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11 もし自分が--

出生時の血液検査は国民の義務だ。


そこでまず人は『キーダー』か『ノーマル』に振り分けられる。

『キーダー』は力を制御するために銀環がはめられ、十五歳になると『アルガス』という機関に入って日本を守る仕事をするのだ。それを拒否すると、キーダーとしての権利や肩書、力までもを剥奪されて、ノーマルと同じ一般人の扱いになる。そんな人を『トール』と呼んだ。


 即ち、この国で力を持って生きるという事は、その力を国へ捧げることを意味する。


 ところが、この一般的な流れから外れた能力者が存在すると銀次は説明した。


「能力があっても、稀に検査をスルーしてアルガスの管理下から外れてるやつがいるんだよ。産院じゃない所で生まれたり、外国とか規制が緩い場所だな。故意じゃないにしても、もし何も知らずに大人になって突然自分の潜在能力に気付いたらどうすると思う?」

「アルガスに報告しなきゃならないだろ。義務なんだから」


 首をぐるりと捻りながら龍之介が答えると、銀次は「そう言うと思ったわ」と笑った。


「それは優等生の答えだろ。まぁ、俺だってキーダーになりたいからそうするけどさ。アルガスの束縛を逃れた能力者は、『バスク』と呼ばれてその力を悪用しようとするんだよ」


 確かに手を使わずに物を自由自在に操ることができるのなら、強盗でも殺人でもありとあらゆる完全犯罪も容易くできるだろう。


「だから、それを取り締まるのがキーダーの仕事だ。バスク相手にノーマルの警察じゃ話にならない。それこそ、この世界にとって人が一番恐れるのは、キーダー対ノーマルの勢力図だ。昔は色々あったみたいだけど、今はノーマルがキーダーを祭り上げて能力者を能力者に取り締まらせようってのがアルガスの存在意義みたいなものだな」


 「そうだ」と顔を上げて銀次はポケットから自分のスマホを取り出した。


「隕石とか爆発とか、キーダーが関わる事件は多いけど、一年前くらいだったかな、あぁ日付がそうだ。去年の春、町中で突然キーダーとバスクが戦闘になったらしい」


 龍之介にモニターを向け、一枚の写真を見せる。


「芝高のコが偶然居合わせたって言って写真を送ってくれたんだ」


 煙幕で(かげ)る建物の前で、黒い人影を相手に手を伸ばす女の背中が写っている。少しブレ気味で不鮮明なものだが、龍之介は思わず「朱羽さん?」と尋ねた。


「いや、恐らく田母神京子だ。戦闘が凄まじかったって言うし、勝ったのはキーダーだからな。そんな強い人に書類仕事させとくかよ。それにお前の女神様はボブなんだろう?」


 スカジャン男が言ったように、一年前の髪型なんてどうにでもなりそうな気がするけれど、朱羽は書類仕事がメインだというから、銀次の言う通りなのかもしれない。


 「そうか」と納得しながら、龍之介はもし自分がバスクだったらと想像してみた。けれど生憎自分の生まれた場所が近くの総合病院だった現実を思い出したところで呆気なく終了してしまう。


「じゃあ、またな。今度ゆっくり仕事の話聞かせろよ」


 先にバイトへ向かった銀次を見送ってから、龍之介はのんびりとベンチから立ち上がった。


 日向に入った途端ダラダラと流れ出した額の汗を手の甲で拭うと、汗が目に入って瞼の端がヒリと痛む。

 足を止めて「痛ぇ」と何度か瞬きをしたところで、龍之介はぼやけた視界に入り込んだ人影にハッと息を呑んだ。まさかという思いに答えるように鮮明になっていく相手は、この状況で再会するには好ましくない相手だった。


 忘れるわけもない。

 あの桜の夜に龍之介からバイト代七万円を奪おうとしたチンピラが、公園の入り口の向こうを右から左へと横切っていく。スカジャンではなく、黒地に派手な花模様のアロハシャツ姿だ。

 狼狽える気持ちを抑えて、奴の動きだけを視界の隅に捉えながら目を逸らした。

 あの日一緒だった刺青(いれずみ)の女はいない。ただそれだけにホッとしながら、龍之介は男が行き過ぎるのをじっと待った。


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