自衛隊怪談「黒い洗濯機」
自衛隊時代に体験、または聞き集めた怖い話です。
出てくる人物名はすべて仮名です。
※登場人物はすべて仮名です。
私の同期だった女性自衛官から聞いた話
独身の自衛官は駐屯地で暮らす義務があるのですがそんな独身の自衛官の生活する場所を「営内」と言います。
営内とは寮のようなもので部屋の広さや人数は駐屯地や部隊ごと違いますが、だいたい4〜5人が一つの部屋で生活をしています。
営内での生活は寮でのそれと同じでトイレも風呂も共同です。
しかし風呂は大浴場で大きいし、トイレも数があるので問題ありませんが大変なのは洗濯です。
洗濯機は数が少なく演習から帰った後などで洗い物が多くなった際には順番待ちになりその日1日洗濯機が使えないことも珍しくありません。
それは女性自衛官も例外ではありません。
なので各部隊には最低一台くらいは自前の洗濯機が設置されていました。
それらは既婚者の隊員が家で買い替えて使わなくなった古い洗濯機や定年する隊員が最後にお世話になった部隊に対して寄贈した洗濯機などでした。
ある日のこと。
女性自衛官の営内にある一台の洗濯機から泡が大蛇のようにモコモコと出て廊下まで伸びていました。
洗濯室の一番奥にある最近来たばかりの比較的新しい真っ黒な全自動洗濯機、泡はそこから出ていました。
たまに海外の洗剤を使ったり、洗剤の量を間違えるとそのようなことになるらしく「まあ、やってしまったものは仕方ない」と数人で泡を片付けました。
次の日、またあの黒い洗濯機から大蛇のように泡がモコモコと出ていました。
泡は洗濯室から出て廊下まで伸び、ある部屋の前まで来ています。
そこは田辺3曹という女性隊員が後輩隊員2名と使用している部屋でした。
その日も泡を片付けました。
次の日もまたその黒い洗濯機から泡が出ていました。
その泡は廊下まで伸びまたも田辺3曹の部屋の前まで伸びています。
次の日も、また次の日も泡はやはり田辺3曹の部屋に伸びていました。
あまりに続いたので営内に住む隊員で話し合ってその黒い洗濯機の使用を禁止することにしました。
コンセントを抜き「使用禁止」と書いたガムテープをフタに貼り使わないようにしたのです。
次の日の朝、起きてトイレに行こうと部屋を出ると、洗濯室から大蛇のような泡が廊下に伸びていました。
泡はまたもまっすぐ田辺3曹の部屋の前に。
誰かが洗濯機を回したのか?
洗濯室に入り黒い洗濯機を見ると、使用禁止のテープが剥がされてフタが開いている以外はコンセントは抜かれていて中は空のままでした。
営内の女性自衛官の中にはこの洗濯機を不気味に感じる者も出てきました。
「夜中に誰かが勝手に使ったのかもしれない」
そう結論づけて、今度こそ使えないようにフタ全体をガムテープで固定してA4サイズの紙に大きく使用禁止と書いて貼っておきました。
次の日、仕事が終わり営内に戻ると洗濯室の前に営内で暮らす女性自衛官たちが集まっていました。
見ると例の黒い洗濯機の前で田辺3曹が怯えたように泣いている。
一体なぜこんなことになっているのか?
近くにいた後輩の女性隊員に事情を聞くと、泡の出る洗濯機は「荒田2曹」の物だったと分かった、というのです。
荒田2曹とは田辺3曹と同じ部隊で勤務していた男性隊員で、田辺3曹に対してしつこくストーカー行為をしていた隊員でした。
その日、件の泡の出る黒い洗濯機を撤去しようと田辺3曹を含む数人で洗濯機を持ち上げたところ、持ち上げてすぐに田辺3曹が短い悲鳴をあげて飛び退いた。
周りがどうしたのか聞くと田辺3曹いわく洗濯機が「嗤った」のだという。
いやらしく粘り気のあるその嗤い声には聞き覚えがあった。
普段、勤務していると真後ろから聞こえていたあの嗤い声、荒田2曹の声そのものだった。
荒田2曹はいつも、いつの間にか田辺3曹の真後ろに立って何をするでも何を言うでもなくニヤニヤとした笑みを浮かべ常に田辺3曹を見ていました。
それが上司の知ることとなってしまい荒田2曹は注意を受けて田辺3曹と違う部署に異動となったのですがそんな事件の後の異動ということもあり、新しい部署に馴染めず依願退職をした、そんな隊員でした。
荒田2曹は自衛隊をやめる前に洗濯機を1台寄贈して辞めていきました。
その黒い洗濯機は荒田2曹が置いていった物で、下の方に小さく「荒田2曹寄贈」と書かれていたので分かったのだそうです。
そうすると洗濯機から出ていた泡が常に田辺3曹の部屋まで伸びていたのも偶然とは思えなくなりました。
田辺3曹が泣きながら「この洗濯機をすぐにここから出してください!」と言うので、すぐさまその黒い洗濯機は男性隊員の営内にある洗濯機と交換されました。
男性隊員が使用している分にはそんな泡が出るようなことは一度も無かったのだということです。
ちなみに荒田2曹は自衛隊を退職した今も生きています。
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