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2.カラクリが分かる回

「タンスから、1ゴールド出る、魔法……!?」

「そうじゃ、冥界魔法“グラヴィティバースト”は……」

「ちょっと待てよ!? 何のための『冥界魔法』で、何のための『グラヴィティ』と『バースト』なんだよ!? 残念魔法にも程があるだろ! こっちは冥界の邪神に捧げてんだぞ! ふざけんな! 殺すぞ!」

「殺す!? いや、だからワシはやめろと言ったんじゃ! 恥ずかしくなるから!」

「うるせーバーカ! 償え! あんたに悪気が無いのは分かるが、とにかく償ってくれ!! 命で償ってくれ!!」

「命は嫌じゃ勇者よ!?」


 もう、俺は頭を抱えて泣きじゃくるしかなかった。

 何これ。何で異世界に来てまで、タンスの後ろからお金拾う能力に目覚めてるの……!? と言うか、今俺の視線の先にあるタンスから、1ゴールドが精製されているの……!?

 こんな魔法で魔王討伐なんて、俺、出来る自信ないよ……!


「あ、勇者よ。別に勇者が魔王と戦う必要は無いのじゃ」

「……えっ」

「だって、勇者というのはの、


 “契約した姫騎士の魔力電池としての役割しか無い”のじゃよ。


 じゃから、勇者殿はただ姫騎士に同行するだけで良いのじゃ」


 ……それは、どういう事だ?


「つまり、実際に魔王と戦うのは、姫騎士なのじゃ。姫騎士は、勇者に蓄積されたMPを湯水の如く使って戦うのじゃ。じゃから、勇者殿はただ契約した姫騎士の後をカルガモのようについて行けば良いのじゃ。ほら、難しくないじゃろう?」

「何だその今まで聞いたこと無いくらい格好悪い存在!」


 つまりは、金魚の糞かよ!


「じゃが、いきなり異世界に呼び出しておいて、命を賭けて魔王と戦わせるのは、ちょっと酷すぎる気がしないじゃろうか……?」

「急に正論言うなよ! そりゃそうだけどさ、その、お姫様なんだろ!? 姫騎士って! 女の子に戦わせて、俺が遠くでタンスから1ゴールド拾ってるの、地獄絵図だろ!?」

「別に、グラヴィティバーストを使う必要は無いのじゃけど……。まあ、その辺の心配も、多分大丈夫じゃ。おい、入って参れ!」


 王様は、ぱんぱんと手を二度叩く。

 すると、玉座の後ろにある扉がゆっくりと開き、


 そいつは現れたのだった。


「ハッハッハッ! やあやあ、君が勇者かい? ようこそ、こっち側の世界へ! 私が姫騎士だ! ……おや? 驚かせてしまったみたいだね。なぁ少年、大丈夫かい?」

「……!?」


 声を失ってしまった。

 俺の目の前に現れたのは、少女漫画から抜け出てきたかのような、美しい騎士だったからだ。


 身長は俺より5センチは上だろうか。ブロンド短髪のやたら整った顔、きりりとした意志の強そうな目つきが印象的だ。筋の通った高めの鼻、白く透き通った肌、太めだが、形の良い眉。まるでギリシア彫刻のようだ。

 ヨーロッパの王侯貴族が着ているような、純白の衣装。とは言え、金糸の刺繍と金ボタン以外の瀟洒な部品がついているわけではない、上品な出来栄えだ。皮のハイブーツが、その長く綺麗な足を更に引き立てているように見える。腰に下げられているのはレイピアと呼ばれる細身の剣だろう。これも、装飾と実用性が完全に両立されているようだ。

 そう、そんな美しい騎士が、俺の顎を指でくいと持ち上げて、俺の顔を覗き込んでいた。


「うわああああああ、男だあああああああ!!」


 慌てて、後ずさる。

 一瞬、俺の中の乙女が恋をしたような気がしたが、それはなんかの間違いだ。そうに違いない。くっそー、何だこの胸の高鳴りは! 俺は幼女にしかときめかないはずだ、幼女が全てのはず、なのに、なのに……。


 てゆーか、男じゃんこいつ!


「ハッハッハッ、これは手厳しいな! しかし、残念ながら私は姫騎士だよ。この通り、ちゃあんと女だ」

「どの通りなんだよ! 嘘乙! ちょっと、王様! 男の姫騎士とか、ありなのかよ!?」

「あー、勇者よ。それはワシの娘じゃ」

「娘の性別くらい把握しろよ!」

「えー、さすがにそれは舐めすぎだろ勇者よ」


 いや、信じられるか!

 だって、背も高いし、声も太いし、めっちゃくちゃイケメンだし!

 絶対に、信じられるかー!


「何だい、本当に信じてくれないのか」

「信じられないね! 男なのに、姫騎士名乗りやがって! 変態! 変態!」

「うーん、困ったね。じゃあ、これでも信じられないかい?」


 ぐにゃ。

 いつのまにか掴まれていた俺の右手が、服の上からイケメン騎士の胸を鷲掴む。


 イケメン騎士の、胸を、鷲掴む?


「ギャーン!? なんか、ぐにゃっていったあああーっ!?」

「決して大きいものじゃあないが、膨らみはあるだろう?」

「怖い怖い怖い怖い! 何だよう、俺の性の概念を突き崩してどうするつもりだよう!」

「必要なら、下も確認して構わないが……少し、照れ臭いな」

「もう良いです! もう良いです! 付いてても付いてなくても、俺の心に一生消えないトラウマが残るので! 信じますから! 許してください! 信じますからー!」

「オホン! ……と言う、訳なんじゃ」


 俺が、土下座をして許しを乞うていると、王様は大きく咳払いをして仕切り直す。


「ワシの娘は、頭の中がお花畑のイケメンなのじゃ……!」

「需要どこだよ! おま、本当に需要どこなんだよ! なろう民舐めんなよてめえ!」


 俺達は幼女を求めてるんだよ!

 と、酷い失望に駆られている俺の前に、女騎士はすっくと立っている。

 ぽけーっと見ていると、女騎士はうずくまってる俺に手を差し伸べてくるのだった。


「まあ、そう言う訳だ。顔を上げてくれ、勇者君。……私は、ハミルトン家が長女、ブルース=ハミルトンだ。君は?」

「間中薫太だ……えっと」

「ブルースで構わないよ。そうか、ケイタ。少し付き合ってくれないか? 怖がる事はない。君の命は、私が全力を持って守るからさ」


 俺は、何とはなしにブルースの手を取って、握手をした。

 少し大きめの、だけど細くて長い、女性の手だった。


 俺達の珍道中が、始まってしまった。

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