15 二次部隊
階段は壁の上まで続いていた。その階段を上りきった時、突風が吹いた。
高さは二十〜三十メートルだろうか、ここまで高くなれば吹き抜ける風にも勢いがある。
「お、ライフルとか置いてあるじゃん」
ライフル…この世界にもライフルがあった。科学と無縁そうなこの異世界にライフルがあることが意外だった。
ライフルがあるなら剣がなくても魔物を倒せれるんじゃないかと思い、馴れ馴れしいジェンに聞いてみた。
「なぁジェン、ライフルあるなら剣なくても戦えるんじゃないのか?」
「ほんとにバカじゃない?」
ハルトはジェンに話しかけたはずなのに、階段に上る前から突っかかって来ていた女が話しかけてきた。
「ライフルなんて高いし、弾無くなったら死ぬわよ?ライフルを本当に使いこなせれるのはガンナーだけよ」
「ガンナー…ねぇ」
ハルトの発言に片方の眉を釣り上げて言い返してきた。
「なによ?まぁ、他にもバカな大富豪とかが豪遊で使ったりするけど」
「じゃあ俺たちはライフル使っても意味無いってことか」
確に素人が使って最前線で戦っている人の邪魔をするのは許されない。だがそうなると、ハルトの攻撃手段がついばまれてしまう。
武器は剣一本、接近しなければ当たることのない武器だ。こんな物で援護なんてできるわけがない。
「わかった?あんたはほんとに役立たずなの。あっちいって」
「なっ…!」
自分の非力さを自覚した時に、最悪のタイミングでこの女は嫌味を言ってくる。
「まぁ、そんな時もあるさ」
ジェンはまたしても肩を組んで慰めにくる。こんなことされたら更に自分が惨めになるばっかりだ。
「きたぞー!」
そんなやり取りをしてる間に双眼鏡を持った男が叫んだ。方角は昨日ハルトたちがレギス探しにでかけていた崖のある方。
ハルトも目を凝らして見るとうっすらだが黒い塊が迫ってくるのがわかった。
街から距離にして二キロほどだろう、その塊はあと数分で街に着くだろう。もう既に南門の下では一次部隊が待ち構えているのだろうか、レオンなら勝てるのか…?
そう思った矢先、ハルトの視界に映ったのはレオンよりかは小さいが炎の玉が飛んでいった。
もう二次部隊の戦いは始まっていたのだ。それに続くように氷の玉も飛んでいく。
「始まったようだな」
ジェンはそう言うと上半身に纏っている服を脱ぎ始めた。脱いだ服は飛ばされないように腰に巻く。
驚いたのは脱いだことだけではなく、その体だ。しっかりと鍛え上げられた筋肉は日々の努力を物語っているが、その体のあちこちに火傷をしたような痕が見える。
「いくぜぇー…はぁぁぁぁあああ!」
ジェンは両手を肩の高さで広げると何かを圧縮しているかのように体の中央に両手を持ってくる。
両手の間隔が肩幅になった時、腕の周りに電気が走った。それを境にビリビリと音を立てながら電気は激しさを増していく。
そのままゆっくりと両手を近づけていくと、腕の周りにで飛び散っていた電気が手のひらに向かって集まり始めた。
両手のひらで弾ける電撃、その手を合わせた。すると今まで白熱していた電気の気配が一切なくなった。
「よーし、できた」
そう言うとジェンは右手をしたにして左手を離した。
その手のひらには電気を圧縮して球状にまとめた物体があった。
「これも魔法なのか…」
唖然とするハルトにジェンは笑って話しかけた。
「まぁな、雷の魔法だ。覚えちまえばこっちのもんだけどよ、でもそれまでがこのざまさ」
魔法は一朝一夕でできるものじゃないということが、今のジェンの姿を見るとしみじみと伝わってきた。
ジェンはその球体を野球ボールを投げるかの様に魔王軍の方へと投げた。
周りの人も炎や氷、中には弓を使って攻撃していた。そんな遠距離攻撃の嵐の中でジェンの投げた球はどこに行ったかわからなくなってしまった。
「どこに投げたかわかってるのか?」
「うーん、まぁ見てなって」
ジェンは首をかしげた、そして顎に手を当てる。なんらかの魔法でも使って投げた球を探っているのか、それとも別の考え事をしてるのかはハルトにはわからない。
だが。
「よしっ」
ジェンはその言葉を発すると両手を斜め上に上げた。それと同時にパチンと指を鳴らす。
それが合図だったのか、近づいつつある魔王軍の中心部では雷が落ちたかの様な落雷が発生した。
そのけたたましい轟音は全身の毛を逆立てるような感覚を及ぼした。
「今のはお前がやったのか?」
「そうだよ、俺は電気を使う魔法使い見習いってところだな」
「なに、あんたも目立ちたいだけじゃない」
あの嫌味ったらしい女がまた首を突っ込んできた。
「パクラは俺よりレベルも何もかも下だからもっと目立ちたいだよねぇ、がんば」
ジェンは体の前で両手の親指を立てる。
「うっざ」
パクラは口をへの字に曲げて眉間にこれでもかというほどしわを寄せると、魔王軍の方に向き直った。
「ひゅー怖い怖い」
ジェンは立てた親指を戻すと首を左右に振った。
「ハルトはどうするんだ?」
「俺は…」
考えてなかった、周りの人が攻撃を始めてから二分ほど経ったか。この中で攻撃手段のないハルトが何の役に立つのか、わからなかった。
「そんなに難しく考えんなよ。今回は機会がなかったってのもアリだと思うぜ」
ジェンは優しく接してくれた。ほんとにこの街の人は優しい、ハルトはここに来てからその優しさに甘えてばっかりだ。
