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1 初めてのゴブリン

目が覚めた時に一番最初に入ってきた景色は石造りの壁に、壊れた柱、今にも崩れそうな天井だ。自分の今、座っている場所は祭壇のようになっていた。


「本当に異世界にきたのか…?」


記憶をさかのぼってみる。あの時ハルトも降りようとしたがいきなり足元が光出した。手を伸ばしても見えない壁に阻まれて届かずに。頭に響くような音と一緒に光が一層まして陣が体を覆って…。


「その後気を失ったのか」


過ぎた過去は仕方ない。そう思いまず、現状を把握しようとした。そろそろ日が沈みそうなこの世界で、ゲームなら夜になると凶暴なモンスターが出るという。

ハルトは祭壇から降りると崩れかけた神殿のような場所から抜け出した。


神殿から出て歩いているが周りには草原、それにまっすぐ行けば森があった。日の傾きも加速してきて、そろそろ辺り一帯を闇が満たすだろう。


「流石にどこか街に入らないとRPG上じゃまずいぞ」


暗くなってからの森は現実世界でも危ないことは世界共通の考えだろう。ハルトもそう思い森は避けて行こうと歩いていた。

ハルトの考え上では神殿を抜けるとすぐに街があるはずだったが甘い考えをしていた。

太陽が完全に沈みきった頃森の方から小さな灯りがポツリと見えた。


「街…じゃないだろうけど行商人とかの類の人が居たらいいな」


そう思い慎重に近づいていった。歩く度に草をかき分ける足の音が静かな森の中に響いていく。木を避け、草を分け、やっと火種が見えた。ハルトは安堵の吐息を漏らしながら近寄ると。

目の前にはいた生き物にハルトは息を呑んだ。


(やばいやばいやばい)


心の中で騒ぎ、必死に声を殺した。

その目の前には行商人どこから、人間ではなく、身長は1メートル程で薄汚い布を着ているゴブリンのような生き物が3匹焚き木を囲んで座っていた。


異世界に来て初めての試練。いや、安直な考えをした自分が悪かっただろう。森の中には入らないようにと思っていたのにいい方に捉えて入ったのが悪かった。

ハルトはゆっくり、そして静かに、抜き足差し足忍び足と、音を立てないように後退していった。


だが、焚き木のパチパチと燃える音とは少し違う、枯れ木が折れた時の乾いた音が鳴った。

足元を見ると右足が完全に落ちていた枯れ木をへし折っていた。ハルトは慌ててもう一度ゴブリンたちの方を見るがゴブリンたちは気がついていないのか楽しそうに話をしていた。


ふぅ、と軽く息を吐き今度こそ慎重に森から抜けようと振り返る。するとさっきまで見ていたゴブリンの顔がすぐ目の前まで近くに寄っていた。


「うぅ…っ!!」


驚きのあまりつい声が漏れてしまった。もう一度焚き木を囲っていたゴブリンに目を向けると3匹が全員こっちを向いていた。


(ゴブリンは4匹いたのか)


やっと理解できて、どうしたらいいかと考えようとした時。

うおおおぉぉぉ すぐ隣にいるゴブリンが大きな声を上げた。その声を聞いた3匹も うぎゃうぎゃ きぃきぃ など奇声を上げながら近寄ってきた。


最悪の状況でハルトの体は勝手に動いていた。気がついた時には今年一番ともいえるロケットスタートを決めて森の中を縦横無尽に走り回っていた。

後ろを見るとゴブリンたち4匹も全力で追いかけてきていた。


「なんでこうなった…くそっ」


ハルトは小さく悪態をつきながら走った。元々部活でよく走っていたハルトは足には自信があった。だが今のハルトはいつも以上に足が速かった。少しづつゴブリンたちも引き離してきた。


「よし、このまま逃げ切れれば」


ハルトは今までにないほどの速さで走れたことに違和感はなかった。無我夢中だったのもあるが、異世界に来て何かしらの力がついたのかと思っていたからだ。

だがそんな事はなかった。気がついていなかったが走っている方向に沿ってこの森は徐々に傾いていたのだ。


足が自慢のハルトでも坂道を全力で走ったら進む力に足の回転速度が追いつかなかった。そして追いつかなかった片足の1歩が踏めずに転けてしまった。

そのままゴロゴロと坂を転げ落ち、気がついた時にはもう森は抜けていた。回る中見える景色は草木1本も生えていない荒れた土地だった。だが止まることなくそのままハルトは転がり続けた。


転がっている中地面であちこちが擦れて、背中で小石を踏みつけて、痛い。このままじゃまずいと止まろうと両手両足を地面に押し付ける。そのまま何メートル進んだのか、やっと止まった時には両手のひらの皮膚は削れてちらほらと出血していた。


だがゴブリンはまけただろうと思いこの荒れた土地の壁に背中を預けて座り込んだ。

体中が痛い。裸足で小石を踏んだ時の痛さが体全体を包んでいるようだ。もう真夜中だろう、月明かりや数々の星の光が綺麗に光って見えた。そのおかげで明かりが無くとも多少は大丈夫だろう。


