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デッドマスターはあんまり動じない  作者: 八神 黒一
6章 さらば領都レドア
103/335

103 長い長い三十分

 二人は滞りなくアーシアのポーション工房である小屋までやってきた。

 すると、やってきた気配を感じ取ったのか、リーネリア嬢がこやからひょっこりと顔を出して足早に二人に近づいた。

 

「ごきげんよう、ウェイトリーさん、マリー先生」

「こんちは」

「ごきげんようリーネちゃん」

「あの、ウェイトリーさん、来て早々で申し訳ないのですが、リグレット先生を呼んでいただきたいのですが」

「お、おう。それはかまわないが」


 どうにも昨日のリグレットとの訓練はリーネリア嬢にとって相当にセンセーショナルだったらしく、やってきた気配を感じとるや否や、訓練のために出てくるとはずいぶんご執心のようであった。

 ウェイトリーはちらりと端末を確認して、MPがギリギリ足りるのを確認しつつも、呼ぶのは話のあとでもいいかと思い直し、それはそれとしてとリーネリア嬢に話を振った。

 

「リーネ嬢、訓練の前にマリーさんから話があるからちょっと小屋に戻ってもらえるか」

「お話ですか?」

「というか、ここまでの訓練に耐えてきた二人に渡すべき餞別の一つを今日お渡ししようと思うので、そのお話ですね」

「餞別、ですか?」

「内容については中で話しましょう」


 リーネリア嬢を伴い小屋に入ると今まさに錬金鍋に水を張って、ポーションの製作にとりかかろうとしているアーシアがいた。


「あ、マリー先生、ウェイトリーさん、こんにちは」

「うっす」

「こんにちはアーシアちゃん。ポーションを作ろうとしているところ申し訳ないんですけど、ちょっとお話があるので、こっちに来てもらえますか」

「わかりました」


 そうして二人を席につかせて、マリーは話し始めた。


「今日は二人にポーションを一本飲んでもらおうと思っています」

「ポーションですか? 特別なポーション!?」

「そうですよ」

「おお! どんなポーションですか!?」

「これです」


 そういってマリーは今日出来たばかりの白と黒の液体渦巻くポーションをそれぞれ二人の前に置いた。

 そのあまりにも異質な見た目に、アーシアは目を輝かせたが、リーネリア嬢はやや困惑していた。

 というのも、リーネリア嬢には魔力を目視する資質があり、その魔力にあまりにも見覚えがあり、そして、自身の治すときに発せられた魔力よりも、なんとなくだが、いや確実にこのポーションに込められている魔力の方が多いのではないか、ということを見て取っていた。

 

「あの、これは?」

「主さまを干物にして作った特別な力を得られるポーションです」

「ウェイトリーさんが材料なんですか!?」

「ぶっちゃけ今もカラカラだ」

「なにを絞ったんですか!? やっぱり血ですか!?」

「魔力ですよアーシアちゃん。流石に人聞きが悪いです」

「言いだしたのはマリーさんだろ」

「……危険な薬物では、ないですよね?」

「身体に害はありませんし、健康を害することもありません」

「それでそれで、このポーションはどういう効果があるんですか!?」


 異質な白と黒が渦巻くポーションに興味津々なアーシアはその効果についての詳細をせがんだ。

 

「これはスキルポーションという、世にも珍しい、と思う、画期的なポーションで、これを飲むことでいくつかの技能を即時に習得することができます」

「技能の、習得?」

「それってどういう意味ですか?」

「わかりやすく言えば、これを飲むと『鑑定』の技能を取得することができます」

「そんなまさかっ!」「ほしい!」


 両者の反応はそれぞれ違った。単純に僥倖ととらえたアーシアに対して、そんなことがあり得るはずがないという反応をしたリーネリア嬢であった。補足して言えば、リーネリア嬢の護衛の二人も息をのんでいた。


「そのようなことがありえるのですか?」

「それがあり得るんですよね」

「ミルク色の異次元」

「晩御飯抜きにしますよ」

「ごめん、何でもない」


 ウェイトリーは三十年ほど前に放映されたとあるレトロアニメ発のネットミーム的フレーズをつい口に出して普通にマリーに怒られた。


「他にも技能が含まれているのですが、わかりやすく使いやすい目玉スキルは『鑑定』ですね。アーシアちゃんは聞いてすぐ欲しいと思う程度には有用でしょうし、リーネちゃんにとっても様々な活用法があると思います」

「そのようなものまで作ってしまえるのですか……?」

「どうやってつくるんですか!」

「どうやってかはちょっと説明できませんねー。素材も希少なものが山ほどいりますし、といっても大森林で全て揃うと言えば揃うのですが。加えて、製作難易度が宇宙的に難しいです」

「マリー先生、うちゅうってなんですか」

「哲学的な問いですね、アーシアちゃん」

「この場合は哲学的な問いではなく、単にその場所を知らんだけだと思うぞ」

「宇宙というのは、空よりも遥かに高い星の海のことを示す言葉ですね」

「それくらい難易度が高いってことですか?」

「高さというよりは複雑怪奇さという感じなんですけどね。私も詳しいというわけではないのですが、宇宙には不思議がいっぱいなんです。そんな感じです」

「はえー」


 よくわからんけどすげー、位のニュアンスでアーシアが理解したのかしてないのかも知れないような返事を聞きながら、リーネリア嬢はまだ困惑していた。

 

「なんにしても二人用に必要そうなスキルを詰め込んできたので、パパっと飲んじゃってください」

「いえ、あの……」「わかりました!」

「あっ、ただ一つ注意があります。そのポーションを飲むと、三十分きっかりひどい頭痛に苛まれます。私も今朝がた体験しましたが、控えめに言って地獄です。覚悟して飲んでください」

