101 スキルポーション
「で、ですね。ここまでは魔導書の話です」
「なにを言い始めるつもりだ」
ウェイトリーはあんまりな内容がまだ続くのかと身構えた。
「いえいえ、別にこれは大した話ではないんですけどそういえばと思って作った実験の産物なんですよ。とりあえずこれを鑑定していただいてもいいですか?」
そういって渡されたのは、透明な液体が満たされコルク栓で封をされた試験官であった。
差し出された試験管を受け取り、言われたとおりその内容を確認するべく鑑定のスキルを用いて調べてみれば、それはこのような代物であった。
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ブランクスキルポーション 品質10 レアリティLR+
[効果なし][品質低下無効]
詳細
飲むことでそのスキルの素養を得ることができるスキルポーション
ただしこのポーションには何のスキルの封入されておらず
現状ではただの水に等しい
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その表記を見て、ウェイトリーは息をのんだ。
この表記自体は初めて見るものの、同じように表記されるスキル入のスキルポーションをウェイトリーは手に入れたこともあるし、飲んだこともある。
その入手方法は、いずれもイベントの攻略報酬などの特別な機会にのみ得ることができたものであったからだ。
てっきりゲーム内でのいわゆるご都合アイテムであると思っていたのだが、現実に作ることが可能などとは露ほども思ってもいなかったのだ。
「これを作れるのは話が違うんじゃないか?」
「作れるものは作れるんですよ。ただ素材は激重ですし、その上製作手順もハチャメチャですけど」
「錬金術元位がハチャメチャっていう製作難度ってなんだよ」
「なんかもう“宇宙”って感じでした」
「うちゅう」
真顔で言うマリーに真顔で返すウェイトリー。
二人の間にたっぷり十秒ほどの時間が経過した。
「まーそれはいいんですけど、問題は私ではこれにスキルを封入できないんですよね」
「なんでだ? ここまで来たらもうなんでもやり放題じゃないか?」
「大前提として、スキルポーションってそのスキルを持っている人が存在しないと封入できないんですよ」
「それで?」
「どうにも私は今現在、何もスキルを持っていない状態となっているみたいで」
「なるほ……、いや、鑑定とかは使えてるんだろ?」
「です。でも鑑定の封入も錬金術の封入も出来ないんですよねー」
「キャラクターユニットとして召喚されてる弊害か?」
「いっても私は現状ただのレアのキャラクターですからねー。もろもろ受けている制限のせいとも言えるかもしれません」
「そうなのか」
「そうなんですよ」
ふーん、とウェイトリーは腑に落ちるような腑に落ちないような曖昧な声を出しながら椅子に深く腰掛けた。
「それで?」
「ちょっと主さま、封入試してもらえませんか」
「元位級の実力は俺にはないぞ」
「と、おっしゃるだろうと思っていましたので、スキル封入用の錬成盤をご用意しました」
そういってマリーが持ち出してきたのは、錬成鍋欲しさに初級錬金術パックを複数購入したことで余っていた錬成盤に、様々な場所に手を加えられ、元々の錬成盤の機能をほぼほぼ失った代わりに専用の機能だけを発現させる専用の錬成盤であった。
錬金術のスキルを九持つウェイトリーが見ても、おそらくは錬金術を使う何かしらの機能があるとしか理解できないような作りになっており、見たことの無い刻印と見たことの無い図形が複雑に絡み合うそれは、もはや初めてクレヨンを握った幼児の落書きにしか見えなかった。
まぁおそらく正しく機能するんだろうな、マリーさんだしな……、という呆れたような謎の信頼を覚えつつも、その錬成盤の使い方を聞いた。
「んで俺はどうすればいいの」
「まずはこの錬成盤の上にこのブランクスキルポーションを置いてですね、無属性魔石ボールを一つ。そしたら、錬成盤を使う手順と同じように手を当てて、魔力を流してみてください」
