【プロローグ】惹かれる青と、不可解な緑
夜明けの街はぼやけている。点けるか消すか決めあぐねているネオンが自信なさげに揺れているし、始発を待つ人々がまばらに欠伸とため息を吐いているからだ。
「今日の朝ごはんはアイスコーヒーとタバコ2本です」
今日気づいたこと。
わたし、7のつく日は「青色」を買ってしまっている。アマゾンのカートに何も考えずアイテムを突っ込んで、いざ購入手続きに進もうとした時の画面の青さにびっくりした。くすみブルーのマニキュアに青のトレーナー、水色デイジーのピアスetc...。とりあえず青のシーサーの置物だけは削除して購入確定をクリックした。
時計は0:00を少し過ぎていて、それはもう昨日のことになっていた。でもまだ自分が眠っていないだけに、それは今日のこととして消化されずにお腹の中でじわじわとくすぶっている。まだ消化できないし、消化できていないから眠れない、眠れないから消化できないの悪循環だ。
「青色」を衝動買いしたのは水曜だからじゃない。私は戦隊モノなら青が一番好きだけど、小松さんはどう見ても緑って感じだ。主役の赤でも頭脳派の青でもなく、おとぼけ愛されキャラの緑だ。
始業時間4分前、疲れの溜まった1週間折り返し地点水曜の女子更衣室。うっかり破いたストッキングにイライラしていると、定期点検のマイクテスト放送が流れた。「マイクテス、マイクテス...」って変にかっこつけた口調と後ろの方で小さく堪え笑いをしている女の子たちの声。小松さんの声はすぐ分かる。声変わり途中の中学生みたいなハスキーボイスで話し方もぽやぽやしているから。背も高くないし明るい茶髪はいつも寝癖がついていて、あの感じで営業なんて、と勝手にいらない心配をしてしまう。朝ごはんの話、あれは前に部長がマイクテスト当番だった時のをパロったのだろう。でも春先のまだ肌寒い時期にアイスコーヒーとタバコ2本はあまりにセンスがない。栄養バランスも悪い。そんなところがまた緑っぽくもある。
アイスコーヒーとタバコ2本...と、寝癖?
何だろうこの引っかかり。私はクローゼットから厚手のストールを引っ張り出してそれにしっかり包まると、ベランダに続く窓を開ける。びゅうっと外の冷たく澄んだ風が部屋へ吹き込んだ。窓の額縁を押し広げてまるで絵の中に入ったみたいな感覚。不思議とさっきまで窓越しで見ていた人々がきらきら形を持って見える。一人ひとりにストーリーがあって、それぞれに色を持ち、自ら光を放っているようだ。
小松さんも朝タバコを吸った時、これと同じ景色を見たのだろうか。私は今真夜中にいるけれど、いまの時期なら朝も同じくらい寒いだろう。そんな寒い春の朝のベランダで小松さんは冷たいアイスコーヒーを飲んで、タバコ2本分の時間を過ごしたのだろうか。寝癖を直す時間もない中で。