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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
6章 さらば領都レドア
105/335

105 オカネ、オカネ……

 ウェイトリー達がご令嬢に寄ってたかって鉄片を投げつけ始めた頃。

 マリーとアーシアは小屋の中でギルドに納品する用のポーションの製作を行っていた。

 

 鍋の中に渦巻く魔力は、以前アーシアがやって見せた上下に別れ、互い違いに渦巻く相克流動渦ではなく、同じ向き同じ方向に流動する二つの渦を鍋の中で制御する二重渦であった。

 

「やってることはずいぶん簡単なのに、これでちゃんと効果上がるんですね」

「何ともないようにアーシアちゃんはやってますけど、これが出来ずにこれ以上の上達を諦める錬金術師は非常に多いんですよ」

「またまたぁ。互い違いぐるぐるに比べればなんてことないですよこれ」

「世間的にはそうなんだと思っておいてください」

 

 アーシアの言うことはもっともなのだが、現時点でも相当高度で難易度の高い技術であるというのは間違いではないのだ。

 ないのだが、なまじ一番難しい方法を集中して慎重にやれば出来てしまうアーシアからすれば、それほど難しいというほどの技術には思えないのだ。

 ホントセンスがいいですねー、とマリーはしみじみ思いながら作業を続けさせた。

 

 ほどなくして百倍濃縮初級ポーションを正確に作り上げたアーシアはそれを丁寧にポーション瓶に封入した。

 

「初級ポーションで百倍作るなら二重ぐるぐるの方が断然ラクですね」

「上振れしないように効果上昇を抑える必要が、基本的にありませんからね。おおよそ決まった素材量を入れてその効果値を上昇させるだけですからね」

「なんというか、ゆっくり濃縮率が上がっていく感じなので、百倍に合わせるのも簡単です」

 

 納品用の下級ポーションの製作を終えた二人は、次は中級ポーションに取り掛かった。

 

「中級は三重渦で作ってください。素材は下級ポーションにほんの少しイセチヨモギを使ってください」

「いつも通りのレシピですね」

「この辺で一番揃えやすいですからね。アーシアちゃんの薬草の効能が上がれば、イセチヨモギが無くても作れるようになりますよ」

「最近、ポーションの失敗がほとんどでなくなっちゃったから、あんまり畑にポーション撒けてないんですよね」

「アーシアちゃんの錬金術は、技術的に教えておかなければならないことは、相克流動渦ができるようになった時点でほぼ終わっていますからね。あとはそれらの習熟と自身でそれらをアレンジして行くだけなんですよ。

 なので、ずっと先延ばしになっていた畑に撒くための栽培用ポーションや畑の土の改良、それからこれも先延ばしになってましたけどヒリカハチスをため池に植えて育てられるようにしましょう」

「おぉ! ついにですね!」

「数日から一週間後くらいにやりましょう。そのためにはまずお仕事を終わらせましょうね」

「はーい」


 そういって、アーシアはもはや慣れた手つきで鍋に水を張って熱し、素材を投入し、見事な三重渦を操って濃縮百倍中級ポーションも難なく作り上げた。

 その瓶詰めもテキパキと終わらせて、出来上がった商品を並べてからこれからの予定を聞いた。

 

「今日はこの後どうするんですか?」

「ギルドの納品にも行きましょう。それから魔石屋に寄って魔石も買います」

「おー」

「今日は出来るだけアーシアちゃんが全部手続きしてくださいね。そのあたりもちゃんとできるようにならないと困りますから」

「りょーかいです!」


 そうして二人は街の方へと向かって行った。


 ほどなくして到着した冒険者ギルドは、閑散とした時間帯であり、ギルドにいる冒険者もまばらであった。

 もはやおなじみかつ目的の人物がいる受付へと二人は足を進めた。

 

「こんにちはエリナさん」

「こんにちはマリーさん、アーシアちゃんもこんにちは」


 いつも通りの明るく朗らかな挨拶を交わしつつ、マリーは本題を話す。

 

「今日は、アーシアちゃんに納品なんかのもろもろの手続きを自分でやってもらおうと思いまして来ました。なので今日の私はただの置き物だと思ってください」

「置き物、ですか。ずいぶんと影響力の強い置き物かとは思いますが、了解しました。では本題に入る前にお伝えしておくことがあります」

「なんですか?」

「明日か、明後日に地竜の解体についてギルマスが詳細についての話し合いを持ちたいと言っていますので、ウェイトリーさんと二人で来ていただけませんか?」

「わかりました。主さまに伝えておきます。おそらくは明日来ることになると思います。時間はどおあたりでしょう?」

「朝の張り出しが終わり落ち着いた辺りでお願いします」

「対策会議があったくらいの時間帯ですね。了解しました」

「よろしくお願いします。では、改めて」


 一度、コホンと咳ばらいをして柔和だが真面目な表情をしてエリナ職員はアーシアに話しかけた。


「アーシアさん、ご用件を伺います」

「き、今日はポーションの納品に来ました」

「わかりました。では納品するものをお預かりします」

「えーっと、これです!」


 そういってアーシアは今日作ったばかりの濃縮百倍下級ポーションを五本、濃縮百倍中級ポーションを一本をカウンターに並べた。

 

「お預かりします。ポーションの内容を確認してまいりますので、少々お待ちください」

「はい」


 そういってポーションを抱えてカウンターの奥に引っ込んでいくエリナ職員を見送りながらアーシアは、ふぅ、と一息ついた。

 

