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5.ロリコンがクソビビる回

「良いお天気ですねえ、ブルース様。なんだかピクニックに来たみたいですぅ」

「そうだね、フランチェスカ。はい、あーん」

「あはは、ブルース様ぁ。私、自分で食べられますよぅ。私だってもうお姉ちゃんなんですからぁ」

「はっはっはっ、ごめんごめん」

「あむ。でも美味しいですぅ、ブルース様も、あーん」

「はい、あーん」


 天国か、それとも地獄か。それはきっと、見る人によって変わってくるのだろう。

 ブルースの膝の上に座るフランチェスカは、天使の笑顔を浮かべてブルースにサンドイッチを差し出している。ブルースもフランチェスカが差し出したサンドウィッチをぱくりとやると、凜々しくも優しい微笑みでフランチェスカの頭を撫でる。なんと平和的な光景だろう。俺はずずず、と紅茶を啜りながらそれを見ていた。


「どうしたんだい? ケイタ」

「何でもないッス」


 流石に「いやあ、幼女を膝に誘導するテク、感服しましたわ」とは言えなかった。無言で膝をぽんぽんすれば幼女がふらふらっとやって来るんだからな。イケメンは何をしても許されるから良いよな。そら、俺がやったらブザー案件ですわ。


「しっかし、平和だな。魔王におびやかされてる世界なんて、嘘みたいだ」

「ははは、この国は平和な方だからね。とは言え、この森も魔王軍の斥候が度々入り込んでいると聞く。気は抜けないぞ」

「魔王軍の斥候?」

「そうだねえ、ゴブリンやコボルトの尖兵だとか、スライムなどの魔物兵器だとか……」


 なるほど、流石はファンタジー世界。

 危険なモンスターも沢山いる、ようだ、な……。


「あのー、ところでブルースさん? そのコボルトってのは、もしかして二足歩行の狼みたいなやつ?」

「ああ、そうだ。詳しいね。狼の魂を持つ魔物と言われているよ。そうそう、ちょうど君の後ろで剣を構えて今にも君を串刺しにしようと避けろケイターッ!!」

「やっぱりじゃねえかー!」


 ずてーん!

 俺は、その場でもんどり打って転がるのだった。

 間一髪。コボルトの剣による一撃は空を切って、俺が座っていた切り株に突き刺さる。


「ガルルル!」

「いやいやちょっとちょっとちょっと! ブルースさん! この人刃物持ってる! 助けて! ヘルプミー!」

「そうだね。……フランチェスカ、少し膝から降りててくれないか」

「は、はいっ!」

「ちょっと!!! 早くして!!!」


 そのほのぼの日常回みたいなやりとり即刻やめて!

 さて、ブルース達がそんな事をしてる間に、コボルトは切り株から剣を引き抜き俺を睨み付ける。ひょえー! 成す術がないー! 俺のコマンド、タンスから1ゴールド出現させる魔法しかないぞー!


「はーやーく! ブルースさん、助けてー!」

「ああ……フランチェスカにR18-G指定のシーンを見せるわけにはいかない! 喰らえ、モンスター!」


 凜々しい声が高らかに響き、ブルースは腰に差した剣を抜いた。

 嗚呼、それは、剣と言うには余りにも美しい代物だった。刀身に朱・翠・蒼の三色の宝石が嵌め込まれている。ブルースがその剣を構えると、宝石がそれぞれ眩い光を放ち、収束して真っ白になる。ブルースは小さく深呼吸して、叫ぶ。


「戦女の聖なる一閃ヴァルキリー・スレイヤー!”」

「グワアアアー!」


 閃光だった。

 エネルギーの塊となった光が、衝撃波の形となってコボルトを飲み込んでいく。俺はと言うと、その圧倒的な攻撃の前に、ただ立ち竦むばかりだった。コボルトは抉れた地面ごと塵も残らない。

