9 衝撃の事実
一度受けたクエストは止められるが、解約には費用がかかるという。ハルト一人ではレギスの角五本は厳しいが、今日も頑張ろうと思った。
準備を終えると宿を出て、まずはギルドに向かった。昨日の経験を生かして荷台を借りるためだ。
ギルドの扉を開けるとカウンターにはいつもの女性、だが他には誰もいなかった。
ハルトはその女性の元によると口を開いた。
「あの、荷台とかってありませんか?」
「なんだい朝っぱらから。ここはギルドだよそんなもの置いてるわけないね」
「は、はぁ、ありがとうございました」
ハルトは少し肩を落としながらギルドを出ていった。確かにギルドだからといって何でもあるとは限らない。それに、ギルドに荷台があるなんて確証もなかったのに聞いたハルトの方が間違いだった。
だが、荷台がないのは辛い。そう思い情報を入れるために役所へと足を運んだ。
役所に来たが、目当ての人物が見つからなかった。その人物はエリカだ。彼女なら荷台が借りれる場所ぐらい知っているだろう。そう思い役所に来たのだが、姿が見えない。
役員室のようなところにでもいるのかと思い、とりあえず近くにいた役員の人に声をかけてみた。
「あの、すみません」
「なんでしょう?」
「エリカという役員の人を探してるんですけど」
「エリカちゃんでしたら今日は休みですよ」
休みという言葉を聞いて少し不安を覚えた。あくまで友達としての心配だが、昨日無理やりレギスを運ぶのを手伝わせたのがまずかったかと思った。
「大丈夫ですよ、今日は元々休みを入れていたんで」
ハルトがよっぽど難しい顔をしていたのか、役員の女性は優しく対応してくれた。
「そうなんですね、ありがとうございます」
ハルトの方も丁寧に返すと役所を出ようと振り向き歩き出した。
だが、右袖をどこかに引っ掛けたのか少し引っ張られる。右袖の方へ視線をやると華奢な手が掴んでいた。
掴んでいたのは先程優しく応対してくれた女性役員の人だ。
「あの、エリカちゃんの家知りたいですか?」
この役員はなぜか目をキラキラと輝かせながら問いかけてきた。
「そういうのってペラペラ喋っていいものじゃない気がするんですけど…」
「貴方なら大丈夫です」
「え?」
その役員はハルトの意見をのもうとはせずに、一方的に話を進め、簡易だが地図を書いてハルトに渡すと役所の外へ押し出していった。
仕方なくエリカの家まで行くことになったが、なぜか女性役員は笑顔で手を振って送ってくれた。
エリカの家は昨晩出会ったところからそう遠くはなかった。南門の近くで、アパートの二階だという。
ハルトは役所から南門まで十分ほどかけて歩くと、そこからさらに二、三分歩いてようやく目当てのアパートの前までやってきた。
ためには新しくできたとはいえない、むしろボロいといえるアパートだが、中に入ると隅々まで清掃の手が行き届いており清潔感があった。
階段を上がり、二〇七号室を目指した。二階だが、ハルトのいる宿とは違い街の中でも低いところにあるため景色もちがって、全体的に低く見えた。
そんな景色を見ながら歩いているといつの間にか二〇七号室の前まで歩いていた。
この世界にはインターホンや、ベルといったものがないので扉をノックするしかない。
ハルトは右手を軽く握り、中指を少し立てて扉を叩こうと手を伸ばした。だが、ノックする寸前に声が聞こえてきた。
その声に釣られて耳を傾ける。
「あぁん、もぉ、待って」
「待ってじゃないだろ。お前の方からしようって言ってきただろ」
「そうだけど…んん!」
「静かに、周りの人に迷惑だよ。それに、こういうのは静かにするものなんだよ」
「でも、これじゃまた私だけ…ま、ちょっと!待ってダメダメダメ!」
ハルトはその会話を聞き手を下ろした。
(何やってんだ白昼堂々。あいつはそんな性にまみれたやつだったのか…?)
