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13 初めてのまな板

 レオンにおごってもらいハルトは晩飯にありついた。

 だが、その当の本人は役所まで駆けっていき晩飯は食べれたが、ひときわ寂しい晩飯となった。


 ハルトはレオンの分も含めて二人前をたいらげると、レオンが置いていった銀貨を二枚手に取ってレジの方へと進んでいった。


「全品六品で二シルバーとーーー」


「ほぇ?」


 定員の言葉にハルトはついマヌケな声を出してしまった。

 何、レオンは銀貨を二枚差し出しただが実は銀貨二枚じゃ足りなかった…?

 定員の間違いなのかレオンの計算間違いなのかはわからないが、たぶん後者だ。


 ここで定員に再度確認するよりレオンの間違いにしていた方が後々問題も少ないだろう。ハルトは今腰に下げている自分の小袋の中の銅貨も一緒に出して支払いを終えた。

 店を出ると宿までの帰り道、小袋の中の軽さに落胆した。


「金置いていったからそれで払えるかと思ったじゃん。てか、おごるって言われたし…」


 ハルトはタダ飯と上げられて落とされたことに、予想外の出費に歩きながら悪態をついていた。

 この街には階段が多い、そう改めて思う。階段の端には段差がなくバリアフリーのようになっているが坂道を車椅子で上がり続けるのは辛いだろう。


 階段を上がっている中、出店がよく目に入ってきた。そこには冒険者なのだろうか、上半身だけ鎧を脱いで晩酌セットをあおっていた。

 そんな光景がちらほらと見えるが、ハルトは未成年かつ今は銅貨二枚しか持っていない身だ。


 ハルトはなにかすることもなく真っ直ぐ宿を目指して歩いていた。

 宿まであと少しにさしかかった時、ギルドのヨコを歩いていたハルトを呼ぶ声が聞こえた。


「…人!新人!」


 ハルトは振り返って誰かいないかと確認するが誰の姿も見れなかった。気のせいかと思いまた一歩を踏み出そうとした時、また同じ声が聞こえてきた。


「こっちだよ!」


 今度の声ははっきりと聞こえたので、どこから聞こえてきたのかわかった。ハルトは左を向く、そこはギルドのちょうど壁があった。

 だが、その壁に一枚ある窓が開いており、明らかに不機嫌そうなカウンターの女性が立っていた。


「ぼさっとしてんじゃないよ」


 目が合った途端に言われたが、もうなんとも思わなくなってきた。この女性は会う度に何かと文句を言ってくる。


「なんですか」


 ハルトは少し声のトーンを落として話しかけた。


「いや、レオンのやつがあんたから聞いたって言うんだけど本当だろうね」


 レオンがハルトから聞いたとなると先刻の魔王軍のことしかないだろう。


「そうですけど、なにかしましたか?」


 ハルトがそう問いかけると女性はいっそう顔つきが変わった。今までのハルトに対する軽い態度とは打って変わって窓から身を乗り出す勢いだ。


「それが本当なら大事だよ。魔王軍なんて初めてだからね」


「前例がないんですね」


「ないってわけではないさ。他の街では戦ったことがある街も少なくないよ」


 女性の言葉に少し驚いたが、よく考えてみればわかることだ。人間は街を壁で囲って生活している、それに比べて魔物たちは外でのびのびしているんだ。調子のいい時に攻めてくるのは容易だろう。


「まあ、嘘だったらあんたが街の人たち全員に頭下げて回るんだよ」


 女性は最後に ふんっ と鼻を鳴らすとそっぽを向いて窓を閉めた。

 ハルトの方も ふぅ と息を吐くと宿への道を上がり始めた。だがその歩みもまた長くは続かなかった。


 歩き始めてから考え出してすぐに出てきたことだが、ハルト自身魔王軍を見たわけではない。

 マキが見たと言っているが本当かどうかの裏もとれていない。これでもし勘違いであればこの街、ざっと万単位でいるだろう人一人一人に頭を下げることになる。


 ハルトは両肩にずっしりとなにか重いものが乗ったかのような重圧感がのしかかってきた。

 そんな状況だが勘違いでないことを祈りながらハルトは階段を上りきった。


 宿に戻ると荷物を置いて銭湯に向かった。今日一日の疲れに汗、それに万単位で頭を下げるプレッシャーも流せればいいと思った。荷物はタオルとレオンからもらった着替えの服を持っている。