「エリナさん、真面目にキリっとしてるときちょっと緊張します」

「職務に忠実ですからねぇ。でも相手に応じてちゃんと合わせてくれる人なので、今回はアーシアちゃんが一人で納品をするから真面目に対応してくれてるんですよ」

「急にアーシア『さん』って言われてびっくりしました。でもなんか、ちゃんと、なんていうのかなぁ。んー、大人として扱ってもらってるみたいな感じがして、うれしかったです」

「よかったですね」

「はい!」


 それほど間を置かずしてエリナ職員は戻ってきた。

 いつぞやとは違い、焦ってもいなければ眼鏡がズレてもいないいつも通りのエリナ職員であった。


「内容は確認できました。マリーさんが持っていらっしゃるものと遜色ないものでしたが、あれはアーシアさんが?」

「今日作りました」

「そ、そうですか。ついにはここまでできるようになったんですね……」

「何日か前にできるようになりました」

「すごい成長速度ですね。ともあれギルドとしては大変助かりますので、これからもよろしくお願いしますね」

「はい!」

「それで、今回の分の依頼の達成分はどのように配分いたしましょうか? 今まではマリーさんの指導の下ということでしたのでお聞きしませんでしたが、下級ポーション納品依頼の達成件数で八等級に昇格できますが」

「えっと、分配ってどういう意味ですか?」

「達成件数はパーティで頭割りすることができるものがあり、アーシアさんは現在リーネリアさんとパーティの申請が出されていますので、今回の達成分を二人で割ることができます。

 補足して申し上げれば、頭割りにした場合はまだ八等級になることはありません」

「えぇ? えーっと……」


 そういってちらりとマリーを見ると、これにはマリーは答えた。


「どうせ七等級で試験がありますし、実力はそこで正しく判定されますので二人で均等にしておいていいと思いますよ。リーネちゃんはちょっと膨れるかもしれませんが、九等級と八等級は依頼難易度にそれほど差はないのでさっさと通過していいと思います。

 どちらかの実力が不足しているなら問題かもしれませんが、そういうわけでもありませんし、いいと思います」

「……むしろ強さだったらリーネちゃんに勝てるわけないですしね、私」

「それはやり方次第だとは思いますけど、まーそうですね。リーネちゃんはちょっとすごすぎるので」

「じゃぁ、頭割りでお願いします」

「かしこまりました。ではアーシアさんのギルド証をお預かりします。リーネリアさんのギルド証に関してはギルドの端末では処理しておきますが、近いうちにギルドで更新するようお願いします」

「わかりました」

「ニ、三日以内にフィールドワークの二回目をするつもりなので、その時にしましょう」

「そういえば、そんなこと言ってましたね。ウサギがいっぱい出て中止になってたんでした」

「ではその時に。それでは報酬をお支払いします」

「は、はい」


 これまでも、マリーの付き添いで十倍のポーションを収めていたため報酬自体はもらっていたのだが、いまだになじみがあるとは言えない大金である大金貨で報酬を出されるのに緊張するアーシアであった。

 しかし、今回は件のスパイクアルミラージ暴走で減った在庫の補充で中級ポーションの納品もあった。

 中級ポーションの買取はマリーが設定した金額と同額で、つまりは。

 

「えっ、大金貨二枚あるんですけど……」

「今回は下級ポーション納品二十五件と依頼達成扱いではありませんが、中級ポーション納品分の達成報酬分を加算して、二百六十一万五千ドラグになります。まだ十三歳で銀行口座の開設ができませんが、十五歳になったら口座を開設したほうがいいかもしれませんね」

「そ、それまでは?」

「ご自身で管理していただくしかありませんね」

「ままま、マリー先生」

「いまさら何言ってるんですかアーシアちゃん。今までだって納品や先日のウサギ暴走の報酬なんかで大金貨を何枚も受け取ってるじゃないですか。見ないふりをしてたかもしれませんが、今日もらった金額以上のお金がアーシアちゃんの小屋にはあるんですよ」

「ウェイトリーさんからカゴとか鍋とかたくさん買いましたし、流石にそんな」

「どれも一つ十万二十万程度の買い物じゃないですか。使った方だとは思いますけどたかが知れてると思いますよ」

「いや流石にそんな」

「それに考えてみてくださいアーシアちゃん。冒険者ギルドへのポーションの納品はこれからも続くんですよ? 月に一回下級ポーションだけだったとしても毎月百五十万弱ですよ? いまさら慌てるようなことじゃないと思いますけど」

「でもでも、そんな大金持ってたらドロボウが来ますよ!?」

「誰にもとられないお財布を作ってあげますからそれで我慢してください。それと、チンケなドロボウくらいアーシアちゃんなら余裕で撃退できますよ。

 あと、この辺境伯領で領都付き農家の家で、かつ辺境伯家指定錬金術師の家や財産を狙おうものなら、その不埒者はきっと魔物に襲われるより恐ろしい目に遭いますよ」

「補足すれば、領都付き農家の家がある付近は、騎士団の巡回が頻繁に行われている場所の一つですので、よほどのことでは襲撃されることはないと思われます」


 マリーの想像にエリナ職員が実態を語りつつ補足した。

 それでも想像もできなかったはずの大金にアーシアはテンパっていった。

 

「夢はポーション御殿でしょう? もっともっとお金を稼ぐ必要がありますね」

「オカネ、オカネ……」

「ではエリナさん。また数日以内に来ますのでよろしくお願いします」

「お待ちしております」

「ほら、行きますよアーシアちゃん」

「オカネ、オカネ……」



 マリーは引きずるようにしてバグってしまったアーシアを連れて魔石屋へと向かい、予定通りに魔石の買い方や顔つなぎなどを済ませようと思ったのだ、なかなか現実に戻ってこれないアーシアであった。

 次回更新は月初めなので24/8/1の二日連続更新になります。

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