【一場面小説】ジョスイ物語 〜官兵衛、ガラシャと邂逅するノ段
四国征伐を終えた黒田官兵衛は大坂天満で暫しの休息にある。旧知の高山右近に誘われて、予てから関心のあった南蛮寺を訪れることにした。
欄間には羽をつけた童子が天女の様に舞っている。 南蛮の琵琶と長持ちのような箱が鳴り、得も言われぬ美曲が響く。官兵衛は高山右近に連れられて、大坂に新造された南蛮寺を訪ねている。厨子に納められた母子の絵に祈りを捧げる女人が官兵衛の目に入った。右近が言う。
「長岡忠興殿が内室の珠殿、ガラシャ殿でござる。」
白々しい言い方が気に障る。謀反人明智光秀の娘だ。 父親似のその端正な横顔を見つめていると、官兵衛に苦い昔日が去来した。救えなかった女達がいた。雅な風情の母は自分が元服する前に病死した。初恋の人は婚礼の日に嫁ぎ先で攻め殺された。土牢に捉まった時、密かに支えてくれた荒木の女は、最後には河原で首を刎ねられた。
自分はそんな犠牲の上に胡座をかき、「関白の知恵袋」を気取っているのではないか。何よりもガラシャの生真面目な父親を唆し、その上で「誅殺」して天下を収めたは秀吉と自分だ。官兵衛は激しい懺悔の気持ちに苛まれた。