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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

憎いけど愛してる

作者: 花咲 澪

 仕事が終わり、お気に入りの漫画を手に取り読みふける。それが私の日課。主人公のライバル役に熱を上げていた。

読むだけでは飽き足らず自らホームページを開設し、夢物語の短編小説や描いた絵を載せては自己満足していた。しばらくすると書き込みや感想を書いてもらえるようになり私は携帯からの報せを心待ちにしていた。

 そんな折、あなたと出逢った。

私の稚拙な話を、絵を気に入ってくれた。特に警戒することもなく極自然に連絡先を交換し、あなたとの関わりが始まった。

 名前は操。あなたは自分の名前を嫌っていたから私はあだ名としてオミちゃんと呼ぶことにした。

オミちゃんとは8歳も離れていて初めは驚いたけど学生生活を聞くと悪い意味でなく、あぁ確かにそうだなと頷けた。ただ精神的に弱いところがあり休みがちだったから、メールのやり取りは増えて嬉しかったけど心配でもあったね。


 オミちゃん、あなたとの出逢い。こんなにも鮮明に覚えてるいるよ。あなたも覚えているかな。




 

 私達は創作の登場人物を作り役になりきってメールをしたり、小説を書きあったりした。そんな時オミちゃんが会ってみない?と提案をする。私はもちろん2つ返事で承諾し、会うことに決めた。私とオミちゃんの住む所はとなりの県だったけど年下のオミちゃんに来てもらうのは申し訳ないとオミちゃんもすぐ行ける駅で待ち合わせをする。

 初めて見た時のオミちゃんは想像通りだった。

幼さは残るけどゴシック調で黒と紫色で揃えた恰好。オミちゃんらしくて似合ってた。私はピンクのワンピースに茶色のドット、茶色のブーツでそこら辺に居るような恰好。オミちゃんは緊張しながらも「ユリらしくて可愛いな」って言ってくれた。

二人の中で黒とピンクというイメージカラーが改めて決まった日でもあった。

その日は会うことが目的だったがブラブラすることになり、カラオケに行きマクドナルドへ行った頃には帰る時刻になっていた。

あっという間に過ぎてしまった。こんなに楽しかったのは久し振りだった。それはオミちゃんも一緒だったようだ。

「私達、年離れてても関係ないね」

そう言うとオミちゃんは嬉しそうに、本当だなと笑った。




 僕は自分の性別に悩んでいた。だから学校もろくに行かずに携帯やパソコンばかりを見ていた。

そんな中、僕が好きな作品の小説や絵を書いてるホームページを見付けて堪能する事にした。軽い気持ちで見ただけだったけど絵がすごい好きだった。掲示板からこのホームページを管理してる人とやり取り出来るのか。何人か書き込んでるな。僕が書いて嫌がらないかな。

色々な気持ちがグルグル回っていたけど別に画面の中だけだ、と書き込みをすることにした。書き込んでから何回も掲示板を確認したけど中々返事が来ない。でも他の人にも返事が無いということは。と考えてたら返事が来た。

他のSNSの社交辞令丸出しの返事じゃなく、丁寧で優しい返事だった。僕はどんどん惹かれていった。

お互いにオリジナルの登場人物を作って絵を書き話を作る。こんなに楽しいのは久し振りだった。自分でも生き生きしているのが分かった。学校が嫌だと愚痴を言えば、心配してくれる。心配だけじゃなく励ましてもくれた。僕は少しずつだけど学校に行けるようになったんだ。

メールでのやり取りだけでなく会いたいと言い出したのは僕だった。気持ち悪がられるかと心配したがユリも同じ気持ちだった。

 待ち合わせ場所にいると女の子が「オミちゃん!」とニコニコとやって来た。僕は緊張だけじゃなくて違う感情でも心臓を鳴らしていたのかもしれない。





 一年程会ったりメールしたりを繰り返した頃、オミちゃんに性同一性障害だと打ち明けられた。

私はテレビでも聞いたことがあったし、特に物凄い衝撃は受けなかった。むしろオミちゃんが自分の事を僕・俺と呼んだり、パンク系の服を好んでいたのですんなりと受け入れられていた。性同一性障害だからと言って嫌悪感など抱きもせず話してもらえて嬉しかった。私が感じたのはそれだけだった。