ウェイトリーは言われたとおりに錬成盤に手を当て魔力を流すと、その錬成盤の上の中空に魔法陣が展開し、その魔法陣の中には刻印文字ではなく、漢字、カタカナ、ひらがなといった見慣れた日本語で数行にわたり、内容が表示された。
その内容は以下の通りであった。
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封入可能スキル一覧
探索系
鑑定5 調査5 感知5 気配察知5 隠密5 追跡5 遠見5
製図5 罠解除5 鍵開け4 植物採取5 伐採4 鉱物採取5
発掘5 解体5 神秘採取4 野営4 環境同化5
知識系
鑑識5 薬草学5 解体術5 解剖学4 医学1 鉱物学5
魔生物学5 地質学4 考古学3 人類学3 天文学3
宮廷儀礼2 術式魔法学1 魔道力学1
生産系
土木工事4 建築1 錬金術4 薬草栽培1 罠製作1 木工1
補助系
投擲5 剣術1 体術3 気配遮断5 行動予測5 水泳3
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「おー」
表示された内容を理解してウェイトリーはやや間の抜けた声を上げた。
「あーやっぱりちゃんとスキルを持っていると判定されないと表示されないんですねー。それともステータスとしてスキルを持っている主さましか表示されないのかもしれません」
「EWOのステータスを持ってる人間にしか機能しないと?」
「可能性はあります。でもこれに関しては試してみない事にはわかりませんね」
「そうだな。しかし、これは……」
ウェイトリーは片手で魔力を流すのを継続しつつ空いた片手で端末を取り出して自身のステータス画面を表示してテーブルに置いた。
それをマリーと共に覗き込みつつ、表示されているスキルとの違いを確認していく。
「まず封入できるスキルはスキルレベルの半分のレベルの切り捨てだな」
「そのようですね。それから半分にしたときに数値が一以上ないスキルは表示されていませんね」
「それから異世界スキルカテゴリのスキルは表示されてないな」
「残念ですね。資材カード化のスキルが表示されていればぜひ飲みたかったんですが」
「まぁ毎度俺が資材カードに変えるのちょっと手間だしそれができるなら俺も助かったんだがな」
「カード化はこれからも任せるしかありませんね」
「当然と言えば当然だが、複合スキルもないな。それと職業クラススキルも」
「どちらも当然と言えば当然ですね」
「あぁ『冥府の戒律』もないな。十レベルだから五レベであってもおかしくないと思ったが」
「デッドマスタークラスの専用スキルだからではないですか?」
「適応が不可能なものは表示されないってことか」
その後も内容を確認していくがそれ以上はおかしな部分はなかった。
「あれ? 主さまって水泳スキル六も持ってたんですね」
「持ってるね」
「泳げないと伺っていましたけど、泳げたんですね」
「馬鹿な。人間が水に浮くわけないだろ。カナヅチだよ」
「はい?」
「水泳スキルって水中で泳いだ方が早くスキルは上がるんだけど、究極的には水中での滞在時間でもレベルが上がるからさ」
「……窒息無効だから長く海の中にいたせい、と」
「だって船長が俺を海に落とすんだもん」
「もんじゃありませんよ。というか、気を付けろと言われていたのに身を乗り出す主さまが悪かったと思いますよ」
「だって幽霊海賊船だぞ? テンション上がるじゃん」
「泳げないのに海でテンション上がるのは稀有な人だと思いますよ」
やや脱線して話がそれていたが、二人は本題へと立ち返った。
「それでこれはどうするんだ?」
「そうですね。まずは試験的に一本作ってみましょう。おすすめのスキルをお願いします」
「マリーさんが飲むのか?」
「そのつもりです。あぁとりあえず二人には必ず鑑定は飲ませるつもりなので鑑定は入れてください」
「というかコレ、複数スキル封入できるのか?」
