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49 立ち上った炎

「やっと会えたな」


 ここで会うだろうと覚悟はしてきたつもりなのに、いざ目の前にその姿を見ると違和感を覚えて困惑してしまった。


 銀次は炎を前に臆することなく、いつもの調子で穏やかに笑う。

 ただ少し顔色が悪そうに見えて、龍之介は眉をひそめた。


「お前、シェイラの薬を飲んだとか言うんじゃないだろうな?」

「飲んだよ」

「何で! あんな怪しい薬、死ぬかもと思わねぇのかよ!」


 平然とした銀次の態度に飲み込まれまいと、龍之介はムキになって訴えた。


「リスクはあるだろうと思ったけど。飲まない理由なんて、俺にはなかった。だから俺は自分の責任で、あえてそれを飲む選択をしただけだよ」

「お前俺に聞いたよな? 何でそんなところに居るんだって。お前こそどうしてそっちに居るんだよ」


 あの時はその意味をすぐに気付くことはできなかったが、今はひしひしと実感することができる。


「お前等、ちょっと待てよ!」


 「銀次」と掴みかかる龍之介を力ずくで剥がして、修司が龍之介を背中に庇いながら割り込んだ。一度趙馬刀の光を消したのは、対話を求めるサインだ。

 銀次は黙ったまま修司へ向いた。


「アンタ、本当に薬を飲んで力が使えるようになったのか?」


 (いぶか)し気に覗き込んだ修司の手首を見て、銀次は苦笑した。


「それは俺も聞きたいですね。キーダーの貴方には俺がどう見えますか?」


 銀次を睨みつけた修司の額を汗が伝う。辺りに広がる炎の熱で温度がジワジワと上昇してきて、龍之介も首の汗を腕で拭った。


「どう見える、って。具合悪そうな病人が、無理して立っているように見えるけど?」


 銀次の左手は、ずっと胸の前に当てがわれている。自信ありげな態度の割に覇気が薄いのも事実だ。


「シェイラの狙いが朱羽さんなら、ターゲットは俺じゃなくても良かったってことかよ。けど銀次、そんなの飲んで本当に大丈夫なのか?」

「心配するな。俺は力を手に入れたんだ、その為の痛みなんて大したものじゃないよ」

「馬鹿野郎! お前は単に能力者になりたかったわけじゃない、キーダーになりたかったんじゃないのか? アイツらと一緒に牢に入る気かよ。お前ならキーダー以外の何にだってなれるかもしれないのに。今まで努力してきたことを無駄にするんじゃねぇよ」

「もういいんだ、リュウ。これは俺が決めたことだ。薬を飲んだからには、それに見合った仕事をしなきゃならない。リュウ、たとえお前でも邪魔するなら俺の敵だと思うからな」

「ふざけるな。仕事、って。バイトみたいに言うなよ。違うだろ?」


 勢いのまま再び銀次へ飛びかかろうとした龍之介を、修司が後ろから腕を掴んで止めた。


「やめろ龍之介。コイツお前の説得なんて聞く気ねぇだろ。俺たちと戦う気まんまんじゃねぇか。だったら、俺にやらせろ」

「コイツは俺の友達なんです。だから俺が説得しなきゃいけないんです!」

「落ち着けよ。コイツは元々ノーマルなんだろ? 具合は悪そうだけど、薬効で力の気配を見せてやがる。全くどうなってんだよ」

「キーダーと戦えるなんて、光栄です」


 銀次は押さえていた胸から手を放して、痛みを逃すような表情で大きく息を吐き出した。


「貴方たちを呼び出す事、足止めすることが、薬を飲んだ条件ですから」

「足止めってどういう意味だよ」


 修司が趙馬刀に刃を付けるのと銀次が迎撃態勢に入ったのはほぼ同時だ。


 銀次が突き出した掌の先の風景がぐにゃりと歪んで、白い光が盾のように広がる。

 修司が振り下ろした刃を防ぎ、銀次は次に盾を鉾に変えて光を振り上げた。


 その瞬間だった。


 背後に気配を感じて振り向いた龍之介が「うわぁ」と声を上げる。二人の戦闘が一瞬止んで、けれどすぐ後に互いの隙へと光の刃が交差して突っ込んでいく。


 ガンと大きな音を立てた衝撃に弾かれて、銀次と修司の距離が広がった。


「二人とも、待って!」


 「あれは」と声を震わせて龍之介が指し示した先は、海とは逆の方向だ。二人が渋々と中断を目で言い合ってその先を仰ぐと、今度はゴウンという重い音が地面を軋ませた。


 暗い闇に炎の柱が立ち上ったのだ。


「あれってアルガスの方じゃないんですか? 爆発? まさかシェイラが……」


 公園での去り際、彼女が手にしていたカーキ色の手榴弾を思い出す。

 慌てる龍之介に、銀次が「だろうな」と笑った。

 あの場所に居るみんなの顔を重ねて、龍之介は「何でだよ!」とさすまたを振り上げる。


 「来るな、龍之介」と修司は銀次を睨む。


「足止めって、ガイアの所に俺たちを行かせるのを阻止するんじゃなくて、シェイラをアルガスに向かわせるためにってことなのか?」


 修司は刃とは別の光を銀次に投げつけた。咄嗟に腕で受け止めた銀次が、痛みに顔を引きつらせたが、ボールでも扱うように光を地面に払い除ける。


「シェイラはノーマルだから、能力の気配はない。彼女の扱う爆薬も然り。キーダーが対ノーマル戦に弱いってのは、専らの噂です」

「確かに俺たちキーダーは相手の気配に頼って戦う事も多いのかもしれない。けど、それが直接の勝敗には繋がるだろうってんなら、それは大間違いだからな」

「アルガスの本部は在籍のキーダーこそ多いが、今常駐しているのは数名。だから、今が狙い目だとシェイラが言っていましたよ。自分は運が良いって」


 背後の炎を見上げた修司の不安げな視線に龍之介は戻る提案をしようとしたが、修司がその気持ちを察して「落ち着けよ」と先に断った。


「俺たちが向こうに行ったって、変わらねぇよ。綾斗さんたちを信じよう」

「けど、美弦さんは……」

「大丈夫、アイツは強いから! 本人はあのくらいの傷、ダメージとも思ってねぇよ」


 美弦の怪我は、シェイラから龍之介を守った時に負ったものだ。

 気持ちを抑え付けるように叫んだ修司に、龍之介は彼女の無事を祈りながら「分かりました」と従った。




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