打ち明けられた後も私達の関係は全く変わらなかった。

 私の職場は繁忙期というものがあり、会える日が減る事もあった。メールは相変わらず続けていたが。

そんな私に衝撃的なニュースが入ってきた。オミちゃんに彼氏が出来た。他の友達にならおめでとう!で済んだがオミちゃんは違う。性同一性障害でも異性と付き合うことはあると知っていたけれど、異性を毛嫌いしていたオミちゃんが。

メールと言うのは楽だけれど感情が読み取れないところが難点だなと、オミちゃんのメールを読み返す。絵文字にハートがあるという事は、喜んでるんだよね?それなら私も祝福しなくちゃね、友達だから。

おめでとう、と返すと今日泊まってくると返事が来る。

私は一瞬頭が真っ白になったのを覚えてる。恋人なら有り得る事かもしれないけれど早すぎるのでは、と伝えると前にも泊まった事があるのだと言う。

何かオミちゃんに心境の変化でもあったのだろうか。

私は少し複雑な気持ちだった。






 1年経った頃、ユリに自分が性同一性障害だと言うことを打ち明けた。嫌われるか、引かれるか心配したけどそんな事は無かった。理解もしてくれるユリに感謝してたけど、1年位は普通に会えたりしてたのに最近は会えないどころかメールも遅い。仕事って言うけど何だかそっちで楽しんでんのかなと思ったら沸々と頭に血が上る。

だから男と付き合ったってメールしたんだ。告られてたから半分嘘にはならないし泊まるのも本当だから。さすがに焦ってた。それは友達として?それとも俺だから?

俺だったら良いのになぁ。ユリ、気付いてないけど好きなんだよ。俺、ユリの事が好きなんだよ。






 オミちゃんは彼と別れたらしい。また変わらずの関係が続いていく。私、オミちゃんが別れて胸を撫で下ろしている自分に気付いている。その理由は解らないけれど。

しばらくして私は過労が祟って体調を崩し仕事を辞めた。だから尚更オミちゃんとのメール交換は毎日続いた。

私の母親が働いている所へ応援に行った時、一人の男性と出逢った。優しそうな雰囲気で分からないことを聞くと恥ずかしそうに話していた。元々男の人に対して怖いイメージしかなかった私はその男の子に少し惹かれていた。

その彼、辰巳くんとも簡単なやり取りが始まった。オミちゃんの方が男性経験豊富だからと良く相談もするようになっていた。オミちゃん自身、何かあったら俺が相談に乗るからと電話の度に尋ねられていた。



 オミちゃんに何処か小旅行へ行こうかと誘われた。

もちろん私は喜んで頷き、薬もあるしオミちゃんとなら凄く楽しめる、そう答えた。

途中の駅で合流し、予約をとった旅館に着くと二人は荷を解いて一息つく。私は窓から見える景色に感激し、オミちゃんと一緒に外を眺めていた。特に何処へ行くでも無くお決まりの絵を描いて楽しむ二人。用意された夕食も堪能し別々に風呂へ行くことに。オミちゃんは性同一性障害だからあまり身体を見られたくないと部屋の浴室を使うことにしていた。

露天風呂は気持ち良く、誰もいないのもあり鼻歌交じりに夜空を眺め浸かっていた。オミちゃんと旅行に来れて良かった、誘ってもらえて良かった。

部屋に戻るとオミちゃんは既に髪も乾かし浴衣をきちんと来てベッドに腰掛けていた。私は悪ふざけでオミちゃんに抱き着き二人はそのままベッドに倒れ込む。

私の頭上からはオミちゃんの笑い声。あまりくっついたままでは困ると思いオミちゃんも起こして再び絵を書き始める私達。

好きなことを好きな人とする。本当に楽しい時間だった。




 ユリとの旅行。胸が踊っているのが分かる。

待ち合わせ駅で待ってるユリは白いワンピースがよく似合っていた。友達の欲目無しでもユリは可愛い。綺麗だけど可愛いのが勝ってる。俺に気付くと嬉しそうに笑うユリ。

最近連絡を取ってるらしい辰巳という男には負けたくない。独占欲というのは分かってる。でもユリのことを良く知ってるのは俺の方なんだ。

旅館に着き二人で景色を眺める。景色に見惚れるユリの横顔は本当に綺麗だ。フト目が合うと、見ていた事を問われる事なくニコリと微笑んできた。そんな時無償に抱き締めたくなる。ユリに触れたいと強く思ってしまう。けどユリは純粋に旅行を楽しんでる。それを壊したくはないから余計な事はしない。