「理論上は可能なはずです」
「そうなのか。うーん、じゃあ俺が決めていいんだな?」
「お願いします」
「なら……、ってこれどうやって選ぶんだ?」
「魔法陣に表示されているスキルを直接タップしてください」
「なんとわかりやすい仕様なんだ」
ウェイトリーは魔法陣上に表示されているスキルを順番にタップしていった。
タップしたスキルは表示が明るくハイライトされるように変わっていく。
ウェイトリーが選んだスキルは、『鑑定5』『調査5』『感知5』『気配察知5』の四つであった。
それを見たマリーはやや不思議そうな顔をして理由を聞いた。
「あの、主さま。なんというか、やや偏ったスキル選択だと思うのですが、何か理由があるんですか? ないのであれば種類やカテゴリがかぶってなさそうなものを選ぶべきかと思うんですが」
「あーそっちのがいいのかな。いやちょっと気になったことがあって」
「気になったこと?」
「俺が何となくわかる範囲でなんだけども、おそらくマリーさんは『薬草学』『鉱物学』『精霊学』『術式魔導学』『魔道力学』のスキルレベルが五以上はあると思ってる」
「エルダリア時代であれば、それらのスキルは全て十でしたね」
「鑑定も十ある?」
「ありますね」
「俺が選んだスキルで持ってないスキルは?」
「『感知』と『気配察知』を持っていませんね。どちらも魔術で代用可能なのでそちらを使っていました」
「なら『調査』いらないかもな。代わりに『製図』でも入れておくか。持ってる?」
「持ってませんね」
それを聞いて魔法陣を改めてタップしなおしてウェイトリーはスキル選択を整えた。
「それでこれには何の意味が?」
「『オールレンジスキャン』の取得条件が『鑑定10』『調査5』『感知5』『気配察知5』に加えて学術スキルのレベル五以上を五種類だからだ」
「あーなるほど。それは確かに検証して見たくはありますね」
「だろ? まぁ、現状スキルを持ってない扱いになるのなら取得は出来ない可能性が高いが、持ってないと判定されるスキルを制限なく使うことが出来ている以上、『オールレンジスキャン』を取得できる可能性もゼロじゃないはずだ」
「ではそれにしましょう。主さまが使っているイカサマスキルを私も使えるなら使ってみたいです」
「イカサマ……。まぁ別に否定はしないけど正規の方法で正しく入手したスキルではあるからな?」
性能がイカサマ染みているのはウェイトリーも重々承知しているが、ゲーム内で図書館に籠り、もくもくと学術スキルを得るために勉強に励んだ努力の結晶なのでイカサマ扱いは心中複雑なウェイトリーであった。
とはいえ、『オールレンジスキャン』が得られるから図書館に籠っていたわけではなく、学術スキルを得るために頑張っていた副産物としてスキルを得たので、その時は大層喜んだウェイトリーではあったのだが。
「じゃあそのまま発動をイメージして魔力を要求される分だけ流し込んでください」
「了解」
そうしてウェイトリーが言われたとおりに魔力を流していけば、ちょっと信じられない量の魔力を流し込んだところで錬成盤が光り輝きポーションへとスキルが封入された。
そのままステータス表記を確認すれば、なんと魔力を表すMPが二千ほど持っていかれていた。
これは完全回復『魂命修復』と完全蘇生『魂命蘇生』の千五百以上、使い道の全く思い当たらないレイドスペル『大怨霊の天墜滅焔雨』の三千よりも低い数値に該当する。
ウェイトリーの総MPは五千四百弱なので、五分の二ほどのMPを持っていかれた計算になる。
「流石にとんでもない消費だな」
「四個で二千なら一個につき五百ですかね? なら十個まで行けますね」
「デッドマスターの干物も一緒につくれるな」
「と言いたいところなんですが、多分ブランクポーションのキャパシティ的におそらくは六個くらいが限界なんですよね」
そう言いつつ、マリーは出来上がったスキルポーションを拾い上げて試験管をゆすりながらそれを確認した。
それは白と黒の液体が瓶の中に混在し、しかし水と油のように混ざり合わず瓶の中で明確な二色の色を示していた。
