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【悲報】現代異能の全てをラーニングした男が異世界召喚され『加護』まで得たからもう終わり

プロローグ

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「ここが、私立ぱこぱこ大学かあ」

 私立ぱこぱこ大学の前に1人の青年が立っていた。

 伊瀬イセ カイはどこにでもいる大学1年生である、正確に言えば、ぱこ大の入学を機にどこでもいる大学生になろうと夢見ている1人の男の子であった。

 というのも高校の3年間は血で血を洗う争いに幾度となく巻き込まれ、その都度、自身の平穏を脅かす全ての存在を粛清し普通の高校生活を送ろうと努力していた、しかしタッチの差でその夢は叶わなかったのだ。

 海は、一般的な青春に憧れていた、高校の時にやりたかったことは沢山あった、女子との二人乗りや、イオンでのデート、活動目的不明の部活動に入ってのダラダラとした日常などあげればきりがない。いい雰囲気になりそうな女の子は大勢いたが、どの子も『~の巫女』だとか『~の末裔』だとか『~の最高傑作』だったらしく恋の予感と同時に強大な敵が襲ってきたのだ。

 その都度血反吐を吐きながら死ぬ思いでそれぞれの敵に有効打となる『魔法』や『気』や『超能力』などをその都度ラーニングし返り討ちにしてきた結果、高校3年生の冬頃にはこの地球上から異能の秘密結社は全て海の手によって壊滅したのだ、最後の秘密結社『宵の晩餐会(イルミナティ)』を壊滅させたのは、奇しくも高校の卒業式であった。

 殺戮続きの日々で受験勉強をする時間もなく、第一志望のメイジ大学に落ちた海は、泣く泣く偏差値35のぱこ大に入学を決めたのだった。

 しかし入学の日が近づくにつれ、偏差値の差などあまり気にならなくなっていた、それほどに『大学生』というモラトリアムの価値は大きい。

(大学に入ったらまずは1軍のグループと仲良くして、バイトはじめて、サークルに入って、彼女作って、3軍のやつに代変してもらって彼女と昼からぱこって、バイト先のJKと浮気して、彼女にバレて、仕返しにサークルの先輩と浮気されて、その仕返しにさらにゼミの子と浮気して、別れて、1軍のやつらに慰めてもらいながら#最高の仲間 #今日も朝まで #年取って最近オールきちぃってSNSに投稿したいなあ)

 海の夢は広がっていた。もちろん今日に合わせて髪型を量産型キノコヘッドの前髪を少し重めにしてパーマをかけ、私服も原宿で買い、足元にバンズを履いた。準備は完璧だ。

 ぱこ大の門をくぐり、敷地の中に入ると、何やら賑わいができている。サークルの勧誘をしているようだ。大学生っぽくてとてもいい、海はそう思った。

「軽音やるっしょ?」

「バスケサークルで汗を流そう!!」

「落研よろしゅう」

 勧誘の人間に次々とチラシを渡されるが、海の心を動かすことのできるサークルはなかった。

(あんまり興味を惹かれるサークルがないな……)

 海がその場を離れようとしたその時「陶芸サークル入りませんかー?」と1枚のチラシを渡されたのだった。

(陶芸か……集中して1つの作品を生み出す。まさに今までの俺と正反対なサークルだ、普通の大学生の一歩としてはいいのかもしれない)

 今まで目の前のものを壊すことしかしてこなかった海には、新しく1から創造する陶芸がとても魅力的に映った。

「あ、あの……俺、陶芸サークル入ります」

「え?! ほんとに? ありがとー! 嬉しいなあーー!!」

 ひらっひらの黒のミニスカートに白タイツでツインテールの女の子が駆け寄ってボディタッチをしてきた。

「今日は新入生の歓迎会があるから君もきなよー」

 首にチョーカーと太ももにリボンを巻いている女が歓迎会の誘いをしてきた。二人とも幼い見た目ではあるが、恐らくは海よりも先輩だろう。

「う、うっす」

 突然のことで少し戸惑ったが、こういう飲み会にさっと参加できるやつが1軍っぽいという理由で海は参加を決めた。

 入学のオリエンテーション等を終え、飲み会の会場についた海は目を疑った。

 スウェットに健康サンダルを履いた茶髪の根本が黒くなってきている小太り女、髪が赤に近いピンクで今までのボブの常識を覆すようなボブの女と、異常なほど刈り込んでいるガリガリな女、六本木にいるクラッチバック系の見た目の男など、サークルの人間たちは到底、陶芸をしているように見えなかったからだ。

「えー今日は新入生も来ているってことでぇ、君らの時代はすぐそこまで来てるから、俺らぁ陶サーに入ったらもう戻れないからって 話し、それって……そうフリーメイソンだよね、ってことでぇ今日も盛り上がって行きまポンポンポーーーーーン!!!!」

「ウェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!!!!!!!」

 中東系のヒゲ、ウェーブロンゲ、丸サングラスの尿検通らなそうな3点セットを揃えたサークル代表の掛け声と地獄のような嬌声と共に飲み会が開催された。

「皆さんは陶芸でどのような作品を作るんですか?」

 本気で陶芸がやりたかった海は、隣にいた男に質問をしてみたが

「え? なになに? ちゃん海まじで陶芸したかった系男子?」

 全身をルブタンとバレンシアガで固めた違法キャッチの中堅のような男に鼻で笑われてしまった。

「このサークルは、陶芸はほとんどしないかなー、でも飲み会はよくしてるよー お酒きらい?」

 横からへたくそなアイプチでオーバーサイズのパーカーにミニスカートニーハイのEカップぐらいの女、芋田が上目遣いで喋りかけてくる。

「そうなんですね、残念す。お酒は初めて飲むっす」

海は心の底から落胆したが、芋田から差し出されたイエーガーと共に不満を飲み込むのであった。

飲み会のスタートからどれほど時間が経過したであろうか、最初から強い洋酒をカパカパ飲んでいた芋田は、酔いが回ってきたのか、海に

「ねえ、この後一緒に静かなところに行かない? 私ちょっと酔っちゃった」

と上目使いで言った。

(うーん……普通なら完っ全に無しなんだが、新歓コンパで先輩と抜け出すのって大学生っぽいし、胸でかいから今ならありなんだよなあ)

そう思い、海は芋田を外に連れ出した。

「西口のほうに休める場所いっぱいあるんらよお、今の時間は宿泊だからちょっと眠たいよお」

芋田はそのルックスから来る自尊心では考えられないほど積極的であり、かつ正解のルートまで最短距離で後輩を誘導しようという狡猾さを秘めていた。

なんやかんや海は芋田に連れられホテルにやってきた、西洋の城のような外観である。

「へぇーこういうホテルってはじめて近くまで来ましたけど、派手な外観なんですねー」

(かつて遺物から蘇ったヴァンパイアと戦ったルーマニアの城を思い出すな……)

海は少し懐かしい気持ちになったが、これから行われるであろう男女の決戦についてのことですぐに頭がいっぱいになった。

(おしべとめしべをくっつけるやつだよなあ、というか避妊とかってどうするんだろ)

「芋田先輩、ゴムって……」

「ラブホテルにあるから大丈夫だよ!」

海の質問に食い気味に答える芋田先輩、どうやらかなりのやり手らしい、特別な感情はなかったが海は少し複雑な気分になった。

気を取り直して城のようなラブホテルの入り口へ、海は入り口から何やら禍々しいオーラを感じたが、自分の女性経験のなさから来る気負いのようなものだと思い、一気に入り口に入った。


異世界へ

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ラブホテルの入り口を潜り抜けた途端

「召喚は成功だ……」

年老いた男の声が聞こえる。周辺からもざわざわと驚きや歓喜、戸惑いの混じった声が聞こえてくる。

眼前には立派な装飾がされた椅子に座る国王風の男やその左右に位置する老人たち、鎧を着た男たちが50人ほどいた。

「へえー外観だけでなく、中までそういう設定があるんですねー」

後ろにいたはずの芋田先輩に声をかけようと振り向くも、後ろにはローブを着、杖を持った男20人程がいるのみで芋田先輩の姿はない。

「ん? 先輩?」

海がそう呟くのとほぼ同時に、椅子に座った国王風の男が低い声で命じる。

異人(イビト)に従僕の呪印を刻め」

命令と同時に、海の後ろにいたローブの男たちが、もごもごと何かを唱え始める。

(んーよくわからないけど俺に危害を加えようとする術式を組んでいるな)

海の頭がぱこぱこキャンパスライフ脳から戦闘モードへと切り替わる。場所、状況は関係なくただ自分を害そうとするものは、いかなる時であっても真っ先に排除するという理念が海の中にはあった。

一瞬にしてローブの男たちが形成している術式を『魔眼使い』達との戦いの際にラーニングした魔眼で読み取るが、

(召喚魔法と同時発動する隷属系の呪いだな……発動速度が遅いうえに最低ランクのものだ)

本当に最低ランクの呪いだとすれば『呪術師』達との戦いの結果、呪術耐性を得ているので問題はない、しかし20人がかりで最低ランクの呪いを発動する意図がわからず、海は未知への恐怖を抱いた。

(隷属はフェイク? 2真の狙いが何かわからないが、今は発動を止めるしかない)

ローブの男たちの間を風がすり抜ける、海が通ったのだ。男たちは一瞬で自分たちの後ろに移動した海を見ようとするが、振り向くことができない。ローブの男達は首が折られるもの、胴体と頭がくっついていないもの、真っ二つになっているものなど気付かぬうちに絶命させられていたのだ。