だけど、風呂から戻ってきたユリは俺に抱き着いてきた。一瞬頭が真っ白になったんだ。シャンプーとは違うユリの甘い匂い。こんなに強く感じる。思わぬところでユリを感じられるなんて。俺はどさくさに紛れユリの腰に手を回した。腹に感じるユリの大きい胸が当たってる。こんな風に思うなんてやっぱり俺は男なんだ。


もう夜中になりユリも布団に入り寝息を立ててる。誰よりも近くにいる。きっとユリの中での俺の存在も大きい。手を握ると暖かい。

「ユリ、大好きだよ」

俺はユリにキスをしようとした。

けど勇気が出なかった。頬に触れるか触れないかのキスをしてバクバクとうるさい胸を抑えつけながら布団に潜り込んだ。





 楽しかった旅行も終わり私達は元の生活に戻る。ある時オミちゃんに好きな人が出来たかもしれないと告げられた。また男の子なのかと尋ねるとインターネットで知った女の子なのだと言う。

応援するよ、と電話で言うがどこか上の空。可愛い子なのだろうか、優しい人なのか。私はオミちゃんの好きだと言う人物像をあれこれと考えていた。

私はどうしてこんなにオミちゃんの好きな人が気になるのだろう。親友はいるけれどここまで固執する事はない。面白くないとも思っている自分がいるのが分かる。

取られてしまう?

子供の様な考えをしているのかもしれない。友達なのだから取られるとかそんな事を考えるのは間違えている。

なのに、まだ頭の中をグルグルと回っていた。




 俺は狡いな。

ユリに好きな人がいる事を伝えた。もちろんユリとは言わずに違う人と思わせるように話した。ユリの反応が見たくて。

驚いてるようだったけど妬いてはない感じがしたな。やっぱり彼女にとって俺はただの友達なんだ。

そんなのは、嫌だ。

友達で終わりたくない。

ユリが好きなんだよ。

俺は携帯電話を取り耳に当てた。


 オミちゃんから電話がかかってきた。さっき切ったばかりなのに何か言い忘れだろうか。複雑な思いのまま通話ボタンを押した。

「度々ごめんな。」

「大丈夫だよ、どうしたの?」

「俺、好きな奴いるって言ったじゃん?告ろうかと思うんだ。でも告ったらもうユリとは友達では居られなくなると思って…」

「どうして…告白したら友達でなくなるの」

私は動揺を隠せなかった。オミちゃんの考えている事が分からなかった。話を聞くとオミちゃんは彼女か友達か、となると器用ではないから付き合え無くなるのだという。

それは少しおかしい気がしたが人との付き合い方にとやかく言うことは出来ない。

私は気落ちした声でそうなのと答えた。

オミちゃんが続けて話す。

「ユリが好きな人なんだよ」

私は時が止まったように目を見開いて固まってしまった。





 とうとうユリに言ってしまった。

半分脅しみたいになったかもしれない。彼女か、友達か。

俺はユリの言葉を待つ。心臓がバクバクと煩い。手まで震えてる。早まった事をしてしまったか。ユリ。早く何か答えて…。

「私もオミちゃん好きだよ」

ユリのか細い声が受話器の向こうから聞こえてきた。ユリも俺の事が好きなんだ。相思相愛だったんだ。



 オミちゃん。ずるいよ。

私がオミちゃんとそんな簡単に関係を終わらせる事が出来ないの分かっているくせに。私は好きだよと伝えた。

元々私自身、性別関係なくオミちゃんを好いていた。だから二人の関係は成るべくしてこうなったのだ。

私達はその後挙動不審になりながら電話を終わらせる。

オミちゃんと私。恋人か。

私は男性と付き合った事はあるが手を繋ぐこともした事が無かった。オミちゃんとは出来るのだろうか。そもそもオミちゃんはどんな感じで付き合いたいのか。キスや、それ以上の事も?