ひとしきりそれを見たマリーはそれをウェイトリーへと渡した。
受け取ったポーションにすかさず鑑定をかけその内容を確認する。
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灰色のスキルポーション 品質10 レアリティLR+
[スキル取得:鑑定5][スキル取得:製図5][スキル取得:感知5]
[スキル取得:気配察知5][品質低下無効]
詳細
飲むことでそのスキルの素養を得ることができるスキルポーション
混ざり合わず混在する白と黒の液体はその魔力の性質を表している
一定以上の魔力を持つ生物であれば効果を受けることができ
これを飲むことによって肉体や命に別状はない
ただし 飲むことによって30分ほどひどい頭痛に見舞われる
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「想定していた通りの効果のものみたいだな」
「あの、思い違いならいいんですが、一応内容を書き起こしていただいてもいいですか?」
「かまわないぞ」
そういってウェイトリーはメアリーに紙と鉛筆を頼んで、鑑定結果を書き記して、それをマリーへと渡した。
それを見たマリーは、あぁやっぱり、という諦めに近い表情をして項垂れた。
「頭痛があるんですね。しかもひどい頭痛」
「みたいだな。三十分ほどらしいが」
「どの程度かわかりませんが頭痛薬を用意してきます」
「飲むのは変わらないんだな」
「それはもちろん。人に飲ませるわけですからね」
そういって調合室となっている部屋へとマリーは入って行った。
時間にして十分もかからない程度の時間で戻ってきたマリーは覚悟を決めた表情をしていた。
「いろいろな頭痛に対処できるいい頭痛薬ポーションを用意しました」
「がんばれ」
「では、飲みます」
そういって椅子に深く腰掛けてから、白と黒の液体渦巻く試験管のコルク栓を抜き、意を決してそのポーションを飲み干した。
飲んですぐは時に何も変化がなかったようだが、すぐに表情が歪み、すぐに崩れるようにテーブルへと突っ伏した
「あ゛だま゛い゛だい゛……」
「申し訳ないが草」
「あ゛る゛じざま゛の゛ひどでな゛じ」
「ほれ、頭痛薬を飲め」
「う゛ぅ……」
ゾンビでももう少し機敏に動くよな、というような感想をウェイトリーが抱くような緩慢な動きでマリーは用意した頭痛薬を飲み、再びテーブルに突っ伏した。
「効くまでどれくらいかかるんだ?」
「多分、一、二分です」
「早く効くといいな」
「晩御飯抜きにしますよ」
「悪かったって」
それから数分が経ち、幾分かマシにはなったようなのだが、それでもまだ眉間にしわが寄る程度にはガンガンと頭を苛んでいるらしい苦しみを見せるマリーであったが、普通に話す程度にはマシになってきたようであった。
「酷いですこれ」
「そのようだな。マリーさんの薬が効かないとは相当だな」
「多分、普通の頭痛じゃないですねこれ。なんというか身体的異常というより魔力的異常という方が正解だと思います」
「まぁ理解はできる」
「でもおそらくそれが大事な部分なんだと思いますので、そこまで治せる頭痛薬を作るとスキルポーションの効果まで薄れたり消えたりしそうです」
「なら今飲んだ頭痛薬で三十分我慢するしかないんだな」
「もう二度と飲みたくないって気分です」
「そういってマリーさんは有用ならまた飲むって言いだしそうだが」
「今はもう二度と飲みたくないです」
「そりゃそうだろうな」
三十分を前にして加速度的に頭痛が引き、先ほどまでの頭痛は何だったのかと言うほどに回復したマリーであったが、精神的に疲れたのか、メアリーに心が落ち着くハーブティーをお願いして、それをゆっくり飲んでいた。
ウェイトリーは、自分はまず飲むことはないだろうけど、もし仮に何かが原因で飲むことになったらその時は昏睡してるときに口に流し込んでもらうようにしようと心に誓うのであった。




