表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/67

少し遅れた入園

 早いもので更に二年ちょっとが経過した。


「にゅうえん?」

「そう、入園するの。幼稚園に」


 五歳になった俺達は今年からついに幼稚園に通うことになるらしい。

 来年からは小学生なので少し遅すぎる気もするが、「一年間だけでも集団生活を体験してその大切さを身をもって実感してほしい」とか。

 そんな理由で入園することになった。



 予め言っておくが、通う幼稚園は少女マンガに出てくるような幼小中高大とエスカレーターで上がれる名門幼稚園ではない。一般の幼稚園だ。

 その理由はとても単純にして明快。入園可能になる三歳からではなく、五歳からという途中参加なので名門幼稚園には入園ができないからだ。

 両親は「入るなら絶対私立学校」と口を揃えて言っているが、幼稚園までは縛る気はないらしくすんなりと入園が決まった。

 






「はーい。みなさーん!! 今日からこのクマ組に新しいお友だちがやって来ましたよ! さぁ、四人とも」


 先生の挨拶で俺を先頭にして朝日あさひ真昼まひる夜瑠よるの順で教室に入る。初めて会う姉妹以外の同年代に緊張しているのか俺を除く三人の表情は固い。


 そんな三人とは裏腹に教室内のざわめきは大きくなっていく。その内容はどれも同じで、容姿に関してだった。


「わぁ……おんなじ顔だ。すごいすごい!」

「四人ともそっくり……」


 一卵性の四つ子なので顔が似ているだけでなく、俺達は髪型も一緒。むしろ違うところは口調くらい。

 そんなものだから、兄である奏時でさえも俺達が言葉を発しなければ誰が誰なのか判別に迷うくらいなのに、初見で見た人がその違いを見分けられるわけがない。さぞかし同じ人物が四人いるように見えることだろう。


 好奇心旺盛な子供達に注目されるのも無理はなかった。


「はいはーい。お静かに! 皆がおしゃべりしてると声が聞こえないでしょ、うん、ありがとう。じゃあ自己紹介できるかな?」

「え、あ…うぅ…」


 こういう場合は普通長女から言うべきだと思うが、肝心の朝日あさひは最初に話す勇気がないのか俺の後ろで固まっている。まぁ気持ちは分からないでもない。家族を除けば同年代と対面するのは初めてだからな。

 仕方ない、今回は俺が見本になってあげるか。


「私は西四辻にしよつつじ夕立ゆうだちです。本日から入園させていただくこととなりました、四つ子の三女です。卒園まで一年間と短い期間ですが、姉妹共々仲良くしていただけると嬉しいです。よろしくお願いします」


 頭を下げて一礼。ほら、と朝日の肩を軽く叩いた。


「…ありがと」

「どーいたしまして」


 俺の発言で少しは緊張が解けたのか朝日、真昼、夜瑠と続き、自己紹介が終わった後ふれあいタイムになった。


 子供達が弾けるようにして幼稚園の庭に出て個々の好きなことをしてはしゃいでいる。

 子供のコミュニケーション能力は計り知れないもので、姉妹達も他の子供達の中混じり仲良く遊んでいる。元気だなぁ……。子供心を忘れてしまった俺にはあんな風にはしゃぐことは到底できそうにない。


 遠巻きに眺めつつ、若干羨ましいと思っていると、小さな女の子がトテトテと駆け寄ってきた。


「あのね、今から、みんなで鬼ごっこするの! いっしょにやろ! たのしいよ! ね!」

「え、いや…」

「いっしょにやろ!!」


 キラキラと顔を輝かせて笑う女の子。

 卑怯だ。こんな笑顔で言われたら断れないじゃないか。


「はぁ…………。わかった。参加する」

「やったぁ! じゃあ、最初の鬼よろしくね!」

「え?」

「みんな! ゆうちゃんが鬼やってくれるって! 逃げよ!」


 わー! と散っていく子供達。

 俺は……嵌められたのか? 幼稚園児に?


「ははは……いいだろう。一瞬で捕まえてやる」



 年甲斐もなく全力疾走して鬼ごっこを楽しんでいたことに気づいて羞恥心に悶えるのはまた後日の話である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