「悪い、何されるかわからなかったから手加減できなかった」

「なっ……」

周りの悲鳴や動揺が聞こえる。

「その異人は奇妙な術を使うぞ! 早く捕らえて四肢を切り落とせ!」

国王風の男が鎧の兵士達に命じる。

状況はよくわからないが、勝手に襲ってきたリ、動揺してさらにけしかけたり、微ブスとの初えっちを邪魔されたりと、海は考えれば考えるほど怒りが湧いて来るのであった。

(あーもうだめだ、くそむかつくから全員殺そ)

一瞬そう考えたが、冷静になり考える。

(まずなんでラブホに変なやつらがいるんだ? そもそも何で俺が狙われているのか……知る必要があるな)

誰が、どのような目的で狙ってきているかわからなければ対策の打ちようがないのに加え、その母体を殲滅できなからだ。一般的な生活を送るためには、邪魔するものは全て消し去る必要がある。まずは情報が必要だ。

『隷属の禁呪』

こちらに向かってくる兵士達の身体を黒い何かかが通り抜けたと同時に、兵士達の動きが止まる。

(耐性にびびって最強の呪いをかけてみたけど必要なかったか? こいつらもしかして普通に弱いのか?)

海が思考をめぐらしている中、部屋内に怒号が響き渡る。

「な、なにをしている!? 早く異人を捕らえろ!!」

国王風の男はこれまでに起こったことを理解しきれず慌てふためいているが、そちらは一回無視をし、海は兵士達を整列させた。

「まずはひれ伏せ、説明しろ」

海が言うと兵士達はひざまずき、その中で一番大柄な男が事情を説明した。

「これは、英雄召喚の『儀』でございます。わが主」

「英雄召喚の『儀』ねえ、よく漫画であるやつ?」

大柄な男は困ったように答える。

「申し訳ございません。私には主の言う『マンガ』が分かりかねます」

「あーそれもそうか、まあその一言でわかったんだけど、ここは地球ではなく俺は異世界に召喚されたということでいいのか?」

「申し訳ございません。私には主の言う『チキュウ』が分かりかねます」

「つかえな、お前自害していいよ」

大柄の男は自らの喉に剣を突き立て噴水のように血潮を吹き出し絶命した。

その後、海は兵士達にヒアリングを重ね、事の全容がわかってきた。

ここは、剣と魔法の世界、人間界に不可侵だった悪魔族が人間世界に侵食してきており、人類の存続の危機にあること、太古から伝わる英雄召喚の『儀』を使い異界から異人(イビト)を召喚すれば、『加護』を付与され召喚されるため、普通では人類の1個小隊と互角の悪魔に単騎で対抗できる武力が手に入ること、異人が召喚された場合、その圧倒的な武力から国の乗っ取りの可能性を考えた国王は、召喚をしてすぐに従僕の呪印を刻むことを計画していたことだ。

「んーつまり俺はわけのわからない世界を救うために勝手に連れてこられて、従僕の呪印を刻んで、戦いの道具にしたかったと、で帰る方法はわからないってことねー」

「は、はいわが主」

兵士が申し訳なさそうに答える。

「まあ、やっちゃった物はしょうがないからさ、俺は関係ない世界なんて救わずに帰る方法を探すけど、すげーイライラしてるからお前らは罰するわ」

海はため息をつく、あと少しで憧れのキャンパスライフを送れるところだったのだ、あと少しで飲みサーで出会った微ブスと一夜限りの関係を持てるところだったのだ、あと少しで悲願の『普通』を手に入れられる所だった。

「兵士達、お前たち自分の結縁者を全員街中で処刑のうえさらし首にしてから、森に行って自害、死体は野犬にでも食われてろ」

「かしこまりました我が主」

兵士達は城の外に出かけて行った。

「ふぅ……で、あんたはどうしようかなあ」

一連の流れを見ていた国王が口を開いた。

「この鬼畜が! お前みたいな奴よりまだ悪魔のほうが慈悲があるわ!」

「勝手に俺の日常を壊したお前らが一番慈悲がないよ、英雄召喚の『儀』の計画者であるお前は永遠の苦しみと絶望を与えると約束するよ、まだ思いついてないけど、とりあえずこの国は滅ぼそうかな」

国王と海が話している部屋に女性が走って海の足元にすがってきた。

「私はこの国の王女です、どうか、どうかこの世界をお救いください! 身勝手なのは十分に承知しておりますが、私共にはもう貴方様しかいないのです……どうか、その代わりになるとは思いませんが私のことは好きにしてかまいません」

女性は下を向き泣きながら懇願している。

(好きにして構わないって……そういう意味だよな?)

自問自答を繰り返すが、流石に泣いている女性を無下にすることはできない。

「王女様、顔をおあげください、話しを聞きますから」

「はい……」

顔をあげた王女の容姿を見て海は絶句した。

「こ、これは……」

腫れぼったい一重に三白眼、歯は床と平行に口から突き出している。口呼吸だったのだろう重度のアデノイドで2重顎、浅黒く脂ぎって肌がれき岩のようにボコボコの穴が開いている王女がそこにはいた。

「お疲れっした」

気分が悪くなった海は、一度城を出て自分のこれからについて考えを巡らせるのであった。


続く


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