19 ガイルという男
男の名はガイル、レオンと同じギルドに所属している、しかもギルドマスターだ。要するに、ハルト所属しているギルドマスターと同一人物ということになる。
その姿を見たのは初めてだが、予想していた人物像とはずいぶんと違った。
「え、ギルドマスター…?」
ハルトのその言葉にガイルは敏感に反応した。
「ん?君は…ハルト君?かね?」
「あ、はい。お世話になってます」
「いやぁ、そんなに固くなくてもいいよ。それよりなんだ、君はまだレベルも低いのに二次部隊なんて勇気あるねぇ。僕そーゆーの結構好きだよ」
「ありがとうございます」
「まぁ、これからもよろしくねぇ」
ガイルは言葉を言い終えると、長い棒のようなものに、他にも沢山持ってきていた部品を出して取り付け始めた。
ハルトにはガイルが何を作っているのかがすぐに分かった。それはライフルだ。
ガイルはライフルをほんの数分で組み立てると、狙いをつけるために狙撃ポイントを探し始めた。
何度か行ったりきたりと歩いてそのポイントはすぐに見つかった。そこは元々パクラが戦っていた場所だ。
「な、なぁ」
ジェンはハルトの袖を引っ張りながら、軽く汗を流して話しかけてきた。
「お前って、レオンと同じギルドにいるのか?」
「そうだよ」
ハルトは何度目かとなる質問に軽く返すと、ジェンは口をぽかんと開けて数秒静止した。動き出した時には、口の端を軽く歪ませながら吊り上げてきた。
「す、すげぇな。ま、俺んとこのギルドも負けてねぇけどよ」
ハルトは何の自慢なのかわからないジェンの自慢を適当に流して、ガイルの動きを見ていた。
ライフルを持っているということはガンナーなのだろうか、それなら一度見ておきたかった。本物のガンナーの実力を。
ガイルはライフルの脚を立てて地面につき、うつ伏せになる。そのままスコープを覗き込んだ。
その視線の先には、肉眼ではアリのように小さくしか見れないがレオンがいる。ハルトもスコープを目に当てて、レオンの方を見た。
「ハルトぉ〜。あの魔物って何か特徴あるか?」
ガイルは体の向き、視線も一切崩さずにハルトに質問を投げかけてきた。
「えーっと、レオンが首の骨を折ったみたいなんですけど、あの通り動いてます。あと、ナイフで切ったけどなんともないですね」
「ナイフ?」
ガイルがくいついたフレーズはナイフだった。常にレオンの腰に下げてあるナイフ、一見なんら変哲のないナイフだがやはりレオンが持っている物だ、業物なのだろうか。
「ナイフで切って、出血はしたのか?」
「少ししたみたいですけどもう止まってます」
「そうかぁ…」
ガイルは意味ありげそうに息を吐きながら言った。
「まぁ、一発様子見って事で」
ガイルはポケットからいろんな色の銃弾を取り出し、地面に並べていった。その銃弾を指先の感覚だけで見極めると銃弾をセットした。
選んだ弾は赤色で、ガイルはなぜか不敵な笑みを浮かべた。
「レオン聞こえるか、スリーカウントで後ろに飛べ」
清潔感のない、ボサボサな髪の男が寝そべって独り言を言っていると傍から見れば怪しまれるだろう。だが、この男の横顔は真面目で、そのウインクをしている瞳は確実にゼヌという魔物を捉えていた。
「いくぞ、さん、にぃ、いち」
ガイルはスリーカウントを唱え終わると、一切の迷いもなく引き金を引いた。周りの人は流れ弾を気にして攻撃をしなかった中、ガイルのライフルから ドンッ という音が鳴り当たりを駆け抜けた。
微かに話し声は聞こえてくるが、基本的に物静かな中でライフルの音は注目を集めた。
ハルトはその音に気が取られてきたが、スコープを覗き直すとゼヌは全身炎を包まれていた。
全身を包む炎と熱に呼吸もできないだろう。普通の人間ならば転げまわってしまう。
だが、ゼヌは至って普通に直立していた。動かないが、それがまた不気味だ。
数秒間立ちっぱなしで動く気配は無いが、レオンは高温が入り混じるゼヌに攻撃を仕掛けようとはしない。
