良く効くの。
「おっはよ、リツ」
晴れた冬の朝、私は登校中にリツの背中を見つけて抱きついた。
「おはよ、世奈」
リツは振り返らずに答えた。私は手をほどいて横からリツの顔をのぞき込む。黒いボブカットが今日もよく似合ってる。つるつるストレートのほんと綺麗な髪。リツはやっぱかっわいいな〜。
ニヤニヤしながら覗き込むと、メガネの奥に、浮かない視線をみつけた。目も何となく腫れている。
「あっれ、どうしたの、泣いた?」
リツは視線を逸らした。私は喉の奥がキュッとなるのを感じながらあえて明るくリツに聞く。
「なに、渡辺と喧嘩でもした?」
彼氏との喧嘩。最近のリツからよく聞いている。肘でちょいとリツをつつくと、「ん」とだけ言ってリツはうつむいた。ざわっとする心を押さえ込んで、明るく慰める。
「なーんだ、大丈夫だよ、またすぐ謝ってくるって」
「……ちが」
そう言ったリツの目から、ぼろぼろっと涙がこぼれた。メガネに落ちた涙がレンズ部分に溜まっている。
「え、は、なに」
慌てる私に、リツはメガネをむしり取り、目に袖を当てながらしゃくり上げはじめる。
「ちょちょちょ、どうしたん……」
「わっ……別れよって……喧嘩ばっかで、っ……わたしが可愛くないから、ほかに……好きな子が、……っ、できたんだって」
「……なああああああにいいいいいいい??」
一気に頭に血が上った。首のあたりが熱くなってくるのを感じる。
リツを、振った?! 可愛い私のリツを!?!? 好きだって言うから応援してたのに、付き合い始めたと聞いて一人で残念カラオケに行ったのに、リツを傷つけた、だと?!?!?
「今日サボろ、リツ、カラオケいこっ。そんで忘れよあんな奴!」
「ダメだ……よ……サボったら」
リツはくぐもった声で、くす、と笑う。
「じゃあ放課後! 私、渡辺がトイレに間に合わない呪いと、小指ぶつけまくる呪いと、お昼絶対食べられない呪いと、バスに一生乗れない呪いかけとくから!!」
そう勢い込む私に、リツは「ありがと」って真っ赤な目で笑った。
「私の呪い! 効くから!」
私はリツを抱きしめた。
数日後。クラスでは渡辺の噂でいっぱいだった。
「ねえC組の渡辺の話聞いた? なんか小指骨折して、トイレ間に合わなくて漏らしたんだって」
「そうそう、あと、骨折したせいで毎朝バス乗り損ねるって」
「最近財布落としすぎて毎日昼抜きなんだって」
「マジで? 運なさ過ぎじゃね??」
ぎゃはー、と笑い声が響く。
聴きながら私はふん、と鼻を鳴らした。
私の呪いは効くんだよっ。
読んでいただいてありがとうございます!!