6 心機一転
三日目の朝がやってきた。清々しいとまではいかないが、昨日レオンに会ったことで心に引っかかっていたものは解消された気がする。
今日はレオンに言われた通りに道具屋に行こうと思い、ベッドあら出たハルトは着替えを済まして、結晶を2つ小袋に入れると宿を後にした。
朝といっても疲れが溜まっていたのか、もう日はとっくに昇っている。ハルトは時折襲ってくる睡魔と格闘しながら階段を下り、道具屋を目指した。
武器屋の横を過ぎ、さらに階段を下りやっと道具屋に着いた。
道具屋は露店になっており、店の前には人の姿は見えなかった。道具屋の店主だろうか、その男は全体的に丸みを帯びている、要するに中年太りってやつだ。それに、鼻の下、上唇の上には濃いヒゲが生えていた。それのせいもあってか、年季の入った商売人のような風貌だ。
「あの」
ハルトが声をかけると商売スマイルというやつか、瞬時に顔の表情を変えて応じてくれた。
「はいはい、なんでしょう」
「これを売りたいんですけど、大丈夫ですか?」
「これはまた、スライムの結晶ですな。この大きさだと、2つまとめて3ブロンズですかな」
「そんなもんですか…」
せっかく苦労して倒したスライムなのに、予想以上に値が安くがっかりだ。だが、スライムは魔物の中でも最弱だ。そんな魔物を倒しても安いだろう。
「わかりました、売ります」
「ありがとうございます」
店主は快く買い取ってくれた。これを機にまた今日から、気を取り直して頑張ろう。そう思い銅貨を受け取るり、店に背を向けて立ち去ろうとした。だが、背後から子供だろうか、無邪気な声が聞こえてきた。
「わー!すごいよお兄ちゃん。この石とっても綺麗!」
「そうだね。お小遣いまだ残ってたら一緒に出して買おうよ」
「うん、いいよいいよ!」
「おじちゃん、この青いのと、ピンクのやつ下さい」
青いのと…ピンクの…?その言葉がさす物が気になり、ハルトはつい振り向いた。
「その2つだと、銅貨5枚だけど足りるかな?」
少年は手に持っている銅貨を数えた。だが次第にその表情は曇っていった。
「おじちゃん、銅貨…4枚しかないよ」
「それは困ったなぁ」
「うーん、チヤちゃんごめんね、足りないから今日は諦めて帰ろう?」
「えー、欲しいよー。欲しい欲しい」
チヤと呼ばれた少女は妹なのだろう、ということは少年の方はお兄ちゃんなのか。お兄ちゃんは小学校高学年ぐらいだろうか、妹のように無理にでも欲しがろうとはしなかった。
だが、妹の方はまだ幼いこともあり、まだ理性が成長していないのだろう。お兄ちゃんに駄々をこねっぱなしだ。
「そうだなぁ、それじゃ、今回はサービスしてあげよう。2つセットで買ってくれるなら銅貨4枚にしようかな。」
店主の意外な発言に耳を疑った。ハルトの中の商人とは、金儲けのためなら何でもするような、金に汚い人種だと思っていた。
だが、この店の店主は、片手にもつ結晶、まさに今ハルトが銅貨3枚で売ったばっかりの商品だ。その結晶を銅貨4枚で売ろうとしている。
今のハルトには高いが、たかが1枚、その売上が半分にあることを覚悟で売ろうとしていた。
「ありがとうおじちゃん!」
少年は銅貨4枚を店主の片手に落とすと、もう片方の手から結晶を取ると、自分には青、妹にはピンクを渡した。
そして、そのまま少年たちはハルトと逆方向に立ち去ろうと歩き出した。だが不意に店主が呼び止めた。
「坊ちゃんにお嬢ちゃん、その結結晶はね、あそこのお兄ちゃんがおじちゃんに売ってくれたものなんだよ」
店主はハルトに指さすと話し始めた。
「あのお兄ちゃんがここに来なかったら買えなかったんだよ」
「そうだったんだ」
少年たちは家路とは逆方向であろう、ハルトの元まで歩み寄ると二人揃って満面の笑みで口を開いた。
「「お兄ちゃんありがとう」」
二人は打ち合わせでもしたのかと言いたくなるほど、息ぴったりに、ハルトに感謝の言葉を述べた。
「っ……」
