序章
この作品は檸檬絵郎様主催《魅惑の悪人企画》参加作品です。
人は誰しも一生の内に感じる幸福度は同じだという。
恵まれた環境に生まれた子供も、ゴミ溜め場で生まれた子供も同じ様に幸福を味わえるという事だ。
『では続いてのニュースです。皆さんはこの事件、覚えていらっしゃると思います。私も当時、レポーターとしてこの事件を追っていました』
一体誰なんだ。そんなフザけた事を言い出した奴は。
そもそも一生とは何だ。私の友達は十二歳で殺された。
『今からちょうど十年前の今日、六月十日の午前八時頃、岐阜県岐阜市の住宅街で十五人の子供達が集団拉致された事件です。犯人は未だに捕まっていません』
もし神様というのが居たとして、その子は十二歳までに一生分の幸福を与えられたのだろうか。幸福とは与えられるものでは無い、という輩が居たら今すぐ脳天を叩き割ってやる。彼女は殺された。理不尽に、何の関係も無い、見ず知らずの人間に。
『大蔵さん、この事件、当時はメディアも子供達を見つけ出そうと必死になっていましたよね。あの頃は今程、SNSなども普及していませんでしたから、連日情報提供を求める放送が繰り返されていました』
『私も良く覚えていますよ。当時、まさにその特番で司会やってましたから。いやぁ……もうね、ご家族の気持ちを考えると……いたたまれないよね』
何故彼女が殺されなければならないのか。つくづくこの世界に神など居ないと実感させられる。罪のない子供が殺され、悪事を働いた大人が笑って過ごしている世界。大抵、そんな大人は長生きする。綺麗な家に住んで、家庭を築いて、美味しい物を食べて、幸福を感じながら。
『そして、事件は一か月後……拉致された十五人の子供達の内、十二人が遺体で見つかるという最悪の展開を迎えてしまいました。残った三人の子供達は未だに消息不明のままです』
『これは……当時、警察の対応に疑問を感じざるを得ませんでしたね。誘拐とかの犯罪の場合、被害者の事を考えると下手な事は出来ないっていうのは分かるけど、それにしても当時消極的すぎましたからね』
私は彼や彼女達のために何が出来るのか。
よくドラマでは復讐なんて誰も望んでないと犯人を説得しているが、そんな物は当たり前だ。死んだら何も望めない。この世界に霊魂なんて物は無い。死んだらそれまでだ。
『実は大蔵さん、この事件、十年目にしてとある進展があったんです。それが先日、麻薬取締法で逮捕された男性が、この誘拐事件に関わっていたという供述をほのめかしているんです』
だからって私は別に復讐する気など一切ない。
ただこの心に刺さった銛を抜きたいだけだ。もう二度と抜けないと分かっていても、足掻かずにはいられない。
『現在もこの男性の取り調べが続けられていますが、果たして犯人逮捕に繋がるのでしょうか』
《六月十日 午前八時十五分》