24 レオンの過去4
シャレレイはいったい何歳なのか?ギルドマスターも何歳なのか?そんな事はどうでもいい、なんでギルドマスターはここにいるのか、逃げたんじゃなかったのか。
それに、八十年というレオンからすれば途方もない暦数、そんな長い時間ギルドマスターとシャレレイは何があったのか。
今のレオンは情報不足で分からないことだらけだった。
「あなたはもうおじいさんなのね、ほんっと人間ってつまらないわ」
「何を言うか、昔はお前も人間だったじゃろう」
シャレレイが人間、レオンは耳を疑った。魔王軍の幹部なら魔物じゃないのか?
「そーんな昔の事はもう忘れちゃったわよ」
シャレレイはつまらなそうに近くの小石を蹴った。
「ほざけ、じゃがこの因縁にもそろそろ終止符を打たねばならんだろう」
「そうね、私はあなた事今でも好きよ。だから私の手で楽にしてあげるわ」
シャレレイはナイフを逆手に持ち地を蹴った。ギルドマスターとの距離はそう離れていない、シャレレイは地を蹴った勢いに自分の振るう腕のスピードを加えてナイフを振り回した。
だが、格闘においてシャレレイは素人に毛が生えたもの。レオンでもすんなりかわせれるほどだ。
だが、その攻撃は当たらずとも当たる、そして生気までも吸い取ってしまう。
ギルドマスターはナイフをさばくが、その腕には切り傷が、それに少し流血が見られる。
「ギルドマスター、シャレレイの攻撃はーーー」
「わかっておる、わかっておる」
ギルドマスターも八十年の因縁と言うほどだ、やはりシャレレイの攻撃を知っていた。だが、やはりその攻撃をさば切ることはできないようだ。
シャレレイの攻撃の合間、ギルドマスターは隙をついて素早く右腕を振った。
その攻撃は読まれていたのかシャレレイは後方にかわし、今し方シャレレイが立っていた場所には豪腕が突き刺さっていた。
「お前はわしらを裏切った」
ギルドマスターは小さく、しかし力強い声で話した。
「九十年前、お前はわしらのギルドを壊滅に追い込んだ」
九十年前のギルド…半世紀以上前のギルドなんてレオンにはわからなかった。
「お前は魔王軍に入り、そして街を攻めてきた。その時の死者は数しれず、わしらのギルドメンバーもほとんどが死んでしまったわい」
「あーあーあー、私は何もしてなーいー」
シャレレイは両手で両耳を叩きながら返した。
「あれからお前とは幾度となく戦い、そして負けてきた」
「そうね、あなた弱すぎだもの」
ギルドは完全に油断していたシャレレイに瞬時に近づき拳を振り下ろした。だが、決まったと思われた攻撃は空を切る。
「じゃが、今のわしにはレオンがおる」
「ふんっ、あの子は当分動けないわ。残念ね」
シャレレイは逆手に持っていたナイフを通常通りの持ち替えるとギルドマスターを切りつけた。
ナイフは鎖骨から胸部、そして腹部を通りに骨盤あたりで抜けた。
「ぐぅ…ぅう…」
ギルドマスターは身体の全面から激しく血を流しながら吐血した。
「やっぱり、あなたは弱いわ」
「それはどうかのぅ」
ギルドマスターは目の前にいるシャレレイにしがみついた。流石にこの行動は回避しきれなかったのかシャレレイはジタバタと手足を動かすが離されることはない。
「なっ、離しなさいよ。おじいさんと抱き合う趣味は無いの」
「お前の力は心が読める、それはわかっておったわ」
「へぇ、そこまで分かっていて何ができるの?ここからじゃあなたは何もできないでしょう?」
「そう、だからレオンがいるんじゃ」
「あっ…」
シャレレイは間抜けな声を漏らすと、冷や汗を掻きながら喋った。
「あ、あの剣豪さんは動けないはず、そう!結局あなたの負けなのよ」
「レオン、切ってくれるな」
ギルドマスターはシャレレイから目を離してレオンの方に視線を移した。
「切る…とは、まさか…」
「そうじゃ」
これが分からないほどレオンは鈍感じゃない。切ってくれる、つまりシャレレイを切ると、レオン自身の手でギルドマスターを切るということだ。
「でも、ギルドマスターはーーー」
「わしはいいんじゃ、もう長く生きずきた」
レオンはシャレレイから生気を吸い取られていたが、動けないではなかった。初めこそは本当に動けなかったが、ギルドマスターが時間を稼いでくれたおかげで回復してきていた。
だが、レオンは剣を握らなかった。
「僕には…できません」
「レオン」
レオンの言葉を聞き、ギルドマスターは悲しそうにレオンの名前を呼んだ。
「わかった。そうよのぅ、仲間を切るなんてできんよの」
ギルドマスターはその瞳に滴を浮かべる。
「あなた今絶望してるわね、最後の希望に拒絶されて。でも、ん?私を離さない?そんな事がいつまで続くのかしら」
「レオン、わしがこの女を抑えておく、その間に逃げるんじゃ。遠くへ、更に遠くへ」
「無駄よ。たとえ何年かかっても私はあなたを殺すわ。絶対にね。どこにいても安心して眠れる夜は無いと思うのね」
シャレレイの言葉は蛇のごとくねっとりとレオンの心に絡み付いた。
「そうね、リアちゃんのようにされたい?あ、それともあの鈍臭い男の子みたいに辱めてから死にてあげよっか」
リア、ケイ。二人はレオンにとって掛け替えのない存在だった。ギルドマスターとシャレレイの衝撃的な話を聞いてきたから忘れていたが、その二人のことを考えるとふつふつと体の奥底から怒りが湧き上がってきた。
「そうだった、ギルドマスターの事は今はどうだってい。お前はケイとリアを殺したんだ、俺のパーティーメンバーを」
「そ、そうね、そうよ!ぶち殺したわ」
シャレレイはレオンの殺気を感じ取ったのか、言葉を詰まらせながら口を開いた。
「もう、黙れよ」
その時、何かが、レオンの中の大切な何かが壊れる音がした。物理的には聞こえないがその音は儚く、そして、寂しく消えていく。
「な…ぁ…」
ズバッと、レオンの剣はギルドマスターの首ごとシャレレイの首を切り飛ばした。
ギルドマスターを手にかけることには、心が痛む、だが今のレオンはスッキリしていた。
「ふぅ、ゔっ…」
生暖かい血しぶきを浴びながら、レオンは肉体の限界を感じて膝から崩れ落ちた。
レオンの身体の節々からは出血がおこり、筋肉が断裂し、骨が砕けていた。それはレオン自身がよく分かった。
怒りが肉体への負担を超えたからだ。