 いつも通り銭湯に着くと今更ながらに思い出した。ここの銭湯は料金が銅貨三枚、だがハルトの所持金は銅貨二枚だ。


 ハルトはがくっと肩を落として別の銭湯に向かって歩き出した。階段を下りて数十メートルという近さにある銭湯だ。

 そこは通っている銭湯とは違い、小さく見た目もかなりガタがきていた。


 引き戸の扉を開けると腰の曲がった老婆が一人出迎えてくれた。


「いらっしゃい」


「こんばんは。ここはいくらしますか?」


 まずどのくらい値がするのかを聞く。銅貨二枚でどうにかなればいいのだが。


「一ブロンズじゃよ」


 運が良かった。銅貨一枚で済むなんてありがたい。

 ハルトは靴を脱ぎ、老婆に銅貨を一枚手渡すと紺色の暖簾をくぐって中へ入った。

 脱衣場は予想以上に狭かった。荷物を入れるかごが十個ほどしか置いてなかった。


 だが、そのうち二つは使われていた。丁寧に畳まれた服にハルトも見習いかごにぴったし収まるようにしまった。

 ハルトはタオルを片手に持つと風呂と繋がっている扉を開けた。

 目の前はひどい蒸気で真っ白。だが、先客の声だろう、高い声で会話する二人の声が響いていた。


 だがハルトはその声に聞き覚えがあった。丁寧に喋ってはいるが生意気な声と、普通の女の子の…?


「女…?!」


 まさかまたこのパターンとは全く想像してなかった。蒸気がひどくて見えないが、たぶんここにいるのはマキとエリカだろう。その二人の楽しそうな声が聞こえてきた。

 ハルトは流石に二度目はまずいと思って脱衣場に戻ろうともう一度扉を開ける。


「しーっ。マキちゃん声大きいよ。他の人来たっぽいから静かにね」


 エリカは他の客が入ってきたと勘違いしたらしくマキに静かにするように言い聞かせた。その音の主を二度目のハルトとは知らずに。

 今ここに、ハルトとはバレてはいないが三人目の客が来ているとエリカが認識している以上、出てしまうと逆に不自然だ。


 ハルトはこの蒸気でよく見えないことを利用することを考えた。

 まず出口を閉めた。これで蒸気の逃げ道がなくなって、まず近づかないとバレないだろう。次に自分がここにいるぞという意思表示のためにかけ湯を流した。


 流石に見えない人がそこにいるのに近づいてくることはしないだろう。次にハルト音を立て内容に浴場を歩いた。これでエリカとマキの声で位置を割り出す作戦だ。

 案の定エリカとマキは現在ハルトのいる場所から反対側にいるようだ。


 今度は入る時にわざと少し聞こえる程度の音を立てた。これでかけ湯の時と同じく近づかれることはないだろう。


「そろそろ体洗おっか」


「そうですね」


 まだ体を洗ってなかったのかと、早く出て欲しいハルトからしたら少し焦る。

 すでにこの状況、なぜこうなったかは察しがついている。理由は一つ暖簾をくぐる時に思ったが、暖簾が一つしかなかった。


 たぶんここは混浴なのだろう。だが、こそこそと入ってきたハルトがここでバレるようなことがあったら混浴であろうと罵詈雑言を浴びせられた上に半殺しにでもされるだろう。

 それを避けるためにハルトは思考をフル回転させた。


 だが、その回転も次第に近づいてくる声によってかき消された。

 なぜこっちに近づいてくるのか、周りを見回すとわかった。ハルトのすぐ後ろには体を洗うスペースがあるのだ。


 これはまずいと場所を移動しようとした時。


「ちょっと暑いですね。それにやっぱり蒸気が…ごほっごほっほぇ…窓開けてもいいですか?」


「うん、私が開けるよ」


 まずいまずいまずい。この状況どハルトの命綱である蒸気がなくなったらまた変態呼ばわりをされてしまう。

 だが、方から上、お湯に使ってない部分に冷たい風が走る。とうとう窓を開ける開けたのだろう。


 それを境に次第に辺りの蒸気が晴れてきた。ハルトにこの状況を打破する策はなかった。だが、使いたくはなかったがあの手を使うしかなかった。

 ハルトは二人のシルエットが見える寸前で大きく息を吸い込んで潜った。


 これでせめて遠くまで泳いでいけれたら。そう思い浅い中足を小刻みに動かしている前進していった。


「えぇーい!」


 前進の途中で空気を伝わり、更に水まで伝わって声が聞こえてきた。よっぽど大きな声で発したのだろう。

 その声の直後ハルトの目の前はいきなり降ってきた物体によって作り出された泡によって視界を遮られた。


 いきなりのことに思わず息を吐いてしまった。両手で口を塞ぐも出てしまった空気が戻ることは無い。

 次第に苦しくなり、限界が来たところで水面から出てしまった。


「ぷはぁ、げほげほ」


 顔についている水分を両手で拭き取り目を開ける。するとそこには同じタイミンクで起き上がったであろうマキがいた。

 中学生というだけあって、成長期の体は目を引きつける。


 手足は少し細めだろうか、ウエストはきゅっと締まっている。だが、残念というかなんというか、まだ成長の見込みがあるまな板が見えた。

 そんなマキを見ているとマキの方もハルトを見ていた。そして目が合った。


 その時、マキは両手で寂しい胸を抑えて体を半回転させた。ハルトは座り込んだ。


「な、ななはなはなはな、なで、ここにいるんですか!?」


 ハルトはこの最悪の状況でも弁解しようとは思わなかった。だってもう、変態は確定しているからだ。

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