天城院家 3
普段はシャワーで済ます為、こうして皆で一つの湯船に浸かるのは久しぶりで、新鮮味があった。
それは私だけじゃなく、朝日も真昼も夜瑠も共通の気持ちだろう。
だが、そんな久々な時間の中でも、誰一人声を発することはなく、静寂が浴室を支配していた。
原因は言わずもがな。
「ふふふ……こうしてお湯を浴びると誰が誰だか分からなくなりますわね。お風呂場ですから匂いで判別するのも少し難しいですし……」
「……」
「……」
瞬き一つせず、頬を紅潮させながらこちらをジーと見てくる常葉の所為である。
小さく舌舐めずりをしながらこちらを鋭い眼光で捉える姿はさながら蛇の如く。私達は蛇に睨まれた蛙のように、動けず喋れずにいた。
いや、ね。ここまで凝視されると流石に恥ずかしい、を通り越して怖い。
後半の台詞も合わさって完全に鳥肌ものだ。
鏡を見なくとも自分の顔が引き吊っていくのが分かる、はい。
おかしいな、疲れを癒すどころか逆に疲労してる気がする……。
とりあえず常葉とは、もう二度と一緒に風呂に入らない。
そんなことを強く決意していると、この変な雰囲気に耐えられなくなったのか、真昼が躊躇う様子を見せながらも、その重く閉ざしていた口を開いた。
「……た、確かに。私と夜瑠ちゃんは髪の長さが違うからあれだけど……、夕ちゃんと朝ちゃんは見分けがほとんどつかないよね……!」
「そ、そうね!」
真昼のその言動に、雰囲気を変えるにはいい切欠だと考えたのか、すかさず夜瑠が相槌を打つ。
あわよくば常葉の目付きが変わることを祈っていたのだろうが、残念ながら常葉は「ですわね」と呟いただけで、獲物を狙うかのような鋭い瞳は変わらない。
直接やめてと言っても、脱衣所の時の二の舞。慣れますって言葉が返ってくるのは読めているし……なんだこの無理ゲー感。もうどうしようもないじゃんか……。
い、いや、まだ私達には朝日がいる! 朝日ならきっと――――
最後の希望として、常葉とクラスメイトとして一番長く接してきた朝日に何か良い案がないかと視線を寄せるが、朝日は苦笑を溢して首を横に振った。
「……ですよね」
うん、分かってた。そもそも良い案があるならとっくに実行してるだろうし。
「ん? 何か言いましたか、夕立さん」
「あー、いや何でもないよ」
まぁ、こうして常葉と風呂に入るのも今回限りだし、おそらくあと十分もしないうちに風呂から上がることになる。
十分くらいだったら……頑張れば耐えきれそうだ。目を閉じれば見られてることなんて気にならない筈だし。
そう思い、目をそっと閉じる。
……心なしか、余計に見られてる感じが増した気がするが、気にしない気にしない……。気にしたら負けだ。
「本当、良く似ていますわ……」
「え、夕と常葉ちゃん、距離、ち、近くない……?」
き、気にしたら負けだ!
ひとまず語るとするならば、この十分にも満たない僅かな時間は、とても長く感じた。