男が二人に、エリカの声が聞こえてきて、それに内容がないようなので正直引いた。
ハルトは はぁ と深いため息をつき、諦めて別口を当たろうと思い引き返そうとした。
だが、ガチャン と何かを倒しながら足を引っ掛けてハルトも倒れ込んだ。
ゴブリンの時のような失態にさらにため息がこぼれる。
倒れたのは傘立てだろうか、傘が二本と傘が刺さっている傘立てが盛大に倒れていた。
ハルトは傘を拾い集めて置き直した傘立てに差し込むと、早くこの場を去ろうと一歩踏み出した。
「何してるんですか」
一歩出したままハルトは首だけを動かして声のする方へ向いた。その声の主はエリカの家の扉をから顔だけを出して問いかけてきた。
声の主はエリカではなく男でもない、ダークブラウンのような髪色のショートヘアの少女だ。
「何してるんですか、覗きですか、盗聴ですか、変態ですか」
「いや、違う!誤解だ!」
デジャヴだ。こんな場面が以前にもあったような。
「マキちゃんどうかしたのー?」
今の声はエリカの声だと分かった。
「そう、エリカに会いに来たんだ」
「ほんとですか?でも、エリカの友達に変態はいないかと思いますが」
「いや、変態はやめて…」
異世界に来て、異性二人に変態呼ばわりされるのは泣けてくる。
「あれ、ハルトじゃない」
「お、おう」
「え、なんでここがわかったの…?」
「やっぱり変態の力ですか」
「だから変態はやめて」
小生意気な少女の変態攻撃をなんとかこらえて、目的のためにエリカに喋りかけた。
「今日もレギスを狩ろうと思ったんだが荷台が欲しくて探してたんだよ。それでエリカなら知ってるんじゃないかなって」
「そうだったんだ。けど、私にはわからないかな。中に友達いるから聞いてみるといいよ」
エリカはハルトを手招きして迎え入れた。だが、少女の目は依然として変わらず、変態を見る目になっている。
「ねぇ二人とも、友達来たんだけどさ、話聞いてあげてよ」
先頭にエリカ、次にハルト、少女の順番で奥の部屋へと入っていった。
「お、男じゃん。彼氏か?」
「違うわよ!」
エリカは少し頬を赤くしながら否定した。
「それで、話って?」
「えっと…」
部屋の中には男が二人床に座っており、少女はてくてく歩いて壁際のベッドに腰を下ろした。
この状況は凄くアウェイだ。いや、場違いのような気さえする。だが、ハルトは意を決して口を開いた。
「あの、レギスを運べるような荷台を探してるんだが、心当たりはないか?」
二人の男は少し考えだした。そして、比較的大柄な男が手を挙げた。
「知ってるけど、少し遠いんだ。それでもいいかな?」
やっと希望の光が見えてきた。荷台さえあればレギスを倒してから運ぶのに苦労しない。
探し求めていたものがもう少しで手に入ると思うと少し疲れが出てきた。
「よかったぁ、ありがとう」
その男がは立ち上がり 案内するよ といい寄ってきた。
そういえば、扉越しに聞こえてきた声のようなことは一切してなかったらしい。エリカもだが、男二人とも服が乱れている様子はなかったし、匂いもなかった。
「そういえば、集まって何してたんだ?」
「カードゲームだよ」
そう言うとエリカはカードの束をハルトに渡してきた。ハルトはそのカードを何枚かスライドさせて中身を見た。カードは一から十三まで書かれており、ジョーカーが二枚入っていた。
これはハルトも昔から遊んだことのあるカード、トランプだ。だが、最近では全くしておらず、見ることも少なかった。
「トランプかぁ、懐かしいな」
何気ないその一言に、部屋の中の空気は一気に重みを帯びた。ハルトはただこの世界にも虎があるのかとそう思って発した言葉だ。
「ハルト…」
エリカが喋った。目を向けるとエリカはかおを下に向けていた。
「今トランプって言った?」
「言ったけど…?トランプだろこれ?俺も小さい頃はよくやってたよ」
「この世界にはトランプなんてないの」
エリカの発言には驚愕した。この世界にトランプはない。無いならなぜここのトランプ…。
「…まさか」
「そう、私たちもたぶん、ハルトと同じでこの世界に来ちゃったんだ」
自分と同じ境遇でこの世界に来た人が他にもいたなんて信じられなかった。
ハルトの学校はそこまで大きくない。だから名前は知らなくても一度は顔を見たことがあるだろうが、この部屋の人の顔は全く見覚えがなかった。
「まさか変態が私たちと同じだったとは驚きです」
「まさかこんな出会い方があるとはな」
「意外だね」
「ど、どういうことなんだ…」
「私たち皆日本から来てるの」




