さらにおまけのこぼれ話
すべてが終わってから数年後、みたいなタイミングの話です。
同じ世界の、以下の話のひとたちがでてきます。
冴えない社畜リーマンな俺が、秒で獣人魔王に堕とされたわけ
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小高い丘のてっぺんに、その洋館はあった。周りを高い針葉樹に囲まれ、煉瓦造りの赤黒い重厚な壁に、複雑な形状の瓦を敷き詰めた黒々と厚みのある屋根。館のはしっこにはドーム屋根がしつらえてあり、その反対側の屋根からは細長い煙突が突き出ている。
その洋館は、いつのころからかこう呼ばれていた。
魔女クロキの館。
ここには毎日、様々な獣人が訪れる。
彼らはみな、すっきりとした顔と、輝きを増した見た目で出てくるのだった。
今日も一匹、いや、一人と一匹の客が来る。
「へえ、ここが噂の魔女さまとやらの本拠地か。こいつのおかげで、この帝国だけは和睦交渉するしかなかったんだよな」
ふんっと、館を見上げて不満そうに、男が鼻を鳴らす。黒く短い髪にガッシリとした体躯。かつてはぷよぷよだったその身体は、この世界で駆けずり回るうちに、随分と逞しくなった。
「ん、油断なんてしやしませんよ。荒事もしませんって。あくまで俺たちはぶらり万国周遊旅行の身。俺はあなたと楽しく過ごせりゃそれでいい。魔女とやらが俺と同じ存在か少し気になるていどです」
まるで、独りごとのように男が呟き、洋館の扉を押し開く。
ちりちりんと、鈴が鳴る音がした。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
パリっとしたスーツに身を包んだハスキー犬の獣人がうやうやしく頭を下げる。
獣人は、男を見てその鋭い青い瞳をさらに細めた。
ピリッとした殺気を、双方綺麗に押し隠す。
「こちらへどうぞ」
案内された部屋には、優雅に椅子に腰をおろした、長い黒髪の女性。
この世界では珍しい、完全人間体のその姿に男は息をのむ。
「あら珍しい。完全人間形態の方がここに来たのははじめてです。その子はポメラニアン?」
男はちらりと小脇に抱えた白いもふもふに目をやり、そしてこたえた。
「いいえ、くそかわいいアザラシです。ってか、思いっきりヒレがついてるだろ」
おしまい
ここまでお読み頂いた方、ありがとうございました!
つづき書かない宣言しながらも、なんだかんだであの元社畜とアザラシ魔王の関係性は気に入ってて、つい書いてしまいました。
追記:
この話にいいねをうってくださった方、ありがとうございます!すごく嬉しいです。よかったね、社畜、みたいなきもち。
もちろん、他の話のいいねも嬉しいのですが、ここはほんとおまけすぎる話なので、なおさらうれしいです。
さらに追記:
この話だけ、他の話の10倍のいいねが……!
なんて社畜にやさしい世界。ありがとうございます。
しかも畏れ多くも社畜話にもブクマ評価いただいており、うっかり、短編日刊ランキングの下の方に社畜が悪役令嬢にはさまれて載っていた日には爆笑しながらスクショ激写せざるをえませんでした。
みなさま本当にありがとうございます!