21 レオンの過去1
レオンの戦い方は基本的には弓、接近戦になれば素手かナイフ。この戦い方は二年前から変わることがない。
二年前のあの日、レオンは剣を手放したのだ。
新しい季節を告げる心地よい風がレオンの髪をなびかせる。ぽかぽかと暖かい日差しはレオンの中の睡魔を掻き立てた。
花々のほんのり甘い香りに鼻先をくすぐられて、野原で横になるレオンの周りには野蝶が飛んでいる。
このまま寝転がっていればころっと寝入ってしまうかもしれない。だが、今街は平和で懐にも余裕はある。ならばいっそこの気持ちの良い場所で寝てしまっても構わないのではないだろうか。
レオンはその瞳をゆっくりと閉じていく。太陽の光が徐々に闇に覆われていく。が、気持ちよく眠れそうだった時。
「レオン!」
自分の名前を呼ぶ声にレオンは閉じかけていたまぶたを開ける。横目で声の主を見ると見慣れた顔の女が立っていた。
「なんだ、リアか」
その女の名前はリア、レオンのパーティーメンバーであり、恋人だ。
「ま、まってぇ〜」
上体を起こしてリアの後方に目をやると、男が一人。その男も又パーティーメンバーだ。
「ケイはいっつも遅いのよ」
リアは腰に手を当てて両頬を膨らませながらふてくされたように言った。
「あははは、ごめんごめん」
ケイは鈍臭いが、これでも僧侶見習いとしては一人前の腕の持ち主だ。
「それより、レオン君はなんでこんな所にいるんだい?」
「うーん、なんとなくかな。ここは心地良い風が吹くんだ」
「またそんな適当にぃ!早く戻らないとギルマスに怒られるよ。今日は定例会議があるって言われてたじゃん」
レオンの所属しているギルド、閃光の鳥 というダサい名前のギルドでは月に一回定例会議で話し合いをする決まりになっている。
その会議をすっぽかしたとなればマスターのイーリス爺に殺されかねない。
「それはまずいな。早く行こう」
レオンはリアの手を借りながら起き上がり、ギルドのある街 スンダム へと駆けていった。
スンダムはこの世界にある街の中でも小さい方だが、貿易商で栄えている。そんな街の一角にある閃光の鳥では今、定例会議が行われていた。
「えーと、まず最近魔王軍の進行が著しく報告されている。近い内にこの街にも来るかもしれない」
進行を務めているのはメガネをかけた事務担当の男だ。普通ならマスターであるイーリス爺がするはずなのだが何故か腕を組んで座り込んでいる。
「イーリス爺は何かあったのか?」
「ううん、わかんない。けど怖そうだね」
リアにも事情は分からなかったらしい。
「ケイは何か知ってるか?」
「うーん、確かな情報じゃないけど、最近腰痛が酷いらしいよ」
イーリス爺の年齢は百歳を超えていると言われている。そこまでいけばもう体の節々にガタがきてもおかしくないのだろう。
「ーーーと言うことで、魔王軍の進行についてだが何か意見はあるか?」
この場にいる人間は全員で二十人前後だが誰一人として意見を言おうとはしなかった。
「では今日はこれまでで終わります」
これで定例会議は終わりだ。いつも通り誰も意見を言わずに話が終わってしまう。
「やっと終わったねぇ」
「やっとって言うほど長くなかったですよ」
ケイがツッコミを入れるとリアはちょっと頭にきたのかケイの頭をぐりぐりと万力のように挟んでいた。
傍から見ればこの二人の方がよっぽど恋人らしい行動をとっている。
レオンがリアと付き合いを始めた理由はお互いに好きだったわけではない。ただの家柄だ。リアも渋々家のためにレオンと付き合っていた。
それはレオンも同じだが、時間が経つにつれてレオンはリアの人懐っこく明るい性格に少しづつ惹かれていっていた。
今ではレオンはリアの事が好きだがリアの方はそうでは無い、と思う。
口に出して聞いた訳では無いがリアの行動を見ていればよく分かる。リアはケイの事が好きだ、ただその本音を言えないでいる。レオンと付き合っているという足枷がついているからだ。
恋は人を強くするその反面弱くもする。リアがケイと仲良くしていると胸が締め付けられる思いにかられてしまう。だが、リアのことを思うとケイと結ばれて欲しい、そう思えてくる。
「はぁ」
こんな事を考えていても埒が明かない。レオンは吐いたため息にもやもやを混ぜて吐き出した。
そして一度深呼吸をする。
「よしっ。何かクエストでも行かないか?」
こういう時は体を動かした方がいい。そう思い二人に提案した。
「あ、ごめん。今日は用事があるんだ」
「ぼ、僕もごめんなさい」
両方に振られるとは思っておらず少し硬直したが、口を開く。
「そっか、じゃあまた明日」
その言葉を残してレオンはギルドを後にした。
ギルドを出たレオンはリアに呼ばれるまで居た、町外れの草原まで足を運んだ。
昼間の暑い時間帯を少し過ぎた頃。また心地の良い風がなびき絶好のお昼寝日和になった今、誰にも邪魔をされずにレオンは地面に背をつけた。
二人共用事があるなら仕方ない。そう思って今度こそまぶたを下ろした。
この三人でいれば楽しい。戦っている時、遊んでいる時、楽しいことだらけだ。だがここに、恋という感情がある限りレオンは楽しい反面心苦しい思いでいっぱいだ。
叶うならこの楽しい時間に永遠があればどれだけレオンは幸せだろうか。
目を覚ました時には夕暮れだった。夕日は遥か彼方に沈み、反対側で漆黒の闇があたりを包み始める。それはまるでレオンの心情を表しているかのようだった。
レオンは完全に日が落ちる前に街へと戻っていった。家に帰るとまずベッドに飛び込んだ。
ベッドのバネがレオンの体重を支え、羽毛がバサッという音を立てながら形を崩した。
このベッドは一般的に使われているベッドよりかは一回りか二回り程値が張るものだ。
レオンの家は金持ちで、いわばレオンは坊ちゃんという立場だ。レオンの家の先祖が、八人の勇者の一人ということで先祖代々金持ちの家なのだが、それはリアの家も同じだ。
リアの家の先祖も勇者の一人だ。それゆえに勇者の血族同士での繋がりは大切にされている。
家の事は分かっている、世界の為だと分かっている、だが、それ以前に一人の人間として生きていきたい。リアにも一人の女として、普通に恋をして普通に生きて欲しい。
そう思い、又深い眠りについていった。




