜なことを考えると、大規模がどうなってるのかはちょっと気になるんすよね。

 いっても世界にはこの国のを除いてあと五か所あるんで、今急いだところで大局に大きな差はないと思いますけど」

「そうなのか?」

「二か月遅れた程度で大規模の影響で滅ぶ国は、別に今すぐでたところで滅ぶんじゃないっすかね?」

「急に国家存亡の話をするなよお前」

「まぁ修正点もその影響は千差万別みたい、と言っても魔物が強くなる傾向が強いみたいですけど、いろいろっすからね。一年二年放置する程度では変化にすら気づかないって修正点の方が多いとは思いますよ。事が決定的になるのは三、四百年は後って話でしたし。

 まぁ五十年もすれば流石に住むのが困難になる地域くらいは出てくるかもしれませんけど」

「なんでこうお前の話ってなんでもスケールがでかいんだろうな。地竜にしてもその話にしてもな」

「なんでっすかねぇ? それについては俺も疑問っすよ。

 俺って世界を救済しようとしてる偉人に見えます?」


 やや大げさに手を広げて自身の姿を大きく見せてみるウェイトリーに、胡乱な視線を向けながらグラッツギルドマスターは即答する。


「全く見えねぇ」

「っすよね。俺も全くの同意見っす」


 今度はウェイトリーがやれやれと言った風に肩を竦めた。

 それを見てグラッツギルドマスターは話を戻す。

 

「それで? 世界救済の偉人サマは一応ひと月、ふた月は待つ気はないんだろ?」

「そのつもりっすね」

「となると、肉は半分以上が無駄になる可能性があるが、それでいいか?」

「待ってください。それは困ります」

 

 そこにマリーが待ったをかけた。

 

「あー、なんか手があんのか嬢ちゃん。……嬢ちゃんから飛び出すもんも大概だからあんまり聞くのもこえぇんだが」

「要は解体期間中、巨大地竜がいる場所を冷却し続けられレればいいんですよね?」

「そうだな。ついでに言やぁ、解体作業中は冷却を緩めてもらえりゃ一番いいが」

「解体に当たる人数はどの程度ですか?」

「今回はロイドとこの騎士も駆り出しての二十人ほどだ。運び出しなんかの人員もいるが、主に解体に当たるのはそのくらいだな」

「三日後までに巨大地竜全体を覆えるだけの冷却設備と、作業員が冷気に強い耐性を得ることができるポーションを用意するということでどうでしょう?」

「そんなことが可能なのか?」

「肉の為なら」

「お、おう……。それが用意できるってんなら、確実に肉も内臓も無事に取り出してやる」

「ぜひお願いします」

「しかしよぉ……」


 一つの問題が解決したところで、またしてもグラッツギルドマスターは困惑気な声を上げた。


「相手は三十メートルもある地竜だが、そんなに山ほど肉がいるのか?」

「無駄にはしたくないですね」

「まあその気持ちはわかるがな。食いきるまでに何年かかるか分かったもんじゃねぇぞこの量」

「あーそうそう、ギルマス、肉なんすけど、全量の二割ほどを今回解体に参加してくれた人に特別報酬として寄付したいんすけど、そういうのって可能っすか?」

「主さま本気で言ってます!?」

「いいだろ別に。突貫工事してもらうんだからそれくらい」

「んー、私への誕生日プレゼントという話だったはずなのに」

「三十メートルクソデカ地竜の肉八割では不服か? 太るぞ?」

「しょうがないですね。でも尻尾肉はダメですよ。そこは譲れません」

「わかったわかった。それでどうっすかね?」


 お前らは何言ってんの? といった視線を向けていたギルド組に向かってウェイトリーが再度問い掛ければ、グラッツギルドマスターが答えた。


「あぁ? まあ可能は可能だが、それだけでもかなりの大金になるし、どう考えても十分な量渡しても余るぞ?」

「そしたら、辺境伯様と相談して地竜肉祭りでもするなり、どこぞに献上するなりしたらいいんじゃないっすかね。まぁもちろん売ってもいいっすよ」


 ウェイトリーはなぜこんなことを言い出したかといえば、お礼の気持ちはあったのだが、単純に肉の量が凄まじいことになるんじゃないかと考えたからであった。

 

