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親というもの

「夕! 聞きなさい!」


 夜瑠は私の部屋に入るなり、そう言った。










 夜瑠に友達ができたそうだ。


 どうやって友達を作ったのか、事の顛末はよく知らないが、よほど嬉しかったのか、帰ってくるなり私の部屋に上がり込んで自慢してきた。

 それこそ耳にタコが出来るんじゃないかと思うほど、何度も何度も聞かされたので、鬱陶しさを感じなかったこともない。だが、夜瑠の本心からの笑顔を見て、そんな気持ちもスウッと消えた。


 たかが友達作り。

 だけど前世ボッチを経験した私には、それがどれだけ大変なことか身に染みて分かる。


 友達作りの難易度は、一度でもボッチになってしまうと格段と上がるのだ。


 更に噂によれば、夜瑠は自己紹介の時に色々とやらかしていたようで、私のようにゼロからではなくマイナスから始めた友達作りはさぞかし難しかったことだろう。


 それを私に頼らず自分一人で成し遂げたのだから大したものだ。


 あんなに小さかった夜瑠が、ここまで成長したのか。

 どこか感慨深さを覚える。


 子供を見守る親っていうのはこんな気持ちなのだろうか。


 ツンと目頭が熱くなるのを感じ、視界がぼやけた。



「夕……何で泣いてるのよ?」

「あれ…………あ、あはは……。ごめんごめん、夜瑠に友達が出来たのが嬉しくて、つい……」


 涙が出てしまったようだ。怪訝な目を向ける夜瑠から慌てて視線を外し、手で水滴を拭いながら笑ってごまかす。


「!? ……そう、そんなに心配をかけてたのね…………」


 夜瑠は聞き取れない音量で何かを呟いた、と思った次の瞬間、頭を叩かれた。


「痛っ!? 何するんだ!」

「余計な心配は無用よ! 私のことは私でやる! だから、夕は何の心配もするな! 自分のことだけ考えなさい!」

「……お、おう」


 鼻の頭に指を突き付けられ、そんな事を言われれば頷くほかない。

 

「ふぅ、じゃあ、喋り疲れたし時間も頃合いだから。そろそろ食堂に向かいましょ」

「私は自慢話を聞かされてただけだから別に喋り疲れてないけどな」

「うるさいわね。……仕方ないじゃない、嬉しかったんだもん」


 蚊の鳴くような声だったが、今度は私の耳に届いた。



 うん、夜瑠。可愛い……じゃなくて!

 本当に、本当におめでとう!









 就寝前、シャワーを浴び寝間着に着替えた私はポフッとベッドに沈むように倒れ込み、枕元に置いてあるヘッドホンをすかさず着用。

 ノイズキャンセリングを用い、無音の空間を作り出す。

 そして、反省を兼ねつつ、今後の方針を練る。



 夜瑠の友達問題は解決。

 桜小路の対処は現状どうこう出来る問題じゃないのでパス。

 ならば、次は天城院に身バレしないための対策。


 だが―――。




 いや……対策する必要はあるか?



 確かに天城院は僅かな匂いの差で判別する術を持っている。

 だけど、現状朝日に執着している姿を見るに、それは壁ドン事件の後から身につけた力なのだろう。

 てことは、宵凪の時みたいに不覚を取られない限りはバレる可能性は非常に低いと言える。



 まぁ、念のため距離を置いておくのが一番だな。



 この場合、怖いのはひょんな会話からバレてしまうことだが、クラスも別々だし、自分から距離を縮めようとしなければその心配は無用だろう。



 ……ようやく終わった……か。



 ここ最近の悩み事がようやく終焉を迎え、急に疲れが押し寄せてきた。

 私はヘッドホンを外し小さく欠伸をする。


 正確には桜小路の問題はまだ解決していないが、頭が回るといっても所詮子供。彼一人くらいならケースバイケースで対応していけば何とかなる。


 ふわぁ、と大きな欠伸が出た。

 睡魔が猛威を奮っている。



「あー、眠……。こんなに眠さ耐性低くなかったんだけどな、私……。こりゃ、万が一ブラック就職したらやっていけないな…………。もーむり……おやすみ………………」

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