「ここからどうしたもんか…」


全力で走った上体中が遺体となると動く気にもなれなかった。ハルトは体力が回復するまで休むことにした。


(これが1人でまだよかったな…2人余計な心配してしまうからな)


異世界に来れた時には少なからず高揚していたがそれも今となってはもう帰りたいと思えてきた。何も無い初期装備でゴブリンと戦ってもゲームじゃないこの世界では勝てない。ゲームとは違う、とそう思った。


「ゲームじゃない…」


自分が思った事だが引っかかることがあった。ゲームの主人公なら初めは死ぬことは無いだろう。それどころか同年代の人より強い、それに運がいいだろう。

だがハルトは元の世界では男子高生としては平均値以上、だが、この世界では何の取得もない少年A。


「まさか…」


うおおおぉぉぉ!!! 初めて聞いた時よりも大きな声、それに気合のこもったように思えた。

ハルトの考え通り、ゲームじゃないこの世界。いつ自分が死んでもおかしくない。ここに留まっておくこと自体馬鹿な考えだった。


ハルトは急いで逃げるために立ち上がろうとするが足腰に力が入らずに立てなかった。

キョロキョロと周りを見回すと運良く木の棒が落ちていてそれを支えに立ち上がった。


その棒と両足の三点でまるで年老いたおじいちゃんのように歩き、少しでも遠くに、遠くにと思い歩いていた。

だが、坂の上に見える森の中からは赤く光るゴブリンの両目が見えた、完全に獲物を捕らえる目になっている、ついさっきゴブリンを初めて見たがそう思えた。


更にペースを上げて歩く。だがゴブリンたち4匹も坂道を走って降りてきた。ゴブリンが坂道を下りきった時にはこの道の先に、小さくだが大量の灯りが見えた。

一瞬でわかった、あれが目指していた街であることを。


だが、ゴブリン4匹に後ろに壁をおいて囲まれた絶望に比べたらちっぽけな希望だった。

こんな状況で自分が何をすればいいかなんて、もう分からなかった。だが、ここで死ぬなら、せめて一撃でもくらわせてからいきたいと思った。


「さぁ、こいゴブリンやろう!せめて一撃でもぶち込んでやるぜ」


ハルトのその声にゴブリンたちも便乗してお互いに大声を上げながら走しっていった。

ハルトはまず一番はじめに襲いかかってきた小柄なゴブリンを木の棒でぶん殴る。日常生活をしているなかで何か棒を持って人を殴る経験がないハルトはその勢いを殺せずに体制を崩してしまった。


その隙を逃すまいと別のゴブリンがハルトのがら空きになった横腹にこん棒をフルスイングで叩き込んできた。

その衝撃で骨が折れた感覚に、音が聞こえた。それに加えて内蔵も痛めたのか生まれて初めて吐血した。


気がついた時にはハルトもう地面で横になっていた。こん棒のフルスイングで吹き飛ばされたのだろうか、痛みのあまりに気が付かなかった。普通に生活していたら味わうことがない痛みに、激痛に悶えていた。


だが、ふと思うが走馬灯が見えなかった。痛いだけで飛ばされる時には何も感じなかった。

ということはまだ生きる可能性があるということだ。だが意識がもうろうとする。

そんな状態でもハルトはボロボロになった身体に鞭打って立ち上がった。


木の棒を剣道のように構え、次の攻撃に備えていた時、何かが額を流れていった。むず痒くて手で触れてみると月明かりの元で自分の手がケチャップでも握ったのかというほど赤くなっていた。

それと同じ感覚が背中にも走った。冷や汗なんて比じゃないほどに。


飛ばされて地面に頭をぶつけたのか出血が激しかった。意識がもうろうとする中ゴブリンが走ってくるのが見えた。次こん棒で殴られたら死ぬ。そう思い攻撃より守備を固めようと動かずにいた。

そして徐々に距離が縮まり先ほどハルトを殴り飛ばしたゴブリンがこん棒を片手に飛びかかってきた。


振り下ろされるこん棒に木の棒が交わる、その刹那、ゴブリンが体制を崩して倒れ込んできた。

ハルトはそのゴブリンの勢いのまま押し倒された。何かと思いゴブリンを見ると、ちょうど眉間の辺りに矢のような物が刺さっていた。


「な、何がどうなってーーー」


「大丈夫か!!」


ゴブリンの奇声じゃない、人間であろう生き物の温かい声が聞こえてきた。

もう立ち上がる気力もないハルトにはその声の主にすがるしかなかった。だが遠くから聞こえるその声に対してゴブリンたちの方が近い、ハルトは動けないながら考えていた。


だが、飛びかかってくるゴブリンにまた矢が刺さり、焚き木を囲っていたゴブリンだろう3匹を倒した。

するとしまいには炎のたまが飛んでいき最後の1匹を燃やしてしまった。

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