私は悶々と考え、その日はなかなか寝付けなかった。





 次の日オミちゃんの地元で祭りがある様で一緒に行こうと誘われた。メールではいつも通りの私達。私も敢えて話題には出さずに当たり障りのない内容の繰り返しをしていた。

好きと言われ嬉しかった。私は間違えていない。…そう言い聞かせて。



 今日は恋人になって初めて会う日だ。初めて出会った日の時のように心臓がバクバクと音を立てていた。

横断歩道の向こう、人混みの中ユリを見付けた。

紺色にピンクの小さな花が散りばめられた浴衣に、髪も器用にまとめて青い大きな花飾りを付けていた。

周りの人間が霞むほど本当に綺麗だと、自分でも分かるくらい見惚れていた。

「オミちゃん、お待たせ」

俺の名前を呼ぶユリの声がまた可愛くて知らずにニヤけてしまう。

「俺も来たとこ。それ、可愛いな」

本当はもっと褒めたかった。思ってる事を全部伝えられたら良いのに。浴衣しか褒められないなんて。

「ありがとう。オミちゃんは甚平やめたの?」

「あ、うん。着てみたら似合わなかった」

「ふふ、見たかったのに残念」

微笑んでるユリ。俺も釣られて笑う。

幸せだ。

「ユリ。行こっか」

緊張しながら手を差し出したらユリはすんなりと繋いでくれた。

柔らかくて暖かくて、その俺よりも小さな手をギュッと繋ぎ直す。人混みで離れないように、温もりをずっと感じられるように。

祭りで賑わう人達を避けて歩き、暑いからと二人でかき氷を買って人気の少ない路地に座って食べ始める。

「なんか…」

ユリがフト呟いた。

どうしたのかと、その横顔を見つめていると恥ずかしそうに俺を見やるユリ。

「初めての、デート…なのかな」

胸がキュウっと締め付けられた。ここでその表情は反則だ。

俺はユリの空いてる手を握り余裕があるように笑い返した。

「初めてのデートだな」

そう言うと恥ずかしそうに笑いユリは空を仰ぐ。

ユリ。

ユリ、大好きだよ。





 花火の音がする。

でも俺からは見えない。俺に見えてるのは花火の鮮やかな光で輝いてるユリだけ。

ユリの前に立って、極自然に彼女の頬に手を添えてその小さな唇にキスをした。

かき氷のせいで冷たかったけど、イチゴの甘さと柔らかさに俺の身体は痺れる程愛しさが増していく。

触れるだけのキスをして離れると初めて見せる表情をユリはしていた。妖艶な、そんな表情だった。

「ユリ、…嫌だった?」

「オミちゃん」

何かと尋ねるとユリは両手を広げた。

「もう一回…」

そう聞くと俺は彼女に腕を回し抱き着くと好きだと伝わるように何度もキスを落としていく。

初めてのキスだから息も苦しくなり一度離れ、二人して呼吸を整えるとお互いに照れながらも笑っていた。

「しちゃったね…」

「あぁ、しちゃったな」

「今日誘ってくれてありがとう」

時計を見るともうユリの帰る時間だった。

俺はこんな幸せな時間がずっと続くと思っていたんだ。

ユリ、愛してる。

俺と出会ってくれて本当にありがとう。大切にするよ。





 胸がドキドキとうるさい。オミちゃんと、いや生きてきた中で初めてのキスだった。一緒に屋台が並ぶ道を手を繋いで歩いてるうちに、恋人なのだと感じてきてそれを伝えるとキスされた。

まさかされるとは思わなかった。

された時は、もう一度されたいと素直に思えた。

私は間違えてなかった。オミちゃんが好きなのだ。

「こんばんは」

不意に声が上から降ってくる。

見上げれば見知らぬ男が私達の行く手を遮り立っていた。

「浴衣の彼女可愛いね、良かったら連絡先を交換しよう」

まさかオミちゃんと居るときにナンパをされるとは思っていなくて戸惑ってしまった。即座に返事が出来ずにいるとオミちゃんに腕を強く引っ張られその場からどんどん離れていった。

随分離れてから振り返ると男はもう見えなくなっていた。それと同時に腕が痛く感じてきた。

「オミちゃん…痛、」

「ああいうの、タイプなの?」

一度思考が止まるが直ぐに違うと否定しようと口を開くがオミちゃんに掻き消されてしまう。

「カッコイイから見惚れた?やっぱりちゃんとした男のが良いよな。なんか勝手にキスして悪かったよ。気持ち悪かったんだろ?だよな、こんな女男にさ!ごめんな、もうしないし止めるよ。じゃあな」

オミちゃんは一気に言うとその場から走り去ってしまった。

走って追いかけようとしたが震えて出来なかった。

涙が勝手に溢れてくる。

もう、おしまいなの?