ハルトは一瞬言葉に詰まりはしたが、すらすらと言葉が出てきた。
「うん、お揃いで買えてよかったね」
そのままなぜか二人の頭をなでてしまった。この行動は意識してしたわけではないが、なぜか自然とそうしてしまった。
少年に少女はさらに ニコッと笑うと手を振りながら立ち去っていった。
これが昨日、レオンがハルトに道具屋に行かせたかった理由なのだろうか。もしこれが、事前にレオンによって仕組まれていたものだとしたらたいしたもんだ。
だが、今の少年たちの笑顔は正真正銘、素から出たものだろう。
昨日のレオンで、自分のためだけじゃく人のためにと、そう言っていた言葉を思い出しつい、口元が緩んだ。
ハルトが取った結晶が少年たちの手に渡り、その少年たちが使わなくなればまた違う誰かに渡り、そう考えるとハルトの行動には大きな意味ができてくる。
その結晶でさっきの少年たちのように笑顔が生まれる。別の人に渡ればまたそこで笑顔が、そうして一時的でも笑顔を沢山生まれてくる。
ハルトが奪った命は無駄にはならない。昨日のスライムも、きっとこれから倒していくだろう魔物たちも。
今のハルトは昨日まで引きずっていた思いが完全に吹っ切れた。心も軽くなり、なんだか、昔の自分とは違い一皮むけたようだった。
今日も時間の許す限り狩りに行こう。そう思った。
道具屋を離れたハルトは一旦宿に戻った。理由は、狩りに持っていくための愛剣を持っていなかったからだ。
部屋に戻り愛剣を手にすると よしっ と小さく気合を入れて部屋を出た。
宿を出て、ギルド横の階段を下りている途中、階段を上がってくる赤髪見えた。特徴的な赤髪で一瞬でレオンだとわかった。
「あ、ハルト、道具屋には行ったのか?」
「あぁ、行ったよ、それで子供感謝された」
「そっか、それはよかったね。ところで今から狩りに行くのかい?」
「うん、今日もスライムかな」
「それなら、役所に行ってみるといいよ。本当なら先に言うべきだったんだけど、あそこにはクエストがあるからしてみるといいよ」
「クエスト…?」
これもゲームの中では定番だ。だが異世界とはいえそこまであるとは思わなかった。
「クエストはギルドにはないのか?」
クエストがあるなら役所もわかるが、ハルトにとっての普通だとギルドにもあるはず。そう思い聞いてみた。
「うーん、あるにはあるんだけど、うちのギルドは変わっててね、ほとんどのクエストがB30以上じゃないと受けられないんだ」
「え、それはまたなんというか…」
「そうなんだ、だからギルドのクエストをできるのは僕を含めて5人しかいないんだよ」
5人、ハルトの所属しているギルドにはレオン並に強いやつがあと4人もいる、そう思うと自分なんかが本当に、このギルドにいてもいいのかを疑ってしまう。
「話しがそれちゃったね、まあ役所に行ってみるのもいいと思うよ」
「わかったよ」
そのままレオンとはすれ違い、レオンはギルドへ、ハルトは目的を変えて今日は役所に行ってみようと思った。
役所はこの街の中心、ハルトの所属しているギルドのからはそう遠くなかった。
役所の前に来るとこの街にいる冒険者だろうか、鎧をつけたり、大剣を担いでいたりと多種多様な人が行き交っていた。
役所の中はもっと堅苦しいところかと思ったが、あちこちから賑やかな声が聞こえたり、中には腕相撲で力比べをしたりと楽しそうな雰囲気を醸し出していた。
ハルトはそんな賑やかな中を通り抜けてクエストを受けれるであろうカウンターまでやってきた。
「こんにちは、今日はクエストを受けられますか?それともーーー」
カウンターにいたのは女性で、とても丁寧に話しかけてきたがお互いに目が合った時に、それ以上言葉が紡がれることはなかった。
「えっと…こんにちは」
「え、あ、うん、こんにちは」
そこにいた女性は金髪にロング、清楚系であり、とても美人だ。だが、見覚えがある、昨晩の銭湯にてハルトに飛び蹴りをくらわした張本人だ。
「ハルトは、冒険者だったのね」
「一応な」




