2 始まりの街ガリア
ハルトが苦労して戦っていたゴブリンが次々と倒されていく。何時間も経っていない。ゴブリンに出会ってから10分、20分経ったぐらいか、それだけなのに密の濃い時間だった。
ゴブリンたちを倒した人物が歩み寄ってくる。ザッザッ と砂を踏む音をたてながら近寄ってきた。
月明かりの元見えたその人は男で、赤髪に、片手には弓、背中には矢を背負っており、腰には短剣を1本構えていた。
「大丈夫かい?」
そう言って手を差し伸べてきた男の手をとった。
「ありがとうございます」
「君は運がいいよ、僕はレオン、あの街が見えるかい?あそこまで行く途中だったんだ。偶然僕がこの道を通ってなかったらゴブリンに身ぐるみ剥がされてバラバラにされた後に食べられてたよ」
ハルトはレオンが来なかった残酷な未来を告げられて背筋が凍るような思いを覚えた。だがそんな考えはさておき、先に一言礼を言っておく。
「あ、ありがとう、俺はハルト」
「ハルト君か、君はどうして装備もなくこんな所をうろついてたんだ?」
「あ、えっと」
ハルトは森の方を指さす。
「あの森の奥にある草原の更に奥に神殿があってそこから…」
ぷっ とレオンが吹いた。
「ははははっ、笑って悪いね、けどその冗談はあんまり言わない方がいいかもね」
「え?」
「ま、こんな所で立ち話もなんだし街へ行こうよ」
「そうだな、いてっ」
ハルトは立ち上がろうとするがゴブリンをどかす力すら残ってないようだった。自分でももう死んでもおかしくないだろうと思えるほどボロボロだ。
「おっと、その前に」
レオンはハルトの頭部、おでこあたりに右手の中指を当てる。
「精霊よ、癒しの加護を」
中二病臭いとも捉えられる言葉を言うと全身がじわじわと熱くなっていった。そして、その熱が急激に冷めたと思えば痛みは一切なくなっていた。
「これは…?」
「ん?知らないのか?初級ではあるが回復魔法だよ。大気中に存在する精霊から力を借りて使うんだ」
「ありがとう」
傷が治ったハルトは立ち上がり2人は歩き出した。
夜道を歩く中で月明かりだけを頼るのは少しづつ光量が足りない。そう思った矢先。
「レイト」
レオンは右手をピースする形で前に出した。するとその指2つに光が灯った。
レオンは不意にハルトの手を取りその光の1つを人差し指に分け与えた。その光は白く、そして少し温もりを感じさせるような気がした。
「これも魔法なのか?」
「ハルトは何も知らないんだな。これは精霊の力は借りずに自分の魔力だけを使って光を作り出す魔法だよ」
やはり、異世界だ。改めてそう思った。魔法に精霊、そんなものは元の世界では空想上のものだ。それに、今思えば最後に飛んできた火の玉も魔法を使ったのだろう。
今のハルトにはわからないが、ハルトから見てレオンは強かった。まさしく冒険の中心、主人公的存在だ。
「そういえば、ゴブリンみたいな魔物?がいるならボス的なやつはいるのか?」
「ボスかぁ…そんな言い方する人は少ないけど確かにいるよ。闇の神ザブラ」
「そのザブラはレオンでも勝てないのか?」
レオンは驚いたように両目をパチパチさせていた。
「僕なんかで勝てたら世界はもうとっくに平和だよ」
闇の神ザブラ、とてつもなく強いと言われてもゴブリンですらあの強さだったのに…計り知れない強さを言われてもピンとこなかった。
「あ、そろそろだよ」
レオンの指さす方、荒地だった場所からは遠く小さな灯りだったが今は大きく、賑やかな灯りだ。
歩みを続け更に歩くとやっと街の前までたどり着いた。街は魔物に襲われないように周りに壁を造っていた。まるで砦のような、刑務所のような仕様だ。
ハルトはレオンについて行き街の仲間で入った。夜だというのに街の中は騒がしかった。
「ここが始まりの街だと言われてるガリアだ。それで、僕は納品があるからこっち、ギルドに行くけどハルトはどうするんだ?」
「ギルド…?あ、俺は…何も考えてなかった」
この世界に来てからというもの街へ街へと思っていたがいざ街に来ても何をしたらいいかわからなかった。RPGゲームなら元手があるがリアルのこの世界じゃ一文無し。
何をどうしたらいいかわからないまま考え込んでいたハルトに見かねてレオンが救いの手を差し伸べてきた。