 ……ええ、何、今の。


「やれやれ。危なかったね、ケイタ。……ケイタ?」


 少し心配そうな顔で、ブルースが俺の顔を覗き込む。


「……うわっ!」

「うわっ、って……何だいその反応は……。傷ついてしまうよ……」

「え? あ! わ、悪い! 何かびっくりしちまって……」

「えっ? ああ、すまない。君の世界には魔法は無かったんだったね。驚かせてしまったかな」


 そう言って、ブルースは困ったように眉を下げて、はははと笑うのだった。

 ……ああ、違う。

 そうじゃない。俺は別にブルースのこんな顔が見たいわけじゃないんだ。

 だから、俺が仲間に言わなきゃいけない言葉は、こう言う言葉だったはずだ。


「ありがとな、ブルース。お陰で、助かった」


 俺がそう言うとブルースは少し驚いた顔をしていたが、やがて、ぱっと弾けるような笑顔を見せる。


「いやあ、ははは。そう面と向かってお礼を言われると、面映ゆいな」

「最初はビックリしたけど、凄い攻撃だったな。何だっけ? ヴァルキリー・スレイヤー?」


 俺が技の名前を言うと、ブルースは得意げに胸を張って、ふふんと鼻を鳴らす。


「ああそうとも、高威力の神聖魔法さ! 君の寿命に換算して1ヶ月分くらいのMPを使うからね。私も殆ど使った事はないけれど、ちゃんと出来て安心したよ!」

「……ん?」


 あれ?

 今、ちょっと非常に聞き捨てならない事を言わなかったか、この男女おとこおんな


「あの、えっと……“君の寿命に換算して”……って、言ったか、お前?」

「あれっ? 父さんから聞かなかったかい? MPは人間の運命力そのものなんだよ。あらゆる人間は寿命が決まっているからね、魔法を使うときは、寿命とも言える運命力を削って使うんだ。例えば、さっきのヴァルキリー・スレイヤーならば、私達のようなこの世界の人間で10年分の寿命を削らなくちゃいけない。だけど、勇者である君なら、120分の1にまで抑えられるんだ」


 ブルースは一通り説明すると、ぽかーんとしている俺を差し置いて「いやあ全く大した奴だよ、君は」と頷くのだった。

 ……ええと?


「おう、男女おとこおんな

「なんだそれ、酷いあだ名だなあ。どうしたんだい?」

「お前の魔法って、俺のMPが使われるんだよな」

「そうだよ。ほら、腕を見てごらん、印があるだろう? 魔力的な繋がりを示す刻印だ」


 ちら、と右手を動かして二の腕を見ると、ハートを象った紋様があるのに気づく。ブルースも手袋を取ると、手の甲に同じマークがあるのが見て取れた。……成る程。


「で、さっきのヴァルキリー・スレイヤーで、俺の寿命を1ヶ月分をぶっ放したと、つまりそう言うわけだな」

「そうとも! フランチェスカにケイタが剣で八つ裂きにされるゴアシーンを見せる訳にはいかないからね!」


 ブルースは、爽やかな笑顔でグッとサムアップをする。きっと、褒めて欲しいんだろう。……ああ、そうか。そうですか。

 俺は、ブルースの両肩に、ぽんと両手を乗せる。


「ブルース」

「何だい?」

「今度から……」

「今度から?」

「今度からっ……ほどほど威力のほどほど魔法を使うようにして下さい……!」


 ブルースは暫くぽかーんとしていたが、やがて「了解した!」と、至極爽やかに笑うのだった。多分、何も分かってないのだろう。

 嗚呼、俺は涙を呑むしか無かった。寿命を軽い気持ちでぶっ放すのは止めて欲しいとは思うものの、フランチェスカには出来れば死体を見ずに育って欲しいという気持ちもあるからだ。もう何も考えたくない。先を急ごう。俺は、涙を拭いて、馬車の方へと歩き出すのだった。

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