無謀なる幻影 2
「これは…驚きましたね」
俺がダンジョンに入ってあまりの違和感に足を止めてしまった
コンにはこれが何か分かるようだがエリアの方は驚きで固まっている
エリアは自分でこのダンジョンを勧めたのだろうから概要は知っていただろうだが、いざ実際に目をするとやはり驚くのだろう
地球でならそこまで違和感はないのかもしれないがこの世界においてはかなり珍しいのだろう、中世くらいの時代にこんな代物があるとは思えないしな
「これは…全てガラスでできているのですか? しかもこれだけのガラスでできているなんて、しかも、ここまで透明度が高いものは見たことが無い。お金にしたらいくらになるのでしょうか」
エリアが割と真剣な目でダンジョンの壁を見つめている
やはりこのようなダンジョンはかなり珍しいのだろうな
ダンジョンの入り口を入ってみれば全面ガラス張りの道が続いているなんて誰も思わないよな…
しかも普通のガラスならそのまま外の景色が見えてもおかしくないのになぜかガラスの向こう側は灰色で外の森が一切見えない
今までのダンジョンは普通の森や洞窟に魔物が出たりといったものだったが、これはちょっと毛色が違うな
外とはまるで違う世界がそこにあるみたいな感じだ
ほんとファンタジーとしか言えないな
「なあ、エリアここのダンジョン外の景色とはまるで違うものなんだが、こんなダンジョンもたくさんあるのか?」
「ええ、ちょっとここはかなり変わっては居ますが周りの地形を考えると有り得ない様なダンジョンというのも存在します。中には地下にあるはずなのに空が広がっている様なダンジョンやなぜか海があるダンジョン、溶岩のあるダンジョンなどダンジョンによってかなり違います」
「はぁ、ほんとファンタジーだな」
「確かにここは驚きましたね、外からはこんな感じになっているなんて思いもしませんでした。ここのダンジョン楽だと思っていましたが、ある意味手ごわい事になるかも知れませんね」
「ああ、コンの言う通りこの様子ならただの全面ガラス張りじゃなくてそのうちミラーハウスになりそうだな、そう考えると…やはり、嫌な予感しかしない」
「みらーはうす? それはなんですか?」
エリアは不思議そうに首を傾げている
首を傾げる姿と言い慣れない言葉に萌えそうになるがコンにバレるとめんどくさいので普通を装いながら答える
「俺の世界には娯楽施設としてミラーハウスというものがあったんだ。簡単に説明するとガラスと鏡を組み合わせた迷路みたいなものだよ。そう言われてもしっくりこないと思うけど先に進めばおそらくどんなものか理解できると思うよ…本当にミラーハウスだったらかなり厄介なんだけどな」
俺が割と本気で引き返したいと思いながら溜息を吐くが良く分かっていないのかエリアはやはり首を傾げている
とりあえずコンにここのダンジョンの全容を把握して貰えばどうにかなるだろう
「コン、ここの魔物とこのダンジョンの全容は把握した?」
「ええ、今終わりました。ここの魔物はかなり変わったスキルを持っていましたがそんなに強くありませんね、それに数もそこまで多くありませんでした。それとこのダンジョンはやはり迷路みたいになっていますね。この先は大斗の予想通りミラーハウスになっているものと思われます。魔物はともかくミラーハウスなのはかなり厄介ですね」
「やはりミラーハウスになっていたか…。この後、嫌な予感しかしないんだけど、本当に行くの? コンもかなり厄介だって分かっただろうし、引き返しても…」
「さすがに厄介だとは思いますがこれもかなりの経験になるでしょうから行ってみましょう」
「みらーはうす?が何かは分からないが、このダンジョンはかなりの経験になると思う、こんな珍しいダンジョンはほとんどないだろうからな」
これでも二人の意見が変わらないというのなら行くしかないのだろう
嫌な予感しかしないんだがなあ
せめて魔物の情報とダンジョンの全容を頭に入れておこう
それでも嫌な予感しかしないんだけど
「分かった、このダンジョンを進むことにもう反対はしない。それでここはどんな魔物が出るんだ?」
「強さは2級ダンジョンにしては弱いですがスキルが基本的に幻惑系のものを持つ魔物が大半を占めていますね」
「幻惑系ってのは幻を見せたりとかいう感じのものか?」
「そうです、そこに本当にはないのにそうあると感じさせるスキルですね、とは言ってもここの魔物が使えるものはランクの低いただの子供だましみたいなものですね」
「コンの言う通り低ランクならば幻惑系は大したことないが戦闘中にそれをやられると苦労するから油断しないようにね」
「なるほど、それは嫌らしいな、気を付けておこう」
「最初に遭遇するであろう魔物たちが持っているスキルは幻触というスキルです、戦闘中にいきなり背中を触られたと錯覚するような使い方をしてくるのでしょう。このまま真っ直ぐ2分ほど進んだところにいます」
