23 レオンの過去3
握ったリアの手は冷たく、まるで死人のような手だ。
「お前…」
「レオン?何言ってるの?私はリアよ」
「冗談はやめるんだ。本物のリアはどこへやった」
「私を疑うの?私はリア、勇者の末裔よ」
「嘘をつくな!」
レオンは握っていた手に更に力を強めた。骨がギリギリ折れない程度で力を強めたが、表情一つ変わらない。
だが、痛みを感じてでは無く、呆れるような目でリアはレオンを見つめた。
「面白くない男ねぇ」
リアの目は、いつもの優しい目では無かった。
「ほんっとつまらないわ」
そう言うとリアは握られていた手を振り払い、三歩ほど後ずさった。
「なんだと?」
「早いのよ、まだ門を出てすぐじゃない。もう少し森の中に入ればやりやすかったのになぁ」
「…!!」
レオンの第六感が働き即座に首を左に倒した。すると頬に微かな痛みが走った。そこからは何か液体が垂れる感覚がある。
リアが何かを投げてきたのだろう。そのシルエットは捉えられなかったが勘の通りに動いて正解だった。
「あらぁ、あれをかわすのね」
リアは口の端を釣り上げて不敵な笑を浮かべていた。
「今ので確信したよ、お前がリアでは無いことが」
レオンは腰に下げていた剣を引き抜いた。そしてその剣を体の前で、正中線のあるところで構える。
「なぁに?リアとやるきなの?」
「偽物がリアを語るな。それにリアは自分の事をあたしって言うんだ」
「へぇ、そうなんだ。始めっから勘づかれてたのね」
「決定的だな」
「なっ!」
リアがは自分の事をわたしと言う、軽くカマをかけてやるとすぐにボロが出た。ということは今では目の前にいるのはリアの偽物で間違いない。
「私をハメたってことね、ふふふ、いいわ、いいわよ。ぶっ殺す、絶対にぶっ殺すわ」
リアの偽物はレオンを見ながら笑い、嗤い、そして涙まで浮かべていた。
「それと、一つ勘違いしてるわ。私は本物よ、ただーーー」
そう言うと偽物は大きく口を開いた。その口は更に大きく、更に大きく、限界を超えてミシミシと音を立てながら、唇のさきを裂きながら更に大きくなる。
そして顔の半分以上に口を開くと中からギョロりとレオンを見つめる赤い何かが見えた。
その二つの赤球は徐々にその正体を露にしていく。それは眼だ。その真赤な眼球は燃える街と重なり更に紅く見えてしまう。
そして、そのからは女の顔が出てきた。そのまま肩を出し、胴体も出すと地面に足をついた。
「やぁーっと出れた」
その声は今まで聞いていたリアの声とは違っていた。
「リアちゃんはね、あれ」
その女は親指を立てて自分のの背後に指さした。
その場所には今の今までそこに立っていたリアがペラペラの薄い紙のように地面に横たわっていた。
「リアちゃんの体の中にちょっとお邪魔しましたぁ」
女は笑みを浮かべながら言葉を発した。その言葉の意味数秒分からなかったが、やっと分かった。
リアは死んだ。
「…おまえっ…!!」
レオンは握っていた腱さらに強く握り、今度は中段で構えた。
「ふふ、リアちゃんの中はなかなか広かったわ。彼女処女じゃ無かったものね」
レオンはその言葉を聞いていた自分の鼓動が早くなるのを感じた。
「あれれぇ?動揺してるの?あなたじゃ無かったのね。って事はあの鈍臭い男の子だったのかぁ!」
女の嗤い声を聞くと余計に心拍が速まる。
「まぁいいわ、あなたの絶望なんかに興味は無いもの」
そう言うと女は急に距離を詰めてきた。そして下から振り上げるのは拳だろうか。レオンは動揺で反応が遅れたが、後方に倒れながら何とか回避した。
だが、頬と同じように額からも垂れてきた。ギリギリのところで当たってしまったのか、レオンは女の手に視線を向けた。女の手には至って細工は無かった。
「あれかわしちゃうんだ。流石は剣豪さん」
レオンは乱れた呼吸を戻そうとするが、その隙を与えてはくれなかった。
女の追撃、その攻撃も全てこぶしを振り回していた。最初こそは驚いたが、来るとわかっている攻撃ならかわすのも容易い。
だが、何故かかわしたはずの攻撃が全て寸前で擦れている。十分に距離を取ってかわしても当たる、近くでかわしても当たる。
「どういう事だ」
「ふふふ」
お前は笑いながら襲いかかってくる。この女の攻撃に関しては素人に毛が生えた様なものだが、レオンは徐々に体力を奪われていった。
「剣豪が聞いて呆れるわね」
「はぁはぁ、なん…だと」
「いいわ、どうせもうまともに動けないでしょうし。ネタバレしてあげる」
女はそう言って口元に手を当てて続ける。
「私の力はわたしが殴ったと思ったところに当たり、更に生気を吸い取るの」
「そんな大事なことをバラして、余裕だな」
「そうね〜ん。もうあなたじゃ私には勝てない。だからよ」
そして女はどこからかナイフを取り出した。このままではまずい、レオンは一歩でも下がろうとしたが足が言うことを聞かずに動けない。
これが生気を吸うということなのか、体力を奪われるだけじゃなくてその先、行動までできなくなる。
お前は少しづつレオンに近づき、そして。
「バイバイ、剣豪さん」
腕を上げて、そのナイフを振り下ろす。この角度で入ってくればレオンの首は飛ぶだろう。そう覚悟した時。
「レオン!」
野太い声が聞こえた。それは、聞き覚えのある、仲間思いのある男の声だ。
女は後ずさった。そこに割り込んできたのは、魔法で体を強化させたギルドマスターだ。
見た目は常日頃から鍛え抜いている強靭な男のように見えるが、これでも百歳を超えているという。
「大丈夫か」
「はい、ありがとうございます」
「この女は魔王軍幹部のシャレレイといえ女じゃ」
「シャレ、聞いたことがあります」
前に街で見かけた魔王軍関係のチラシ、その中にこの名前があった。
「あぁ、私も久しぶりに会ったかのう」
「ほんっとあなたは昔っから変わらないのね。八十年ぶりかしら」
レオンは動けない体で、だが動く頭で考えていた。ギルドマスターとシャレレイとの八十年を。




