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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
6章 さらば領都レドア
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104 不利な戦場想定訓練

 翌日。

 生徒二人は昨日の内に取得したスキルの内容をおおよそ把握していた。

 アーシアは自分で錬成したポーションの効果などをある程度詳細に知ることができるようになったことで、よりポーション製作に力を入れて作業に取り組み、様々な技術を練習しつつ、冒険者ギルドに卸す下級ポーションと中級ポーションの製作に当たっていた。

 リーネリア嬢はより劇的であった。

 というのも、もともと使っていた電流探知による行動の把握に加えて『行動予測』のスキルが加わったことにより生物相手であれば相応に動きを読み取ることができるようになったのだ。

 そしてそれは防御に重きを置く“王国剣術”との相乗効果も抜群であり、命亡きアンデッドに対しても十分に効果を発揮していた。

 まぁ相手がリグレットなので未だ付け焼刃の域を出ない『行動予測』が加わった程度でどうにかなるような相手でもなかったのだが、それでも受けや流し、払いの精度がずいぶんとよくなったとはリグレットの談である。

 

 そして本日は、リグレットの提案によって、ただ模擬戦をするのではなく、不利な戦闘を訓練すべく、ウェイトリーはいつも訓練場にしている広場にせっせと大岩と城壁を設置していた。

 

「ウェイトリー殿、あとは投げナイフに見立てた丸めた鉄片を五、六十ほど用意してもらえますかな」

「ちょっとばかし買いに行く必要はあるがかまわないよ。戦ってるリーネ嬢に投げるんだな?」

「私に、投げる?」

「そうですな。いかなる時にいかなる横やりが入るかはわかりませんからな。対処が可能かどうかは別として、そう言った経験があるかないかは、実際にそういった局面に直面した時の生存率を高めますからな」

「なるほど」

「スパルタだなぁ」

「なにぶん時間がありませんからな。それにウェイトリー殿がいれば、跡が残るような怪我が残ることもありますまい。多少の怪我は覚悟していただきますぞリーネリア嬢」

「わかりました」

「投げるのは誰が?」

「護衛騎士のお二人と、ウェイトリー殿、それからスケルトンを二人ほど」


 訓練プランの話を一緒に聞かされて、本日の訓練内容が非常に危なっかしいものであるというのを聞いて止めるべきか悩んでいた二人は、突然投げる役を指名され、さらに困惑していた。


「お二人には、リーネリア嬢だけに投げるのではなく、自分にも投げていただきたいのです。自分も対処の仕方を見せる必要がありますのでな。もちろん、自分だけに偏ってもらっては訓練にならぬので困るところですが、多少、こちらに来る分が増える程度であればかまいませんぞ」


 困惑を深める二人ではあったが、より実践的な訓練をするという点では的外れともいえないので、渋々承諾することにした。

 

「んじゃ俺ちょっと街まで買いに走ってくるから、戻ってくるまでは適当に頼むよ」

「心得ましたぞ」


 街へと一度戻ったウェイトリーを見送って、身体を伸ばしたあとウォームアップがてら、大岩と城壁に囲まれた中心地で型稽古に近い軽い打ち合いをリーネリア嬢とリグレットは繰り返した。



 ほどなくして戻ってきたウェイトリーは、障害物の中で隙間を縫うように移動しながら軽い打ち合いをしている二人を見つつ、錬成盤を取り出して、買ってきた鉄インゴットを細長い楕円形へともくもくと加工した。

 予備含め、七十本ほどを用意し終えたところでウェイトリーはリグレットに声をかけた。

 

「リグさん、準備できたぞ」

「かたじけない。ではリーネリア嬢、不利な戦場を想定した訓練を行いますぞ」

「はい」


 ウェイトリーはスケルトンを二体呼び出し、護衛騎士の二人とスケルトンにそれぞれ十本ずつの想定投げナイフを渡し、自分も十本持って、障害物中心地に位置する二人を囲むように障害物に身を隠して配置についた。

 

「いつでもいいぞ」

「了解した。ではリーネリア嬢。今回自分は七割ほどは防御に徹しますが、もしナイフが当たったり、体勢を崩すようなことがあれば、その時は確実に攻めに転じます故、留意してくだされ」

「わかりました」

「また、電流探知などは自由に使い、隠れているものを察知しつつナイフなどは確実に対処するように心がけてくだされ。それからいつも通り、自分は死ぬことはありませんので、殺す気でかかってきてかまいませんぞ」

「心得ております」

「よろしい。では始めましょうぞ」


 それを合図に、両者全く同じ構えで向かい合い、数秒の時を置いてリーネリア嬢が踏み込んだ。

 二人は先ほどまでの軽い打ち合いではなく、少なくともリーネリア嬢は本気で斬りかかり、リグレットはそれを風に揺れる柳のように受け流していた。

 時間にして一分と少しが経ったかといったところで、剣戟交わす二人の元に一本のナイフを想定した鉄片が飛来する。

 それは鋭い弾道でもないただ投げられただけのものではあったが、確実にリーネリア嬢を捉えるコースではあった。

 しかしてそれは剣戟を交えながらであってもリーネリア嬢は正確に認識し、攻撃に合わせてほんの少し立ち位置をずらすことで回避して見せた。

 