「ハルトの今の職業は何をしてるんだ?冒険者ならこの指輪があると思うんだけどあるかい?」
ハルトはレオンの左手についている指輪を確認すると自分の両手、服やズボンのポケットの中をあさった。だがやはり指輪どころか紙切れ一つ入ってはいなかった。
「ない…かな」
「そっか、じゃあこんなのはどうかな。この世界では明日を生きるなら働くしかない、なら、ここで質問。ハルトは頭を使うのか体を動かすのかどっちが好きかな?」
「どっちかって言われてもなぁ…」
「そんな深く考えなくてもいいよ。率直に言ってみて」
「じゃ、じゃあ体を動かす方で」
部活をしていたこともあり、座学よりは体育の方が好きだということもあったからだ。
「うんうん、じゃあ仕事はできるだけ自分のペースがいい?それとも他の人にも合せる?」
「それは自分のペースがいいかな」
「じゃあ決まりだ。ハルトも僕たちのギルドにきなよ。冒険者になって魔物を倒しながら日々精進!どうかな?」
冒険者になって戦うことには別に抵抗も何も無かった。だが、そこでもお金の問題が発生してきた。
「うん、いいんだけどね、お金…」
「その事なら大丈夫だよギルドに入ったら、まずは銀貨3枚は貰えるからね」
銀貨3枚がどれだけすごいのか考えてみた。銅、銀、金の順番であれば2番目に高いが、例えばパン1個がどのくらいの貨幣がいるのかが、やはりわからなかった。
「うーん…貨幣関係がいまいちわからないかも」
「それは困ったなぁ。小学校で習う基本的な貨幣制度を言うと、りんご1個が銅貨1枚、銅貨20枚で銀貨1枚って感じかな」
「うーん、うん、わかった気がするよ。ありがとう」
「そっか、よかったよ。じゃあギルドに案内するね」
ハルトはレオンに手を引かれ人混みの中を進んでいった。街に入った門からそんなに遠くは無いが、少なからず道が入り組んでいた。
レオンが足を止めるとそこには剣と盾が交わった看板があった。ここがレオンの所属しているギルドなのだろう。
レオンはそのままハルトを連れて扉を開けて入った。
「帰りましたよマスター。それに新人連れてきましたよ」
ギルドの中はあまり人はいなかった。夜だからなのかと思った、だがここが酒場というわけでもなく、普通の店というわけでもないため、イスや机が少ないからだ。それでも3、4人はいた。
レオンはハルトの手を離すと1人でカウンターの方に歩いていった。カウンターには少し横が太い、中年だろう女性が1人立っていた。
「マスターは今日はいないのか?」
「マスターなら昨日から出かけてるよ。それより新人ってのは?」
「ハルト、ちょっと」
レオンが手招きをしていたのでハルトは歩いていった。
「この人はハルト、ここに来る前にゴブリンに襲われてたから助けてきたんだ」
「へぇ、丸腰でゴブリンに挑むなんてどこの自信家かそれともただの馬鹿か」
その女性は呆れ顔で首を振り両手を上げていた。
「それで、冒険者志望なんだって?」
「あ、はい」
「それならまずは銀貨3枚に、この指輪をあげるよ」
レオンも持っていたこの指輪、ただの飾りなのか、それともこのギルドに所属しているという証なのか、わからなかった。
「この指輪はね、あんたのステータスを管理してくれるのさ」
「ステータス…?」
「まぁ、言ってみれば、力の強さや足の速さなんかの身体的ステータス、それに、幸運度やスキルの肉体とはまた別のステータスもあるのさ」
「魔法もですか?」
「そうだよ、魔法は別ステータスの方にあるのさ」
ステータスとか言われて、勝手に力がついていくなんて思うと、元の世界で部活で筋トレをしている人たちに申し訳ない気持ちになる。
「その、レベルみたいなのもあるんですか?」
ステータスが上がるということはレベルもあるだろうと思っていたので聞いてみた。
「あるよ。C〜Aで、Cの50レベルになったらその次がBの1って感じで上がっていくのさ」
「俺の今のレベルはわかりますか?」
「指輪をはめたらね」
ハルトはつい、話に夢中になってまだ指輪をはめてなかった。これじゃ誰もハルトのレベルがわからないわけだ。
ハルトは指輪を左手の中指にはめた。これはレオンの指輪の場所と同じだ。
「そのまま左手をしたに下げてみなさい」
ハルトは言われるがままに左手を下げる、すると今まで何も無かった虚空ににいきなりウィンドウが開いた。