「えぇ……」


 アーシアが途端にいやそうな顔になった。


「一応症状を和らげる頭痛薬ポーションも用意してありますので合わせてどうぞ。ただ、完全に頭痛を取り除くことはできないので、椅子に座って三十分待機ですね」

「なんで完全に効くポーションじゃないんですか?」

「完全に効いちゃったら技能取得の効果まで消えかねないからですよ」

「うう……。そう言われるとなんともいえない」

「さ、二人とも。今日も訓練がありますからさっさと飲んでください」

「頭痛いのはなぁ……。でも『鑑定』ほしい。めっちゃほしい……」

「あの、マリー先生。こちらについて持ち帰って検討というわけには」

「ならこのポーションはなかったことになりますよ。リーネちゃんは難しく考えすぎです」

「と、言われましても……」


 完全に飲む気でいるアーシアに対して、効果が本当だった時の価値が計り知れないとわかっているリーネリア嬢はいまだに躊躇していた。


「リーネ嬢、何も考えずに飲んどいた方がいいと思うぞ。そりゃ飲まないのも選択肢ではあるが、飲まないならマリーさんはそのポーションを片付けるし、その結果そのポーションが世間に出ることはおそらく二度とないぞ」

「そのように脅さないでくださいよ……」

「幸運の女神に後ろ髪はないらしいぞ。まぁマリーさんの場合は、なんというか契約を持ち掛ける悪魔みたいだが」

「主さまは晩御飯抜きです」

「ごめんて」


 ウェイトリーとマリーがしょうもない言い合いをしているうちに覚悟は決まったのか、リーネリア嬢は白と黒のポーションを手に取って二人に告げた。


「……飲みます」

「そうしてください。それが無駄になるのはあまりにももったいないですから」

「じゃあリーネちゃん。せーので飲もう」

「うん」


 そうして二人はコルク栓を抜いてから、いざ飲むとなると得体のしれない白と黒渦巻くポーションにやや怖気つつも、せーの掛け声一つ、一気にそれを飲み干した。

 そして、その覚悟が何だったのかというほどに味もなければ、喉越しも別に悪くはない。

 言われていた頭痛も、と考えていたところで、頭に違和感を感じ、それが次第に大きくなり、ついには事前に言われていた地獄の時間が始まった。

 アーシアは有無を言わさず渡されていた頭痛薬を飲みほし、リーネ嬢もそれに続いた。


「あ゛だま゛い゛だい゛」


 机に突っ伏しピクリとも動かないリーネリア嬢に、両手で頭を抱えて机に肘をついて嘆くアーシアに、今朝見た、という感想を抱くウェイトリーであった。

 その様子に流石に大丈夫か心配になった護衛騎士の二人が容体を聞くが、本当に何のことも無く三十分すると痛みが引くので落ち着いて待ってほしいと言い含めた。

 

 呼吸しているのかすら心配になるほどピクリとも動かないリーネリア嬢に対して、リアクション豊かに呻き続けるアーシアを眺めること三十分。

 二人は、示し合わせたかのようにすっと痛みが引いていって、今までの痛みは何だったのかというような不思議な感覚に囚われた。

 

「はい。お疲れさまでした」

 

 そう言いつつマリーが心を落ち着ける作用のあるハーブティーを二人の前に用意する。

 鼻孔をくすぐる優しい香りに、ゆっくりと手を伸ばして二人は一息ついた。

 

「もう二度と飲みたくないです」

「私も同じく」

「早々飲む機会なんてありませんよ。あーそうそう。このポーションのことは親しい人以外には吹聴しないように。面倒ごとになっては困りますので。あと現状はもう素材が怪しいので追加では作れないのであしからず」

「わかりました!」「はい」

「さて、ではとりあえずこれに対して『鑑定』と唱えて見てもらえますか」

 

 そういってマリーは二人の前に一本の深い緑色をしたポーションを置いた。

 言われたとおりに二人は「鑑定」と唱えて、そのポーションを鑑定する。

 そして、それが現実に可能だったことを裏付けるようにそのポーションの情報が二人の脳裏に展開された。

 

「濃度は何倍のポーションでしたか?」

「八十五倍!」「八十五倍でした」

「ちゃんと取得できましたね。主さま、二人の飲んだポーションに含まれていたスキルのリストをお願いします」

「あいあい。えー、アーシアがこれだな。んでリーネ嬢がこっちだ。さっきの頭痛ポーションで新たに取得したスキルとその効果だ。よく読んでおくといい」


 スキルの内訳とその効果、それからどう運用するものかなどを記した覚書を二人に渡しながらウェイトリーは話を続ける。

 

「今日はそのスキルで試せるものを試してもらおうと思ってる。リーネ嬢はこの後リグさんとやりあえば大体理解できるはずだ。

 アーシアの採取系はちょっとここでは難しいから、『調査』と『解体』だな。解体する対象は土ウサギを狩ってきてあるからそれで試そう」

「それとスキルですが、『鑑定』のようにその場で発動させるようなものは、声を出しながら練習していれば、そのうちに何も言わずとも使えるようになります。

 他の発動型のスキルも同じなので覚えておいてください」

「はい!」「わかりました」

 

 それを聞くや否や、アーシアは小屋にある様々なものに「鑑定!」と元気よく唱えて調べ始め、リーネリア嬢は、以前ウェイトリーが作ったアーシアとお揃いのミスリルの腕輪に対して『鑑定』を行い、改めてその非常識な効果をまじまじと確認してしまい、若干頭を抱えていた。

 

 こうして二人のスキル取得は無事恙なく終了した。

 

 

 なお、この日の晩、その日あったことをリーネリア嬢はベンゲル辺境伯に報告し、大層頭を抱えて、スキルポーションのことは他の誰にも言わないようにと言い含められるのであった。

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