「やるなぁ。じゃあこれはどうだ?」


 最初にナイフを投げたのはウェイトリーであった。

 普段の投げる鋭さは微塵もないへろへろな投擲で様子を見たが、流石に侮りすぎであったかと反省し、北と南の位置で控えているスケルトン両名に同時にリーネリア嬢に投げろと指示を出した。

 飛来する二本に鉄片に対して、リーネリア嬢は先ほどよりもやや遅れて気づき、しかしそれでも辛うじて位置の移動と、左手に作り出した氷のナイフで弾くことで対処した。

 対処が遅れたのは投げたのがスケルトンだったからであろう。

 骨だけのスケルトンには生態電流など流れているはずもなく、位置と動作を完全につかみ切れていなかったのだ。

 しかし対処できたのは気配察知などの恩恵と、電流が流れておらずとも、より近い位置に接近してくるモノに対しては電流探知での探知が可能だったおかげだろう。

 

 ただし、ウェイトリーはとしては現状ではこの辺りが対処できるキャパシティの限界付近ではないかと睨んでいた。

 無論、初見で二度うまく対処したのは素晴らしいが、これに連続性が加わったり、同時に飛んでくる本数が増えれば加速度的に対処が難しくなる。

 特にクロスレンジで斬り結んでいるのなら、その相手の対処が最優先である以上なおさらである。


 スケルトンの一人に五秒に一回、もう一人に七秒に一回、その場所を移動せずに投げるように指示を出して、ウェイトリーは大岩から大岩へ、城壁から城壁と移動しながら、たまにへろへろなナイフをリーネリア嬢に投げつけた。

 そうしていれば、護衛騎士の二人もややあって投げ始め、半分がリーネリア嬢に、半分がリグレットへと向かって投げていた。


 それが繰り返されていれば、対処できるキャパシティを容易に超えてしまい、ナイフに被弾するケースも増えてきていた。

 ならばリグレットが攻めに転じるのか、と言われれば、リグレットはそうはしなかった。

 それは、被弾したナイフの位置が原因であった。

 

 当たったナイフの位置は、皮鎧が守る部位かつ急所とはいいがたい場所であったり、腕や足を少しかすめる程度の場所であったりが全てだったからだ。

 最初の内は飛来するナイフ全てに可能な限り対処していたが、そのうちに必ず守らなければならない部位以外の場所へのナイフへの対処を切り捨て、その分を攻撃と対処に割り振ったのだ。

 

 齢十三の貴族令嬢とはとても思えないクレバーな判断に感心したリグレットは、それを正しい対処として承認し、ヒットとも体勢が崩れたともみなさず、スタンスを変えずに付き合うことにしたのだ。

 

 そうした剣戟の応酬を繰り返しているうちにナイフの飛来は止み、それからしばらくして、リグレットが鮮やかな手さばきをもってリーネリア嬢の体制を崩し、一回目の不利な戦場想定訓練を終えた。

 

「見事であるな。リーネリア嬢」

「そうでしたか?」

「当たっていい場所と当たると不味い場所を的確に判断し、対処するべきものを選別するというのはなかなか優れた判断であった。理想を言えば無傷が望ましいが、理想だけを語るのは戦場では難しい故な」

「ありがとうございます」

「しかし理想は忘れることなく持っておく必要はある故、可能な限り対処できるようになる方がいいであろうな」

「いくら急所ではない場所であっても傷が積み重なればそれは十分に危険ですからね」

「そうですな。ウェイトリー殿」

「どうした?」


 投げ放った鉄片ナイフを拾い集めていたウェイトリーにリグレットが声をかけた。


「次は対処せざる負えない場所に可能な限り投げてもらえますかな?」

「おーけー。スケルトンの方にも徹底させるよ」

「頼みましたぞ」



 そうして訓練は続き、二回、三回と繰り返すうちに対処能力が格段に向上していき、それに伴ってリグレットがどんどん負荷をかけてを繰り返して、さらに対処能力が上がっての好循環が生まれていた。

 なお、その結果は額は切って血が出たり、腕や足には無数の打撲があったりという状態であった。

 訓練が一区切りの度にウェイトリーが回復することでそれらの傷を次の回に持ち越すことはなかったが、護衛騎士の二人はかなり胃が痛そうであった。

 

 そうして、都合十五回ほどでその日の訓練は終わりとなった。

 

「あの、ウェイトリーさん。ついたり消えたりしないでください」

「気を散らされるようではまだまだなんじゃないか?」

「死んだり生き返ったりしてるみたいです」

「まぁ俺、死霊術師だしな」

「普通は術者本人は死んだり生き返ったりはしないと思いますぞ」

「俺に限らず凄腕の隠密とかは探知を掻い潜りかねないんだからいい練習だと思っておいてくれ」

「ウェイトリーさん」

「ダメだぞ」

「しかしウェイトリー殿の言うことには一理ありますからな」

「リグレット先生まで」

「ウェイトリー殿ほど、隠密能力に優れた暗殺者も密偵もそう居るとは思えんですからな。慣れておけば早々遅れをとることもありますまいて」

「……わかりました」


 やや不服そうなリーネリア嬢ではあったが、言っていることの正当性は理解できるのでそれ以上は何も言わなかった。

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