今も、これからも、君が私の一番なんだ
人生で一番誰かを好きだと思えた夏。
そんな君を想うことさえ辛過ぎて
泣きながら好きを諦めた夏の終わり。
君を忘れるために別の人と付き合ってみた秋。
でも、思わせぶりな君からの連絡が来る度に
君への気持ちを思い出して胸がギュッと締め付けられた冬。
久しぶりに君と会って本当の好きを再確認した冬の終わり。
出会いはありきたりだった。
仲良いグループで飲んでる時に君がきた。
私の親友が紹介してくれた。
「2人は初めましてだよね?俺の友達の優。こいつもお前がハマってるゲームずっとやってんだよ」
今っぽいサングラスにだぼっとしたTシャツを着崩してら君はすごくチャラそうで
「あ、そうなんだ。はじめまして。」
としか言わなかった。
「あ、はじめまして。」
ありきたりな出会いにありきたりな挨拶。
隣にいたのに話したのはそれぐらいだった。
途中で女の子たちがきて、みんな君にメロメロだった。
私は隣から離れて、チャラそうな君が今日どの子を持ち帰るのか一人で観察しながらちびちびお酒を飲んだ。
結局その子たちは相手にされなくて、
飲み会も終盤になった頃君がまた私の隣に来た。
「名前、なんだっけ?」
「言ってなかったですね。凛です。」
「凛ちゃんか。なんか歌おうよ。」
そこから私たちはお酒を飲んで歌ってを繰り返した。
お互い懐メロが好きで、ゲームの話でも盛り上がって
お酒も歌も進んだ。楽しかった。
気が付けばバーが閉まる時間になって、
みんなが身支度をし始めた時に君は言った。
「今日、凛の家泊まっていい?」
そうだよな。って思った。
やっぱ君はチャラいねって。
私はただ今日お持ち帰りに選ばれた女なだけだよなって。
でも、それでも嬉しかった。
他の女の子じゃなくて私が選ばれただけで嬉しかった。
ばかだよな、でも、まあいっか。
そう思い少し濁らせながらこう答えた。
「いいですけど…」
「じゃあいこっか」
そこから私たちは、みんなに気づかれないように
二人だけで帰った。
部屋、もっと綺麗にしておけばよかったな。
なんて思う隙もなく家についてすぐに体を重ねた。
久しぶりのセックスだった。
さっきまで嬉しかったのに、終わったあと虚しくなった。
セックスってこんなんだったっけって。
でも、寝る時君が抱きしめてくれて
頭を撫でてくれて
安心できた。
だけど好きになってしまいそうで怖かった。
ちがう、もう好きになってたから
怖かった。
次の日になったら君は勝手に帰ってるんだろうと思ったし
もう会えないであろう君にばいばいっていうのも辛くて
ずっと寝たふりをしてた。
でも、君は帰らないでずっとゲームをしてた。
私を起こして一緒にゲームしようよって言ってくれた。
もう太陽も沈んでたね。どれだけ寝てたんだろうね。
そのあと、映画を見ることになった。
帰ってほしくなくて、短めのドラマを選んでみた。
「これ、ドラマじゃん。」
「うん。でも好きそうだなって思って。」
君は特に文句も言わず2人で何時間もかけてそれを見た。
肩と肩が触れてて、そこだけ凄く熱くて。
ドラマの内容なんかより、君との空間が楽しかった。
そんな私の隣で君が何時間もドラマに
見入っていたら、いい時間になった。
そろそろ帰っちゃうのかな。
寂しいな。
そう思ってたけど、君は帰らなかった。
「隼たちと飲みに行こうよ。」
正直私はお酒が得意じゃないし好きじゃない。
だけどまだ君といれると思うと
ワクワクして、嬉しくて。
そんな自分を隠すように、
できるだけ平然を装いながら
「え〜、まあ、いいよ」
と言った。
家を出る時、君はこう聞いてきた。
「服、臭いから凛の借りていい?」
やっぱり君はチャラいね。
なに踊らされてるんだろう自分。
馬鹿じゃん自分。
でも嬉しくて。
「いいよ。」
また嬉しさを隠すために、
できるだけ適当に
できるだけそっけなく君に服を貸した。
私が選んだNIKEのTシャツ、凄く似合ってたな。
私の服を着こなす君の少し後ろを歩きながら
狭くて、でもきっとイケてるんであろうバーに着いた。
共通の友達の隼と合流して、
恋バナなんか話して、
また苦手なお酒が進んだ。
どんな告白が良いかなんて高校生みたいな話になって、
ちょっと迷って、
「2人で散歩してる時にさらっと告るとか?」
なんて何の変哲もない答えをした。
優は?
