10 新たな仲間
「それで、ハルトさん?変態さん?はどこからここに来たんですか?」
ベッドに座っている少女が話しかけてきた。
「島根県だけど…それがどうした」
「島根ですか、隣ですね」
「俺は神奈川だけどな」
「僕は北海道」
「私は東京よ」
皆口々に自分がもともと住んでいた県を言っていくが、ハルトは未だに現状の整理ができていない。自分の学校の七不思議だけではなかったのか…?
それとも他の学校でも七不思議があるのか、それか七不思議は関係ないのか。わからなかった。
「ちょ、待ってくれ。なんでお前たちはここに、この世界にいるんだ?どうやって来た」
「みんな同じだと思うんだけど」
エリカが口を開いた。
「私たちと四人はみんな気づいた時にはボロ神殿にいたの。ハルトも同じでしょ?」
「違う、俺はどうしてここに来たのか覚えてる。というよりかはこの世界に、異世界に行こうって友達と話してたんだ」
「話してるだけでいけるなんて不思議ですね」
ベッドの少女は枕を抱き寄せて口元まで沈ませるともごもごと喋った。
「いや、その晩に友達が持ってきた儀式道具?みたいなやつで来たんだ」
「そんで頭の中はファンタジーってか」
床に座るもう一人の男が喋る。茶色い髪はボサボサで目つきは悪く、なぜか一言一言が威圧感を帯びている。
「ちげぇよ。それより、なんで他の人は記憶がないんだ?」
「そんなもの、ないものはないんです。バカですか」
この少女はいちいち突っかかってきて少し腹が立つが、ここは大人の対応をとるハルトだ。
「そうかいそうかい、じゃあ俺はレギスの角取りに行きたいから、えーっと」
ハルトは荷台があると言っていた男の名前がわからずに呼び方に困った。
「僕はタケルだよ」
「ありがとう、タケル。じゃあ荷台のこといいかな?」
「待ってください」
少女はハルトに因縁でもつけたいのか、呼び止めるとベッドからおりて歩み寄ってきた。
「このままやすやすと返すとでも?私たちの秘密を知った以上あな、ふぎゃ」
ハルトは流石にめんどくさくりつつある少女に一発デコピンをくらわした。これ以上この少女に関わるとエスカレートして、しまいは何が起こるか分かったもんじゃない。
「ぼ、暴力ですか。やはり変態ですね」
「どこに変態要素があるんだよ。小学生」
「しょ、私はこれでも中学生ですよ!」
「年下には変わりないじゃん」
あとは無視してさっさとレギスを狩りに行こうと、踵を返す。タケルが先に玄関に向かい、それを追っていこうと思ったが背後から嫌な空気が漂ってきた。
少女がただ怒っているだけならとくに気に止めることはないが、何か違うものを感じた。
それにつられて振り返ると、少女の両手には小さいが青い球体と赤い球体があった。
「さぁ、どっちにしますか?焼かれたいですか?それとも冷凍保存でもされますか?」
たぶん、あれは魔法だろう。それもあの大きさなら初級、それに魔力も少なそうだ。初めて見たハルトの魔法はレオンの炎の玉だ。あのスケールでB20レベルだ。
それに比べて今少女の手にある玉は一センチ程度、これではタバコに火がつく程度だろう。
「はぁ」
ハルトはため息をつくと少女の元へと歩み寄った。
「な、なんですか。自分からくらいに来るなんてマゾですか?やっぱり変態ですね」
ハルトは急に手を伸ばし少女の両手を掴んだ。これでもう当てられる心配はないだろうそう思い掴んだ。
だが、少女の顔には焦りがなかった。むしろ不敵な笑さえ浮かべている。
「やっぱりバカですね、魔法は投げるものじゃないんですよ。意識して放つものです。ですから私が意識さえすればどうなるかわかりますよね?この距離です逃げられませんよ」
「まじかよ、ちょ、ちょっとまーーー」
甘かった。魔法をなめてた。いや、経験が少ないこともあっただろう。ハルトが手を離す前に少女は二つの球体を放った。その球体は速かった、ハルトにかわす隙を与えない。
二つの球体はハルトの目の前で接触すると爆発を起こした。
目が覚めた時にはまたあの光景が目に入った。目の前、顔の上にはエリカの顔が、そして悟った。またエリカに膝枕をされていると。
エリカの太ももは柔らかく寝心地がよかった。もういっそのことこのままもう一度寝ようかとすら思える。
「あ、起きた」
エリカがハルトの方を向きながら声をかけてきた。
「爆発…」
エリカの返答には合わない言葉だったが、ハルトの頭の中には気を失う前の爆発の光景がプレイバックされていた。
炎の玉に氷の玉、たぶん、飛んできたこの玉がハルトの前で節食して水蒸気爆発を起こしたのだろう。
その衝撃で、何らかの理由で気を失った。
