晴天
「斎藤君さ...昔いじめてた子が自〇しちゃったってほんと?」
身に覚えがないと伝えた。
「村田君って子、知ってるよね?その子のこといじめてたって聞いたんだけど...」
いじめと指導は全くの別物である。
私は村田のためを思って精一杯指導した。
それに村田は、交通事故で〇くなったのだ。
事実無根である。
私は彼女にいじめと指導の違いについて詳しく話して聞かせた。が、彼女は聞く耳を持たなかった。
「私、昔いじめられてた話したよね。そういう人種は死ぬほど嫌いなの。ごめんなさい別れてください」
ドアノブに手をかける彼女を見た。
あの女の背中はあんなに丸かったか?
昔から人間関係が長く続かない。
去る者は追わず。
それが私のルールだ。
気分転換が必要だ。
今日は部活動がある。
少し早いが、大学へ向かうことにした。
部室の前についた。
部室に、何人かのかげが見えた。
後輩たちだろう。
後輩たちの会話が聞こえてくる。
「斉藤さんガチで無理なんだけど。口うるさいわりにスタメンでもないし。選ばれなかったからって俺らに八つ当たりするのやめてほしいわ」
「斉藤きしょいよな。あいつ高校生の時に、いじめた人が自◯したらしいよ」
「犯◯者やん。まじであいつ好きな人いないだろ。よく平気で生きられるよな」
日頃の彼らの練習態度は、評価されるべきものだ。
上級生である私に対する態度も素晴らしい。
本人を前に失礼な態度をとったわけではない。
そのため、陰口は聞かなかったことにするべきだろう。
私は部室を後にした。
部活動がはじまるまで、ランニングをすることにした。
普段よりも身体が重く感じる。
集中力が低い。
そのためか不注意により転倒してしまった。
ランニング中に転倒したことははじめてだ。
膝をすりむいていた。
途端、涙が止まらなくなった。
自分がどうして泣いているのか見当がつかない。
彼女と別れたことが悲しかったのだろうか?いや違う。彼女はまた新しく作ればいいだけだ。
後輩たちに陰口を叩かれたことだろうか?いや違う。陰口を叩かれるということは、厳しく指導できるている証拠だ。誇るべきことだ。
心当たりを探したが思い浮かばなかった。
心配する必要がないことを心配して、不安になる必要はない。
通りかかった男が、大丈夫かと声をかけてきた。
男が私の腕に右手で触った。
左手にはタバコを持っていた。
歩きタバコはマナーに反する。
私は男にそのことを伝えた。
男が声を荒げる。
私の胸ぐらを掴んだ。
これは正当防衛だ。
私は男の顔面を殴打した。
抵抗する男の腕をおさえつけて、顔面を殴打し続けた。
男は涙を流しながら「やめてくれ」と私に懇願している。
男を見て、やはり私が涙を流す必要はなかったとわかった。
私はまわりを歩いていた者たちに取り押さえられ、到着した警察に身柄を確保された。
私は一方的に暴行を加えた。
一方的な暴力はルールに反する。
ルールを犯した者が、罰を受けることは良いことだ。
危険を承知で向かってきた彼らには、敬意を示す必要がある。
空が青く澄んでいる。
雲ひとつない。
心は非常に晴れやかである。
私はずっと、これがみたかったのだとわかった。