「それじゃあ気が進まないけど行きますか」
そう言って俺らはこのダンジョンを進んで行った
「もうすぐ接敵します!」
歩いて2分程するとコンの言っていた通り敵が見えてきた
かなりの異形だった
舌の化け物
端的に言うとそうだろう
トカゲの様な感じでごつごつと大きな鱗に覆われており防御力は高そうであり、2本足で立ちなぜか尻尾は無い、なにより特徴的なのは舌だ、30cmほどの長さがあり口に収まらずにだらんと垂れさがっており不快感を与えている
「ミラーハウスというからミステリアスな敵を想像していたんだが、ただの化け物じゃないか」
俺は少し意外と軽口を叩きながら油断なく相手を見据え蛍丸を抜く
「相手は1匹だけみたいだし俺がやってみるよ」
そう言うと俺は化け物へと勢いよく駆け出す
「シャァァァァァッァ!」
相手の方もこちらに気付いたようで雄叫びを上げた
コンが言うには幻惑系のスキルを使ってくるらしいから触られたという錯覚が来るだろうからそれについて警戒しつつ―
「なっ!」
そこで俺は何かが膝に当たり砕いた感触と共に体勢を崩す
何もなかったはずなのに何かに躓いただと…
頭に大量の疑問が浮かんでくるが答えを見つける前に敵が当然の如く動いてきた
「シャァァァ!」
叫び声と共に何かが高速で近づいて来る気配を感じた
「大斗舌が! 避けて!」
コンが驚いて叫んでいるがあの程度の早さなら問題は無い
それに気配察知で完全に把握ができている
俺は倒れかけている途中でも体を捻りこちら目掛けてくる何かを避け、素早く蛍丸で斬り飛ばした
「シャアアアアアアアアアアアア!」
俺は油断なくさらなる追撃を警戒しながら後方へと思い切り飛び距離を取る
相手の方を見るとさっきまで伸ばしてきていた舌を斬られて叫び声を上げながら痛みを堪えているようだった
追撃の心配はないようなのでここでスキル鷹の目を発動し、先ほど何に躓いたか確かめる
「ガラス?」
先ほど躓いた場所にはぱっと見では分からないような透明度の高いガラスが散乱していた
これに躓いたという訳か…
さらに鷹の目で探してみると他にも3枚ほど先ほどと同じぐらいの透明度の高いガラスがあるのが分かった
「これはかなり厄介だな…確かにここが不人気なのも分かる気がする」
身体能力がかなり高い俺でもガラスの存在には気付けなかった、あると分かって注意深く見るならまだしも戦闘中になれば相手に注意を払わなければならないのにこうしたガラスがあればそれにも注意を払わずには行かないのでかなり戦いにくいし、精神的にも疲れるだろう
しかし、今まで歩いてきた道にはこのようなガラスはなかった
それにあの化け物の後ろにもガラスは存在していない
このことから予想される事は―
「コン、あの敵はガラスを生成するスキルを持っているか?」
恐らくはあの化け物のスキルではないだろうか
「えっと、確かにガラス召喚という微妙なスキルを持っていますが、それがどうしたのですか? それに先ほど何かに躓いたように見えましたが…まさかガラス?」
コンも驚いたようにして敵に対する警戒を上げて目を凝らしている
ガラス召喚ね
確かに凄く微妙で戦いには使用できないと思うけどあれだけ透明度が高く、周りにも複数召喚できるとなるとかなり優秀なスキルなのかもしれない
ちょっと欲しくなってくるじゃないか!
「ガラス! 大斗かなり透明度が高いガラスが3つくらい敵の前にあります!」
コンの方もガラスに気付いたようだ
エリアの方はそんな情報は知らないとばかり驚いてからどこかにあるだろうとガラスが目を凝らしている
エリアから聞いた話にはこんなスキルを使うやつがいるとは聞いてなかった
単純にこの敵がダンジョンで滅多に出ないレアな敵なら分からないでもないが、透明度が高いガラスというのは貴重だとエリアが言っていたのを考慮すると…
「はぁ、冒険者の情報は信じちゃ駄目なんだなあ」
俺はわざと隙をさらしてあげたけど動かない相手にトドメを指す事にする
「烈火砲!」
蛍丸の魔法を発動させ
敵は魔法に驚き逃げ出そうとしていたようだが、この道は一直線であり一応高レベルの魔法なので早さも大きさも結構あるので無理だろう
為す術なく敵は炎に呑まれてあっけなく死んでしまった
もっと絡め手を警戒していたが案外楽に死んでしまったな
隙を見せても動かなかったことから遠距離の攻撃は舌を伸ばしてくる攻撃ぐらいで幻触も使って来なかった、幻触は距離的な問題もあったのかもしれないな
とりあえず相手のスキルとかについてエリアたちと話し合うか
このダンジョンほんとかなり厄介だな…
今から別のダンジョンに移行しないかなあと考えながら大斗は二人の元へと戻った
現在のカタログポイントは10673となっています。