「やっと起きたんですか、変態さん」
「なんだよ。魔法少女ジェーシー」
「ちょ、その呼び方は辞めてくださいよ!」
魔法少女ジェーシー。内心自分でも笑ってしまうような名前に、少女は過敏に反応して抵抗してきた。
だが名前を知らない以上この呼び方をするのがわかりやすいだろう。
「ふふっ、ハルトのネーミングセンスはまぁまぁね」
エリカは口元を緩ませながら話した。その顔を下から見るのもなかなか可愛い。
「てか、なんで魔法少女ジェーシーは俺を捕まえたかったんだ?」
「だから!もぅ、いいですよ…あなたが変態だから野放しにはできないと思ったんです」
「おまっ、変態はやめろ」
「マキちゃんは単純に同じ境遇の人に会えて嬉しかったのよ。だけどコミュ障だから上手くできないの」
エリカのフォローでやっとわかってきた。このマキという魔法少女のことが。
だが、コミュ障だからといって変態やら魔法ぶっぱなすなんてキチガイだなと、ハルトの中では評価がもう底辺だ。
「マキはこんなかでも一番年下でバカだからな。仕方ねぇだろ。たぶん俺だけまだ名前知らないだろ、俺はソウタだ」
「ソウタな、よろしく。俺はハルト」
「知ってるよ。何度も聞いてたからな」
なぜかソウタは不機嫌そうに目をそらした。ハルトは別にソウタに対してなにかしたわけじゃない。いや、自覚がないだけかもしれないがわからなかった。
「僕はタケル、改めてよろしくね。ハルト君」
「改めてよろくなタケル」
タケルはガタイはいいが体格に似つかない優しさの持ち主だ。この男は第一印象からいい方だ。その他の人がなんとも言えないからだが。
「私も改めてよろしくね。エリカだよ」
エリカは膝枕をしているハルトに向かって笑顔で言う。この笑顔は今までで彼女が見せた笑顔の中で一番可愛いだろう。
これではまともに顔を見て自己紹介なんてできない。そう思いエリカを軽く押し退けて起き上がった。
起き上がってエリカとは別方向を向くと。
「エリカとはもう自己紹介はいいだろ」
恥ずかしかった。それに照れくさかった。なぜかはわからないが今は顔を向けられなかった。
「ハルトさん。エリカに欲情してますね」
マキはそっぽ向けたハルトの顔をのぞき込むように前のめりになりながら口を開いた。
「してないし、するわけないだろ」
ハルトは手で顔を隠しながら言い訳をした。だが、その言い訳に反応したのはマキでもエリカでもない、ソウタだった。
「はぁ!?するわけないだって?」
ソウタは立ち上がりハルトの方へどしどしと歩いてきた。
「え、ソウタ私をそんな目で見てたの…?」
ソウタの言葉にエリカは変態を見る目でソウタを見ながら言った。
今のハルトには変態を見る目がもうわかっている。こんなスキルは求めてなかったが。
「見ねぇし、するわけねぇだろ!」
その矛盾した言葉にどっちなんだよと、心の中でツッコミをいれる。
ハルトの目の前ではすでに、ハルトをそっちのけでエリカとソウタが言い合いをしていた。そこにマキも加わり面倒なことに。
そのゴタゴタにハルトは巻き込まれないようにベッドから離れると、タケルに腕を引っ張られた。
「どうした?」
「ソウタ君はエリカちゃんのことが好きなんだよ。だからハルト君の言葉にも反応しちゃったんだ。ああやって喧嘩してるけどあれっていつもなんだよ」
「そうだったのか、あれだな、小学生が好きな女の子にちょっかいかけるやつだろ」
「そんな感じかな」
タケルは苦笑した。これが毎日だとどれだけ大変なことか…。ハルトには想像もつかなかった。
「だけどまた友達ができてよかったなぁ」
「俺もさ、異世界に来た時は自分一人で、街に来る前にゴブリンに殺されかけたからなぁ…友達が増えるのは嬉しいよ」
「ゴブリン!?それは災難だったね。ゴブリンは僕たちでもまだ倒せないんだ。どうやって逃げたの?」
「レオンってわかるかな。そいつに助けてもらったんだ」
「レオン!?すごいね!」
タケルはレオンというフレーズにくいついた。確かにレオンは強いが、そんなに有名なのか?と思う。
「レオンって言ったらこの街で一番強いんだ。あそこのギルドも変わっててね、ギルド全員で五人しかいないんだ。それも全員がB30レベル以上!」
レオンがこの街で一番強い?ギルド全員五人でB30レベル以上?タケルの口から出た言葉を整理すると、ハルトはすごく場違いなギルドに入ってしまったということだ。
そう思うと、改めて自分のひ弱さが身に染みてわかる。
「俺、そこのギルドにいるんだ…」
ハルトの発言にタケルは両目を丸くして、口ぽかんと開いた。
そして、タケルの行動は停止した。