近づけばレオンの方も火傷しかねないからだ。
そして又数秒、時間だけが過ぎていく。また数秒、数秒…と、ついにゼヌが動き出した。
普通なら全身が焼けただれていてもおかしくないだろう。
ゼヌは両手を上に挙げて、勢いよく振り下ろし体を丸めると見る見るうちに火が消沈していく。
「なんっ…!?」
ガイルも同じ光景を見て驚いたのか声を漏らした。
そして、ゼヌの全身にまとわりついていた炎は火種一つ残さずに消え去った。
「ひぇぇ…なんてやつだ。俺の魔法はそんなヤワじゃねぇんだがな」
ガイルは冷や汗をかきながら、だが笑みを浮かべている。
「炎がダメなら冷凍してやるぜ」
そう言うと今度は青色の弾丸を手に取り装填した。
ガイルはもう一度引き金に指をかけると ドンッ という音を響かせながら射出した。
今度もゼヌに被弾した。被弾の瞬間を目にしたハルトは、その正確な射撃に息を呑んだ。
即頭部、こめかみに的確に当てた銃弾は貫通はせずに脳みそをぐちゃぐちゃとかき混ぜながら入り込んだ。
その穴を中心に霜が伸びていく。こめかみから伸びた霜は額、そして首の下まで伸びていく。
その霜が胸部に達した頃だろう、今度は被弾したこめかみが凍り始めた。
伸びた霜に沿ってまるで生きているかのように凍りが這っていく。
銃弾は完全に脳みそをフリーズさせて、霜が下りていった胸部まで氷で覆ると、ゼヌは膝から崩れ落ちた。
強靭な肉体を持っているゼヌでも脳みそを凍結されれば動くことはできないのか、ピクリとも動こうとしない。
だが、ハルトは違和感を覚えた。この光景、まるでさっきと同じだ。
炎に包まれながら動かない、氷に覆われながら動かない。凍結されているから動かないのか?それなら灼熱に脳みそはドロドロになっていたんじゃないのか?
ゼヌはハルトの疑問を裏付けるかのように、数秒の時間を経て動き出した。
上半身を覆っていた氷を筋肉で砕くと、又数秒間動きを止めた。
「凍結作戦も失敗。こいつぁ、ホントに倒せるのか?」
ガイルも初めて相対する敵なのだろうか、更に冷や汗をかきながら喋った。
「なにぃ!?それを早く言え!」
そして独りでに怒りだす、レオンと話でもしているのだろう。ガイルはしかめっ面をしながらもどこか少し楽しそうな雰囲気を出している。
もう一度ゼヌを狙撃するのだろう、手探りで地面に置いてある弾を探し始めた。
いろんな色の弾を手に持つがどれも違ったのか投げ離していた。そんな中散らばった弾の中から一つつまみ上げた。その弾が本命だったのか、ガイルは軽く笑みをこぼすと、ライフルにはめ込んだ。
ガイルが手にした弾の色は特に無く、ハルトが使った弾となんら遜色ないただの弾のように見えた。
ゼヌは三度目の弾を発射すると、今度はゼヌの左肩に被弾。その衝撃でよろけるが、ゼヌは平常を装ってまた動きを止めた。
これでは又元に戻ってしまう、炎や氷が効かなかった。普通の人間なら、いや、魔物でも致命傷な程のダメージは負っていたはず。
だがゼヌは、そんな絶望的なダメージをくらいながらも何度も立ち直ってきている。今更ただの弾が効くとは到底思えなかった。
何発撃ち込まれたってまた立ち上がり動き出す、まるでゾンビのように思えてくる。
今回の銃撃も微塵も応えないと思っていた。やはり予想通りだ。ゼヌに撃ち込まれた銃弾は貫通し、ゼヌの体に一筋の通り道を作ったが、それも又すぐに治されてしまった。
「やっぱり…ガイルさん、ゼヌはどんな攻撃をしても治してますよ。これじゃ…」
「ハルト君、今治すと言ったかい?そう、ゼヌとやらは一見高い治癒能力を持っているように見える、だけど本当にそうなのか?否だ。僕はそう思う」
ハルトは言葉に詰まった。この人が一体何を考えているのか、攻撃を治す、それを繰り返し見てきたハルトにはゼヌの治癒能力が桁違いに高いとばかり思っていた。
「まぁ見てなって」
それでもガイルは笑みを浮かべながら、ただの銃弾の入っているライフルの引き金を引いた。