あれだけの事で…?





 私は帰ってからも連絡してみたが着信拒否をされてメールも帰ってきてしまう。また涙が溢れ何も考えられなくなるほど咽び泣く。オミちゃんお願いだから終わりになんてしないで。お願いだから。

まだ私達始まったばかりなんだよ?一日しか恋人として接せられないの?

私達は呆気なく終わってしまった。

なんとか連絡取れないかと思ったが無情にも繋がらず月日は三年も経っていた。

私は少し連絡を取っていた辰巳くんに告白をされ付き合うことに。辰巳くんとの交際は順調に進み結婚を申し込まれ、私は彼とこれからの人生を歩いていこうと決めた。

そんな折、オミちゃんと思わぬところで繋がり連絡を取ろうか私は戸惑ってしまった。今更何を言うのか。嫌われているのに。自然消滅しているのに。

三年の月日で何かあったのか気になる。

私はオミちゃんにメッセージを送ることにした。





『オミちゃん、お久し振りです。ユリです。覚えていますか。いつかはごめんなさい。元気にしてますか』


ユリからメッセージが届いた。

来ると思ってた。SNSを使えるようにすれば連絡先から俺に繋がると分かってたから。

あの時女であった自分が嫌で、男でないと思い知らされ嫌で嫌でユリから逃げた。ユリは本当はそんな事を思っていないの分かっていたのに。ただの俺のエゴでしかなかったのに。ユリに当たってしまった。

こうしてまた歩み寄ってくれて本当に嬉しい。

俺達はまたやり直せる。

俺はあれから名前を男の名前に変え、胸だけ手術で取り除いた。まだ完璧ではないけど前より男に近付いているんだ。

名前と手術のことを伝えるとユリは喜んでくれた。コンプレックスだった事を覚えていてくれていた。そして俺からの返事に文面からでもわかる、喜んでる。

俺は電話をユリに掛け、またやり直そうと嬉々として言った。

だけど。

ユリから帰ってきたらのはあまりにも残酷で。

俺は地獄に落とされたかのような衝撃を受けた。

付き合ってた?結婚する?

なんだよそれ。

俺は?

俺は愛してたんだよ?君のこと。

愛されてなくても愛してた。

愛されたくてこんなに男に近付いたのに。

好きだと言ってくれたのは嘘だったの?

あのキスは?

どうして?

俺にはユリを幸せに出来ないの?

想いは止められないまま支離滅裂な言葉達が後から後から沸いてきてまたユリを傷付けていく。

だけど俺はどうしたらいいの?

想いが溢れて行き場がない。

ユリには俺が居なくても相手がいるのに。

俺は一人。

ユリ、酷いよ。

今でもこんなに愛してる。

愛してるんだよ。

お願いだから俺を殺さないで。

行き場が無くなってしまうよ。

ユリの嗚咽が受話器から聴こえてくる。

泣くなよ。泣きたいのは俺だよ。

ユリ。

お前がゴメンネゴメンネと泣くほど憎い気持ちが湧いてくるよ。

ユリ。

お前都合が良いんじゃないか?

結婚する相手がいるのに何で連絡してきた?

友達に戻れるとでも思ったのかよ。

俺は、お前と結婚したくてこんなに努力したのに。

酷い仕打ちだよ。






 私は結局オミちゃんを理解しきれてなかった。

どんな気持ちでいたのか分かっていたら、二人はこんな結末を迎えなくて済んだのだろうか。あなたを傷付けて終わってしまったね。もっと早くに分かっていたらと今でも後悔しているよ。

あなたには嫌われてしまったけれど、やっぱり私にとってあなたと過ごした日々はかけがえのないものだった。

それはまだ輝きを残したまま私の中にある。


出逢わなければこんな事にならなかったけれど私はあなたと出逢えて本当に良かった。

素敵な時を、ありがとう。

 




 散々言い放ったのにユリは一度も俺を責めてこなかった。

わかってる、俺が悪いって事は。

だけどどうしようもない。

俺は…出逢わなければ良かったと思ってる。

実らない恋程辛いものはないんだ。

ユリは今男と幸せなんだろうな。

ユリ、ごめん、まだ好きなんだ。

好きじゃない、愛してるんだ。


そう

憎いけど愛してる




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