22 レオンの過去2
目が覚める時には街中にサイレンの音が鳴り響き、慌ただしく走り回る人々の音や声が聞こえてきた。
コンコンコンと三回のノックの音がレオンの家に響く。
「レオン!いる?魔王軍が攻めてきたの!いたら返事して!」
声の主はリアだ。今玄関に立っているのか。レオンはベッドから起き上がると窓際まで歩いていった。
カーテンを広げると、いつも見ていた街の景色とは一変した景色が広がっていた。
そこでは、魔物たちが壁を越えて侵入してきて人間を惨殺していた。
この街は貿易商で栄えているだけあって、冒険者よりも一般の商人といった人が多い。冒険者の少なさあってか戦っている人はほとんど見えず街は火の海に包まれて、まるで地獄絵図のようだ。
レオンは窓を開けリアに話しかけた。
「大丈夫だ。それよりケイはどうした?」
「ケイならもう街の外にいるはずよ。レオンも早く出てきて」
ケイが見当たらなかったが無事なら安心した。レオンは必要最低限の物を持つと家を飛び出した。
たぶん街はもう魔物に飲まれるだろう。圧倒的に冒険者の数が少なく勝てる見込みは皆無だ。
レオンとリアは街の外に出る前にギルドに立ち寄った。
ギルドのドアを開けるとその中はもぬけの殻だった。皆逃げたか戦っているのか、誰もいなら早く街を出ようと思った時。
「レオン、置き手紙があるわ」
リアがカウンターの上に置いてあるメモを手に取って持ってきた。
内容は簡単で簡潔だ。全員逃げる事、近くの街より少し遠くの街を目指すこと、ただそれだけが書いてあった。
筆跡的に書いた人はマスターだろう。街を捨てるという大胆な行動に、後々ここに立ち寄る仲間を守るために書置きをするなんて流石としか言いようがない。
「流石はマスターだな」
リアはその言葉を聞くとマスターの書置きを元あった場所に戻した。
仲間のことは心配だが、マスターの書置きに気がついて助かってくれることを祈りながら二人は街の外を目指して走り出した。
「東門を目指しましょう」
リアが言った。西門が一番被害が大きかったのでそこから魔王軍が攻め込んできたと考えた二人は東門を目指した。
走る先に魔物が見えれば倒し、振り切り、手強そうな魔物がいれば時には大回りしながら東門を目指す。
街自体あまり大きくないために東門はすぐ目の前まで迫っていた。だが、遠目からでも分かるが東門は開いておらず更に大型のサイクロプスが立ち塞がっていた。
そのサイクロプスは巨大な棍棒をあちらこちらに振り回している。
よく見ればレオンと同じ考えをしたのか冒険者たちが東門に集まり、サイクロプスと交戦していた。
サイクロプスの大きさは三メートルはあるだろう。その周りには平均的な身長の冒険者が五人立っている。
ここで時間を取られて逃げ出せれなくなってしまっては元も子も無い。
「リアはここで待っててくれ」
レオンはリアに一言かけて、剣以外の荷物を下ろすとサイクロプスめがけて走っていった。
サイクロプスは力は強いが巨体のせいで動きが鈍い、真っ向から戦えば防御されることもあるが意打ちとなれば耐用しきれないだろう。
レオンは建物に隠れながらサイクロプスの側方に回り込んだ。サイクロプスと真っ向切って戦っている冒険者の数は八人ほど、これだけ人数が多ければサイクロプスは気が付かないだろう。
レオンは勢いよく飛び出すと壁を沿って走っていく。サイクロプスの目玉は一つ、気が付かれれば目玉が動くはず。
レオンは絶えず目を気にかけながら全力で走った。サイクロプスの足元まで迫っているが目玉が動くことは無かった。
好機とばかりにレオンは剣を抜き取った。その剣は有名な鍛治職人が長年かけて叩き上げた業物だ。
レオンは抜き取った剣を左に構えて更に加速した。サイクロプスの真下に走り込むとまず、勢いを殺さずにそのまま左足の腱めがけてフルスイングした。
直立しているサイクロプスの腱は予想以上に硬かったが、なんとか断ち切れた。
腱が切れたことでバランスを崩したサイクロプスは左から崩れていく。レオンはここぞと言わんばかりに更に右足の腱にも狙いを定めて切りかかった。
やはり硬くはあったが剣の切れ味は落ちることなく、バッサリと右足の腱も断ち切った。
これで立っていることができなくなったサイクロプスは膝をつくこともなく地面に倒れふした。
サイクロプスはうつ伏せて倒れたので両手を地面につき起き上がろうと動いている。だが、そこは流石冒険者と言うべきか、先刻まで交戦していた冒険者たちがサイクロプスに乗っかりタコ殴りにしていた。
「ありがとよ剣豪さん」「あぁまじ助かったぜ」「剣豪だなほんと」
などと賞賛の声が聞こえてきたが、まだサイクロプスを倒したに過ぎない。ここから門を開けて早く遠くへ逃げなければならなかった。
レオンは門を開けるよりも先にリアを予備に行った。そんなに遠く場所に待たせていたのでリアの元につくのは早かった。
「サイクロプスは倒したから早く出よう」
「うん」
レオンは置いていた荷物を持つとリアと一緒に駆け出した。サイクロプスの元に戻ると門は開いており、さっきまでサイクロプスに乗っかっていた冒険者たちの姿は見られなかった。
レオンとリアもさっさと門から出ていった。街に立ち上る火が明るく照らしてはいるが、門の外は暗かった。
「そういえば、ケイのやつはどこにいるんだ?」
門から少し離れた所でレオンは率直な疑問をぶつけた。東門はサイクロプスが立っていた。西門は魔王軍が進行している。東門にサイクロプスがいたぐらいだ北と南門も流れで行けば魔物に固められているに違いない。
その質問を聞くとリアは足を止めた。
「どうした?」
リアは顔をうつ伏せた。
「早く行かないと魔物たちが来るぞ」
リアは動こうとしなかった。
「リア、行こう!ケイはどこなんだ?」
リアは肩を震わせて何かを言い出した。だが、余りに小さ過ぎる声に聞き取ることができなかった。
「なんだ?」
「…わね。結構早いわね」
「早い?何がだ?」
リアの訳の分からない言葉に戸惑うが、事は一刻を争う。ここで時間を取られるわけには行かないとレオンはリアの手を引こうと握った。
「お前…」
その時レオンは悟った、もうパーティーは無くなってしまったと。