 実際、三十メートルの地竜にどの程度可食部があるのかはわからないが、この時ウェイトリーはまず初めに小学校の二十五メートルプールを思い浮かべた。

 一言にニ十五メートルプールといっても規格はそれぞれあるが、ウェイトリーはお風呂何杯分、プール何個分といった情報を雑学程度に見たことがあった。

 それによると一般的な小学校のプールの容量はおよそ三十五万リットルから三十七万リットルほどであるらしい。

 実際は水よりも体積が重いものなんかが入り混じるので、巨大地竜の体重が三十五万キロあるのかないのか、或いはそれよりも圧倒的に超えるのかは正直わからなかったというのはこの際置いておいて、ウェイトリーは三十五万キロ、つまり三百五十トンで考えた。

 まず可食部がこのうちの二割程度で、七十トン。予想がズレたとしても五十トンはあるだろうと仮定した。

 そこから八割をウェイトリー達に、二割を寄付と考えた時、ウェイトリー達は四十トンで、寄付は十トンとなる。

 四十トンでも、仮に毎日三食二人で二キロずつ食べて、十二キロを食べた時、およそ三千三百三十三日ほどになり、十年近い期間、地竜肉を食べ続けることになる。

 いくら地竜の肉が極上だとはいえ、朝から二キロ、昼にも二キロ、夜にも二キロなんて生活はまっぴらごめんだったため、仮に三日に一回二人で五キロなら、二万四千日のおよそ六十五、六年ほどだ。

 

 得られるであろう肉の量からざっと考えたところウェイトリーが思ったことは、十分だろ、であった。

 

「まぁそんなわけでパーッと一人十、二十キロくらい渡して、あとは適当に使ってください」

「わかった。それなら参加するやつも気合い入れてやるだろうし、こっちとしても正直助かるよ」

「それで突貫仕事を心置きなくやってもらえるんならこっちもありがたいっすかね」

「でもギルマス、肉も素材もいい仕事をお願いしますよ」

「そいつぁ任せとけ。俺もこれほどの大物の解体にゃぁ経験がねぇが、それでも腕がなるってなもんだ。品質は期待していいぞ」

「私も魔道具とポーションはキッチリ仕上げておきますのでよろしくお願いします」

「うし。そんじゃ、どの部位を戻してどの部位を売却にするか書面でまとめておくぞ。どこぞから横やりを入れられても厄介だからな。

 商業ギルドは今はまだ動けなさそうだから茶々はないだろうが、噂を聞きつけた周辺の貴族ってのもあり得るからな」

「了解っす」

 

 それからは、ウェイトリーとマリーで必要な部位を伝えていった。

 

 ウェイトリーが要望したのは巨大地竜の見目の良い牙であった。

 これはリソース個体のトロフィーとして欲したもので、別に特に意味があるわけでもない。

 マリーは主に肉と臓器類、特に心臓には細心の注意を払って採取してほしい旨を告げた。それから爪を一本と肋骨を一本ほど欲しいと伝えていた。

 肉を除いてどれも錬金術で有用な素材である。

 その後は、どのように肉を解体してもらうかや、部位ごとに肉は分けて保存しておいてほしいなどの注文をしっかりつけていて、グラッツギルドマスターは注文の細かさにややめんどくさそうに聞いてはいたが、それらすべてをキッチリと書面へと残し二人に確認を取った。


 その内容に満足したようにうなずいたマリーを見て、グラッツギルドマスターはやれやれとため息を吐いた。

 

「そんじゃまあ、魔道具とポーションの件はよろしく頼むよ」

「心得ました」

「そういや、明日か明後日にでもまた森に出かけるんだって?」

「そうっすね。フィールドワーク講習って感じっすね」

「ま、連れて行く相手も、お前さんらの実力も疑ってないが、気を付けて行って来いよ」

「了解っす」

「うし。じゃあ今日は終わりだ。お疲れさん」

 

 

 それを合図にしてその日の話し合いは終わり、ギルドを出た二人は、適当な屋台で昼食を済ませて、アーシアの小屋へと向かって行くのであった。

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