ここにきて改めて自分の無力さが痛いほどわかった。
「考えるよ」
「そうか」
ジェンはハルトの肩をとんとんと二回ほど叩くとパクラと同じく魔王軍の方へと体を向けた。
「ジェン、お前って今の何レベルなんだ?」
ハルトはまず、ジェンを目標にでもそれを目指して頑張ろうと思い聞いてみた。
「俺か?まだまだだけど、C5レベルだよ」
「C5…なんで一次部隊に行かないんだよ」
ハルトのレベルはC48、レオンもだったが、ジェンとも圧倒的に違った。
「え、痛いのとか嫌だし」
「そんなことかよ」
「うん、まぁそれもだけど、俺の魔法ってためが長いんだよ。だから後衛が向いてるんだ」
魔法にも色んな種類がある、それは攻撃の種類もだが、詠唱が必要な魔法、簡単なものや少ない力の場合はすぐに使えたりと様々だ。
それは人それぞれの実力次第だが、やはりジェンの様にタメが長いと前では戦えない。
「まぁ、俺はまだ見習いだからなんとも言えねぇけどよ。俺の師匠だった人なら今の魔法の十倍は強いのを三秒もあれば使えるぜ」
ハルトはスケールの大きさに苦笑した。
「それはすごいな」
「ジェン?あんたそんなひよっこと話してる暇があったら攻撃しなさいよ」
「ひよっ…まぁ、いいよ」
ハルトは小さく吐き捨てるとその場に座り込んだ。
「うわ、任務放棄ね最低」
もうなんと言われようが構わない。任務放棄?上等だ。だが、そんなことをするつもりはさらさらなかった。
ハルトは思考をフル回転させて考えた。こういう戦いは友達とゲームで何度かしたことがある。
城を守る、敵軍が攻めてきたらまず守りを鉄壁にした上で狙うのは頭。
頭が潰れたら統率が取れなくなり散り散りになるはずだ。
ハルトは使った事はないが、ライフルまで歩み寄る。
「あんたバカなの?」
パクラのそんな声は無視する。FPSゲームたまに使ったことがあるスナイパーライフル。ゲームは人並みにする程度だったが、ハルトは飲み込みのいい方で操作方法もすぐに覚えた。
この手のライフルも使ったことがある。ハルトはカチャカチャとあちこちをいじり、セットを終える。
一次部隊は今出たばっかりで魔王軍とは距離がある。今ならまだ撃っても仲間に当たることは無いだろう。
ハルトはうつ伏せになるとスコープに視線を移した。遠くにあるはずの魔王軍がすぐ目の前にいるように見える。
ゴブリンやコボルト、その他にも見たことないような生き物が走っている。そんな中で最後方、職業で言えば賢者のような格好をしている老人らしい男の姿が見えた。
ハルトは一瞬でこの老人が頭だとわかった。その老人は周りのものに櫓のようなものを持たせてその上に座っているからだ。
ハルトはその老人に照準を合わせた。だが、もちろんハルトは本物のライフルなんて使ったことがない。元の世界では一般的な高校生だったから使うことなんてなかった。
だが、ここは違う。そんな縛りはどこにもない。引き金に指をかける。
その時ハルトの額からは汗が流れ出た。それは緊張からきたものだろう。ゲームの中ではいくらでも使ったことのある武器だが、初めて使う。
それにこの世界に来て散々思い知らされた、ゲームではないということ。これが大きかった。
「あんまり無茶するんじゃねぇぞ」
この緊張している中で聞こえた声はジェンのものだった。
「ライフルなんてそんじょそこらのやつが使えるもんじゃない」
その声には優しさと、それでいて お前にはまだ無理だ という現実味があった。
だがハルトとてそんなことは百も承知だ。だが、今ハルトにできることはこれしかない。
ハルトは動く老人に向けてしっかりと照準を定めると、一度深呼吸をして、人差し指に力を入れた。
ドンッ という音とともに薬莢の匂いが飛び散った。その時の衝撃でつい目をつぶってしまった。それに少し後方に押されたように思えた。
ハルトは慌ててスコープに目をやると初めての射撃は失敗に終わったことがわかった。いや、外したわけじゃない、初めてにしては見事なまでに正確にターゲットを捉えていた。
だが、その老人は自身の周りにバリアのようなものを展開していた。ハルトの攻撃を察知したのかそれで銃弾を受け止めていた。
「どうだった?」
ジェンが聞いてきた。
「いや、失敗だ。ボス的なやつに撃ったけどバリアで阻まれたよ」
「やっぱり素人ね。まぁそれにしてはよくやった方だけど」
パクラは魔法攻撃の続けながら話に入ってきた。
「ガンナークラスになったら弾に魔法をかけるのよ。ただ単に撃ったって勝てる相手は少ないわよ」
「そうなのか」
この女の言葉で腹が立たなかったのはこれが初めてだ。
「だけど一撃目でそこまでさせたならいい線いってるんじゃねぇか?まぁ俺にはわからんけどよ」
ハルトはライフルからもう距離を取った。だが、スコープだけを持っている。
撃ち終わった時にはもう一次部隊は魔王軍と五百メートルの距離にはいただろう。この中で撃って流れ弾でも当たれば大変だ。
そろそろ一次部隊と魔王軍が衝突する頃だろう。二次部隊の攻撃で三分の一ほど減った魔王軍は未だに勢いを落としていない。
周りを見れば他の人たちはもう攻撃をやめていた。後は一次部隊に任せるということだろう。
ハルトもその流れに身を任せてスコープを片手に戦況を見届けた。