なんて聞けなくて、恥ずかしくなって
目の前にあったグラスを飲み干した。
その後も色んな話で盛り上がって、沢山飲んで、
酔っ払って、ずっとこのままでいたいなんて思って。
でも君は言った。
「明日仕事早いからそろそろ帰らなきゃ。」
とうとう帰っちゃうんだな。
急に現実に戻されたようで、寂しくなって、
いつも以上にお酒を飲んだ。
でも君は、
「凛の服返すから一緒に家行っても良い?」
って、私にだけ聞こえる声でそう聞いた。
うまいなあ。ずるいなあ。
なんて思いながら、でもまだ一緒にいたくて、
帰っても都合のいい関係を繰り返すだけなのに、
それでもまだ一緒にいたくて。
「私もそろそろ帰ろうかな」
なんて言って、まだ飲もうよと引き止める隼を
よそに二人時間差でバーを出た。
インターホンが鳴って、ドアを開けて、
昨日と同じことを繰り返した。
体を重ねた後、また虚無感が襲ってきて、
でも、昨日よりも心なしか強く抱きしめてくれて
寝てる私のほっぺにキスをしてくれる君のおかげで
幸せで幸せでしかたなくなった。
きっと私は君と付き合えない。
君はそんな風に私を見ていない。
わかってるのに。
頭ではわかってるのに、もう止まれなかった。
好きになってしまったんだ。
次の日もまた一緒にいれるのかな。
なんて淡い期待を寄せながら眠りについたけど、
君は夕方になって足早に身支度を始めた。
それを止める筈もなく、私はただベッドから君を眺めてた。
「じゃあ、いくわ」
「うん、またね。」
君はあっさり帰った。
連絡先も交換しないまま帰った。
もうきっと会うこともないんだろうな。
なんて思いながら、
心のどこかではまた会えるなんて期待して。
もちろんそこから連絡はなかった。
私と君が繋がってる唯一のゲームでさえも一緒にしなかった。
諦めようと思った。
諦めるもなにも、諦めるしかないよねって。
それから何日かして、
最後の神頼みになんて思いながら君をゲームに招待した。
君はすぐに入ってくれた。
ボイスチャットをオンにして、久しぶりに君の声を聞いた。
まだ何日しか経ってないのに、
君の低くて優しい声が懐かしくて、
ゲームどころじゃなかった。
ゲームをしながら君は言った。
「明日何もなくてさ、暇だな。」
「そうなんだ。珍しいね。」
誘えるわけもなく、私はただそっけない返事だけした。
「凛は明日何かあるの?」
「何もないよ。暇人だもん笑」
「そっか」
そこから少しの間沈黙が続いた。
きっと君にまた会えるチャンスなのに、
私には誘う勇気なんてなくて。
ゲームになんか集中出来なくて。
でも、君はあっさり言った。
「じゃあ今から飲もうよ。」
その言葉が嬉しくて、嬉しくて、
でもできるだけバレないように
「いいよ〜。」
と軽く返事をした。
そこでやっと連絡先を交換して、
いつも通り夜中に君と会った。
居酒屋って気分でもなくて、
私が知ってる唯一のお洒落なバーに連れて行った。
そこはお洒落過ぎて、分からないお酒ばかりだった。
君もお洒落なお酒には詳しくないみたいで、
二人で目新しい名前のお酒を頼み合うことにした。
出てきたお酒はまだ初心者の私にはほろ苦くて、
でも、君が隣にいるだけで美味しく感じた。
大人になれた気がした。
でも結局大人にはなれなくて、
たった何杯かで酔っ払ってしまった私を見て
「そろそろ帰ろうか?」
と君は言った。
もちろん帰るのは私の家だろう。
今日もだぼっとしたTシャツを着崩してる
君の背中を後ろから見つめながら歩いて帰った。
きっと今日も都合のいい女になるんだ。