読心術
「よし! これなら、これならコンを確実に説得できるぞ!」
俺はエリアと別れてから半日ずっとコンを説得する方法を考え続け、ついにコンを説得できるであろう方法を思い付いたのだ!
随分と時間が掛ってしまったがエリアがまたここに帰ってくるのは明日の昼ごろなのでそれまでの間にエリアの対策を考えるのには十分だろう。
さてコンをこの素晴らしい方法で説得してみせるぞ!
俺は勢いよくコンの方に振り向くと……コンは木に寄り掛かりすやすやと眠っていた。
「……」
そういえば俺、コンが居ることを忘れてずっとコンの読心術対策について考えていたわ。
いつものコンなら俺がコンの事を無視して考え事をしていると攻撃してでも中断させてくるのだが今回は珍しく邪魔してこずに見守っていたみたいだ……寝てるけど。
あれだな!
きっとコンは俺が必死にエリアをどうするか考えていたことに遠慮して声を掛けて来なかったのだろう、なんという優しさ!
さすがコン様だ、その優しさに俺の涙腺は決壊しそうだぜ!
とりあえず、俺はコンを起すのは悪いので全然考えていなかったエリアの事を考える事にしたが、十分で終わったのでコンの隣に寝転がって良い物がないかカタログをぱらぱらとめくることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ん」
体が痛い
後ろを見てみると木に寄り掛かっていた。
どうやら、私は大斗がずっと考え事をしているので、飽きて木に寄り掛かったまま眠ってしまっていたみたいです。
ああなった時の大斗は長いから仕方ないだろう。
「ん、ん~」
背伸びをして体の凝りをほぐしていると……こちらを見ている大斗と目が合った。
「……」
大斗は私の傍で寝転がっていて、開いたままのカタログが置いてある。
あの長い熟考モードが終わって、私が眠っていて暇なのでカタログを見ていたのだろう。
そ、そんなことよりも!
もしかして、今のを大斗に見られていたのだろうか……私は羞恥心で顔が赤くなっていくのを止められなかった。
「おはよう、コン」
大斗は珍しくいつものにやにやした嫌らしい笑みではなく、何か微笑ましいものを見たような顔でこちらを見て来ている。
いつもの嫌らしい顔なら狐火で焼いてやるのに!
なぜかその顔を見ていると顔がますます赤くなってしまう
「お、おはよう大斗」
私は素早く大斗の反対を向きとりあえず挨拶を返す。
それを見た大斗はいつもの様にからかうこともなく
「もう夕方だしホームに帰ってご飯食べながらエリアの事について話し合おうか? 大体エリアにどうやって説明するか決めてるから」
いつもはしないような顔でこちらを見ながら微笑んでくる。
「そ、そうですね」
極力内心の焦りを出さないようにしつつ返事をする。
ホームに帰るために大斗に触れようとしたが、なぜか私の手が向かった先はいつものように肩ではなく大斗の手を握る。
いつもと違うことをしているのに大斗の方は何も不思議に思わないのか、何も言わないし表情も変わっていない。
今は割と変だがやはり大斗ということだろう。
大斗は私ちゃんと握っていることを確かめて『ホーム』と唱えてホームへと移動する。
私がすぐ後で、寝汗をかいてなかった心配になったのは秘密です。
ホームに帰った後、家に入りリビングに行くと大斗は予め買うものを決めていたのだろう。カタログで料理を買ってテーブルの上に取り出した。
いつもは何を買うかカタログをめくりながら良い商品がないか私に聞いてくるが、私が寝ている間にすでに買うものを決めていたのだろう。
大斗の前にはカツ丼がそして私の前には黄金色に輝く油揚げが置かれていた。
大斗のカツ丼はいつも買っている物で時々食べている普通の安いカツ丼。
そして、私の目の前にあるこの黄金色に輝く油揚げは明らかに高額な料理品だろう、おそらくは千ポイントはする。
そもそも、油揚げが黄金色に輝いている時点で察しが付くが……。
まったく、大斗はまだまだ弱いのだからもっと節制して自分のスキルに全ポイントを注いで欲しいというのに。
心に余裕を持つことは大切ですから黙認して来ましたが、私のためにこんなにポイントを使わなくていいのに!
コンの尻尾がうねりにうねって激しく椅子を叩き、耳もずっとぴくぴく動いていたことは言うまでもないだろう。
「じゃあ食べようか」
私はその言葉にビクっと反応し……
「そ、そうですね、手洗いうがいもしたので早く食べましょう!」
私は武者振るいで手を震わせつつ容赦なく油揚げに襲いかかった。
至福
そう
その一言に尽きる
こんな素晴らしいものは食べたことがない
前に食べたことがある油揚げとは同じ料理だとは思えない
これは今まで食べたものとは料理の格が違いすぎる
一口食べるたびに体中にえも言われぬ快感が走る
まるで体中が叫び声を上げ作り変えられていくようで……
そして、私という存在の格が一段と上がったようで……
新しい力に目覚め力が漲ってくる……ん、ん?
おかしいですね
美味しいだけでは済まないほど私の体と存在そのものが影響を受けている、これはまさか……。
私は食べるのを止めてすぐにカタログを出現させ履歴を見る。
「中級料理神の作った最高峰油揚げで10万ポイント……」
おかしいと思っていたのだがこれほどの物を購入しているとは相変わらず大斗はアホですね。
おそらく、これが大斗がうんうん唸って考え付いた秘策なのだろう。
妄想のために10万ポイントも使ってしまうなんてアホとしか言いようがない。
まったく大斗は……
私は溜め息を吐き大斗の方を見る、大斗はこちらを見ずにカツ丼を食べている。
大斗の事だからどうにか説得しようとしていたのにカツ丼を食べるのに夢中になって忘れているのだろう。
というか私は大斗に読心術を使う気はないのだがな……
それよりも私は大斗の心を読み続ける事ができないと言った方が正しいだろう
アレはヤバかった……
精神汚染などと言うものではない
精神破壊と言った方が良いだろう
下手したらアレは発狂するだろう……
大斗の頭の中は表層しか読んでいないというのに……うん、やめて置こう
これ以上思い出すべきではないだろう
読心術のスキルは時と場合を考えて使うことにしよう
大斗の同類に使ってしまったらこちらがやられてしまいますし……
さてと油揚げを食べた後に大斗を火刑にかけましょうか。
まだ、油揚げは半分もありますからたっぷりと堪能しなくては!
私は再び満面の笑みとともに油揚げの攻略に取り掛かる。
その後、大斗に読心術を使わないとコンがなぜか宣言し大斗が歓喜し、10万ポイントを無駄にしたとコンに狐火で長時間焼かれることになった。
追記 大斗はスキル『火属性耐性 Lv1』を手に入れた
現在のカタログポイントは427487となっています。