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第21話_暴露


 東の空が白みはじめ、街を覆っていた濃い霧が冷たい風に乗ってゆるやかに流れていく。


 アマテラス市議会庁舎の周辺には何十台もの車が停まっていた。市長室の前に議員や、報道記者が群がっている。扉は堅く閉ざされ、開くことはなかった。


 最近新たに任命された副市長が代理として応対している。「後ほど市長から直接説明がなされます」という言葉に記者たちは満足せず、アマテラス都市軍の出動や異人の噂に関する質問を副市長にぶつけていた。


《忘却》号の乗組員たちとデュレイルは天蓋都市(てんがいとし)アマテラスに到着すると、軍施設の中の会議室に集まった。防音処理の施されたその部屋の扉の前では三人の屈強な軍人が見張りとして立っている。


「まったく、信じられないぜ。親の仇を逃がすなんて」


 円卓に肘をついたナオが大声で言う。用意された飲み物や菓子には見向きもしていない。何十回と聞かされた台詞だ。ライはいい加減うんざりして、荒い口調で言った。


「仕方ないだろ。あの時は敵討ちなんて気がしなかったんだよ。反省してる」

「こっちが損しただけじゃないか。後悔したって遅いんだよ」

「二人とも、もういいじゃない。ナオさんも、なんでそんなにむきになるんですか?」


 エイミの質問に、ナオは不満顔で引き下がった。ライとエイミ、ナオの三人が静かになってからバルロイは口を開いた。


「連盟の最高の位置にある《七海神》が黒幕だなんて……」

「なに暗い顔してやがる。やっとこさ敵の正体がわかったんだ。連中の度肝を抜いてやればいいんだよ」

「アル、海賊をやっていた頃とは同じに考えないでください」

「おっさん、海賊だったのか?!」、ナオが椅子から立ち上がる。アルは嬉しそうに頷いた。

「もう二十年以上前の話だ。儂が初めて指揮をとった時はな……聞きたいか?」

「うんうん」

「そんな昔話は辞めてください。ライくんたちに悪影響を与えます」


 バルロイが恨めしそうに非難する。アルは肩をすくめた。デュレイルが言う。


「私は元海賊殿に賛成だ。一週間後に連盟の定例会議がおこなわれる。大異変のことを大勢に教える絶好の機会だ」

「殴りこみってわけか。気に入った。みんなはどうだ?」


 不敵な笑みをうかべたアルが見回すと、ライとナオ、バルロイにイアン、ディアスとヴィネスが頷いた。


「親父も、生きていたらそうしたと思う」

「それですべて片づくんですか? だったらあたしも」


 エイミが片手を挙げる。


「荒っぽいことを辞めてくれるなら、わたしも賛成するわ」

「ならば君は反対でいい」アルがきっぱりと断言した。苦笑するヴァネッサ。

「やっぱりね。わかっているわ。やるしかないのでしょう」

「しかし、この顔ぶれだと、なにを言っても信じてもらえそうにない。デュレイル市長はともかく、連盟に影響力のある人物が僕たちを後押ししてくれれば助かるのだが」

「例えば、エルモア=オールドリッジとかか?」


 アルの発言にイアンが「そりゃ無理だろ」と鼻で笑った。


「誰、それ?」


 尋ねたライは、全員から驚きの眼差しで見られた。


「最近の学生は彼の名を知らないのか」

「デュレイルさん、ライと一緒にしないでください。あたしはちゃんと知ってます」

「情けない。学校でなにを習っていたんだ。ニール先輩が泣くぞ」

「悪かったな。謝るから教えてくれよ」

「この惑星にある天蓋都市(てんがいとし)の数はおよそ二百。それらの天蓋都市(てんがいとし)間の調整や平和の維持確立のために作られた国際機構がなにかは知っている?」

「馬鹿にするなよ、エイミ。連盟ぐらい覚えてる」

「じゃあその発足年、および初代議長は?」

「……忘れた」と、ライは小声となった。


 長くため息をつくエイミ。ヴァネッサが答えた。


「二七年前。初代議長がエルモア=オールドリッジよ。すべての天蓋都市(てんがいとし)を包括する初めての組織を創設した際の功績と実力を買われたの」

「なるほど。そのエルモアさんに協力してもらえれば、連盟の説得も簡単になるわけだ。だったら、早速その人に話してみようぜ」

「無理なんだ。当人は五年ほど前に孫娘を代理人として引退。その孫娘も表に出ていなくて、どこにいるのかも公表されていない」

「けっこう人気があったのだがな。私なんか一度しか会ってないが、写真にサインまでしてもらった」


 デュレイルは名刺入れから写真を取り出し、ライへ渡した。どこかの議事堂の正門前で、数人が写っている。年輩の議員たちの中央にいるのがその孫娘だろう。純白の礼服に、長く垂らした栗色の髪が美しく映えている。


「いつまで見ているのよ」


 エイミが横から強引に写真を奪う。エイミから渡されたナオはろくに見ないで次へ回した。


「なんか引っかかるんだよなぁ」


 ライが呟くと、ヴィネスやイアンも同意した。


「綺麗な方ですね。名前は?」


 そう尋ねるバルロイは、横目で睨むヴァネッサに気づかない。


「確か、ナオミ=オールドリッジといった」


 デュレイルが答える。


「ナオ……ミ?」


 ライが顔を動かすと、作業着の似合うナオが音をたてないように部屋から出ていくところだった。頭の中に詰まっていたばらばらのものが形を取り始める。


「ちょっと用を思い出したから」と、わざとらしく笑みを作る。その反応がライの考えを裏付けていた。


「ナオ、いやナオミ、おまえかぁっ」

「なになに? どうしたの?」 


 エイミが説明を求める。


「みんな、聞いてくれ」


 ナオが女であることをライは暴露した。ライがそのことを知った時の経緯も、誤解されないよう簡単に話した。


「言わないって約束したじゃねぇか」


 ナオがスパナやドライバーを振り上げる。ライは壁際まで後ずさった。


「約束じゃなくて脅迫だろ」

「ふ、二人とも不潔よ。ずっと同じ部屋だったなんて……ライなんてもう絶交!」

「待てよ。俺はこんな男女とはなにもなかったんだ」

「誰が男女だ。据え膳食う度胸もないくせに」

「ば、馬鹿! 誤解を招くようなことを!」

「知らない。聞かない。話したくない」


 耳をふさいで目を閉じたエイミの前でライとナオが口論していると、

「とりあえず、詳しいことを説明してもらおうか」

 背中をアルに強く叩かれ、ライとナオはその場にうずくまった。


 白状するナオ----ナオミ=オールドリッジ。


 議長を引退した祖父エルモアの頼みで仕方なしに代理人を務めていたが、祖父は二年前ナオに黙って冒険へ行ってしまった。


「俺も連れていくと約束したはずだったのにさ。頭にきたから代理人も辞めたんだ」


 そして、ナオは家出同然で自立し、やりたかった整備技師の修行を始めたのだった。


「だからって男のふりまでしなくても良かったんじゃねぇの」、イアンが言う。


「みんなを騙したつもりはないけど、黙っていて悪かったとは思ってる」

「それはともかく、エルモア氏の代理人としての君の発言力は大きいはずだ」


 バルロイが期待をこめた眼差しで見つめる。


「わかってるよ。楽しませてもらったし……ナオミとしてやるしかないわね」


 諦めと決心の響きのある女言葉を使い、ナオはライに向けて片目をつむった。




(つづく)

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